NDA40
やっと、自由になったかと思ったらまた一週間ほどお仕事が……コンチクショウ……
けど、前よりは更新ペースを上げられると思いますので、少しずつ戻して行こうと思います。
「もう、信じられない……」
ユーリ達から、服の修理を頼まれたフランは渡された服を見て絶句した。フランが苦心して作り上げたオーダーメイドの服が見るも無残な姿で戻ってきたのである。凛々しさと可憐さを併せ持ったユーリの騎士服は薄汚れて、所々、血で汚れている。目立った穴こそ開いていないが、至る所に擦れた跡がある。ユーリ以外の二人の服も似たようなもので、三人ともボロボロの姿になっていた。
「一体、何に使ったらこんな風になるのよ、説明して」
滲み出る怒気を隠そうともせずにフランはユーリに詰め寄る。フランに迫られたユーリは事の詳細を説明する。そして、100匹以上のゴブリンに襲われた、と聞いたフランは顔を青ざめさせた。ゴブリンは決して強いモンスターではないが、100匹という数はどんなプレイヤーにとっても脅威になる。死んでしまえば、それで全てが終わってしまうのである。それは雑魚とはいえ、侮っていい数字ではなかった。
「ユー君、怪我とかしてないよね?大丈夫だよね?」
それまでの怒りが嘘のように消え、フランはユーリに尋ねる。
「あぁ、おかげさまで全員、無事だよ」
幸いなことにカジカ達のパーティーで大きな怪我をしたプレイヤーはいない。しかし、クエストに巻き込まれたプレイヤーの中からは、未確認ではあるが、死亡者も出ていた。
「これもフランの仕立ててくれた服のおかげだね、ありがとう」
今まで他のプレイヤーとの交流がなかったため、ユーリは知らなかったが、フランの仕立てた服の性能ははっきり言って、異常だった。もちろん、ゲーム全体を見渡せば、フランの仕立てた服を越える性能を持った防具はいくらでも存在するのだが、現在のゲームの進行状況を見ると、フランの仕立てた服の性能はあり得ないくらい高い。服の特徴である軽さを損なうことなく、全身鎧並の防御力を持っているだけでもおかしいのに、それに加えて状態異常や魔法に対する耐性まで付与されている。
「意外だな。フランネルにそこまで気に入られているとは……」
ユーリとフランのやりとりを見ていたエリザがぼそりと呟く。それを聞いたフランもにこりと笑顔を返す。
「貴女には関係ないことよ。エリザこそ、誰かと組むなんて珍しい……どういった心境の変化かしら?」
「デスゲームをソロプレイするほど馬鹿じゃないし、命知らずでもないよ。今、ユーリの言ったゴブリンのクエストで偶々一緒になって、その縁だ」
「ふーん、まぁ、いいわ。それじゃ、四人の服の修繕とシオンって子の新しい服を作ればいいのね。そうね……まぁ、明日の朝には仕上げておくから。代金はそのときでいいよ。前にいっぱい素材も提供してくれたからサービスしとくね」
今までユーリ達が森で手に入れた素材の半分程度はフランが買い取っている。買い取り価格はNPCの価格とほぼ同じか、若干低い程度であるので、ユーリ達の利益はそれほど多くないが、この素材提供によって築かれるフランとの信頼関係にはお金に換算できない価値がある。そして、フランもこの関係の価値を理解しているからこそ、サービスするのである。
「助かるよ。ポーションの素材集めでまた森に行くから、ついでにここで使いそうな素材も集めておく」
今まで森の攻略の最前線にいたユーリ達が抜けたせいか、街の市場での森の素材の流通量は激減している。芋虫と蜂の素材は少数であるが出回っているのに対し、鎧甲虫と大蜘蛛の素材はほとんど出回っていない。クロエが弱点を掲示板に書き込んでいるおかげで倒せないことはないはずなのだが、そこまでリスクを冒してまで、と考えるプレイヤーが多く、また、ある程度実力のついたプレイヤーは森に進まず、街道を目指してしまうため、このようなことが起きるのである。
「うん、ありがとう。じゃあ、早速、採寸しちゃおうか」
そういうとフランはシオンの体にメジャーを当てて、手際よく採寸していく。服の上からとはいえ、採寸されるその姿が妙に色っぽくて、男性であるカジカは目のやり場に困っているようだった。
「ねぇ、デザインとかはどんなのがいい?あと、好きな色とか色々教えて」
尋ねられたシオンはしばらく考えて、小さな声で呟いた。
「色は……紫。デザインは……今、着てるのみたいなのがいい……細かい所は任せる」
「じゃあ、基本形はワンピースでいいのね。仮縫いしたいから、夕方に、また来てくれるかな?」
「ついでに、その時に素材も一緒に持ってくるよ」
カジカはそう言うとフランはにっこりと微笑んで、頷いた。
・*・
「とりあえず、この後の予定について決めるとするか……まずはポーションの確保。次に、装備品の整備だな」
カジカの提案にクロエとシオンが同意するように頷く。それを見ていたエリザは小さな声でユーリに囁いた。
「回復役を確保しようとは考えないんだな……」
「あ、うん……まぁ……」
エリザの言葉にユーリは曖昧な声で頷くしかない。エリザの指摘は尤もなことであり、ユーリ達も何度か考えたことである。しかし、現実として、回復役の絶対数が少なく、仲間にしたくてもいないのである。現在、プレイヤー間で確認されている回復手段は大きく分けて三種類ある。一つはもちろん、回復魔法を主として方法であり、二つ目はポーションなどのアイテムを使用した方法、三つめは時間経過による自然回復である。回復役の多くはこの中の一つ目に当て嵌まるのだが、回復魔法を使う為には必然的にスキルポケットを一つ使わなければならない。そうなると他の魔法や武器スキルが使えなくなるため、戦闘に参加することができなくなる。つまり、戦闘に関してはパーティーメンバーに頼らざるを得なくなってしまうのである。
「わざわざリスクを冒してまで回復役になるプレイヤーがいなくて……」
デスゲームという特性上、数少ない回復手段である回復役は重宝される。しかし、戦闘能力が皆無にも関わらず、戦わなければならない、というのはプレイヤーにとって大きなストレスになる。しかも、組む相手が信頼に足る相手でなければ背中を預けることはできない、となると回復役の数は一気に少なくなる。いたとしても、既に誰かとパーティーを組んでいる者か、あるいは、特定のプレイヤーと組むことを拒否している者かのどちらかである。
「まぁ、それもそうだな。私だったら、男だけのパーティーに入ろうとは思わない」
「そういうわけで、回復役は諦めて、シオンのポーションやカジカの料理を頼りにしようってのがこのパーティーの方針なんだ」
「なるほど……」
「と、いうわけで二手に分かれようと思うんだが、二人はどう思う?」
「えっ、あ、ごめん……聞いてなかった……」
カジカ達の話を聞き流していたユーリは申し訳なさそうに頭を下げる。カジカは肩を竦めると小さなため息を零した。
「じゃあ、もう一度説明するぞ。まず、最優先事項はポーションの確保だ。俺たちにとって、文字通り、生命線だからな」
カジカの言葉にユーリは頷く。生命線、という言葉は誇張でもなんでもない。回復役のいないユーリ達にとって、他のパーティーにとっても、ポーションなどの回復系アイテムは必要不可欠なのである。
「ポーション自体はシオンの【調合】を使えばなんとかなるから、とりあえず、材料集めをしようと思う。けど、街道のドロップアイテムも結構、溜まってるからこっちを片付けないと集められる素材の量が減るからこっちも急いでどうにかしないといけない。だから、パーティーを二つに分けようと思う。一つは森で素材集めをする組、もう一つは市場で素材を売る組。二人はどう思う?」
「あ、うん……そう、だよな……」
二組に分けてしまうと相対的に森組の戦闘能力は低下してしまう。そして、それはリスクの増加に繋がる。ただでさえ、フランに仕立ててもらった服を修理に出して、戦闘能力が低下している現状で、そこまで無理をする必要があるのだろうか、と思いながらも口に出すことができず、曖昧な返事しか出てこない。一方のエリザはユーリと違って戸惑うことなくすらすらと答えていく。
「知っての通り、昼はステータスが低下しているから戦えない。だから、市場に回してもらえると助かる。とはいえ、新入りの私が一人で店番というのも妙な話だからユーリも一緒にしてもらえると嬉しい」
「まぁ、そうなりますよね……市場だとお姉さまの顔が一番売れてますし、カジさんとシオンがいないと素材の判別もできませんから外れるわけにはいきませんから……」
エリザの言葉にクロエが同意するとシオンとカジカも頷いた。
「じゃあ、市場は任せたからな、ユーリ、エリザ」
「あ、うん……けど、無理するなよ、カジ。防御力だって落ちてるし、人数だって減ってるんだからな」
「あぁ、わかってるさ。けど、大丈夫だよ。芋虫程度に遅れはとらねぇ」
自信満々に微笑むカジカの顔に慢心の色は見られない。ユーリは不安がっているが、適正レベル、という点で見ればカジカ、クロエ、シオンの三人は森の適正レベルを越えている上にパーティーのバランスもうまく取れている。普通に戦えば、森に出現するモンスターに苦戦するようなメンバーではない。
「けど……」
不安を拭い切れないのか、ユーリの表情は晴れない。そんなユーリの頭にカジカはポンと手を乗せた。
「そんな顔するな。心配してくれるのは嬉しいけど、少しは俺たちを信じろよ。ゴブリン100匹と戦っても生き残ったんだぞ?晩飯はユーリの好きなもんを作ってやるからそれを楽しみに待ってろ」
「……わかった」
力強く、頼もしいカジカの言葉にユーリは小さく頷いた。そして、それを見ていたシオンはぼそりと呟く。
「……死亡フラグ?」
「な、ちょっと、何、不吉なこと言ってるんですか。これはむしろ、お姉さまのデレであって、死亡フラグだなんて、そんな……」
半分怒ったような、しかし、嬉々として目を輝かせながら、クロエが口を挟む。そして、そんなやり取りを見ていたエリザは独り、ため息を漏らす。
「……もしかして、入るパーティーを間違えたか……」
若干の後悔の念が混じったエリザの呟きは誰の耳にも届くことなく、消えていった。
というわけで、弱BL風味の幕引きとなりましたが、今後、ユリ×カジ…いやカジ×ユリなんて展開はならないはずなんでご安心ください。それと、期待されていた方はごめんなさい。
ユーリはあくまでも、パーティーの仲間を心配しているんであって、カジカだけを特別心配しているわけじゃありません。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
次回は3月5日に投稿予定です。
それでは、次回もお楽しみに♪
ではでは。




