NDA39
お待たせしました。
今回はちょっと短めです。
では、どうぞ♪
始まりの街に戻ったユーリ達はそのままシグ達と別れ、フランの店へ向かっていた。防具として見た場合の服の特性を一言でまとめると、軽くて脆い、である。防具としての性能だけを見た場合、鎧などに一歩劣ってしまうが、防具の重みでスピードを殺すことなく身軽に動けるため、スピード重視の前衛や斥候系のプレイヤーの間で需要があり、スキル不要で装備できるため、初心者の多くは防具に服を選ぶ人間も少なくない。そして、耐久力に関してはアクセサリー系を除く防具の中でもっとも低い。防具としての性能と耐久力は無関係で、フランのような凄腕のプレイヤーが仕立てたものであっても変わることはない。NPCの店が売っている服に比べると高い方だが、それでも他の防具に比べると一歩どころか二歩も三歩も劣っている。そして、ユーリ達の服の耐久値もゴブリン達との激戦で限界に達していたのである。
「……フランの店に先に行くってのはわかる。だが、なんでお前がそこにいるんだ?」
カジカの視線の先にはフードを目深に被り、ゆらりゆらりと歩くエリザの姿があった。その姿は妖しい、というよりも怪しい、と形容するのが相応しく、昼間だと言うのにどこか仄暗い雰囲気を漂わせていた。
「気にするな。君たちと同じ用件だ」
カジカの問いかけにエリザは何気もなく、答える。
「このローブも『織姫』で仕立ててもらった。私としては、むしろ、君たちが『織姫』のことを知っていることのほうが驚きだよ」
フランのようにベータ版からの生産系古参組の多くは既に始まりの街に自分の店を構えている。噂では攻略組と連携して、既にニコスに出店している強者もいる、とのことだった。
「そうか?結構、賑わってたように思うけどな……」
短いながらも『織姫』で働いていた経験を持つユーリはぽつりと呟く。人ごみで動けなくなる、というほど混雑したことは流石になかったが、それでも店の中にはいつも客の姿があり、途切れるということはなかった。ファッション性を重視し、メインターゲットが女性プレイヤーであったため、男性プレイヤーの姿はほとんど見なかったが、それでも何人かはフランに仕立てを依頼に来てもいた。そのときの申し訳なさそうな表情を浮かべる男性プレイヤーの表情を思い出すと同情したくなってしまう。
「あぁ、もちろん、『織姫』自体は結構、女性プレイヤーの間では有名なお店だから知っていたとしても珍しい話じゃない。けど、彼女がオーダーメイドを引き受けていることを知っているプレイヤーはそう多くない」
「なるほど」
エリザの言葉にユーリは頷いた。
「それに、一緒にゴブリン達と戦った仲だろう?そう邪険にしないでくれ」
拗ねたように呟いたエリザの言葉にカジカはわずかに顔を顰める。
「……なんだ、最初からそれが目的だったのか?」
「それも目的だった、というのが正しいかな。織姫に用があるのは事実だし、このパーティーに入れてもらえるのなら正直、嬉しいと思っている」
そう言ってエリザはフードを取った。どさりと垂れた黒髪は濡れた烏の羽のように黒く、瞳も髪に負けないほど黒い。病気かと思ってしまうほど青白い肌に、不気味なほど赤い唇。吸血鬼の種族特性が反映されているのだろうが、ヒトではない別の種なのだと感じさせる容姿に残りの四人は思わず息を呑む。
「流石にデスゲームでソロプレイを続けようと思うほど馬鹿じゃない。誰かと組んだ方がいいというのは分かっている……だが、だからといって新しく誰かと組むにしても実力的に釣り合うプレイヤーがほとんどいない。偶にいても、癖のありそうな男だ……背中を預けられるような相手じゃない」
夜は無類の強さを発揮する吸血鬼だが、日中の戦闘能力は全種族中、最低である。必然的に昼の戦闘はパーティーメンバーに頼らざるを得ないが、その信用に足る相手でなければそれもできない。条件さえ揃っていれば攻略組にエリザと釣り合う実力を持っていて、それでも、誰とも組んでいないプレイヤーとなるとそういるものではない。仮にいたとしてもかなりの確率で性格に難があるプレイヤーである。流石のエリザもそんな相手に背中を預ける気にはなれない。
「どこかのパーティーに入れてもらうことも考えたが、生憎、男だけパーティーしか空きがなかった」
「なるほど……で、ここならそういう心配もなさそうだと……」
「あぁ、そうだ」
男しかいないパーティーに女一人が入るなど論外である、と無言で語るエリザにカジカは頷いて返す。男しかいないパーティーの中に若い女性が一人で入ってしまえば、性の対象として見られることは避けられない。そして。このゲームのシステム上、湧きあがった衝動を女性プレイヤーにぶつけることは可能である。エリザが男だけのパーティーを避けようとするのは当然のことだった。
「実力については昨日見せた通りだ。申し分ないと思うが、どうだ?」
魔導師としての技量はあの場にいたプレイヤーの中では間違いなくトップクラスである。それだけでもエリザを仲間にするメリットはある。
「……どう思う?」
カジカはそう言ってユーリ達を見る。判断は任せると、目で語るカジカにクロエとシオンはそれぞれ頷く。
「……いいよ」
「私もいいと思います」
「俺は……」
二人がすぐに頷いたのに対し、ユーリはすぐに言葉が出なかった。エリザの強さは頼もしい。それに、ベータ版からの経験者が仲間に入るというのは魅力的である。豊富な経験は時として何にも勝る武器になる。しかし、気になることが全くないわけでもない。
「……エリザがデメリットについてもみんなに話してくれるなら、いいと思う」
「「「デメリット?」」」
ユーリの言葉に三人が首を傾げ、そして、エリザの方を見た。しかし、エリザは悪びれる様子も見せずににやりと笑う。不敵で、不気味な、しかし、それでいて見る者を惹きつけてしまう蠱惑的な微笑だった。
「仲間に入れてくれるかどうかもわからないのに、自分の弱点を晒すような馬鹿な真似はしないよ。まぁ、そうは言っても、私の種族やその特性について既にユーリには話してしまっているから隠す意味もないんだけどね。ユーリが話したいのなら、みんなに話しても構わないよ。その上で、改めて相談して、それでダメだったら潔く身を引くよ」
「ユーリ、どういうことなんだ?」
カジカがユーリを睨む。
「え、いや……えーと、エリザは吸血鬼っていう稀少種族で、昼と夜でステータスが変わって、それで……」
ユーリは昨晩、エリザから聞いた情報をカジカ達に伝えた。吸血鬼の特性はもちろん、ベータ版の経験者であることなど知り得る限りの情報をカジカ達に話すと一同は納得した表情を浮かべた。
「なるほどな……確かに、昼のステータス低下は致命的な弱点だな。隠したい気持ちはわかる。けど、それを隠したまま、パーティーに入れてくれっていうのはどうかと思うぞ」
言外にマナー違反だと責めるカジカにエリザは軽く肩をすくめた。
「不快に感じたのなら、謝罪しよう。申し訳ないことをした。ただ、そうせざるを得なかった理由については理解してほしい」
カジカの咎めるような硬い口調にエリザはあっさりと頭を下げた。吸血鬼にとって、昼のステータス低下が唯一にして、致命的な弱点である。もし、エリザによからぬことをしようと企む男性プレイヤーに知られでもしたら、いかにエリザといえどもただでは済まない。現状、そういった事件が起きた、という情報は出ていないが、被害者が泣き寝入りしている、或いは、そのまま殺されてしまった、などの可能性も十分に考えられる。事件が起きていない、という確証はどこにもない。そのせいか、いかにも薄幸そうな雰囲気を漂わせたエリザが頭を下げるその姿は見る者の同情を誘うものがある。そして、それはカジカも例外ではない。
「いや、まぁ、それは……そうだが……なんだか、俺が悪者みたいじゃねぇか……」
その雰囲気に呑まれてしまったのか、カジカは辺りを見回して、顔を顰める。女性であるクロエとシオンは既にエリザの側についているらしく、その目が無言で語っていた。事の詳細をエリザから直接聞いているユーリも心情的にはエリザ寄りである。エリザがデメリットの話していないことを切り出したのも、エリザを責めることが目的ではなく、フェアに話し合って欲しかっただけである。
「……ダメ、か?」
上目遣いでエリザがカジカに尋ねる。シグやミオに善人ではないと言っていたカジカだが、この状況でダメだ、と断れるような人間でもない。パーティーメンバーに空きがなければまた事情は変わってくるのだが、生憎、カジカ達にまだ空きがある。納得できない、といった顔をしていたものの、観念したようにため息を漏らした。
「わかったよ。その代わり、吸血鬼のスキルについてもっと詳しく話してもらうぞ、いいな?」
「あぁ、それについてはまた後で話す。今は先に、『織姫』に行こう」
エリザはそう言って話を切り上げ、一行はフランの店へと向かった。
というわけで、エリザが仲間になりました。いやぁ、これでカジカは更なるハーレム状態ですね、羨ましい(笑)
2月は色々ありましたが来週から落ち着きそうなので、更新ペースを元に戻せそうです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
次回は3月1日に投稿予定です。
それでは、次回もお楽しみに♪
ではでは。




