NDA38
予定を一時間ほどオーバーしてしまいましたが、なんとか投稿できました。
ユニークが5万を超えました。
これも読者の皆様の支えがあってのことです。
これからもエル剣をよろしくお願いします。
ゴブリン達との戦いから一夜明けたプレイヤー達は一旦、始まりの街まで帰ることで意見は一致していた。装備品の耐久値はかなり下がっていた上に、回復系のアイテムも底を尽きかけている。そして、今回の一件について注意喚起するためにも街まで帰る必要があったのである。
「けど、本当によかったのか?」
「今更、そんなことを言うなよ。なんだかんだ言って、皆同意したんだ。いいじゃねえか」
昨夜の宴で、クエスト報酬を参加したプレイヤー全員に分配したのだが、問題になったのはスキルポケットの配分だった。他のクエスト報酬に比べて飛び抜けた価値を持つアイテムだけにその分配を巡っては幾つもの議論が交わされた。結論から言うと、スキルポケットはシグのものになったのだが、その過程でカジカ達と一悶着あったのである。
「けど、俺は……」
「いいじゃねぇか、竜人がスキルポケットで困っているのはみんな知ってることだし、それにシグが最前線で盾役になってくれたおかげで無事、生き残れたんだ」
スキルポケットが手に入ったことは素直に嬉しいのだが、そのように決まるまでの経緯を思い出すと喜ぶに喜べないシグはカジカを見つめる。
「カジカ達がいらないなんて言い出さなきゃ、これはカジカ達のものになってたかもしれねぇんだぞ?クロエだって猫人だ……スキルポケットはいるだろう」
誰にスキルポケットを渡すか、という議論のなかでシグはカジカを推薦した。突如、ゴブリン達に襲撃されて混乱するプレイヤー達がすぐに態勢を整え直せたのもカジカの指揮のおかげである。その後も最後まで最前線で戦い続けたカジカにはその資格があるとシグは信じていた。シグの意見に賛成する者も少なくなかったが、反対意見ももちろんあった。そして、そのなかでも最も大きかったのはカジカが生産職のプレイヤーであるという点だった。戦闘職と生産職では戦闘職の方がスキルポケットの需要は多い。スキルの数がそのまま強さに直結する為、そういった意見が出てくるのは仕方ないことなのだが、それが理由でカジカの苦労が報われない、というのがシグの中で納得できないものがあった。
「まぁ、そう言われるそうだな。けど、俺の場合、どうしても必要ってわけでもないし、クロエもそれでいいって言ってくれただろ」
「でも、だからっていらないって言うなよな。俺の立場がねぇだろ……」
半ば愚痴のようにシグが呟くとカジカは申し訳なさそうに肩をすくめた。議論が白熱していくなかで、カジカはいきなり、スキルポケットはいらない、と申し出た。その結果、本人がいらないと言っているのなら、渡す必要はない、と主張する反対派に押し切られたシグはそれ以上、何も言い返すことができなかったのである。
「カジカがもらって、後でクロエに渡すとかできただろう?それに、ポーションだってカジカ達のパーティーからかなり提供してもらった……カジカ達にこそもらう資格がある」
「確かに、使ったポーションの半分以上はカジカ達が出してくれたのよね……私達としては無償提供はありがたいけど、でもね……」
近くを歩いていたミオも会話に加わり、カジカは苦笑を浮かべた。
「あの状況で金をとるほど冷徹な人間じゃねぇよ。それに、ポーション代わりに食材系は全部もらったしな」
「それはそうだけどさ……」
今回のクエストでカジカ達が手に入れたのは報酬として手に入れた食材系のアイテムのみである。【調理】のスキルを持たない者にとっては売るしかないアイテムであるが、それでもそれなりの額になるため、一部から不満の声もあがったが、クエストでの活躍やポーションや戦勝会での料理を提供してくれたこと、ドロップアイテムやお金は受け取らないことなどを合わせて、四人合わせてなら、ということで落ち着いた。
「けどな……その食材ってそんなに価値のあるものなのか?」
【鑑定】などの情報系スキルを持ったプレイヤー数名で食材の査定を行ったのだが、アイテム名しかわからず、食材がどれほどの価値を持っているのかは結局わからずじまいだった。
「それは、もちろん、秘密だ……と言いたいが、それだと納得しないだろうからネタばらしをするとだな……」
そう言ってカジカは二人だけに聞こえる声で囁いた。
「職業スキルのおかげなんだろうけど、【目利き】でその素材を料理に使えば、どんな効果が付与できるかががわかるようになったんだ。で、もらった食材を見てみたらステータス上昇や状態異常耐性を持たせることができるってわかったから、ちょっと独占してみようと欲張った。それなりに活躍したと思うし、これぐらい構わないだろ?」
にやりと笑うカジカにシグが苦笑を返す。
「そういうことなら、まぁ、いいが……」
「でも、カジカがただのお人好しじゃないってことがよくわかったから一安心、かな」
苦笑を浮かべるシグとは対照的にミオは感じのいい笑みを浮かべていた。
「お人好しじゃないから、一安心?それ、おかしくないか?」
「そう?損得勘定ができないほどのお人好しって、善人に見えるけど、結構、下手な悪人よりも性質が悪くない?」
クエストの報酬で一番価値のあるスキルポケットを手に入れる権利をあっさりと手放したことがミオにとっては不思議だった。それに加えて、ポーション系のアイテムもかなりの数を無償で提供してくれた。提供された側としては、それに相応しい対価を払える状態ではなかったので、無償で提供してくれたことには感謝していたが、それと同時にお人好し過ぎるとも漠然とした不安を感じていた。
「生憎、そこまで善人じゃねぇよ。ポーションに関しては状況が状況だし、素材が全部手に入ると思ったら十分、安い」
NPCの売っているポーションを何十本も無償で提供したとなれば、大赤字であるが素材集めから調合まで全てシオンの手によって行われている為、無償で提供してもカジカ達の懐はほとんど痛まない。そして、現状、お金に困っているわけでもないカジカにとってみればポーションの代金を払ってもらうより、クエスト報酬をもらったほうがはるかに嬉しいのだ。
「機会があったら、またごちそうして欲しいな」
「あぁ、それまで俺も腕を磨いとくよ」
そんなことを言いながら、一行は始まりの街まで歩みを進めた。
・*・
「……なぁ、クロエ……周りの視線がいつも以上に気になるんだが……」
始まりの街に向けて歩いている中で、ユーリは隣を歩くクロエに囁いた。街中で男性プレイヤーの視線を感じることが頻繁にあった為、多少の視線には慣れたつもりでいたのだが、今、感じている視線は今までの比ではなかった。しかも、下心を持った者がこっそりと盗み見る類のものではなく、ユーリの周りを歩いているプレイヤー達が時折、ちらちらと見てくるのである。そこに下卑た感じはないので、それほど不快感はないのだが、数が多いせいか、気分がどうにも落ち着かない。
「みんな、お姉さまのことが気になってるんですよ。昨日はあんなに活躍しましたから」
「まぁ、それはそうだろうけど……」
活躍したプレイヤーが気になる、という理屈はユーリも理解できる。実際、昨日の宴でも何度か声をかけられたり、感謝されたりした。なんとなく、気恥ずかしくて、エリザが気になると適当に口実を作ってすぐに宴から抜け出してしまったが、出発する前も何人かに声をかけられた。
「それなら、あんな風にちらちら見なくたって、声をかけてきたらいいだろ」
そう言ったユーリの視線の先には、二人組の女性プレイヤーの姿があった。一人は回復役で、もう一人はユーリと同じ風属性の魔法を使う魔導師である。二人とも村を出発してから時々、意味ありげな視線をユーリに送ってくるのでユーリは四六時中監視されているような心地だった。男性プレイヤーのように下心の混じったものではないので不快感という意味ではそれほどでもなかったが、正直、気になって仕方がない。何度か二人と視線が合ったこともあったが、そうなるとすぐにユーリから視線を逸らしてしまい、しばらくユーリの方を見ようとさえしなかった。
「もう……お姉さまはもう少し、乙女心を理解してください」
「乙女心って……」
咎めるような、それでいて拗ねているようなクロエの視線にユーリは苦笑を浮かべる。
「あいつら以外にも見てくる奴はいるぞ?」
一番頻繁にユーリを見てくるのは前を歩く二人組だが、他にもユーリのことを見てくるプレイヤーはいる。その中にはもちろん、男性のプレイヤーもいるうえに、下心が馴染み出ている者もいないでもない。もっとも、ユーリ自身、中身は紛れもなく男であるため、そういった欲求の対象となることについてはしかたがないものと諦めている。
――――見た目がこれじゃな……
華奢で、いまにも折れてしまいそうなほど細い首筋。そこにかかる金の髪は薄絹のように透けていて、陽光を浴びてきらきらと輝いている。新緑を写し取ったかのような碧眼は髪に負けないくらい美しく、形のいい唇はそっと触れてみたくなるほど柔らかそうだった。少し気の強そうな、それでいて、放っておいたらすぐに折れてしまいそうな繊細さは男の庇護欲を煽る類のものだ。はっきり言って、もし、ユーリが今の自分と同じ容姿の女性を見れば、邪まな思いを抱かない自信がない。
「仕方ないだろう?あの中で一番目立っていたのは紛れもなく、ユーリだ。気にするな、というほうが無理だ」
反対側からいきなり現れて、はっきりとそう言い切ったのはフードの目深に被ったエリザである。
「まぁ、そうかもしれないけどさ……ん?エリザ、だよな?」
エリザの声だと思って何気なく振り返ったユーリはフードから見えた黒髪に驚きの表情を浮かべた。濃紺のフードからこぼれた黒髪は昨夜の銀髪とは全く別物だった。人違いか、と思って目を凝らしてみるが背丈も、声の調子も、着ていたローブもエリザのものとそっくりだった。
「あぁ、そうか、そういえば、こっちの姿を見せていなかったな」
そう言ってフードをとったエリザの髪は墨を垂らしたかのように黒く染まっていて、瞳も髪に負けないほど黒くなっていた。太陽を浴びて黒々と光るその髪はどこか妖艶で、それでいて今にも消えてしまいそうな儚さが漂っていた。実際、エリザの顔色はどこか暗く、昨日のような覇気は欠片も感じられない。しかし、薄幸の佳人とでも形容すべき雰囲気は昨夜とはまた違った魅力を引き出していた。
「吸血鬼の特性みたいなものだ。日中は髪も目も黒くなる。日が沈むと昨日みたいに銀髪に変わるんだ」
曰く、吸血鬼だからといって伝説やおとぎ話のように日光を浴びたからといってどうにかなるということはシステム上ないことはない、らしい。しかし、昼夜でのステータスの上下が激しい為、気分的にはひどく疲れる、とのことだった。
「……お姉さま、そちらの方は?」
一方、エリザと初対面のクロエは怪訝な目でエリザを見た。疑うような、あるいは、値踏みするような視線。クルミ型の瞳はまさしく、得物を狙う猫のようだった。そこには若干の嫉妬も滲んでいるように見えたが、疎いユーリは気付かない。
「昨日、闇魔法を使ってた魔導師がいただろ?彼女だよ」
「あぁ、あの人ですか……」
クロエもエリザの活躍は覚えていた。最後まで魔法を使い続けたのはエリザ一人であるのだから、クロエが覚えているのも当然のことだった。
「はじめまして、エリザだ。よろしく」
「クロエです。こちらこそ、よろしくお願いします」
挨拶もそこそこに三人はそのまま他愛もないおしゃべりを続けながら、街道を歩き続けた。途中、何度かモンスターと遭遇したこともあったが、100匹以上のゴブリン達との戦いを勝ち抜いたプレイヤー達の敵ではなく、すぐに片付けられてしまった。そして、始まりの街まであと一時間ほどという地点で休憩を取るとなったとき、ユーリ達の目の前に例の二人組の少女が現れた。
「あ、あの、ユーリ、さん……私、ゆきって言います。こっちの子は、るり」
ゆき、と名乗ったふんわりとした栗毛の少女は若干、頬を染めながらユーリに熱い眼差しを送ってきた。ゆきは数少ない回復役の一人であり、ユーリも名前こそ今、初めて知ったが顔だけはよく覚えていた。
「私達、ユーリさんにお礼を言いたくて、その……」
魔導師風の少女、るりは淡い水色の髪をかきあげながら、ユーリをじっと見つめる。髪をかきあげながらお礼を言う、というのは礼節的な意味でどうなのか、と思ったユーリだが、るりの様子を見ればそれが照れ隠しの一種なのだとわかり、小さくため息を漏らす。
「お礼?もしかして、昨日の、か?」
ユーリが尋ねると二人は揃って頷いた。
「別にお礼を言われることなんてしてないし、それこそ、ゆき、さんに言わないと……」
ユーリにしてみれば、誰かから感謝されるようなことをした覚えは一切ない。全員でまとまって戦ったのは、あくまでもそれが一番生き残る可能性があったからであり、誰かを助けたい、という使命感を持っていたわけではないのである。
「い、いえ、私なんてすぐにMPが切れちゃって、全然役に立てなくて……ユーリさんがいなかったら、私……」
「私もそうです……だから、街に着くまでにどうしてもお礼を言いたくて……」
どうしても、と粘る二人の少女の熱い視線にユーリは若干、困った表情を浮かべながらも笑顔を二人に返した。
「わざわざ、言いに来てくれてありがとう」
何気なく、しかし、二人の感謝の気持ちに応えるようにユーリはにこりと微笑む。そんなユーリの微笑に当てられてしまったのか、少女達は頬を薄紅色に染めていた。その後、二人からフレンド登録を申請され、登録し終わると二人はそのままユーリ達から離れていった。
「……なんだろうな、この敗北感……」
二人が十分に離れたことを確認したユーリは小さく呟く。その言葉に込められたせつなさにエリザとクロエは首を傾げる。
「どうしたんだ、いきなり?」
「何かあったんですか?」
「……いや、いい」
察してくれ、と言わんばかりにユーリはため息を零した。先ほどのユーリを見つめるゆきとるりの目はまさしく、恋する乙女の目であった。おそらく、そのことに関してはクロエ達も気付いているだろう。しかし、それの意味することには気づいていなかった。
――――くそ……
ユーリとて年頃の男子高校生である。同年代の女の子に慕われて嬉しくないわけではない。しかし、それはあくまでも男として慕われた場合である。先ほどの二人の少女もユーリを慕ってくれた。惚れていた、と言っても言い過ぎではない。しかし、それは一人の男性としてではなく、今のユーリに、更に言うのであれば、女としてのユーリに惚れている目だった。言うまでもなく、ユーリの性別は男である。どんなに可憐で美しくても、あるいは凛々しくても、男である。もちろん、百合の気などない。薔薇の気もない。
「本当に大丈夫なのか?」
不機嫌そうな表情を浮かべたままのユーリにエリザが再び尋ねる。
「あぁ……」
ため息を零しながらも何も語ろうとしないユーリにエリザとクロエは互いに顔を見合わせたが、無理に触れない方がいい、と判断して無言のまま頷き合った。
「くそ……」
どこにぶつけたらいいのかわからない不快感が悪態となってユーリの口から洩れる。結局、ユーリの不機嫌な態度は休憩が終わっても続き、街に着くまで機嫌は悪いままだった。
ユーリも男だって言えばいいのに……
と、思いながらもそれでは面白くないのでまだユーリの性別は隠したままです。
まぁ、知っている人もいるんで隠しているというのも語弊がありますが。
いずれ、明らかになる日が来ると思います。その日までお楽しみに♪
次回は2月22日に投稿予定です。
それでは、次回もお楽しみに♪
ではでは。




