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NDA37

これにてマロニー編(笑)終了です。

「じゃあ、試してみる?」


 イブに近づきながら、シオンは瓶の蓋をあける。すると鼻を刺すような刺激臭が辺りに立ち込め、それが危険な薬であることを告げていた。


「……これは失敗作。でも、限りなく毒薬に近い、失敗作」


 失敗作、という言葉にイブの顔色が強張る。失敗作とは文字通り、【調合】で失敗したもの全般を指すアイテムであり、【調合】のスキルを持っている者であればだれでも作ることができるアイテムであった。そして、失敗作という名の示す通り、その効果は決まっておらず、HPやMPを回復する場合もあれば、毒や麻痺などの状態異常を与えるなど、使用した際にランダムで決まる。本来であれば捨てるか売るしか使い道のない屑アイテムであるが、失敗作であればセーフゾーンの制限を潜り抜けて、相手を毒状態にすることは可能だった。


「で、でも、失敗作の効果はランダムよ……」


 その事実に思い当ったイブは顔を顰めた。


「……私のLUK、12……プレイヤーに使えば、きっと、マイナスの効果にしかならない」


 シオンはそう言って微笑んだ。一方、そんなシオンの笑みを向けられたイブはその不気味さに頬を引き攣らせていた。失敗作の効果はプレイヤーのLUK(幸運)値の影響を受ける。つまり、プレイヤーに対して使用した場合、LUKが高ければ回復などのプラス効果を発揮し、逆に低ければ毒や麻痺などの状態異常を与える可能性が高い。そして、シオンは今までの経験から失敗作の効果がどのようにして決まるのか、概ね予想がついていた。シオンの経験に基づいている為、確実性は保証されないが、失敗作の効果は使った素材の影響を少なからず受けている。今、シオンの持っているビンに入っているのは毒薬を作ろうとしてできた失敗作である。もちろん、素材には毒関係のものを多く使用していた。マイナス効果も毒に関わるものに違いない。


「や、やめて……」


 シオンが一歩踏み出すと同時にイブは一歩後ろに下がる。失敗作の効果はランダムである為、使われたとしても必ず毒や麻痺などの状態異常になるとは限らない。なんの効果も発揮せずに不発に終わる場合も少なくない。しかし、当然のことながら、わざわざ使われたいものでもない。すっかり、シオンに怯えてしまったイブはそのままマロリーの背中に隠れるように後ろに下がってしまった。


「な、なによ、それで脅すつもり……?」


 マロリーはシオンに対して強がってみせるが、それが虚勢であることは誰も目にも明らかであり、場の主導権は完全にシオンとエリザのものになっていた。


「……脅す?」


 シオンの唇がわずかに上がる。


「そんなこと……しない」


 そう言ってシオンは躊躇うことなく瓶を傾けた。当然のことながら重力に従って、中の液体は零れ出し、瓶の真下にいたボブにかかる。ポーションなどのドリンク系アイテムは経口しなくても、一定量が体に触れると効果を発揮する。シオン特製の失敗作を浴びせられたボブは小さく悲鳴をあげるとそのまま動かなくなってしまった。


「残念。麻痺、か……」


 ピクピクと体を痙攣させているボブを見下ろしながら、シオンはため息を零す。状態異常にもランクがあり、ランクが高ければ、プレイヤーへの影響も大きく、回復も難しくなる。体が動かかなくなるほどの麻痺といえば、麻痺の中でもかなりランクの高いものであり、エリア内でなってしまえば致命的ともいえる。ダメージはもちろん、痛みが再現されるわけでもないのでセーフゾーンでなったのであれば、命に別状はないのだが、少なくとも、残念、と言っていいものではない。


「次は……これ」


 新たに小瓶を取り出したシオンはマロリー達ににこりと微笑んだ。それを見たマロリー達がシオンの言った、そんなにことはしない、という言葉の意味を理解した。脅す、ということはつまり、シオンの要求を呑めば、使わない、ということである。しかし、問答無用で使ってきたところを見る限り、シオンの頭の中に、使わないという選択肢はない。つまり、交渉は無理ということである。マロリー達はお互いに目を合わせて、覚悟を決めるとそれぞれ武器を構えた。このまま、じっとしていてに、シオンの失敗作の餌食にされるだけである。それを避ける手段は二つしかない。降伏という選択肢を選ぶわけにはいかない以上、マロリー達は戦うしかない。


「……あら、まさか、私達相手に勝てるとでも思っているの?」


 剣呑な空気に変わったことを察知したエリザも身構える。人数ではマロリー達の方が多いが、プレイヤーとしての技量ではシオンとエリザの方がはるかに優っている。それに加えて、暗い夜間での戦闘は猫人(リンクス)吸血鬼(ヴァンパイア)のように夜目のきく種族が圧倒的に有利である。その気になればゴブリン100匹とでも渡り合える自信を持つエリザである。ゴブリンと同程度の格下プレイヤーなど何人いようと問題にならない。そんな一触即発の空気を切り裂くように鋭い声が辺りに響く。


「お前達、何をしているっ!!」


 思わず、その場にいた全員が一斉にその声を向く。薄闇の中でもわかる白い肌に、星明りに照らされた金髪は艶めかしく輝く。手には夜を吸い込んだかと思わせる黒のサーベルが握られ、きりりと引き締まった碧眼は真っ直ぐにマロリー達を見つめていた。その凛々しい立ち姿にマロリー達は息を呑んだが、すぐに助けを求めて美女に駆け寄った。


「助けてください、私達、あの人達に襲われて……」


「仲間が一人やられたんだ」


 突如、現れた美人剣士にはマロリー達も見覚えがあった。並み居るゴブリン達を恐れることなく、戦場を駆け抜けるその姿は戦乙女を思わせ、その可憐で華奢な外見からは想像もできないような活躍を見せていた。剣士でありながら、魔法も使いこなし、ゴブリンアーチャーやゴブリンメイジ達を次々に仕留めていく強さはここにいるプレイヤー達の中でも間違いなくトップクラスである。戦力的に不利なこの状況で、エリザとシオンに対抗するためには、目の前の剣士を引き入れるしかない、と瞬時に判断したマロリー達は駆け寄るや否や、シオン達を指差す。


「お願いします、あの人達から私達を守ってください」


 この幸運を掴み損ねてしまえば、実力で劣るマロリー達に勝ち目はない。それを分かっているからこそ、その声には必死さがにじみ出ていた。しかし、指差した先を見た剣士は驚いた顔を浮かべ、そして、わずかに顔を顰めた。


「……どういう、こと?」


「見ての通りよ。私達がその子達に襲われて、反撃した……ただ、それだけのことよ。そうでしょう、シオン」


 同意を求めるようにエリザがシオンに尋ねるとシオンも小さく、しかし、はっきりと頷いた。


「ということらしいけど、どうなんだ?」


 咎めるような剣士の視線にマロリーが思わず、反論する。


「襲われてるのは私達なのよ……どうして、あんな奴の言葉を信じるのよ!!」


 マロリーの言葉に続いて、アリスたちも非難するような目で剣士を見つめる。イブにいたっては目に涙を浮かべている。涙ながらに懇願するその姿が庇護欲をそそるものであったあり、剣士も一瞬躊躇う表情を浮かべたが、首を左右に振って、マロリー達を突き放す。


「二人とも訳もなく他人を襲うような人間じゃない。それに、見たところ、二人がお前達を襲う理由もなさそうだし……襲われるような真似をしたお前達が悪いし、仲間に剣を向けてまでお前達を助ける義理もない」


 その言葉から剣士と目の前の二人が顔見知りであることを知ったマロリーはその場に観念して、その場に崩れ落ちた。ただでさえ、戦力の劣るマロリー達である。敵にもう一人加わったとなれば、勝ち目などなくなったに等しい。他の四人もそれを理解しているのか、手に持っていた武器は力なく下げられてしまった。相手が戦意を喪失したことを確認したエリザとシオンもそれぞれ構えを解く。


「ユーリ……どうして、ここに?」


「エリザと別れた方から悲鳴が聞こえたからな。声は男だったけど、気になってな……シオンとエリザこそ、どうしてこんな連中に絡まれてたんだ?」


「……調合のレシピ、教えろって……」


 マロリー達を睨みつけながらシオンは呟く。それだけ聞いたユーリは、なるほど、と頷いた。シオンが持っている情報の一部を掲示板に上げたとはいえ、【調合】に関する情報は他の生産スキルに比べて圧倒的に不足している。もし、シオンからそういった情報を手に入れることができれば、他のプレイヤーに対してかなり優位に立つことができる。戦闘職としても、生産職としても一歩遅れているマロリー達が無理をしてでも情報を得ようと考えてもおかしくはない。


「そうなんだな?」


 ユーリにじろりと睨まれた四人は怯えた表情を浮かべながらも、それぞれ頷く。しかし、マロリーだけは違った。まだ負けていないといわんばかりにきつい視線でシオンを睨みつけた。


「そいつが悪いのよ……大事な情報を独占するから」


「……は?それのどこが悪いんだよ。そんなこと、誰だってやってることだろ?それとも、お前はそういう自分だけの情報みたいなのか何も持ってないのか?」


 あまりにも子供じみた理由にユーリの口からため息が漏れる。情報の独占というものは大なり小なり、誰でもしていることである。ユーリも例題ではなく、『英雄記』に関する情報はカジカ達にさえ話していない。もっとも、それはゆっくり話す時間もとれないままゴブリン達との戦いに巻き込まれてしまったからであり、隠しているわけではないのだが、それにしても、それが悪いことだという認識はない。一方のマロリーも指摘されたことに心当たりがあるのか、苦い表情を浮かべていた。


「ほら、自分も同じことをしてるだろ?」


「で、でも、回復系アイテムに関する情報なのよ……みんなの為に公開するのが、当然でしょ!!それに、植物の図鑑だって……みんなの為にって気持ちはないの?」


 こればかりは譲れない、と言わんばかりにマロリーは主張するがエリザが横から口を挟む。


「確か、ポーションのレシピは公開されているでしょう。それでは不十分かしら?今のゲームの進行具合からして、上位のポーションなんて手に入らないでしょうし、仮にあったしても今のプレイヤーの【調合】のスキルレベルで作れるとは思えませんね。そもそも、公開するのが当然だなんて線引きは貴女が勝手にしたことでしょう?他人にそんなことを強要するなら、まずは貴女の持っている情報を公開するのが筋でなくて?」


 エリザの正論にマロリーは言葉に詰まる。


「そもそも、挿絵だけじゃ意味ない……あってもなくても、【鑑定】はいる……探す手間が少し減るだけ」


 植物図鑑を万能だと思っている様子のマロリーにシオンがため息を零す。マロリーの言うとおり、アイテムとしての植物図鑑の効果は限定的な【鑑定】スキルの使用が可能になるだけである。つまり、採集した野草やキノコが図鑑に載っているものであれば、その正誤を確認できるようになる。スキルポケットを圧迫せずに鑑定ができるのは確かに便利であるが、効果が発揮されるのは図鑑を持っているプレイヤーに対してのみであり、挿絵を見たからと言って素材がすぐにわかるわけではない。むしろ、挿絵だけを頼りにしていてはよく似た野草やキノコを手に入れしまう可能性のほうがはるかに高い。言うまでもないことだが、間違った素材を正しく手順を踏んで調合してもできあがるのは失敗作である。つまり、仮にシオンが植物図鑑をマロリー達に見せても全く意味はないのだ。


「大人しく退くなら、シオンに手は出させない……でも、まだ続けるっていうなら、俺はシオンにつくし、容赦しない」


 ユーリの冷たく、低い声にマロリーは背中を震わせる。ユーリがシオン達につけば、マロリー達に勝ち目はない。流石に殺されることはないだろうが、相応の報いを受けることは間違いない。


「……これ、麻痺消し。あげるから、どこかに行って」


 最後の譲歩だと言わんばかりにシオンは麻痺消しを取り出し、マロリーに差し出した。まさしく、飴と鞭である。マロリー達の手元に今、麻痺消しはない。麻痺消しどころか回復系のアイテムはゴブリン達との戦闘のせいで底をついている。それはマロリー達以外のプレイヤーも同様であり、他のプレイヤーから譲ってもらえる可能性はないに等しい。つまり、今、ここでマロリーが麻痺消し受け取らなければ、ボブは自然回復するまでずっと麻痺状態が続くことになる。死ぬことはないとはいえ、マロリーが発起人となって巻き込んでしまった以上、見捨てるような真似はできない。しかし、麻痺消しを受けとってしまえば、シオンの条件を呑まなければならない。それはマロリーにとって容易く頷けるものではない。すぐに答えを出せないでいるマロリーは麻痺消しを前にして黙り込んでしまった。


「わかりました。もう、貴女達に手は出しません……私達の負けです」


 そう言ったのはアリスだった。


「な、ちょっと、アリス、何勝手なことを……」


「勝手なのは貴女でしょ……正義だかなんだか知らないけど、そんなものの為に、危険な目に遭うのはごめんよ。私はこれ以上、貴女と組む気はないわ……ボブだって、きっとそうよ……」


 アリスの言葉をきっかけに残りも四人も私も、俺もと言い始める。ちょっと脅せば簡単に情報が手に入るといって集めた烏合の衆である。得られるはずの利益がなくなったならば、崩れるのは一瞬だった。瞬く間に仲間を失い、独りになったマロリーを見れば、勝敗は明らかだった。そして、そんなマロリーにとどめを刺すかのようにエリザはにこりと微笑んだ。


「私達に復讐したいなら、どうぞ、ご自由にしてください。でも、次は容赦しないませんから」


「さようなら」


 シオンはそう言って麻痺消しをマロリーの目の前に置いた。そして、それ以上何も言わずにその場を去って行った。アリスはマロリーから麻痺消しをひったくるとすぐにボブのところまで行って、麻痺状態を回復させた。他のプレイヤー達も座り込んだままのマロリーを蔑むような目で見下ろしながら、それぞれ散っていく。独りきりになったマロリーは悔しそうに涙を零し、天を見上げた。


「許さない……みんな、絶対に許さないんだから……」


 胃が滲むほど固く握りしめられた拳を震わせながら、マロリーは呟いた。恨みのこもったその声は誰の耳にも届くことなく、夜の闇へと消えていった。



次回からはマロニー復讐編が始まります。乞うご期待……すみません。嘘です。

でも、マロリーにはいずれ再登場してもらう予定ですのでお楽しみに♪



次回は2月15日に投稿予定です。



それでは、次回もお楽しみに♪

ではでは。



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