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NDA36

投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。

どうぞ、お楽しみください♪


「こうなったら、意地でもあの女が独占してる情報を明らかにしてやるんだから……」


 村のはずれでマロリーは語気を荒げる。デスゲームという命が懸かっているこの状況で回復アイテムに関わる貴重な情報を独占しているシオンはマロリーにとって、悪そのものであった。もちろん、貴重な情報を独占したいと思うシオンの気持ちは一人のプレイヤーとしてマロリーもわからないではない。もし、これが普通のゲームであれば、マロリーもここまでしなかった。しかし、今はそんな身勝手が許される状況ではないのだ。


「それって……その、乱暴な方法をとるかもしれないってこと、よね?」


「えぇ」


 控えめな声で尋ねたアリスにマロリーははっきりと頷いた。話し合いで済むのであれば、それにこしたことはないが、さきほどのシオンの様子を見る限り、その可能性はかなり低い。おそらく、実力行使になるだろうと、マロリーは考えていた。


「マロリー……本気かよ」


「当たり前でしょ?悪いのは情報を独占しているあいつよ」


 怯えの混じったボブの声に、マロリーの力強い声が応える。


「けど、どうするんだよ。戦っても俺たちに勝ち目はないぜ……」


「そうよ。マロリーはともかく、ボブも私も生産系よ。戦いになったら相手にならないわ」


 シオンの戦闘能力はゴブリン達との一戦で、マロリー達も目の当たりにしている。魔法使いとはいえ、シオンの技量は高く、ナイフも使う為、レベルの低いマロリー達ではまともに戦っても勝負にならない。しかし、マロリーは余裕の表情を浮かべて微笑んだ。


「セーフゾーンなら私達に魔法は使えないし、ナイフも通じない。ボブの力なら、女一人くらい抑え込めるでしょう?ボブ一人でも無理なら、私達だっている……いくらレベルが上だからって、単純な腕力なら人数の多い方が有利よ」


 マロリーの言うとおり、街の中やセーフゾーンでは基本的にプレイヤーがプレイヤーにダメージを与えることはできない。物理攻撃や魔法のエフェクトが発生することはあっても、その効果はキャンセルされてしまうのである。そして、レベルの高さは必ずしも腕力の高さを表すものではなく、単純な力比べであれば、当然のことながら数の多い方が圧倒的に有利である。


「それに、もう何人かこっちに引き込むつもり……どうせ、今回のクエスト報酬は私達には回ってこないんだし、そういうプレイヤーに声をかけたらきっと協力してくれる……ね?」


 今回のクエスト報酬を大きく分けるとお金、素材、スキルポケットの三つである。そのうちのお金と素材については均等に分けることが可能であるが、一人あたりの手取りは命を懸けたにしては少なく、素材にしてもほとんどが食材であるため、【料理】のスキルを持たないプレイヤーにとって売るしか価値がない。つまり、命を懸けただけのリスクに見合う報酬はスキルポケットしかない。しかし、報酬としてプレイヤー達が手に入れたスキルポケットの数はたった一つである。誰にスキルポケットを渡すかは未定であるが、マロリー達に回ってくる可能性はないに等しい。


「そう……だよな……確かに」


 スキルポケットに関してはおそらく、最後まで戦っていたうちの誰かが分配される。そのことについて表だって反対するプレイヤーはいないだろうが、心の中では誰もが不満に思っている。マロリーが声をかけるのはそういったプレイヤーである。シオンの持っている情報はスキルポケットほどではないにしろ、プレイヤー達にとっては是が非でも手に入れたいだけの価値を有している。無論、相応のリスクも伴うが、それでもこちら側に天秤の傾いてしまうプレイヤーがいたとしてもおかしくはない。


「あと、二人……できれば三人……それだけ集まればなんとかなるわ……まだ戦勝会の最中で、カジカやシグ達は盛り上がってるし、今がチャンスよ……人数が集まり次第、すぐに決行よ」


 マロリーの言葉に残りの二人も頷くとそれぞれ闇の中に紛れていった。




・*・




「貴女は確か、ユーリのところの……どうしたんだ、こんなところで?」


 宴の会場から離れたところで見知った人影を見つけたエリザは近づいて声をかける。


「……あなたは、誰?」


 エリザに声をかけられたシオンは見慣れない顔に首を傾げ、警戒するような目でエリザを見つめた。よく練り上げられた絹糸のように繊細な銀の髪、宝石のように輝く紅の双眸。同性であるシオンが嫉妬してしまいそうなくらいの美人である。しかし、シオンの知り合いにこんな美人はいない。いるとすれば、ユーリぐらいである。一方のエリザは警戒する様子のシオンを見て、不思議に思ったが、いつも被っているフードを今は被っていない状態であることを思い出し、慌ててフードを被る。


「これで思い出してくれたかな?」


 フードを被ったエリザを見て、シオンも頷く。


「闇魔法の人……」


 ゴブリン達との戦闘の中で強力な闇魔法を連発していたローブの女のことはシオンもよく覚えていた。MP切れを起こしてしまい、シオンは途中退場せざるをえなかったが、そのときもローブの女は余裕そうだった。


「エリザだ。よろしく」


「シオン」


 互いに握手を交わすとエリザはシオンに尋ねる。


「それで、こんなところで何をしていたんだ?宴はまだ終わってないだろう?」


 建物の影になっているせいか、戦勝会の会場から二人のいる位置は完全に死角になっており、目で確認することはできない。しかし、盛り上がっているカジカ達の声が聞こえてくることから戦勝会が終わっていないことがわかる。人ごみの中にいるのが苦手で、戦勝会を避けてきたエリザが言うのもおかしな話だが、ゴブリン達との戦いで活躍したシオンが戦勝会に参加していないというのはどこか妙だった。


「人ごみ、苦手」


「なんだ。私と同じか。私もそうだ……」


「そう……でも、いかなくていいの?クエスト報酬の分配について話してた……」


 戦勝会は基本的に、クエストに参加した全てのプレイヤーが参加している。そうなると、自然と報酬の分配に関する話が出てきて、話題の中心になっていく。シオンが抜け出したときもカジカと他のプレイヤー達がその話をしていた。シオン達は報酬に関する話は全てカジカに任せているので話し合いの場にいなくても問題はないが、エリザのようにソロのプレイヤーはその場にいなければ不利益を被る可能性がある。しかし、エリザは気にしていない、と言わんばかりににこりと微笑んだ。


「分配といってもスキルポケットを誰のものかにするかだろう?それなら、私はいなくていい」


「……いらないの?」


 相談の場にいなくていい、とは欲しくない、と同義である。エリザの言葉に首を傾げるシオンに、銀髪の美女は迷うことなく、頷いた。


「あぁ」


「……おかしな人」


 くすりと笑みを浮かべたシオンにつられるようにエリザも微笑んだ。


「これでも、私は古参組だからな……スキルポケットには余裕はあるし、お金も引き継いだ分がある。はっきり言って、今回の報酬に私の欲しいものはないんだ」


 もちろん、もらえるものならもらいたいが、エリザは悪戯っぽく笑う。しかし、先の利益を考えるのであれば、ここはおとなしく引いた方がエリザの利となる。無理やり割り込んで他のプレイヤー達との間に波風を立てるよりは、他のプレイヤーに譲った方が後々の利益に繋がる。


「なるほど……納得」


 エリザの説明に納得したシオンは大きく頷くと、今度はエリザがシオンに尋ねてきた。


「シオンこそ、いなくていいのか?」


「カジカに任せた……だから、いなくていい」


「カジカ、というとあのとき、他のプレイヤー達に指示を出していた男のことだな……彼が君たちのパーティーリーダーか……」


 そこまで言ってエリザの雰囲気が変わる。フードを被っているおかげで唇しかシオンには見えなかったが、硬く一文字に結ばれた唇を見れば、何が起きているのかはシオンにもすぐに予想がついた。


「私達に、何か用ですか?」


 にこりと笑ってみせたエリザは先ほどまではまるで別人だった。口調はもちろん、身に纏う雰囲気も変わっていた。そして、その笑みの先にはいつでも攻撃ができるように武器を構え、微笑むマロリーがいた。その後ろにも数名の人影が見える。エリザとシオンを囲むように半円状に並んだ人影はマロリーを含めて五人。彼我の人数差を確認したエリザは小さくため息を零す。


「あなたに用件はないわ。用があるのはそっちの子。よかったら、邪魔をしないでどこかに行ってもらえると嬉しいんだけど」


 剣先をシオンに向けたマロリーは敵意を剥き出しにしていて、今にもシオンに切りかかろうとしていた。人数で勝っているせいか、その表情にはどこか余裕さえ感じられた。


「武器を構えておきながら何を言うんですか?暴力行為は禁止されていますよ」


 余裕の笑みを崩さないエリザが不愉快だったのか、マロリーの表情がわずかに歪む。


「別に暴力行為なんてするつもりはないわ……そっちが素直に言うことを聞いてくれたらだけど」


「……何の用?」


 マロリーの顔を見たシオンは露骨に嫌そうな表情を浮かべていた。先ほどの宴の場での一件を考えるとマロリーの言い出しそうなことは容易に見当がついた。


「別に……あんたが独占している情報を公開してくれれば、それでいいのよ」


「……やっぱり……」


 案の定、シオンの予想通りの展開にせいだいにため息を零す。そして、それを聞いて事情を察したエリザは憐れむような目でマロリーを見た。ゴブリン達との戦闘でマロリーの技量は概ね、予想ができる。おそらく、ゴブリンと一対一で戦うことができる程度しかないのだろう。プレイヤー全体を見渡してみれば、決して低いわけではないが前線で戦っていた面子に比べると一段も二段も劣ってしまう。


「なるほど……シオンも大変ね。あんな馬鹿なプレイヤーに絡まれて……」


「なっ……馬鹿?私が?なに、言ってんのよ、悪いのはそいつ……貴重な情報を独占しているそいつが悪いんでしょ!?」


 エリザに馬鹿と言われた怒りをまき散らしながらマロリーは剣先をシオンからエリザに移す。しかし、マロリーの視線など気にするほどのものでもないのか、エリザは

にこりと微笑むだけだ。


「それのどこがいけないのかしら?」


 情報の独占そのものは違法行為ではない。ゲームをより効率よく進めていくために協力しよう、というのはあくまでもプレイヤー間の合意の上で成り立っている約束のようなものであり、強制力や拘束力のようなものはない。攻略組のプレイヤー達が言い出したことなのである程度の影響力はあるものの、それだけである。情報をもらうだけもらって、情報を提供しない、あるいはできないプレイヤーも多くいる。ただのプレイヤー間の約束でしかないため、稀少なアイテムに関する情報を黙っていても誰も咎めることはできないし、強引に聞き出すなど許されるはずがない。


「いいわけないでしょ!?」


 しかし、マロリーにとってそれは悪だった。シオンの独占している回復系アイテムの情報が明らかになれば、多くのプレイヤーがその恩恵を受けることができるのだ。独占を許せるはずがなかった。


「もう、いいわ。話してくれないなら……ボブっ!!」


 マロリーが叫ぶと同時に二人の背後に潜んでいたボブが襲い掛かる。生産職のため、戦闘能力では劣るとはいえ、男女の体格差は歴然である。そして、その手には鋭く光るナイフが握られており、刃先はシオンを向いている。不意を突かれたシオンは思わず身構えるが、それよりも先に隣に立っていたエリザが動き、ボブの腕を掴んだ。途端、ボブの悲鳴があがった。


「がっ、放せ……っ、痛い……放して、いえ、放してください」


 あまりに痛みに、反撃する気力さえ一瞬で挫かれたボブはエリザ」に腕を握りしめられたまま、その場に崩れ落ちる。夜であれば竜人(ドラグーン)と力比べができるほどの膂力を持つ吸血鬼(ヴァンパイア)である。ほんの少しでも力を込めれば、エリザにレベルの劣るヒューマンが耐えられるはずがない。セーフゾーンとはいえ、痛みは再現されるのである。


「話してくれないのなら、どうするつもりですか?」


 悶絶するボブを無視して、エリザはにこりと微笑んだ。


「セーフゾーンで武器の使用はできないことはご存知でしょう?そのナイフは捨ててもらえるかしら」


 笑顔のまま力を込めるとボブは悲鳴を上げながら、ナイフを茂みに投げ捨てた。しかし、エリザはボブの腕を放すことなく、それどころか容赦なく、ボブの腕を捩じ上げた。みしみしと軋む音が聞こえてきそうなくらい腕をねじられたボブは既に涙目で、救いを求めるようにエリザを見ていた。


「ナ、ナイフは捨てたぞ、放し、がぁ、放して……」


「ナイフを捨てたら放す、なんて一言も言っていませんよ。少し、静かにしていてください。耳障りです。心配しなくても殺したりはしませんから……殺すメリットもありませんし、そもそもここ(セーフゾーン)では殺せませんから。それで……話してくれないならどうするつもりですか?」


 エリザはそう言うとマロリーに微笑んだ。フードを被っているせいもあり、エリザのほうが悪役に見えてしまいかねないのだが、


「ひ、卑怯もの……」


「卑怯?心外ね……」


 ボブにシオンを襲わせることで優位を確保しようと考えていたマロリーは忌々しそうにエリザを睨みつける。正面からまともに戦ってもマロリー達に勝ち目はない。それがわかっているからこそ、ボブに背後から二人を襲わせたのである。しかし、結果は見事な失敗であり、ボブを人質にされてしまえばなす術はなかった。


「……一つ、教えてあげる。セーフゾーンでも、ダメージを与える方法はあるよ」


 それまで黙ってたシオンはそういうと妖しそうな笑みを浮かべた。


「な……嘘、いってんじゃないわよ。そんなことできるわけ……」


「できる」


 シオンはそう断言するとアイテムボックスから小さな瓶を取り出した。缶ジュースほどの大きさの瓶の中にはいかにも毒だと言わんばかりに毒々しい色をした液体が入っていた。しかし、それを見たプレイヤーの一人、イブは小さく笑う。


「毒でダメージ?そんなことできないわよ……状態異常なら確かにセーフゾーンでもダメージは受けるけど、でも、状態異常にすることはできないから無駄よ。チュートリアルで言われたでしょ」


 イブの言う通り、毒などの状態異常であればセーフゾーンであろうとなかろうと関係なしにダメージを受けてしまう。これは酒場のチュートリアルで教えられる情報であり、知らないプレイヤーはいないと言っていいほど、当たり前の情報である。毒薬など相手を毒状態にするアイテムは存在するが、セーフゾーン内ではプレイヤーに対して使えないことも同じく、広く知られていることだった。しかし、シオンの笑みは崩れなかった。


「じゃあ、試してみる?」



あれ?おかしいな……シオンとエリザの方が悪役に見えてきた……



最近、本業のほうが忙しくなり、執筆の時間を十分に確保できなくなってしまいました。おそらく、二月末まではこの状況が続くため、今までのペースでの投稿はできません。


執筆自体は空いている時間を見つけて進めて行きます。一週間に一回投稿できるように頑張りますので、よろしくお願いします。



というわけで、次回の投稿予定は2月8日です。



それでは、次回もお楽しみに♪

ではでは。




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