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NDA33

今回も戦闘回です。


101匹ゴブちゃん、後半戦……プレイヤー達の運命や如何に!?



 クエスト開始からどれほどの時間が経ったのだろうか。戦い始めて何時間も経ったような気もすれば、まだほんの数分しか経っていないようにも感じる。戦いに集中しすぎるあまり、時間に対する意識が完全に欠如していた。しかし、空を見上げると星と月が天高く輝いて、勝利条件であるはずの日の出まではほど遠いことがわかる。既に、プレイヤー達は皆、満身創痍で数で勝るゴブリン達に蹂躙されてしまうのも時間の問題だった。


「あと……40ってとこか?」


 剣を振りかぶり、ユーリが呟くとその隣でカジカも頷きながら、ナイフでゴブリンを斬りつける。


「まぁ、そんなとこだな……」


 ユーリの奮闘のおかげで遠距離攻撃主体のゴブリンメイジとゴブリンアーチャーは既に片付いている。しかし、その結果、簡素ではあるが鎧で身を固めたゴブリンアーマーが大量に残ってしまったのである。残ったゴブリンの半数以上がゴブリンソルジャーである、という事実は疲労困憊のプレイヤー達の肩に重くのしかかってきた。ゴブリンは四種類のゴブリンの中で最も高い防御力を持っている。少なくとも、ユーリのSTRでは苦労する程度には硬い。他のプレイヤーは皆、ユーリ以上のSTRを越えているがそれでも苦戦は必至だった。


「はぁああっ!!」


 裂帛の気合いと共に、ユーリの剣がカジカの攻撃で崩れたゴブリンの鎧の隙間を貫く。防御が硬いとはいえ、それは鎧があるからであり、鎧の隙間を突けばユーリでも一撃で仕留めることは可能である。しかし、それには当然のことながらリスクが付きまとう。今回はカジカとの連携のおかげで倒すことができたが、ユーリ一人ではまず不可能だった。


「魔法が使えればこいつらだって……」


 忌々しげに呟き、ユーリは剣を構えなおす。レベル相応に高いMPを持つユーリだが、それも無限にあるものではない。度重なる魔法の使用でユーリのMPは既に底を尽き、残された武器は剣のみとなっていた。今までの戦いで磨き上げられた技量とフランの仕立ててくれた防具のおかげでエルフながらも前線で戦えるが、火力が不足しているため、ゴブリン達に決定打を与えることはできない。しかし、そんなユーリでも前線で戦わなければならないほどプレイヤー達は追いつめられていたのだ。回復役(ヒーラー)も既にMPが底をついてしまったため、回復はできず、態勢を立て直してからはまだ一人も死者は出ていないが、既に戦えないプレイヤーの方が多い。前衛で武器を振るっているプレイヤーはユーリを含めて十人にも満たない。後衛も既にそのほとんどはMPが尽きていた。唯一残っている後衛は黒いローブの女のみである。


「ダークスフィアっ!!」


 闇より黒い球体が現れ、ゴブリンを包み込み、屠る。後衛というポジションにいるせいか、この乱戦にも関わらず、ほぼ無傷でここまできている。MPが尽きていない、という事実はもちろんだが、その技量の高さは並のプレイヤーとは一線を画していた。しかし、流石に疲労は隠せないのかフードの中から漏れる息は荒い。そして、気の逸れた一瞬を突くように、女をゴブリンのナイフが襲う。予期していなかった攻撃に女は身を翻して、ゴブリンの攻撃を避けた。


「気を散らすな!!はぁぁああっ!!」


 鋭い声で叫んだ竜人(ドラグーン)の男の巨斧がローブの女を襲ったゴブリンを吹き飛ばす。(タンク)役は任せろ、と言ったその言葉の通り、男は今まで最前線で斧を振るい続けていた。種族の特性とその巨体の利を生かした豪快な攻撃な凄まじく、ゴブリン達をよせつけない活躍をみせていたが、それでも無傷というわけにはいかず、体は傷だらけでいつ倒れてもおかしくない状態だった。いかに高いステータスを持つとはいえ、無敵ではない。塵も積もれば山となる、という言葉の示す通り、積み重なったダメージは確実に男を蝕んでいた。しかし、男はそれをものともせずに大きく息を吸い込んだ。


「【ファイアーブレス】!!」


 吐き出された炎のブレスが目の前にいたゴブリンを焼く。竜人(ドラグーン)の固有スキルである【ブレス】による攻撃である。INT依存の魔法攻撃であるため斧による攻撃ほどダメージは与えられないが、火ダルマになったゴブリンは火傷による追加ダメージを受ける。その隙に双剣からハンマーに装備を変えたドワーフの女は渾身の力を込めて、身の丈ほどもある木槌を振るった。


「はぁ!!」


 双剣は既に耐久値が尽きてしまい、使えなくなってしまった為、武器を変更したのだが剣よりも使い慣れているのか、女の勢いは衰えを見せない。全力で振った木槌はゴツンと鈍い音を立ててゴブリンの頭を殴り飛ばす。人型モンスターの弱点は基本的に頭であり、その弱点を渾身の力で殴られたゴブリンはそのまま光となって消えていった。そして、その横をクロエが全速力で駆け抜ける。


「【チャージ】」


 勢いをつけたクロエの膝蹴りを受けたゴブリンアーマーはそのままよろめく。そこを狙って、男がナイフを投げる。勢いよく投げられたナイフがゴブリンの顔面に突き刺さり、そのまま、ゴブリンは絶命する。男の投げたナイフは手持ちの武器ではなく、ゴブリンのレアドロップである【子鬼のナイフ】である。ある意味では、ドロップアイテムの窃盗、横領とも取れる行為だが、それを咎める者はいない。クロエも気にはしていなかった。今はそれどころではないのだ。


「ナイフはあと幾つ?」


「3本だ。いや、4本か」


 ゴブリンを仕留めたナイフを回収すると男はにやりと笑った。この男、武器が壊れてしまって素手で戦っているわけではなく、元々、【素手】と【投擲】を駆使したこのスタイルで戦っているのである。曰く、いつでも、どこでも戦えるようにしてこそ真の武人、らしい。この男もユーリと同じく【軽業】を使っているのか、その動きは軽やかで、ゴブリンを踏みつけて、空中で一回転するとゴブリンの脳天目がけて踵を落とした。ぐらついたゴブリンをクロエの爪が切り裂く。


「……最後のひと踏ん張りだ、気ぃ。引き締めろ!!」


 カジカの声に戦っていた全員が応える。ここまでくると、技量云々よりも気合いの問題だった。武器を握る手に目の前のゴブリン達の数は開始当初よりも明らかに減っている。しかし、対するプレイヤーで戦える人間は10人を切っている。万全の状態であればなんとかなりそうな戦力差だが、プレイヤー達は既に疲労困憊の状態であり、勝てる確証はどこにもなかった。


「……くっ!!」


 竜人の男の隙を突いて、ゴブリンの槍で伸びる。大柄な体で避けきることは難しく、ゴブリンの槍は男の腕を貫き、男の顔が苦痛に歪む。見ると男のHPバーが赤くなっていた。HPバーの色は残っているHPの割合で決まるのだが、赤は10パーセントを切ったことを示す色だった。もし、男が竜人(ドラグーン)以外の種族であればここで退くべきなのだが、竜人(ドラグーン)にはHPが10パーセントを切ると発動する固有スキルがあった。


「……てめぇら、いいかげんにしろぉぉおおっ!!」


 咆哮がゴブリンを威圧し、男の体を血のように紅い光を包み込む。それは竜人(ドラグーン)のもう一つの固有スキル【逆鱗】が発動した証だった。【逆鱗】は竜人(ドラグーン)専用の身体強化系スキルであり、HPが10パーセント未満になるとSTRとVIT、そしてAGIを上昇させる強力な効果を持っていた。HPを回復してしまうと効果がなくなってしまうため、使い勝手のいいスキルとは言えないが、HPの回復が不可能なこの状況においてはそのデメリットは関係なかった。間近で咆哮を浴びて、動きが一瞬鈍ったゴブリンを男の巨斧が両断する。


「うぉぉおおっ!!」


 力任せに斧を振り回し、辺りにいたゴブリン達をまとめて吹き飛ばすと、ドワーフの女とクロエ、そしてユーリの三人がそれぞれ止めを刺した。カジカはその隙に男に近づく。


「おい、無理はするな。もう回復はできねぇんだぞ」


 シオンが大量に作ったポーションも当然のことながら既に底をついていた。そして、回復役(ヒーラー)のMPが尽きているせいで、男のHPを回復させる手段はない。【逆鱗】によって、強化された男の力は戦力としては魅力的だったが、戦い続けるリスクはそれ以上に大きい。しかし、男はこれが答えだと言わんばかりに斧を振るいって、ゴブリンを鎧ごと断ち切る。


「大丈夫だ、問題ない」


「大丈夫なわけねぇだろ……死にてぇのか!?」


 これがただのゲームであれば、潔く散るまで戦い抜くのもまた一つの美学だが、自分の命が懸かっているデスゲームでそんな真似をするなど馬鹿げているとしか言いようがない。自分だけ助かれば、残りは全員死んでしまえばいい、と思えるほどカジカは非常な人間ではない。もし、ここで男が死んでしまえば、その事実はカジカの胸に、きっとユーリの胸にも、深い傷跡を残してしまう。そして、カジカにその重荷を背負う気は、誰かに背負わせる気も、なかった。


「けど、俺が抜けたらやべぇだろ」


 男の言葉もまた、事実だった。今の人数でさえ、ゴブリン達を抑え込むのにギリギリであり、一人でも抜ければ抑えきれなくなってしまうのは目に見えていた。前衛を抜けられてしまうと、戦えない人間までゴブリンに襲われてしまうため、なんとしてもゴブリンを通すわけにはいかなかった。


「いいから一旦、退いてください。そして、回復役(ヒーラー)と生産職の人達を使って、第二ラインを作ってください」


 二人のやりとりにローブの女が口を挟む。目深に被ったフードのせいで表情はわからないが、鋭い声は緊張感に満ちていた。


「けど、そいつらは戦えない……」


 ローブの女の提案にカジカは顔をしかめた。回復役(ヒーラー)も、生産職のプレイヤーもエリアに出てくるということで最低限の装備は整えていたのか、それぞれ武器は持っている。しかし、本来、戦闘向きではないため、その火力はほとんどないに等しい。はっきり言って戦力にはならない。しかし、ローブの女はにこりと笑って、カジカに言った。


「御冗談を……戦えない、ではなく、戦わない、でしょう?このエリアなら、一発や二発受けたくらいなら死にません。レベルが低くても殴り僧侶(モンク)の真似事ぐらいできるでしょう……今の私達に動ける人を無駄に遊ばせていられる余裕はありません」


「けど、俺が抜けた穴は誰が埋めるんだ。誰もいねぇだろ」


 今、前線で戦っている人間以外はHPが10パーセントを切った者か、非戦闘員である。どちらにしても竜人(ドラグーン)の男の抜けた穴を埋められるほどの働きは期待できない。男に目の前で叫ばれた女は、しかし、何事もなかったかのようににこりと微笑む。血に濡れたかのような真っ赤な唇はひどく妖艶で、そして、恐ろしくさえあった。


「問題ありません。私が埋めますから」


 ローブの女はそう言うや、駆け出してゴブリン達の中に飛び込み、その細腕でゴブリンの体を貫いた。攻撃されたゴブリンはもちろん、カジカ達もその光景に驚愕する。今まで、魔法しか使わなかったか女が素手でゴブリンを倒してしまったのである。驚くな、というほうが無理だった。


「なっ……嘘だろ……」


 無論、素手でゴブリンを倒すことは不可能ではないが、それは【素手】や【爪術】といったスキルを持っていることが前提である。そういった類のスキルを一切持たない魔法職のプレイヤーにできることではない。しかし、女は固まったプレイヤー達を尻目に次々とゴブリン達を仕留めていく。その動きは流れるように華麗で、無駄がない。明らかに近接戦闘に戦い慣れている者の動きであり、古参組の中でも上位のプレイヤーと比べても遜色はない。


「何してるんですか?固まってたら死にますよ」


 淡々とした女の言葉に、はっと我に返ったプレイヤー達はすぐに武器を構えなおして、各々の敵と向き合う。竜人(ドラグーン)の男も前線から退いて、ローブの女に指示された通り、前線を潜り抜けた敵を迎撃するために残っていたプレイヤーと協力して陣形を作り始めた。ローブの女の活躍で、勢いを取り戻したプレイヤー達はそれぞれ連携しながら、次々にゴブリン達を仕留めていき、ついにゴブリンとの数の差がなくなるまでになった。そして、彼我の戦力差が逆転したこの瞬間を逃さんばかりにカジカが声を張り上げ、右手を天高く掲げる。


「一気に片付けるぞ……突撃っ!!」


 合図とともにカジカの手が振り下ろされ、プレイヤー達が走り出す。攻めに転じたプレイヤーの動きは速く、クロエと素手の男は真っ先にゴブリンの群れの中に突入し、それぞれ、ゴブリンの顔面に一撃必殺の攻撃をぶつける。しかし、クロエでは火力不足だったのか、一撃で倒すことはできなかった。クロエの膝蹴りを受け止めたゴブリンは反撃の剣を高く、振り上げる。しかし、それよりも早くユーリの剣がその喉元を突き刺さった。


「お姉さま……」


 荒々しく、しかし、美しいその姿にクロエは思わず、感嘆の声をあげる。一瞬でも遅れていれば、ゴブリンの剣の餌食になっていたかもしれない、という状況の中でもユーリの剣筋には一切の乱れはなかった。気を抜けば命が危うい、そうわかっているにも関わらず、クロエはユーリに見惚れてしまった。


「立ち止まるな、クロエ!!」


 しかし、鋭い声で一喝されると、はっと我に返って、近くにいたゴブリンの自慢の爪で引き裂いた。それに合わせるようにドワーフの女が真下からハンマーを振り上げる。本来、来るはずのない方向からの一撃は見事にゴブリンのあごをとらえ、その体をぐらつかせた。そして、その致命的な隙を逃すことなく、クロエは必殺の爪を振るう。


「【クロースラッシュ】!!」


 クロエに弱点を突かれたゴブリンはそのまま光となって消えていく。しかし、ゴブリン達もやられてばかりではなく、乱れてしまった前線の隙間を抜けて、戦えないプレイヤーのいる方向で走りだす。それを見たカジカは慌てて追いかけようとしたが、行く手をゴブリンに阻まれて、すぐには動けない。ゴブリン達の向かう先にいるのは前衛で戦うことが困難なほどHPを削られた者たちばかりである。その一撃が生死を分けるのかと思うと気持ちばかりが先走ってしまう。


「第二ライン、いったぞ!!」


「おう、任せろ!!【ファイアーブレス】っ!!」


 カジカの警告に応えるように、竜人(ドラグーン)の男が【ブレス】で迫ってきたゴブリン達を迎撃する。そして、全身を火に包まれて怯んだゴブリン達に回復役(ヒーラー)や生産職などの非戦闘員だったプレイヤーが手にした武器を持って襲い掛かった。一人一人の火力は決して大きいとは言えなかったが、数で言えばゴブリン達を優っている上に、【ファイアーブレス】を受けて弱っていたおかげもあり、危なげなくゴブリン達を倒してしまった。


「こっちは大丈夫だ。そっちはそっちの仕事に専念しろ!!」


 もし、前衛を抜けられても問題ない、という言葉に前衛で戦っているプレイヤー達の勢いが増す。後方の心配をしなくてもよくなったプレイヤー達の士気は上がる。既に数ではプレイヤー達の方が勝っている。そうなってしまえば、もうゴブリン達に勝ち目はなかった。数でも技量でも優るプレイヤー達の猛攻をゴブリン達が受け止めきれるはずもなく、なす術もなく蹂躙されていく。剣が、斧が、ナイフが、槌が、爪が、ゴブリンの体を容赦なく、貫き、切り刻んでいく。雑魚だと思っていたゴブリンにここまで追い詰められたことに対する怒りがそれを更に苛烈にする。一方的に蹂躙されたゴブリン達は瞬く間に光の粒となって消えていき、ついに全てのゴブリンが消え去ってしまった。



――――――クエスト『101匹ゴブちゃん、襲撃』が達成されました。現時点をもって、セーフゾーンAを有効化しました――――――



 クエスト終了のアナウンスが流れ、全員が安堵のため息を漏らし、その場に崩れ落ちた。



と、言うわけでクエスト、無事にクリアです。




次回は1月20日に投稿予定です。


それでは、次回もお楽しみに♪

ではでは。



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