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NDA30

予定よりかなり遅れましたが、NDA30をお届けします。



どうぞ♪




 翌日の朝まで自由行動となったものの、街道のセーフゾーンに過ぎない小さな村には店や掲示板があるわけでもなく、四人の他にプレイヤーの姿も見えない。カジカは仕留めた猪の肉をスキルのレベル上げを兼ねて調理していて、シオンも新しく手に入れた素材を使ってなにやら怪しげな薬を調合している。そして、クロエはお昼寝中である。つまり、ユーリだけが何もせずに時間を持て余していたのである。


「暇だな……」


 一人、呟いてみるが、当然のことながら誰も答えてはくれない。


「クロエみたいに昼寝でもするか……」


――――でも、眠くねぇんだよな……


 そういってその場に横になる。しかし、眠気が皆無のため、眠ることはできず、ほどなくして起き上がると小さくため息を零した。


「やっぱり、暇だ……」


――――っていうか、こんなことが今までなかったんだよな……


 振り返ってみると今までは朝から日が沈むまでずっと森でモンスターを倒してばかりの日々だった。デスゲームを宣言され、ノエルと別れてからの数日間のひきこもりを除けば、ほとんど毎日ユーリは森にいた。おかげでレベルはもちろん、プレイヤーとしての技量も向上した。生産職において、スキルメイドとハンドメイドの二種類があるように、このゲームではプレイヤー自身の技量がゲームに反映される仕組になっている。たとえば、現実世界でプロの料理人だったプレイヤーがゲームの中で料理を作れば、材料にも影響されるが概ねプロの味が出来上がる。もちろん、【料理】のスキルは必要ない。スキルの有無は出来上がった料理の効果に影響を与えるが料理そのものの出来栄えにはほとんど関係ないのだ。


「あ、そうだ……」


 こんな時にちょうどいいアイテムがあることを思いだしたユーリはアイテム欄の中から目当てのアイテムを見つけると実体化させた。


『英雄記』。


 それは始まりの街でグェンドレンから譲り受けた子供向けの英雄譚である。本の内容は勇者が世界中を旅し、その途中で出会った魔物たちを倒していく、という英雄譚としては定番の簡単なものらしく、子供向けの本らしく所々に挿絵も入っている。しかし、挿絵は子供向けの本にしてはかなり生々しいものも混じっていた。革製の表紙はなめらかで、中身の紙もおそらくは羊皮紙のように動物の皮をなめして、薄くのばした類のものだった。


「これ、あの日、少し読んだきりなんだよな」


 ユーリはこの本をまだ読み終えてはいなかった。グウェンドレンから『英雄記』をもらったその日に軽く目を通したのだが、それ以降はなんとなく読む気にならず、アイテムボックスに眠ったままになっていたのだ。


「とりあえず、最初から読むか……」


 前回、どこまで読んだのかさえ覚えていないユーリはとりあえず表紙をめくる。


「むかしむかし、この地から勇者は冒険に旅立ちました。そのため、この地を始まりの街というようになりました……」


――――ふーん、だから、始まりの街っていうんだ……


 物語は勇者の冒険と魔物討伐がメインだったが、魔物討伐の話に付随して魔物に関する話もいくつか混じっていた。それによると魔物には幾つかの系統があり、有名なものではゴブリンやリザードマン、サハギン、オーク、トレントなど動植物を含めた生物系、スケルトンやゴースト、ゾンビなどの死霊系、ゴーレムやミミックなどの無機物系などに分けられるらしい。そこから更に細かく分類されるらしいのだが、モンスター辞典ではないためそこまで詳しくは書いてなかった。また、狼や兎、熊などの動物はゲームでは魔物と同様にモンスター扱いされているが、この本の中では魔物とは区別されていた。


「ふーん、ドラゴンは魔物じゃないけど、ドラゴンゾンビは魔物なんだ」


 ユーリが読んでいたのは勇者が街を襲うドラゴンを退治し、無事に解決したとおもったところで倒したはずのドラゴンがドラゴンゾンビとなって襲ってくる場面だ。挿絵に描かれたドラゴンゾンビの姿が妙に生々しく、不気味だった。


「ここは……前に読んだ破魔の銀(ミスリル)のところだな」


 そこは以前、グウェンドレンの家で読んだ破魔の銀(ミスリル)を練成する場面だった。挿絵にはエルフとドワーフ、そしておそらくミスリルで作られたと思われる剣や鎧を身につけた勇者が描かれていた。魔物たちの攻撃をものともしないその戦いぶりはまさしく勇者と呼ばれるに相応しかったが、ユーリは文章に書かれているミスリルの性能にはやはり、違和感を覚えた。ミスリルやオリハルコンといった架空の金属もファンタジー系のゲームの定番であるが、このゲームでは未だに確認されていない。ベータ版の時も未確認であったため、そもそも実装されていないのではないか、とさえ一部の古参組の間では囁かれている。もちろん、架空の金属が存在しないということも考えられるがこうやって本に書かれている以上、存在しないということはおそらくない。


――――それとも、これが誇張しているだけか……いや……


 破魔の銀(ミスリル)という名が示すようにこの本に描かれているミスリル製の武器や防具は魔法攻撃に対して圧倒的な、下級魔法はもちろん、中級魔法さえ無効化してしまうほどの、性能を誇っていた。上級魔法でようやく、ダメージが通るというその非常識な魔法耐性はゲームバランスそのものを壊しかねない。もし、これが子供向けに誇張して書かれたものであったならば、そういうものなのだと割り切って受け入れることもできたが、ユーリの勘が正しければ、この本は子供向けに書かれた本ではない。使われている語彙は子供でも理解できるくらい平易なものだが、内容、挿絵とも子供に読み聴かせるには生々しく、グロテスクなものも含まれていた。


「もしかして、これは……プレイヤー向けの本、か?」


 確証はどこにもなかったが、もし、この本がプレイヤー向けに書かれた本であるとするならば、ユーリの疑問にも納得がいく。この類のゲームには必ず、そのゲームの中の世界観やストーリーが設定されている。しかし、この『Non Division Adventure 』にはそういった設定がほとんどなかった。いまはまだ一般に公開されていないだけで、ゲームの攻略状況に応じて公開されていく、という場合も考えられたが、それにしても情報が少なすぎた。ベータ版までで後悔された各エリアと街の名前のみが公開されているだけでそれ以上の情報はネットはもちろん、ゲームの中でさえ明らかになっていなかった。史上初のVRMMOということでストーリーではなくシステム面に重きを置いているのだろう、というのが多くのプレイヤーの意見だったが、この本の存在によってそれも変わってくる。


――――つまり、この勇者がプレイヤーってことか……


 この本に描かれている勇者をプレイヤー自身に置き換えてみるとこのゲームのストーリーは概ね決まってくる。この世界に蔓延る魔物たちを倒すことこそ、プレイヤーの目的となるのだ。そして、おそらく、全ての魔物を倒せばゲームクリアとなるのだろう。そう考えるとページのめくるユーリの指が速くなる。もし、ユーリの考えが正しければ、今まで不明だったこの世界からの脱出についても一筋の光明が見えてくる。


「……これは……ラスボス、か?」


 本の最後に描かれていた魔物は黒いローブを纏った人間だった。全身黒尽くめで、性別はもちろん、表情さえ窺うことはできない。しかし、対峙している勇者の表情は険しく、前の挿絵では光り輝いていたミスリルの鎧や剣はボロボロだった。流麗な文字で魔王と書かれた文章を見れば、その黒衣の人間が魔王であることはすぐにわかった。


「魔王……」


 ラスボスの名前を呟き、ユーリはページをめくる。しかし、そこには本来、あるはずの結末が書かれておらず、白紙のページしかなかった。


「えっ?」


 ユーリがもう一度、確かめるがやはり、続きは書かれていない。


「うーん……とりあえず、ラスボスっぽい存在はわかったけど、掲示板にはあげられないし、カジカに任すか……」


 自身の手に余る情報だと判断したユーリはカジカに任せることに決めた。これほど重大な情報が掲示板に出たならば、騒ぎにならないはずがない。いくら情報に疎いユーリであっても、カイやフランとはほぼ毎日顔を合わしているのだから耳に入ってこないはずがない。それもない、ということはこの情報はまだどこにも出回っていないか、あるいはごく一部の人間しか知らない情報である可能性が高い。そして、ユーリがこの本を入手した経路を考えると、ユーリしか知り得ない情報であるという可能性も否定できない。いずれにせよ、今、ユーリが手に入れた情報がどれほど貴重な情報なのかは、この類に疎いユーリでも理解できる。できるからこそ、ユーリはカジカに任せることに決めたのだ。


「これから、どうなるんだろうな……」


 偶然手に入れたゲーム攻略への手がかりを握りしめ、ユーリは空を見上げた。



はい、というわけで大事な情報を入手しちゃったユーリ君でした。

さてさて、これから一行は、そして、ゲームに参加しているプレイヤー達はどうなるんでしょうか?



ここまで読んでくださって、ありがとうございました。



次回の投稿予定は1月11日です。



それでは、次回もお楽しみに♪

ではでは



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