-Intermission 29.5-
あけましておめでとうございます。
今年もエル剣をよろしくお願いします。
今回は久しぶりのIntermissionです。
NDA29の裏側です。
「じゃあ……そのために《妖精女王》を利用しているってことですか?」
ローラの視線が私に突き刺さる。咎めるような、避難の混じった視線。でも、私はその言葉を否定することはできなかった。
《妖精女王》
シェイクスピアの戯曲『夏の夜の夢』に登場する妖精の女王に由来するこのギルドはベータ版の時に私が中心になって立ち上げたものだ。ベータ版ではギルドというシステム自体が未実装であったので、ギルドとは言いながらも実際は女性プレイヤー六人が集まった仲良しパーティーの一つでしかなかった。当時、男性プレイヤーの多いなかで女六人だけのパーティーというのは珍しく、エリア攻略もかなり積極的に取り組んだおかげで気が付けば私たちはいつの間にかそこそこ名の知られたパーティーになっていた。そして、それは正規サービスが始まり、デスゲームに巻き込まれてからも同じだった。デスゲームに巻き込まれてからこうして生き残ってこれたのは全員の力があってこそだ。いくらベータ版からの古参組とはいえ、装備もスキルもゼロからの状態では新規組と能力的には大差ない。もし、一人でゲームを進めていれば、絶対にここまでくることはできなかった。
「平原の攻略を急いだのも……」
私はその言葉を遮るように、にこりと微笑んだ。
――――ごめんね、ローラ……
「利用だなんて人聞きの悪い……」
ローラの言葉は事実だった。私は《妖精女王》を利用した。だけど、それを認めることはできなかった。認めてしまえば、間違いなく私とローラからの、ギルドのみんなからの信頼を失ってしまう。下手をすれば《妖精女王》というギルドそのものがなくなってしまう可能性もある。実の弟であるユーリをゲームから無事、脱出させる方法を探す為にどうしても攻略の最前線にいる必要があった。そのために《妖精女王》を失うわけにはいかなかった。
「え、でも、弟さんを助けるために攻略を急いだんじゃ……」
「ユーリを助ける為……半分は正解よ」
一瞬、ローラの顔が歪んだ。もし、ここでローラの言葉を否定してしまえば、間違いなく怪しまれる。状況から考えれば、私が弟の為に無理をしてエスト平原の攻略を進めたことは否定できない。否定できないからこそ、私はそれを受け入れた。正確には、それも、受け入れた。
「でも、私が助けたいのは弟だけじゃない……ギルドのみんなはもちろん、フランもテツさんも……私に助けられる人はみんな助けたい……」
その言葉に嘘はなかった。弟を助けたい。その気持ちは間違いなく本物で、その為には私はなんでもするつもりだった。でも、そのためにギルドの仲間たちを犠牲にする気もなかった。エスト平原の攻略もこのギルドならできる、と信じていたからこそ、無茶を押し通したのだ。弟を見捨てて、傷つけて、姉として最低なことをした自覚はある。でも、だからこそ、私は覚悟を決めることができた。《妖精女王》のギルドマスターとして、みんなを背負う覚悟を。
「参加しているプレイヤー全員を助けられるなんて思ってないけど、でも、私の手が届く人はみんな助ける……絶対にね。だから、貴女も力を貸して……」
みんな助ける。
それはとても残酷な言葉だった。
私の言った、みんな、とはゲームに参加している全てのプレイヤーを意味した言葉じゃない。あくまでも、私にとっての、みんな、だ。そして、それはきっとゲームに参加しているプレイヤーの数で考えるとほんのひと握りだ。みんな助ける、という私の言葉はそれ以外のプレイヤーを見捨てる、と宣言したも同然だった。でも、不思議と私の心は穏やかだった。私は見ず知らずの人間の不幸を喜ぶほど堕ちたつもりはないけど、見ず知らずの全ての人間を助けようと思うほど善人でもない。そもそも、そんなことができるだけの能力もない。私はどんなに背伸びをしたって、全知全能の神様にはなれない。たとえ、この世界ではトッププレイヤーの一人でも、現実の私はただのしがないOLなのだ。
「お願い、アウローラ」
自信に満ちた表情とは裏腹にその言葉は懇願だった。背負うと覚悟は決めても、不安は消えない。だれかの支えを私は無意識の内に求めていた。
「はい」
頷いてくれたローラの言葉に私は独り、縋っていた。
ということで、投稿始めです。
ぎりぎり元日に間に合いました。よかった……
凛々しい表情のその裏で、ノエルも色々と考えてるですよ。
ここまで読んでくださってありがとうござます。
次回の投稿予定は1月5日です。
今年のエル剣もお楽しみに♪
ではでは。




