NDA28
更新、遅れてすみません。
街道編、苦戦中……です
始まりの街から南に伸びるノービルド街道はニコスと始まりの街を繋ぐ唯一の道だった。現実ではあり得ないことだが、このゲームの中ではこの街道を抜けないとニコスに行くことはできない。しかし、子鬼の蔓延る街道は危険であり、冒険者や一部の行商人以外はほとんど通る者はいなかった。
「いた……ゴブリンです」
野生の勘とでもいうべきか、パーティーの中で真っ先に気付いたのはクロエだった。街道の両脇の茂みの中に何かがいることを察知したクロエはすぐにそれをユーリ達に伝える。
「数は……4匹。剣が二匹。弓と槍がそれぞれ一匹ずつ」
現れた子鬼は全部で4体だった。赤黒い肌に子供ほどの背丈。醜悪で、歪んだ顔と尖った耳。子鬼と呼ぶに相応しい外見にユーリは剣を持つ手に力を込めた。見た目は子供ほどの大きさでしかないが、手に持った武器は鋭く、力も子供のそれとは比較にならないくらいに強い。いくら適正レベルに達しているとはいえ、油断すればユーリの身が危ない。
「クロエは弓のゴブリンを優先しろ。シオンは後方から魔法で、ユーリは右の剣を持った奴を頼む」
カジカはすぐに指示を出し、ナイフを片手にゴブリン達と肉薄する。ユーリ達のレベルを考えると一対一であればゴブリンに負ける要素はほとんどない。しかし、四対四ではそうはいかない。数は互角であるため、一見すると一対一と同じように見えるが、そう単純なものではない。四対四、というこの状況は戦い方次第では一対一×4になることもあれば一対四になることもある。掲示板の情報によるとこのエリアに出現するゴブリンはそれぞれの武器の特性を生かし、ゴブリン同士で連携して戦うことがあるようだった。一対一では負けないプレイヤーでも、一対二、一対三、と追いつめられてしまえば容易く勝つことはできなくなってしまう。それで実際に死にかけたプレイヤーも出ている為、ゴブリンといえども油断できる相手ではなかった。
「ウインドカッター!!」
あらゆる攻撃の中で最も射程の長い魔法でユーリはゴブリンを狙う。魔法を使うゴブリンがいたならば対応することもできただろうが、武器しか持たないゴブリン達はなす術はない。攻略組に比肩するINTを持ったユーリの魔法は凄まじく、たった一撃でゴブリンのHPバーを半分以上削り取る。続けて放たれたクロエとシオンの魔法もそれぞれ命中にゴブリンにダメージを与える。そして、混乱するゴブリン達の中でユーリとカジカが飛び込んでそれぞれの武器を振るった。始まりの街で手に入る武器としてはかなり上位になる武器のおかげで、ゴブリン達のHPは瞬く間に減っていく。
「アイスショットっ!!」
「ファイアボールっ!!」
ユーリとカジカを援護するように魔法がゴブリン達を貫く。もともとHPが減っていたおかげが、魔法の直撃を受けた二体のゴブリンはそのまま消滅してしまった。四対二になったユーリ達は攻撃の手を緩めることなく、残っていたゴブリン達を一気に攻めたてる。
「はぁあっ!!」
ユーリは上段の構えから縦一文字で刃を振りおろし、ゴブリンを斬りつける。斬られたゴブリンはそのまま消滅する。カジカもゴブリンにとどめを刺し、四体のゴブリンを倒した一行は警戒を緩めることなく、辺りを見渡した。街道はもちろん、両脇の茂みにもモンスターがいる気配はなく、安全を確認したユーリ達はすぐにドロップアイテムを回収する。
「手に入ったのは【子鬼の骨】が三つか……シオン、これは何の素材になるんだ?」
ゴブリンは持っている武器によって幾つかの種類に分けられる。まず、ナイフを振り回しているゴブリンが一般的なゴブリンであり、名前もそのままゴブリンである。弓を持っているゴブリンはゴブリンアーチャーと呼ばれ、主に遠距離攻撃を担当している。鎧に身を包み、槍を持ったゴブリンはゴブリンアーマーと言い、このエリアに出現するゴブリンの中では最も防御力が高い。そして、今回は出現しなかったが魔法を使うゴブリンメイジと呼ばれるゴブリンがこのエリアに出現するゴブリンである。ドロップアイテムはどのゴブリンも共通して【子鬼の骨】なのだが、レアドロップはそれぞれの使っている武器や防具が手に入る。なお、武器や防具の性能はレアドロップの割にはそれほど強くないため、手に入れたプレイヤーの多くは素材として使うことが多い。
「……パワードリンク……でも、素材が足りないから今は無理……」
「パワードリンク?」
「一定時間、STRを少しだけ上げる……」
STRを上昇させる、というシオンの言葉を聞いてユーリが食いつく。魔法攻撃に関しては攻略組に匹敵するほどの威力を持つユーリだが、武器攻撃に関してはようやく一般プレイヤーの足元に並んだ、というほど弱い。原因はもちろん、ユーリのSTRの低さである。今のところ、武器のおかげで一般プレイヤー以上の火力を得られているが、武器の助けがなければまちがいなく、苦戦を強いられていたはずである。その原因を、一時的とはいえ、解消できるアイテムが手に入るかもしれない、というのだから気にならないはずがなかった。そんなユーリの期待の視線を感じたシオンは申し訳なさそうに首を横に振る。
「たぶん、一回戦うと効果がなくなっちゃう……」
アイテムとしてのレベルが低いのか、あるいはシオンの【調合】のレベルが低いのかパワードリンクの効果は本当に一時的なもので、その効果時間は一回の戦闘中が限界である。しかも、一度使用すると一定時間が経過するまで使用不可能であるため、ユーリの期待に応えられるかというと疑問が残る。
「そうか……」
一時的だけでもSTRが上昇するのは魅力的だが、それでは根本的な解決にはならない。ユーリの声にも残念な気持ちがにじみでていたが、すぐにそれを振り払う。
「まぁ、仕方ないよな。そう簡単に手に入ったら苦労しないか」
余談であるがSTRが低い、とはいえユーリの総合的な戦闘能力は決して低くはない。むしろ、INTの高さを生かした魔法攻撃はパーティーの最大火力であったりする。後衛として戦うのであれば今すぐにでも攻略組に加入できるくらいの火力を持っているのだが、ユーリにその自覚はない。既に前衛で戦うことを心に決めているユーリにとって魔法はあくまでの予備に過ぎず、自身の火力がどれほどのものなのか比較する対象もなかったため、そうなってしまったのだ。
「とりあえず、ゴブリン四体ならなんとかなるようだな」
「ですね」
カジカの言葉にクロエが頷く。適正レベルに達しているとはいえ、不安要素が全くないわけではなく、出会って間もない四人でのコンビネーションについてはその不安要素の一つだった。ゴブリン達の連携攻撃に関しては既に掲示板の方で挙がっているため、四人とも警戒をしていた。今回は四体だったが、掲示板の情報が正しければ最大でパーティーの二倍である八体が出現する可能性もある。数では劣る上に、ゴブリン同士の連携が加わるとかなり厄介である。
「さて、回収も終わったみたいだし、そろそろ行くか」
カジカの言葉に三人は頷き、街道を進んでいった。
思っていたより街道編が進みませんね……今年中に後一回更新したいですが、できるかな?
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
次回の投稿予定は12月31日です……ちょっと厳しいかもしれませんが。
それでは、次回もお楽しみに♪
ではでは




