表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/65

NDA27

遅れてしまい、申し訳ありません。

出発前夜です。


どうぞ、お楽しみください





「それじゃ、明日の出発に向けて決起集会ということで乾杯っ!!」


 カジカの音頭で四人はグラスを合わせる。始まりの街の中には幾つも飲食店はあるがその中でもこのお店は食材の持ち込みと調理の可能な店であった。NPCの店主曰く、自分の狩ったモンスターを食べてこそ冒険者、が店のコンセプトらしく、プレイヤーとおぼしき人間がユーリ達の他にもちらほら見受けられた。テーブルの上にはカジカお手製の料理が並べられ、ユーリ達の食欲を刺激する。


「乾杯」


「かんぱいっ!!」


「……乾杯」


 三人はそれぞれグラスを口に運び、そして、揃って顔をしかめた。口の中に広がる優しい甘みと微かな苦み。鼻孔をくすぐる濃厚な果実臭。現実世界では未成年であるユーリにもそれがなんだかすぐにわかった。


「「これお酒(です)!?」」


 口の中に広がるほのかな酸味。鼻孔をくすぐるのは甘い果実臭。まるで葡萄ジュースのように甘く、飲みやすかったがヒリヒリと喉を焼くような刺激は間違いなく、アルコールによるものだった。


「あぁ、飲みなれてねぇだろうから甘口の飲みやすいワインを選んだんだが、どうだ?」


「美味しい……」


 シオンは満足そうに微笑み、グラスに注がれたワインを見つめていた。


「飲みやすいって……それはそうだけど、俺は未成年だぞ……」


「私もです」


 未成年であるユーリとクロエは抗議の声を上げるが、カジカは笑って取り合おうとしない。ちなみに、このゲームの中では酒や煙草といった嗜好品も忠実に再現されており、なおかつ、未成年でも楽しむことができる仕様になっている。公式ページによると、あくまでも仮想現実であるため、現実の肉体に影響はなく、ゲーム内においても中毒症状のようなものは起きないようになっているから問題はない、ということらしい。特に、お酒の場合、年齢や性別に関係なく、どんなに飲んでも泥酔することはなく、軽い高揚感を味わえる程度にしか酔えない設定である為、女性プレイヤーを泥酔させて、ということはできないようになっていた。


「飲んでも問題ないからって……」


「そうです」


 飲んでも構わないシステムになっているとはいえ、不意打ちで飲まされるのはやはり、面白くない。酔わないようになっているとはいえ、アルコールを飲みなれていない二人にとって、ほろ酔い気分になることさえ、不安になるのだからなおさらである。


「うーん……そうか……」


 カジカはそう言うと立ち上がり、厨房に入るとほどなくして、ジュースの入ったグラスを持ってきた。


「口直しのミックスジュースだ。心配しなくてもアルコールは入ってない」


 そう言って渡されたジュースはオレンジをベースに、幾つかの果汁を混ぜ合わせたものらしく、甘酸っぱい匂いが鼻孔を刺激する。


「……うまい」


「おいしいです……」


 恐る恐る口に運んだ二人はその味に軽い驚きさえ覚えた。カジカの料理の腕は既に知っていたが、それを加味してもミックスジュースの味は極上のものだった。


「これってスキルで作ったのか?それとも、手作り(ハンドメイド)?」


「もちろん、手作りだ。その方がスキルレベルも上がりやすいみてぇだし、元々そのつもりでこのスキルにしたからな。さて、それじゃ、明日からの予定について話し合うとするか」


 ユーリ達の機嫌が直ったところでカジカが切り出す。


「目的地は城下町ニコスで、この街からの距離は不眠不休で歩き続けて丸一日はかかるって言われている。もちろん、実際にそこまで歩けるわけねぇから、現実的な時間で考えると最短でも二日はかかることになる。街道の適正レベルは4から7って言われてるから、俺とユーリは越えてるし、クロエとシオンもちょうどそれくらいのレベルだからクリアを目指すのはまず問題ないだろう」


 現時点での四人のレベルはカジカとユーリがそれぞれ12で、クロエが7、シオンが5であり、レベルだけを比べるならシオンを除く三人は最前線で戦っている攻略組にも劣らないレベルである。


「道中、何か所か村があってそこが安全地帯の役割を果たしているそうだ。運が良ければ行商人のNPCに会えるらしいから、アイテムの補充もできる。まぁ、値段は結構するらしいが、俺たちには必要はねぇだろうな」


 そう言ってカジカはシオンを見た。シオンの【調合】により、大量のポーションは既に確保済みであり、カジカの見積もりでは街道を攻略するには十分な量に達している。MPポーションを手に入れられなかったのは残念といえば残念なのだが、素材が手に入らないのだから仕方がない。


「ナイフ、使える……だから、大丈夫」


 MPポーションを確保できなかったことを気にしているのか、緊張した面持ちでシオンは頷く。ホビットであるシオンはSTRは並だが、AGIが高い為、その俊敏性を生かした攻撃に向いている。ドワーフや竜人(ドラグーン)に比べると戦闘に向いている種族とは言い難いが、戦えないわけではない。シオンの場合、あくまでも魔法が攻撃の主であるが、魔法が使えないからといって、戦えないわけでもない。


「無理するなよ。回復役(ヒーラー)のいないこのパーティーじゃ、シオンの作るポーションが大事な回復源なんだからな」


 結局、回復役(ヒーラー)を見つけることはできなかったが、代わりの回復手段はある程度、確保することができた。一つはシオンの【調合】によるポーション系の自主生産。もう一つはカジカの【料理】による回復である。回復量はポーションには及ばないが、料理や素材によってはHP以外にも、MPや状態異常の回復可能であり、スキルレベルが上がればステータス上昇などの効果を得ることもできる。その恩恵は微々たるものであるが、その効果は無視できない。


「そもそも、俺もカジカも今までほとんど武器で戦ってきたからな……クロエに関しては素手同然だし」


 カジカの武器はナイフであり、ユーリとクロエはそれぞれ剣と爪の武器スキルを持っている。元々、魔法を使わずに戦ってきた為、MPポーションが手に入らなかったことはそれほど問題ではなかった。


「まぁ、そこは俺も心配してない。と、少し話が逸れたから元に戻すぞ?ニコスまで最短で二日かかるということだが、俺たちは誰かと競い合ってるわけでもねぇから、もう少しゆっくり進む。具体的に言うと一日の行程は村と村の間だ。まぁ、いまのところ、全行程は4日から5日を見積もってる。無理して、危ない目に遭いたくないし、遭わせたくもないからな」


 ユーリを、そして、クロエとシオンを見ながらカジカは言った。その言葉に三人も同意するように頷いた。


「確かに、それがいいですね。適正レベルに達しているとはいえ、数で囲まれると厄介です……どうやら、街道にはゴブリンの群れも出るそうですし」


 掲示板の情報によると街道にはゴブリンがパーティーを組んで出現するらしく、現在、確認されている最大出現数は十二体で、プレイヤー達の2倍の数が出現するのではないか、という予測が攻略組によってなされている。ゴブリン単体の強さは適正レベルに達していれば問題なく対処できるレベルであるが、パーティーを組んで戦うとなるとそれなりに厄介な相手らしく、苦戦したと掲示板に書き込んでいるプレイヤーも多い。


「……子鬼の骨、材料になる……」


 シオンはどこかうっとりとした表情を浮かべている。


「他にも猪とか鷹とか獣系のモンスターがでるらしい……とりあえず、猪の肉には興味があるな」


 カジカもまだ見ぬモンスターを思い浮かべては嬉しそうな顔をしている。元々、自分で狩ったモンスターを料理する、というのがカジカの目指していたプレイスタイルであるので食材となるモンスターは興味があるのだろう。


「それはいいとして、ボスは大丈夫なのか?パーティーが4人って流石に少ないだろ?」


「他のパーティーは回復役(ヒーラー)込みの人数だから4人とはいえそこまで少ないわけじゃないし、俺とユーリのレベルなら火力も期待できるだろ?不安がないといえば嘘になるが、しっかりと対策を考えてから挑めば問題ないだろ……」


 街道のボスであるはぐれ幼竜(ベビードラゴン)に関しては既に攻略組の方である程度の対策が立てられているため、適正レベルに達していて、それに見合う装備であれば倒せないことはない。


「攻撃はブレスと爪と尻尾、はばたきの四種類で、特に注意するべきなのはブレスだな。四つの中で一番威力があって、しかも魔法攻撃扱いだからINTの低い奴が受けるとかなり危ないらしい」


 前衛向きの種族は基本的にSTRが高く、INTが低いか、あるいは平均的な値かのどちらかの場合が多い。つまり、装備やスキルで補わない限り、魔法による攻撃に対してはかなり弱い。装備やスキルが整い切らない現状ではたとえ攻略組といえどもその束縛から逃れることはできず、苦戦を強いられることになったのだ。


「俺の場合、ブレスより爪や尻尾の方が怖いな……」


 エルフであるユーリのINTは高く、単純に数値だけを比べても攻略組に匹敵する。それに加えてフランが作った騎士服を装備している為、魔法攻撃に対しては最前線でも通用するレベルの耐性を持っている。ちなみに、フランの仕立てた服を防具として見た場合、その性能は最前線で通用するレベルである。元々のSTRが低いため、物理攻撃には弱いが、それでも格下のモンスター相手に苦戦することはない防御力を得ることができた。


「そう言えるのはお姉さまくらいです」


 クロエの言葉にカジカは同意するように頷いた。ユーリの防御特性のことは知っているのでその言葉に間違いがないことは理解しているのだが、素直に認めることは流石に躊躇われた。


「けど、それを言ったら二人だって同じだろ?」


 カジカのSTRとINTは平均的な値であり、四人の中では一番バランスが取れている。フランの仕立てた服の性能も相まって、単純な防御力だけなら四人の中で最も高い。魔法が一切使えないことを除けば、四人の中で一番強い。クロエは防御の面で言うならユーリとカジカの間で、AGIの高さを生かしたスピード型の戦闘職である。一発の威力は低いが、連続して攻撃できるため、手数は四人の中で最も多い。どちらも格下のモンスター相手には苦戦しない程度の実力は持っている。


「まぁ、シオンも適正レベルに達しているから正直なところ、そんなに苦労はしないと思う」


 三人に比べると見劣りしてしまうシオンであるが、プレイヤー全体を見渡してみると決して低いレベルというわけではない。街道の適正レベルに達している為、一対一であればゴブリンとも互角に戦える戦闘能力はある。同レベル帯のプレイヤー同士で組んでいたならば危険だったが、他の三人は皆、シオンよりもレベルは高い。そして、このパーティーにおけるシオンの役目は魔法を駆使した後方支援であり、接近戦の能力は求められていない。


「……なんとか、なる?」


「なるだろ、きっと……」


 街道に対する不安はもちろん、ある。しかし、ユーリ達の能力を考えると決して不可能なことに挑もうとしているわけではない。しかも、既に何人ものプレイヤーが越えていったのである。ユーリ達にできないはずがなかった。体の奥底から込み上げてくる高揚感に身を任せながら、四人の宴会は続き、そして、出発の朝を迎えた。



三十話以上書き続けてようやく出発……

うん、なんだろうね、この不思議な気持ちは。


と、いうわけでようやくユーリの冒険が始まりました。

次回はいよいと街道に、と行きたいところですが、その前にキャラ紹介を挟みます。



ここまで読んでくださり、ありがとうございました。



次回の投稿予定は12月22日です。


それでは、次回もお楽しみに♪

ではでは。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ