NDA26
今回は別れた後の4人の動きをそれぞれ書いてみました。
どうぞ、お楽しみください
その後、テンションが低いままのマチルダ達にユーリが知る限りの情報を提供し、相応の代金を受け取ってユーリは酒場を後にした。ユーリが酒場を出るころには二人ともある程度立ち直っていたのだが、明らかに酒場に入る前とユーリに対する態度が違っていたため、罪悪感に似た感情を覚えたユーリだったが己の行いは非はないと言い聞かせ、それ以上は気にしないように決めた。特に予定もなかったユーリはそのままフランの店に向かった。
「ただいま、フラン」
ゲームを始めてからずっとフランの好意に甘えて宿代わりにさせてもらっていたが、それも今日が最後かと思うと寂しいものが込み上げてきた。
「あ、おかえり、ユー君」
帰ってきたユーリをフランが笑顔で迎える。しかし、その横にはお客とおぼしき女性が立っていた。磨き上げられた赤銅色の髪と先の尖ったエルフ耳が印象的な少女もフランに釣られてユーリを見る。必然、ユーリと目が合って、どちらからとなく会釈をする。外見だけを見るとユーリと同じ年代に見えるのだが、この世界では外見で年齢を判断することは不可能であり、リアルの知り合いでもない限り、そういった情報を詮索しないことは暗黙の了解だった。
「じゃあ、私はそろそろ行くね」
笑顔でユーリに会釈とするとエルフの少女はそのままフランに向けて手を振った。
「え、でも、ローラちゃん……」
フランは戸惑った顔を浮かべるがローラと呼ばれた少女は首を横に振る。
「わかった……えーと、リーダーさんによろしくね」
「はい、伝えておきます」
そう言って店を出て行ったローラをフランは見送るとユーリを見てにっこりと微笑んだ。
「改めて、おかえりなさい、ユー君」
「ただいま……今の人、お客さんみたいだったけど、よかったの?」
「えーと、うん、一応は……でも、もう用は済んでおしゃべりしてただけだから」
そう言って微笑むフランの顔は何か隠しているようにも見えた。しかし、ユーリにはそれを詮索するつもりはなかった。今までフランにずっと助けられてばかりいたのだ。そのフランを疑うようなことはしたくなかった。
「まぁ、いいや……それより、フラン……今まで色々を面倒見てくれて、本当にありがとう」
「どうしたの?いきなり……」
お礼を言って深々と頭を下げるユーリを見てフランは驚いた顔を浮かべる。
「俺が今まで生きてこれたのはフランのおかげだから……明日にはもう出発するから最後にお礼が言いたくて……」
少しだけ顔を上げたユーリの頬は薄く染まっていた。フランへの感謝の気持ちに嘘偽りはないが、面を向かって口にするとやはり恥ずかしさがこみ上げてくる。そんなユーリの頭にフランがポンっと手をのせた。その手は優しく、柔らかい。しかし、微笑むフランの顔はどこか寂しそうだった。
「ありがとう、ユー君。でもね、ユー君が一番感謝しなくちゃいけないのは私じゃなくて、ノエルちゃんだからね」
「……どうして、ここでノエルが出てくるんですか?」
ユーリの声が硬くなる。視線さえも硬くなってフランを見つめる。しかし、フランは何も言わずに首を横に振った。
「それは、言えない。ノエルちゃんとの約束だから……でも、これだけは忘れないでね。私とユー君が出逢えたのも、ノエルちゃんがいたからなんだよ」
フランはそれだけ言うと何事もなかったかのように仕事に戻ってしまった。残されたユーリは悔しそうに唇を噛みしめた。エルフであるユーリが今まで前衛で戦ってこれたのはフランの作ってくれた高性能な防具があったこそである。それはユーリ自身も実感していて、だからこそ、明日出発するというこの時にお礼を言ったのだ。しかし、返ってきたのユーリの予想を裏切るものだった。不愉快とまではいかないものの釈然としないものがユーリの胸の奥から込み上げてくる。
――――確かに、フランに会えたのはノエルのおかげだし……でも……
ノエルとフランがベータ版の頃の知り合いであったから、ユーリは分不相応な高性能の防具を手に入れることができた。その事実は紛れもない事実である。しかし、見捨てた相手に感謝の念を抱けるほどユーリの心は成熟しているわけではない。頭ではフランの言葉を理解しつつも、心がそれを受け入れられずにいた。
「そうだ、もし、手が空いてるならお店を手伝ってもらえるかしら?」
フランに言われてユーリは一瞬、躊躇いながらも頷いた。元々、フランのお店を手伝うつもりでいた。人前でメイド服を着るのは億劫だったがユーリがフランに対してできることは店の手伝いしかなく、お礼の為ならそれも仕方ないと思っていた。ノエルの話が出てこなければ、迷うことなく頷いていた。
「わかった……着替えてくるからちょっと待ってて」
そう言うとユーリはすぐに装備をメイド服に変更して、フランの元へ向かった。
*
掲示板に情報を上げたクロエはその足でスキルショップに向かっていた。
「流石に【鑑定】だと不安なんですよね……」
正規サービス開始とともに追加された新種族の一つ、猫人は身軽で、魔力が高く、前衛も後衛もこなせるバランスのいい種族である。しかし、一撃、一撃の威力が低く、【爪術】と【猫の目】という固有スキルは外すことができない為、使い勝手がいい種族とは言い難い。種族としての特性を生かすのであれば、スピード重視の軽戦士系か魔導師系が向いていて、クロエの戦闘スタイルは前者である。現在のパーティー編成を考えると今のままでも問題はないが火力不足は否めない。
「やっぱり魔法にしますかね……」
【爪術】を固有スキルとして持っている為、新たな武器系スキルの入手や武器の買い替えによる強化は不可能である。ちなみに、武器を装備せずに敵を倒しても猫人の場合、【爪術】を使用したと判断されるため、STR を二倍にするスキル【素手】を習得することはできない。
「でも、INTが高いわけじゃないから火力もあまり期待できないんですよね……」
猫人は魔力は高いがINTはニューマンよりやや高い程度であり、エルフには及ばない。つまり、一発の火力よりも回数を重視しているタイプになる。その為、魔法による火力強化もそれほど期待できない。それを考慮すると魔法よりも今の戦闘スタイルをより強化したほうがいい気もする。
「あ、でも、【魔法剣】というスキルを目指してもいいかもしれませんね……」
先日のユーリの言葉を思い出し、クロエは更に考え込む。【魔法剣】を習得するためには武器系スキルと魔法系スキルをそれぞれ習得し、一定レベルまで鍛えなければならない。当然のことながらそれぞれのスキルのみを鍛える場合に比べて、時間がかかる。そして、その労力に見合うほど強力なスキルかと言われるとそれほど強力なスキルでもない為、習得を目指しているプレイヤーはそれほどいないと言われている。ちなみに、【剣術】以外の武器系スキルを持っていたとしてもスキル名は【魔法剣】になる。
「後で【魔法剣】にすることを視野に入れて魔法系スキルを鍛えましょうか……」
【魔法剣】は習得に労力はかかるがスキルそのものは決して役に立たないスキルではない。将来性という意味では期待値は高く、今からその準備を進めておけば、いずれ役に立つ。そう考えたクロエは魔法系スキルを売っている店を目指して行く先を変える。ほどなくして魔法系スキルを売る店までたどり着いたクロエは再び、頭を悩ませた。
「さて……どれを買いましょう?」
売られている魔法は全部で八属性だが、パーティー内で既にユーリとシオンがそれぞれ風と火の魔法を習得しているのでクロエが選ぶとそれの二属性を除いた六種類の中から選んだ方がいい。しかし、それを選ぶべきなのか考え始めるとなかなか決まらなかった。威力を重視するならば火と雷の二属性が向いているが、風と氷の二属性が連続して攻撃することには向いている。そして、攻撃範囲のみに限れば水と土の二属性が優れている。
「私の外見だとイメージは闇なんですけどね……」
クロエの好きな色は黒であり、それはキャラメイクの際にも反映されている。クロエが黒猫少女になったのはまさしく、これが理由である。そして、そのイメージに一番合っている属性は闇である。しかし、闇属性の魔法というのはクロエの中でイメージが悪く、あまり使いたいとは思わない。
「迷いますね……」
スキルと睨めっこしている様子は見ていてどこか可愛くさえあるのだが、クロエ本人はかなり本気で悩んでいる。将来、【魔法剣】として使うことを考えると待機時間の短い風属性か氷属性が使い勝手がいい。そして、ユーリが風属性持っていることを考えると残るのは氷属性である。闇属性か氷属性か、と悩みクロエはしばらく考え込む。
「氷属性にします……」
そう言ってクロエは【初級魔法(氷)】を購入した。
・*・
材料を持ったシオンは工房を訪れていた。工房は生産系のスキルを持った人間の為の施設であり、お金を払えばハンドメイドでアイテムを作成に必要な道具を貸してくれる。わざわざ道具を借りずともスキルメイドで作成は可能であり、作成にかかる時間も大幅に短縮できるため、この施設を利用する人間はほとんどおらず、シオンが受付のNPCに話しかけるとするに待ち時間なしで利用することができた。必要な道具一式と個室を借りたクロエは調合の準備を整える。
「えーと、ヒイロアカバナとムラサキトキダケ、それとユキシロソウ……」
素材と道具を作業机の上に並べたシオンの顔は珍しく笑顔だった。グウェンドレンから譲り受けたレシピ本を見ながら、乳鉢にヒイロアカバナの花をちぎって入れてすり潰していく。その手付きは初めてとは思えないくらい手際がいい。すり潰したヒイロアカバナを沸騰したお湯に入れて成分を抽出する。同じようにしてムラサキトキダケとユキシロソウの成分をそれぞれ抽出して、三種類の液体を作り出す。そして、それぞれの液体を同じ分量ずつ慎重に量って、混ぜ合わせると甘酸っぱい香りの液体が出来上がった。これが初級ポーションである。
「できた……」
ようやく出来上がったポーションにシオンは満面の笑みを浮かべた。本来、HPの10パーセントを回復する初級ポーションであるが、ハンドメイドで作ったおかげで回復量が15パーセントに増加していた。基本的にハンドメイドでアイテムを製作した場合、その効果はスキルメイドで作ったものやNPCが売っているものより優れているものであることが多い。その代わり、スキルメイドに比べて製作に時間がかかるうえに失敗することもある。それぞれ一長一短があるためどちらが優れているとは言えないのだが、スキルメイドよりハンドメイドのほうが重宝される傾向が強かった。
「他にも作っちゃおう……」
シオンはそう言うと残っていた素材を使い、次々に調合で回復系アイテムを生産していく。結局、二日かけて集めた調合用の素材をすべて使い切り、初級ポーションを57個、毒消しを14個、麻痺消しを12個作ったシオンは全ての作業を終えると大きなため息を零した。ハンドメイドによるアイテム作成は時間もかかるが、それ以上に集中力を消費し、精神的な疲労が大きい。夢中になってほとんど休みをいれずに調合を続けたシオンだったが、はっきりいって無茶のし過ぎである。しかし、慣れない作業を長時間続けて疲れ切っているはずのシオンの顔は清々しいくらいの笑顔だった。
・*・
「さて、これだけあれば一週間は十分持つだろ」
掲示板の情報から察するに街道の攻略にかかる日数は最短で二日である。街道の途中に数か所村がカジカの見積もりでは遅くても四日あれば攻略できると考えているが、もしものことを考えると幾分、予備を持って行くことに越したことはない。もう少し買おうかとも思ったが、万が一、足りなくなったならば現地調達でも構わない、と考えて、諦めた。食材の調達を終えたカジカはその足である場所に向かっていた。
「……X0488、Y0933……ここか……」
そこはゲーム初日にノエルから教えられた隠しショップがあると言われている座標の場所だった。通りに面したその場所は一見するとただの民家にしか見えないが、NPCの家だからといって馬鹿に出来ないことはグウェンドレンとの一件でカジカも学習済みである。そして、カジカが扉をノックするとわずかに扉が相手中から低い男の声がした。
「誰だい?」
カジカを警戒する鋭い視線。男の態度にカジカは確信する。ここで、間違いない、と。
「ここでスキルを売ってると聞いたんだが?」
「スキル?そんなもん、ここにはねぇよ。欲しけりゃ、東門に行きな。あそこにゃ、初心者向けの手頃な奴が揃ってる」
男は無愛想な男の態度でカジカを追い返そうとするが、カジカもそう簡単には引き下がらない。男の顔を睨みつけ、そして、ほどなくして男が折れた。入れ、と言わんばかりに扉を開けてカジカを招き入れる。建物の中を見渡す限り、間取りや家具の位置は一般家庭と大差はない。余談であるがNPCの家に関してはゲームの特徴なのか建物の形と間取りが一致していない。つまり、小物の違いはあるものの、この家もグウェンドレンの家も同じ間取りなのである。
「で、わざわざうちに何の用だ?」
「珍しいスキルがあると聞いてちょっと見に来たんだ……」
今回はあくまでも様子見であり、売っているスキルを購入するつもりはない。そもそも、今のカジカの所持金では、仮にユーリ達の所持金をかき集めたとしても、ここのスキルの価格には及ばないだろう、というのがカジカの見立てだった。隠しショップというものはどんなゲームであれ、わざわざそのお店を見つけ出すだけの価値を持つアイテムを揃えている。攻略組の中でも筆頭のノエルが使っているスキルともなるとその効果はかなり高いことが予想される。そして、そんな効果を持ったスキルをゲームを初めてまもないカジカが買えるとは思えなかった。
「なんだい、冷やかしなら帰ってくれ……」
カジカの雰囲気から買いに来たわけではない、ということを感じ取ったのか男の口調が冷たくなる。
「見せてもらうだけ、というわけにはいかないかい?」
「まぁ、盗めるもんんじゃねぇから構わねぇけど冷やかしの客にこっちも時間を割きたくねぇからちょっとだけだぞ?」
男はそう言ってスキルを見せてくれた。案の定、スキルにつけられた値段はカジカの支払い能力を超えたものであり、現時点で購入できるものではなかったがその効果はどれも凄まじく、値段に見合う価値はあった。売られているスキルの中にはノエルの使っていた【乾坤一擲】もあった。
「……MP全消費によって、1段階上の魔法を発動可能。成功率は現在のMP / 最大MP × 100か……なるほど、たしかに乾坤一擲だな……」
現在、確認されている魔法の等級は下級、中級、上級の三種類であり、現状では未確認であるが上級の上の等級を正規サービス開始に合わせて実装した、という公式発表もある。等級が三つしかないが、下級と中級、中級と上級の間にはそれぞれ圧倒的な差があり、威力や効果範囲も桁違いである。現状で中級魔法を習得したプレイヤーがいない為、中級魔法が使えるということは大きなアドバンテージである。ゲーム初日にカジカが遭遇した数十匹の狼を一掃できたのも、ノエルが中級魔法を使えたおかげであると言っても過言ではない。そして、スキル以外にも気になるものがそこにはあった。
「スキルポケット……マジかよ……」
スキルに紛れて売り物一覧に載っていたのはスキルポケットだった。ベータ版からの古参組やユーリのような一部のプレイヤーを除き、プレイヤーの持つ初期スキルポケット数は3個である。スキルポケットを増やす方法についてはベータ版プレイヤーのみが現在、唯一の情報源であり、ボスやクエストを攻略した際のボーナスとしか知られていない。もちろん、隠しショップで売られているなどとはカジカも予想していなかった。
「スキルに比べると安いけど、でも、手は出せないな……」
売られているスキルに比べるとスキルポケットの値段は若干安かったが、それでも今のカジカに手が出せる値段ではない。
「けど、これはありがてぇ……」
ボーナスでスキルポケットが手に入るとはいえ、その条件はベータ版のプレイヤーも解明しきれておらず、確実に手に入れられる方法は見つかっていない。そのスキルポケットを確実に手に入れる方法がわかっただけでもここに来た価値はあった。そして、それと同時にノエルのことが頭をよぎった。ノエルが何を思ってユーリをカジカに託したのかは知らないが、ノエルはその対価としてこの店の存在をカジカに教えたのだ。今になって、その意味がカジカの肩に重くのしかかってきた。
「……正直、期待してなかったけど……こいつは……」
本音を漏らすなら、ノエルの言ったお礼についてカジカはそれほど期待をしていなかった。心のどこかであの場を取り繕う為の嘘か何かの類なのだろうと思い込んでいて、だからこそ、今までこの店に来ることもなかった。しかし、ふたを開けてみれば、その情報はカジカの想像以上の価値を持っていた。はっきり言って、カジカの得る利益の方が大きすぎて、割に合わない。
「いや……逆、か……ノエルにとってはこれだけの情報を渡すだけの価値があったのか……」
これだけの情報をあっさりと渡した、ということはノエルにとってユーリの身の安全がそれに見合うだけの、あるいはそれ以上の価値を持っていることの裏返しである。あるいは、この情報に見合うだけの働きをカジカに求めていることでもある。その意味を噛みしめ、カジカはため息を零す。
「こりゃ、何が何でもユーリを守らねぇとノエルに殺されるかもな……」
カジカはそう呟くと名残惜しそうに店を後にした。
さて、ようやく出発できそうな雰囲気になってきました。
あと数話投稿した後に出発する予定です……今度こそ、出発するはずです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
次回の投稿は12月17日の予定です。
それでは次回もお楽しみに♪
ではでは。




