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NDA22

最近、色々と忙しいため、更新が不定期になるかもしれません。

現在のペースを維持できるように努めますが、あと書きに書かれた予定日より遅れてしまうこともありますのでご了承ください。

 急いで森から戻った四人はシオンがお世話になっている老婆の家を訪ねた。生憎、家主は不在だったが家の鍵はシオンが持っていた為、一行はそのまま家に入る。失礼な振る舞いをしている自覚はあったが、不法侵入ではないと自分自身に言い聞かせて目当ての本を探す。本棚には薬の調合方法と植物図鑑の他にも動物図鑑と昆虫図鑑がならんでいた。


「これは……モンスター図鑑、か?」


「うーん……モンスター図鑑というよりは普通の図鑑のようですね。でも、この兎や狼は平原に出るものと同じですから全く参考にならないわけでもないみたいですね」


 カジカとクロエは図鑑を見ながら、話しあっている。その中に加われそうにないユーリは近くの本を手に取ってみる。


「ふーん……古の時代、山の民であるドワーフと森の民であるエルフは友好の証として力を合わせて破魔の銀(ミスリル)を生み出した。ひとたび鎧をなればいかなる魔法も寄せることなく、刃となれば飛竜の息吹さえ断ち切った……これは練成法というよりは童話か何かみたいだな……」


 ユーリがそう呟いて本のタイトルを見直してみると大きくはっきりとした文字で『英雄記』と書いてあった。おそらくは子供向けの英雄譚を集めた一冊であり、登場している破魔の銀(ミスリル)というのも実際のミスリルとは全く別の、架空の金属なのだろう。


――――誇張されてるにしても強すぎだよな……


 ファンタジー系のゲームにおいて、ミスリルはオリハルコンといった架空の金属は定番の素材系アイテムだった。まだ、このゲームではその存在は確認されていなかったが、おそらく存在するのだろう。いつ、どうやって入手するのかはまだ明らかになっていないが、この本に書かれているような性能は持っていないとユーリは感じていた。ユーリが自然とそう思ってしまうほど、本に登場している破魔の銀(ミスリル)の性能は強すぎた。そんなことをユーリが考えていると背後で低い声が響いた。


「……人の家を勝手に荒らして、どうするつもりですか?」


 警戒している、というとり咎めるような鋭い声音。慌ててユーリが振り返ると家主と思われる老婆が不審者を見るような目でユーリを、そして、カジカとクロエを見ていた。不法侵入だ、と騒がれては不味い立場であるだけに弁明しなければ、と思うものの気持ちだけが焦ってしまい、言葉が出てこない。


「あ、いや、えーと……」


 もし、憲兵(ジャッジ)に通報されればユーリ達は街にいることはできなくなる。憲兵に捕えられるよりも先にこの街を出なければ、待っているのは薄暗い牢獄だ。


「この人達が昨日おばあちゃんに話した人……明日出発するから、一緒に挨拶にきた」


 しかし、シオンのその言葉を聞いた途端、老婆の表情が緩む。それと同時に家の雰囲気も一気に和らいだ。この機会を逃すな、とユーリは背筋を伸ばして老婆に自己紹介をした。


「はじめまして、ユーリと申します。向こうの二人はカジカとクロエです」


 フランの店で接客をしていたように愛想のいい笑みを浮かべてお辞儀をすると意外なことに老婆は笑顔で会釈を返してきた。先ほどまでとはまるで別人のようなその所作にユーリは内心、驚いていた。落ち着いて見てみれば、よく手入れされたプラチナブロンドの髪は艶やかで、年相応の皺が入っているとはいえ、老いを感じさせない気品ある顔立ちをしている。老婆と呼ぶには恐れ多く、老婦人と呼ぶべき風格さえ漂っていた。


「カジカと言います」


「クロエです」


 二人もそれぞれお辞儀をすると家主も凛とした態度で名を名乗る。


「……家主のグウェンドレンです。本来であれば、貴女方のしたことを見逃すわけにはいきませんが、シオンさんのご友人ということなら仕方ありませんね、人の家に無断で立ち入ったことについてシオンさんに免じて目を瞑りましょう」


 落着きのある、よく響く声。容姿は年相応に老け込んでいるが、声だけは老いに負けない力強さがあった。


「ありがとうございます」


 許す、というグウェンドレンの言葉にユーリ達は安堵のため息を漏らす。通報される心配がない、というだけでも心がかなり軽くなった。


「ただし、他人の本棚を無断で詮索するような非礼な振る舞いは如何なものでしょうね?」


 グウェンドレンの声音が一気に変わる。腹底に響くような低い響き。冷ややかな視線を浴びせられて、ユーリ達の表情が固まる。決して、怒気を発しているわけではないが、グウェンドレンがユーリ達に対して相当怒っていることはその言葉の端々に滲み出ていた。


「そ、それは、その……申し訳ありません」


 非がユーリ達にあることは明白であり、静かに怒るグウェンドレンに対してユーリは謝ることしかできない。


「こういった本が珍しくて、つい……」


「あら、そんな子供向けの本が珍しいの?」


 ユーリの言葉にグウェンドレンがわずかに驚いた顔を浮かべた。


「あ、えーと、はい……そもそも、本そのものが珍しくて……」


 ユーリの言葉に嘘はない。その言葉通り、このゲームを初めて今日まで、ユーリは本らしい本を読んだことは一度もなかった。読書家というわけではないが、全くないとそれはそれで寂しいものがあった。


「あら、そうでしたの……よろしければその本、差し上げましょうか?」


 グウェンドレンは一転して柔らかな声音でユーリに言った。柔和なその声は優しい老婦人の声そのもので、ユーリは呆気に取られて頷くことしかできなかった。


「えと……いただいて、いいんですか?」


 『英雄記』を胸に抱き、ユーリは戸惑い気味にグウェンドレンに尋ねた。アイテムとしてのこの本の価値はユーリにはわからない。グウェンドレンもが言っていたように子供向けの童話であるため、図鑑系の本のような情報が得られることをおそらく、ない。そうなるとグウェンドレンにこの本をもらうことに意味はない。しかし、ここがどんなに現実に近づいているとしても、ゲームの中の世界である。NPCからアイテムがもらえるということは、そのアイテムには間違いなく意味があるはずである。つまり、この『英雄記』も何らかの意味を持つはずである。


「えぇ、構いませんよ。私はもう、何度も読んで内容は全て覚えていますし、それに所詮は子供向けの本ですから、この街のどこの家にも一冊はある本です。気にしないでください」


「では、ありがたくいただきます」


――――『英雄記』を入手しました――――


 突如として、ゲームアナウンスがユーリと脳裏に響き、それと同時に持っていたはずの『英雄記』が光となって消えた。


「え、今のは……」


 モンスターを倒したときと同じエフェクトに驚いたユーリは慌ててアイテム欄を確認する。すると、そこには『英雄記』と書かれていた。なくなってしまったわけではないことを確認してユーリはほっと胸を撫でおろす。それと同時に、この本が何らかの特殊なアイテムであることも判明した。アイテム入手のアナウンスがその証拠である。もし、『英雄記』が通常のアイテムであったならユーリが手にしてもアナウンスは流れない。それはつまり、この『英雄記』というアイテムがストーリーになんらかの影響を及ぼすアイテムである、という可能性を示している。


「あの、一つ聞きたいことがあるんですが……いいですか?」


 カジカはグウェンドレンに尋ねる。グウェンドレンは何も言わずに頷いた。その仕草一つとっても落着きと気品に溢れている。


「こういった本ってどこで手に入れることができるんですか?」


「そうですね……『英雄記』のような本であれば教会に行けば譲っていただけるかもしれません。ですが、そちらの図鑑のような本はこの街には売っていませんね。時々、この街に来てくださる行商人さんか持っていることもありますけど、それも確実ではありません。どうしても手に入れたいのでしたら、ニコスに行くのが一番いいでしょう」


 あごにそっと手を添えて考え込むその仕草がどこか知的な印象を与える。


「ニコスって言いますと街道を南に下った先にある城下町ですね?」


「えぇ、そうです。この近くではニコスが一番大きな街ですからね。あそこに行けば大抵のものは手に入りますし、図鑑もきっと売っていると思いますよ」


「それじゃ、こっちの本は?」


 クロエの手に持っているのは調合のレシピが書かれた本だった。流麗な文字と小さな挿絵で描かれたその本は見るからに手書きで書かれた本であり、使われている紙も図鑑や英雄記に使われているものよりずいぶん安っぽい紙だ。はっきり言って、外見だけを見るとゴミかなにかと間違えてしまってもおかしくない。しかし、その中身であるポーションのレシピはプレイヤーにとって垂涎の価値があった。


「あぁ、それですか……それは昔、私が書いたものですからどこにも売っていませんよ。その一冊だけです。昔、そういったことを勉強していたので、この街の周りで手に入る材料で何か作れないかと思って、それで色々と試して、それをまとめてみたんですよ。興味があるのでしたらその本も、そちらの図鑑も差し上げますよ」


 グウェンドレンはそう言ってカジカとシオンの持っていた図鑑を見て微笑んだ。


「え、いいですか!?」


 グウェンドレンの言葉にクロエはもちろん、他の三人も驚きの表情を浮かべた。レシピや図鑑も譲ってもらえたらいいな、とは思っていたもののまさか本当に譲ってもらえるとは誰も思っていなかった。


「えぇ、構いませんよ。本達も余生短い私より未来ある貴女達と過ごした方が幸せでしょうから……」


 そう言って微笑むグウェンドレンに見送られ、ユーリ達はその家を後にした。


というわけで、家捜し?の回でした。

本格的な家捜しをさせようかとも思いましたが、さすがに主人公にそんな真似をさせるわけにはいかず、今回のような形になりました。


いかがでしたでしょうか?




ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


次回の投稿は11月28日の予定です。


それでは、次回もお楽しみに♪

ではでは。


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