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NDA01

本日二度目の投稿です。

「じゃあ、ゲームを始める前に簡単に説明しておくね」


 有理がゲームをする、と言ってからの有紀の動きは早く、有理の隣に座るとサービス開始は明日にも関わらず、早速ゲームの説明を始めた。





 プレイヤーはゲームを始める前に自身の分身となるアバターを作成しなければいけないが、このとき4つの種族から一つを選ばなければならない。それぞれの種族に長所と短所があり、どの種族を選ぶかでゲームの進め方も変わってくる。


「一つめは人間(ヒューマン)。いわゆる汎用型で、4つの種族の中で平均的な能力値を持っていて、装備できる武器や防具も一番多いの。ソロプレイするなら、ヒューマンを選んだほうがいいよ。でも、有理は私と一緒にするんだし、そういうのは気にしなくていいよ」


――――あ、一緒にするのはもう確定事項なのね……


「二つめはドワーフで、外見はヒューマンよりやや小柄でSTRとVITが他の種族よりも高くて、前衛向きのキャラだね。あとは武器や防具の生産にもボーナスがつくみたいだから生産職をするのもいいね。三つめはエルフで外見はヒューマンより背が高くて、INTとDEXが高いの。こっちは後衛向けね。最後の種族はホビットで外見はヒューマンとほとんど同じだけどAGIとDEXが高いかな」


 ここまではネットや公式サイトに広がっている情報なので、有理も理解するのも早い。受験生とはいいつつも興味があるのは紛れもない事実で、勉強の合間にこっそり見ていたのだ。

 

「ちなみに、姉さんは?」


 どうせなら、種族は被らないほうがいいだろうと思って、有理は聞いてみる。有紀がヒューマンを選んでいるのならともかく、他の種族だった場合、種族が被るのはどう考えてもバランスが悪い。


「エルフだよ。お、なるほど、お姉ちゃんと同じ種族を選んでくれるわけだね。嬉しいねぇ、さすが有理。姉の気持ちをわかってる」


 勘違いした有紀は一人、満面の笑みを浮かべていた。


――――いや、そんなつもりはまったくないんだけど……


 喜んでいる有紀を前にして違うとも言い出しづらく、有理はそのまま流す。


「で、種族を選んだら、次は幾つか質問されるんだけど、これはあんまり気にしなくていいよ。その答えによって能力値にボーナスがつくんだけど、どの質問にどの答えなら、とかはまだわかってないからね。あとはアバターのヴィジュアルはなんでか知らないけど本人とほぼ同じ顔になっちゃうらしいから、そのまま何もしなくていいよ。あとは、種族によって体格の補正も入るかな。キャラメイクについてはこれくらいだね」


 顔だけでなく、体格も本人とほぼ同じになるのだが、ドワーフを選んだ場合は若干背が小さく、エルフを選んだ場合は若干背が高くなる補正が入る。勝手に補正されてしまう為、現実の間隔と微妙なズレが出てしまい、慣れるまで少し時間がかかるのだ、と有理は付け加えた。


「次はスキルについてね」


 有紀はそういって、次の説明を始めた。『Non - Division Adventure 』(以下NDA)ではプレイヤーのレベルによる能力値の上昇よりも武器や防具、スキルによる能力値の上昇が圧倒的に大きく、持てるスキルの数には制限があるので戦闘職は特に武器やスキルの選択が重要なのだ。


「まず、スキルには幾つか種類があって、一つ目はアクティブスキルで【剣術】や【下級魔術(火)】、【鍛冶】なんかがこれに該当するわ。アクティブスキルにもレベルが設定されていて、使えば使うほどレベルも高くなるし、使える武器やアビリティも増えるの。あ、アビリティっていうのはそのスキルの技みたいなものね。ほとんどのスキルはこのアクティブスキルだから」


 【剣術】や【槍術】といったスキルがなければその系統の武器を装備することができず、ランクの高い武器を装備するためにはスキルのレベルを上げないといけない。また、鍛冶などの生産職も【剣術】などのスキルがないとその系統の武器を作ることができない、と有紀は言う。もちろん、作れる武器の性能もスキルレベルに依存する、とのことだ。ちなみに、その点については防具も武器と同じらしい。スキルなしで装備できるのは武器はナイフ、防具は服とアクセサリーのみである。


「……それだと、生産職の人、大変じゃね?」


 有紀の説明を聞いていた有理が呟くと、有理はそうでもないわよ、と首を横に振った


「戦わなくても剣を作れば【剣術】のスキルレベルは上がるし、初級装備は武器のスキルなしでも作れるから。スキルの付け替えは自由にできるしね。むしろ、戦闘職の方が大変だよ。このゲームは武器そのものに熟練度っていうのが設定されているんだけど、熟練度を上げないと【技】が使えないし、武器を変えたらまた一から習熟度を上げないといけないから」


「ふーん、そうなんだ」


 有紀曰く、熟練度が上がれば、【技】が使えるようになるだけではなく、性能も若干上がるらしく、下手に熟練度の低い武器を交換すると攻撃力が下がるうえに【技】が使えなくなるので安易な武器変更は控えたほうがいいらしい。


「じゃあ、次のスキルの説明をするね、二つ目はパッシブスキルって言って、これはゲームをしている間は常に発動してるスキルなの。私がベータテストで使ってたスキルは【遠見】っていうスキルで文字通り、フィールドで遠くまで見えるようになるスキルね。あとはトラップなんかを見つける【見破り】とか、相手のスキルを見ることのできる【透視】なんかもあるわね」


「なるほど」


 ちなみに、【透視】を使っても服は透けて見えないらしい。


「で、最後のスキルは職業(クラス)スキルなんだけど、これはちょっと特殊なスキルで、アクティブスキルやパッシブスキルが一つのセットになってるスキルだと思ってくれたらいいかな。例えば【剣士】だと【剣術】、【盾装備】、【不屈の心】が一つになってるし【初級武器職人】だと【鍛冶】と武器スキルのなかのどれか二つが一緒になってるの。スキルはスキルポケットにセットしないと効果がないんだけど、スキルポケットの数が少ないから職業(クラス)スキルはかなり貴重なんだよ」


 初期のスキルポケットは3つしかないので、スキルポケット一つでいくつものスキルが使える職業(クラス)スキルはかなり便利である。単純に使えるスキルが多ければ多いほど有利にゲームを進めることができるのだから、職業(クラス)スキルを使わない手はない。入手方法は特定のスキルを一定レベルに上げたり、イベントをクリアしたりなど様々だが、戦闘職、生産職にかかわらず、まずは職業(クラス)スキルの入手を目指すのが定石、とのことだ。


「でも、どのスキルがどの職業に繋がるとかってどうやればわかるの?」


 ふと、疑問を感じた有理は首を傾げた。有紀のようにベータ版をプレイしたことのある人間は経験でそれを知っている。しかし、ほとんどの人間はそんなことなど知るはずもない。初めてゲームに参加するプレイヤーはどうやってその情報を得るのか、と尋ねると有紀はたいしたこともなさそうに笑った。


「街には掲示板っていってプレイヤー同士は情報交換する場所があるから、そのうちそこに組み合わせも載るんじゃない?」


 ちなみに、使い方や使われている様子は某巨大電子掲示板とほとんど同じらしい。


「それに、私だって全部の組み合わせを把握してるわけじゃないし、正式サービスで追加される要素もあるんだからそこまで有利でもないよ」


 スキルは一定レベルまで上がると上位スキルに変化するらしいのだが、ベータ版ではアクティブスキルとパッシブスキルしか変化せず、職業(クラス)スキルの上位変化については何もわからないらしい。


「スキルについてはこれくらいかな?他にも説明したいことはあるんだけど、ゲームの中で説明したほうがいいし、明日の朝に説明するね」


 そして、有理は次の日を迎えた。



・*・



『Non Division Adventure 』サービス開始まで一時間を切った。


「えーと、これの使い方はわかるよね?まぁ、わかんなきゃ、そこの説明書読めばいいんだけど」


 そう言って有紀は付属のヘッドギアを取り出して、有理に渡す。有理曰く、つけて電源をつければ、あとは勝手にしてくれる、とのことである。ちなみに、有紀は既に装着済みである。クッションでできたフルフェイスのヘルメットにバイザーというのはどうにも奇妙な恰好なのだけど、これがないとゲームができないのだからどうしようもない。有理も渡されたヘッドギアを付ける。


「私は先に行ってるから。ゲームが始まったら、プレイヤーはみんな、【始まりの街】ってとこに行くから、その広場で待ち合わせね。それじゃ。もし、待ち合わせが難しそうならメッセージを送って。【ノエル】って名前で登録してるから」


「あ、うん」


 有紀は電源を入れ、有理も続いて電源を入れた。目の前が真っ白になり、体がふわりと浮かびあがる。そして、目が慣れてくると、有理は何もない真っ白な空間に浮かんでいた。周りを見渡してみるが、何もない。人影はもちろん、有理自身の体さえなかった。


「これがVRの世界なのか……ちょっと期待と違うな……あ、もしかして、アバター作ってないからか」


 ゲームの世界ではアバターがなにと何もできない。それを思い出した有理は納得して、頷いたと同時に目の前に文字が現れる。


――ようこそNon Division Adventure(終わらない旅)へ。アバターを作成しますか?(Y / N)――


 Noを選択したらどうなるのだろう、と思いながらも有理はYesを選択する。すると目の前に、年齢不詳の魔術師っぽいキャラが現れた。ローブを深く被っているせいで、顔は見えないがただならぬ雰囲気を感じさせている。


「汝、何者じゃ?」


 まずは名前を入力しろ、ということらしく、キーボードが有理の前に現れる。名前については昨日のうちに色々と案を考えていたので迷わずにそれを打ち込む。


「えーと、『ユーリ』っと……」


 本名が有理だから、という安直な理由だが、耳慣れた響きはやはり心地よい。他のプレイヤーと名前が被っているとエラーが表示される、と有紀から教えられていたが被っていなかったらしく、すんなりと次に進む。


「汝はどこの生まれじゃ?」


 次は種族の選択だった。目の前にそれぞれの種族のグラフィックが現れ、下に簡単な説明が書いてある。




人間(ヒューマン):平原の民。生命力に溢れ、戦闘では前衛から後衛までこなすことができる。



ドワーフ:山の民。力が強く、手先も器用で前衛に向いている。武器・防具系の生産職の適正が高い。



エルフ:森の民。賢く、生まれながらにして強い魔力を持つ。戦闘では後衛に向いている。



ホビット:旅の民。身軽で、手先が器用。戦闘には向かないが、生産職全般に高い適正を持つ。



竜人(ドラグーン):竜の民。力が強く、生命力に溢れている。戦闘では前衛に向いている。強力なブレスを持つ。



猫人(リンクス):猫の民。身軽で、魔力が強い。戦闘では前衛から後衛までこなせる。鋭い爪を持つ。




 有紀からに聞いていたのより、種族が増えていた。おそらく、サービス開始に伴って増えたのだろう。説明を読む限り、初期の4種族より強そうだが、ただ強いだけではゲームバランスを壊しかねないので、なにかデメリットがあるんだろう、と有理は推測する。


――――どっちにしても選ばないからいいけど。


 そして、有理はエルフを選択した。


――――それにしても、猫の民(リンクス)って絶対に猫耳目当てに作られた種族なんだろうな……


 外見についてデフォルトのままで変更をせずに、終了を選択するといきなり体が現れた。驚きながらも軽く手足を動かしてみるが、違和感はない。体格補正がかかっているのか、いつもより視線がわずかに高い気もするが、あたりに何もない空間ではそれを確かめることもできない。


「エルフ族のユーリよ、我が問に答えよ」


 それから有紀の言っていた通り、魔術師からの質問が始まった。




 ――いよいと、世界の崩壊が明日に迫った。最後の夜、あなたの隣にいるのは誰か?――


家族。

恋人。

友人。

誰もいない。




 4つの選択肢が現れ、有理は少し迷って家族を選択した。この選択により、ステータスが決定されるとはいえ、どの答えが最善なのか有理にはわからない。有紀が深く考えなくてもいい、と言っていたおかげもあり、有理は軽い気持ちで質問に答えていく。ほかの質問も似たような選択式の質問で『流れ星に何を願いますか』とか『あなたの一番大切なものは何ですか?』みたいな質問だけではなく『あなたは軍にいます。あなたの役職は?』や『あなたは王として、何を以て民を治めるか』といった質問が幾つも続き。そして、ようやく、最後の質問を迎えた。



 ――決戦を間近に控えた夜。あなたは仲間と話をしています。何を話していますか?――


戦の行方。

将来の夢。

愛の語らい。

家族のこと。




「そうだな……これにするか」


 有理が答えを選択すると、それまで静かな雰囲気を保っていた魔術師が杖を掲げて、声高に叫ぶ。


「エルフ族のユーリ、汝に精霊の加護を……」


 魔術師が杖を振るうと、光が俺を包み込んだ。そして、ユーリの旅は始まった。




いよいよ、次回からゲームの世界のお話です。

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