-Intermission- 11.5
今回はクロエ視点です。
目の前で剣が煌いて、キャタピラーを切り裂きました。
そして、蜂蜜色の髪がふわりと揺れます。
――――あぁ、なんて美しいんでしょう……
このゲームは運営がリアルを追求しているのか、プレイヤーはもちろん、モンスターも現実と見分けがつかないくらいリアルに作られています。生い茂る森の緑は生き生きと輝いています。吸い込めば咽てしまいそうなくらい濃密な緑の匂いには正直、頭がくらくらしてしまいそうです。
そして、今、わたし達が戦っているキャタピラーは所謂、芋虫です。現実の芋虫を人間の子どもぐらいに大きくしたモンスターです。はっきり言って、戦いたくはないです。
理由は簡単です。
気持ち悪いから。
現実世界の小さな虫でさえ気持ち悪くて触れないのに、子供大の虫なんて触れるはずがありません、しかも、わたしの武器は両手の爪。攻撃するなって絶対に、無理です。でも、そんな気持ち悪ささえ、気にならないくらい美しいものがわたしの目の前に在るのです。
――――ユーリお姉さま……
蜂蜜色に輝く髪。
三つ編みに結い上げられた髪の毛がユーリお姉さまの動きに合わせてゆらり、ゆらりと舞っています。薄暗い森の中で舞うその美しさは本当に素晴らしくて、言葉にすることができないくらいです。栗色のワンピースもふわりと踊っています。まるで、モンスター達の間を舞っているかのようです。
「クロエっ!!」
ユーリお姉さまに見惚れていたわたしはカジカさんの声で一気に上へ飛びます。猫人はホビットに負けないくらい俊敏性の高い種族で、現実では運動音痴のわたしでもびっくりするくらいの反射神経です。飛び上がった先の太目の木の枝になんなく着地するとわたしは下を見下ろします。
今回遭遇したモンスターはキャタピラーが4体です。もう、既に残りは一体に減っていました。そして、その一匹はわたしの真下にいます。カジカさんと目が合いました。その目が無言で命じてきます。
お前がやれ、と。
「うぅ……」
倒せるか、と聞かれると倒せる、とわたしは答えます。
だけど、倒したくはありません。
正確に言うと、触りたくありません。
あの芋虫に触るなんて、気持ち悪くてできません。
「クロエっ!!」
今度はユーリお姉さまの声でした。ユーリお姉さまに言われては倒さないわけにはいきません。わたしは覚悟を決めて、その枝から飛び下りました。地面に下りるまでのほんの数瞬の間にわたしは腕を振り上げ、攻撃の準備をします。そして、芋虫が目の前に迫ったその瞬間、今日覚えたばかりの【技】を放ちます。
「【クロースラッシュ】っ!!」
【爪術】で真っ先に覚えた【技】がこの【クロースラッシュ】です。
【技】と名前がついていますが、要するに、両手の爪で引っ掻いているだけです。ですが、普通に攻撃するより、ずっと威力があります。普通に攻撃したのでは少なくとも二回は攻撃しなければこの芋虫は倒せません。でも、この技を使えば、一撃で倒すことができます。少しでもモンスターに触りたくないわたしは使わなくても倒せると分かっていながら、この技を使っています。
「お見事」
ユーリお姉さまが褒めてくれました。
にっこりと微笑んだその美しさといったら、まさしく、天使の微笑みです。
美し過ぎて、わたしは天にも昇ってしまいそうです。
あぁ、いけません。
顔がにやけてしまいました。わたしは自分自身を戒めて、にっこり笑います。
「はい、ばっちりです」
――――ユーリお姉さまのその笑顔があれば、十分です
そんなわたしを見て、カジカさんはため息を零した。カジカさんは燃えるような赤い髪が印象的で、物語に出てくる王子様のような人です。着ている服が初期装備の服と皮鎧なので、見た目はパッとしません。ちょっと残念な人にも見えます。でも、着る服を変えればきっと大化けすること間違いないでしょう。そんなカジカさんがわたしを見つめる目にはどこか憐みのようなものが感じられました。
まぁ。確かに実力は一番下ですし、半ば寄生しているようなものですから、そういう目で見られるのは仕方ないのかもしれません。
「まぁ、いい。行くぞ?」
カジカさんはもう一度ため息を零して、森の奥へと進んでいきました。
わたしもその後を追っていきます。隣にいるのはもちろん、ユーリお姉さまです。
――――あぁ、ユーリお姉さま、わたしは幸せです
ちなみに、クロエはまだユーリの正体に気付いていません。
彼女の頭の中ではユーリは凛としてお姉さまなのです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
次回の投稿は10月14日の予定です。
それでは、次回もお楽しみに♪
ではでは