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‐Intermission- 9.5

お姉ちゃんの独白です。

 フランからユーリを預かっている、と私に連絡があったのは日付が変わるかどうかといった頃だった。



 ユーリから事情を聴いているはずのフランは、一言も私を責めたりしなかった。それはきっとフランなりの優しさで、だけど、私はその心遣いが苦しかった。どんな理由があったとしても、私はユーリを、実の弟を見捨てた。非難されて当然のことをしたのだ。自分で言うのも情けないけど、最低の姉だ。



どれほどあの子の心を傷つけただろうか。


どれほどあの子を苦しめただろうか。


どれほどあの子に恨まれているだろうか。



 もし、現実世界に戻ることができたとしても、きっと昔のようにはなれない。もう、あの頃には戻れない。それは分かっていた。何度も、何度も考えた。そして、私は決めた。もしかしたら、私の選択は間違っているのかもしれない。でも、たとえ、そうだとしても、百人に聞いて百人とも私が間違っていると言ったとしても、私は自分の選択は間違っていない、と信じていた。



 信じなければ、耐えられなかった。



「ごめんなさい……あなたにまで迷惑かけて」


 見えているはずかないとわかっていながら私は深々と頭を下げる。フランに迷惑をかけてしまうなんて思ってもいなかった。だけど、これは私にとって幸運だった。そのままフランの所にいてくれれば、ユーリの身に危険が及ぶことはない。不安が一つ、消えた。


「謝らないで。私がノエルちゃんの立場でも、きっと、同じことをしたと思うから……」


「えっ……?」


「ユー君のこと、大切だから突き放したんだよね」


 ノエルの言葉に私は一瞬、言葉を失った。


「すごく大切で、大切で、だからこそ、一緒にいられない……その気持ちは私もよくわかるよ」


 フランの言うとおりだった。


 私は、ユーリを捨てた。容赦なく、突き放した。だけど、それはユーリのことが嫌いでしたわけじゃない。ユーリのことが大切で、だからこそ、私は心を鬼にした。私と一緒にいるより、この街にいた方が危険は少ない。だから、私はユーリを突き放した。



嫌われてもよかった。


恨まれてもよかった。


憎まれてもよかった。


ユーリが無事でいてくれるなら、それだけでよかった。



「……私もね、もし、子供が一緒にいたいって泣きついてきても、私はきっと子供を置いていくよ。離れ離れになっても、子供には安全なところにしてほしいから」


 子供がいたんだ、と内心驚きながらも、私はフランの言葉に聞き入る。たった一人でも、理解してくれる人がいる。それだけでずっと、心が軽くなった。


「だから、私はノエルちゃんを責めたりしないし、できない」


「うん……ありがとう、フラン」


 そんなフランの言葉が私は嬉しかった。


「でも、どうしてそれをユー君に言ってあげなかったの?もう、子供じゃないんだよ。言えばきっと……」


「言えばきっと、ユーリは反発するから……そういう子よ。ゲームから脱出できるまで待ってて、なんて言われておとなしくしていられるような子じゃない」


 私が脱出方法を見つけてくるから、それまで待っていて、と言って素直に待ってくれる子じゃないことは私が一番よく知っている。だから、何も言わずにユーリを突き放した。それが本当に正しかったのかどうかは分からない。だけど、全てを説明しても受け入れてくれないことはわかっていたから、これしか方法がなかった。


「まぁ、ノエルちゃん達のギルドなら攻略もはやいだろうね。それにユー君が入っても、足手まといになるのが目に見えてるし……」


 私がリーダーを務めるギルド【妖精女王(ティターニア)】はベータ版のプレイヤーの中でも有名なギルドだった。もっとも、ベータ版にはギルドという制度はなくて、システム上はただのパーティーでしかなかったのだけど。


「うん……そうだね」


 装備品は引き継げなかったとはいえ、私も含めて残りのメンバーもプレイヤーとしての技量はたぶん、トップクラスにいる。少なくとも、多少のレベル差なら、個々人の技量と連携で覆せる自信がある。事実、初日の午後には私を除いた5人は『眠れる森』でレベリングをしていた。正確には、ドロップアイテムを手に入れる為に手当たり次第にモンスターを狩っていたんだろうけど。


「アザミちゃん達からもらった素材で人数分の服は作っておいたよ。軽さはそのまま、防御力は全身鎧(フルアーマー)以上。おまけに毒、麻痺、眠りの耐性付きだよ」


 フランの声はどこか嬉々としていた。職人としての腕を振るえて嬉しいだね、きっと。


「でも、無理しちゃダメだよ?ノエルちゃんの気持ちは分かるけど、もしノエルちゃんの身に何かあったら、ユー君絶対に悲しむよ。ユー君だけじゃないし、私やテツさんもきっと……」


「うん、大丈夫だよ。私だって自分の命は惜しいもん。そこまで無茶はしないよ……」


 そう言って私はフランとの通信を切った。そして、ゆっくりと息を吐き出す。



そう、無茶はしない。


やるべきことをやるまでは、絶対に死ぬことなんでできない。


 

「ごめんね、有理。こんなことに巻き込んじゃって……お姉ちゃんが絶対に、助け出してみせるから」





 私の全てを懸けて、必ず。







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