10/89
第9話 活人試行
神山君は『死』を嫌う。
それは『普通』だからだ。
逆に『生』を好む。
それは『異常』だからだ。
彼にとって、生きることは異常なことだった。
死は誰にでも訪れる。
だが、生は望んでも手に入らない。
神山君は生きたい。
いつか自分が普通である死を受け入れる時が来るのかと思うと、死にたくなる。
何とも笑えない矛盾だ。
死ぬことは異常ではない。
故に、彼には生きるしか道がない。
生きることは、異常だから。
異常性こそが、彼の原動力であり興味の対象なのだ。
なんてコトはない、みんなそうじゃないか。
いや、そのはずなんだ。
「………そうだと認めないから、君たちは普通なんだ」
神山君が呟く。
異常になりたい人間が異常であることを彼は知らない。