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転生した失地王がハーブ畑を耕したら、押し掛け魔女に癒しのカフェをはじめないかと誘われました!  作者: 日埜和なこ


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第3話 森の魔女ジャスミンの大魔法は大地を蘇らせる

 ジャスミンが杖を振ると暖かな風が吹いた。


「緑したたる春の山、清らかなるせせらぎよ。我の深淵に眠る蒼き力に応え、恵みの光となれ!」


 凛とした声が響き、上空に青い光を放つ魔法陣が現れた。

 輝りながら回転するそれに向かって、杖の先が振り上げられる。


「シャイマーレイン! 降り注げ!!」


 ジャスミンが高らかに唱えると、魔法陣の輝きがいっそう増した。そうして、シャンッと清らかな音が響き、光の粒が落ちてきた。


「……雨?」


 降りしきる光の雨を見上げる。

 不思議とそれは、肌に触れてもひやりとせず、服を降らすこともなかった。


 大地に光が吸い込まれていく。

 次第に、白茶けていた畑は潤いをえて黒々と力強い存在感を放ち始めた。


「ふふんっ、どうかしら?」


 ジャスミンは得意気な顔をする。

 畑に膝をつき、土を手に取ってみて、その変わりように驚いた。ふかふかの土は、ほのかに温かくて湿り気もある。さっきまで乾いていたとは思えない。


 しかし、これで芽が出ると認めるのはどうなんだ。水をあげただけなのでは──疑いが拭えずにいると、柔らかな土がもこもこと動いた。

 虫でもいたのかと思った直後だ。

 突然、ぼぽんっと小さな音か響き、小さな芽が土を持ち上げて現れた。ぽんぽんと音を響かせる度に光が弾け、金の粉を辺りに撒き散らす。


「なっ──」

「えっ、もう!?」


 俺が驚きの声をあげるよりも大きく、ジャスミンが叫んだ。

 大きな瞳を見開くジャスミンは、杖を両手で握り閉めて畑を覗き込んだ。そうしている間にも、畑の種は次々に芽を出していく。


「……なぜ、お前が驚くんだ?」

「だ、だって早すぎじゃない!」

「大魔法とは、そういうものじゃないのか?」


 大魔女と名乗るくらいだ。その場で咲かせるくらいのことをやっても、そういうとのかと納得しかけていたが、どうやら違うらしい。

 ジャスミンはハーブの芽を見つめ、つつき、ぶつぶつとなにか呟いている。


「そりゃ、魔力を注いで保水力をあげたけど……て、えっ、えぇぇっ、嘘──!?」


 ジャスミンの目の前で、小さな芽がぐんぐんと伸び始めた。


「ほう、魔法とは凄いな」

「ど、どうなってるのぉおっ!?」


 ジャスミンの叫びに構わず、ハーブは育っていく。

 その横で、ジャスミンは畑の土を手に取り、指先を汚しながら原因を突き止めようとしている。様子を見ていたら、なんだかおかしくなってきた。


 なにか企て、俺を嵌めようとしているのかと疑ったが、どうやらそうではなさそうだ。

 泥にまみれておろおろする姿は、年相応の少女にしか見えない。


「魔力は感じる。植物を育てる上質の畑になっているのは間違いないわ。でも、成長を促進する魔法なんて……」

「成長を促進する魔法? そんなものもあるのか」

「あるにはあるけど、時間に関与する魔法を使うには媒介が必要だし……こんなの、奇跡としかいいようがないわ」


 奇跡──まさか、種が女神の置き土産だったからか?

 考えても答えは出そうにないな。

 柔らかいハーブのはに触れ、横でぷうっと頬を膨らませたジャスミンは「うーっ、釈然としないわ!」と声をあげた。


 気持ちはわからなくもない。が、結果が出たのだから、こちらとしては認めないといけないだろう。


「芽が出たに代わりはない。お前の魔法を認めよう」

「うぅっ、でも、私の魔法じゃ……」


 悔しさすらにじませるジャスミンは、ハーブをじっと見つめたままだ。なんとも真っ直ぐというか、嘘をつけなさそうな小娘だ。

 疑うのも馬鹿馬鹿しくなり、笑いが込み上げてきた時、ジャスミンが「もしかして」と呟いた。


「なにか、わかったのか?」

「女神の祝福を受けてる種だったのかも」


 どきりとした。

 こいつは女神の存在を知っているのだろうか。まさか、俺が新たな生を与えられた失地王だと気付いているのか?

 葉を摘まんでしげしげと見るジャスミンを見下ろし、背筋を伝う冷たい汗に息を飲んだ。


 バカな、そんなはずはない。こんな辺境の地に、俺が失地王と呼ばれたと知る者がいるわけがない。いてたまるか。


「……女神の祝福とは、なんだ?」

「凄い魔力を溜め込んでる種よ! その力を、私たち魔女は『女神の祝福』って呼んでるの」

「魔力を……なら、そうなのだろう」


 キラキラと輝く無邪気な笑顔が俺を振り返った。


「どこで手に入れたの!?」

「……どこだったかな」

「教えなさいよー!」

「覚えていないものを教えようもないだろう」


 すっとぼけると、ジャスミンは顔を赤くして頬を膨らませた。


「収穫量の半分だったな」

「……え?」

「俺は魔法のことは、よくわからん。これからも、よろしく頼むぞ」


 土で汚れた手を払いながら立ち上がると、柔らかな春の風がハーブの若葉を揺らした。

 案外、早く美味いハーブティーが飲めそうだな。


 ◇


 ハーブの芽が出た日から、ジャスミンは毎日のようにログハウスを訪れる。

 初めのうちは、種をどこで見つけたか思い出せと煩かった。思い出すもなにも、女神にもらったのだが、そうともいえずに黙っていたのだが。

 そ今では、楽しそうに畑の世話をしている。


「どういった風の吹きまわしだ?」

「ふふっ、私気付いちゃったのよ。花を育てて種の収穫をすれば、同じ種が採れるんじゃないかって!」

「……女神がそう安売りするとは思えんが」

「そっ、それは、収穫しないとわからないでしょ!」


 逆にいえば、魔女の祝福が得られるかは、収穫してみないとわからないってことだな。

 まあ、俺の予想では、祝福は最初の一回きりだろうが。


「まあ、来年も考えたら、種を育てるのはありだな。それより、畑を増やそうかと思うんだが」

「ハーブを増やすのね!」

「ああ。この近くで種を売ってるところはあるか?」


 ぴょんっと跳ねてスカートを揺らしたジャスミンは、少し考える素振りを見せる。


「そうね……近くの村にある道具屋に取り寄せてもらうか、森で苗を手に入れるのはどう?」

「……苗?」

「種から育てるのは、時間と魔力が必要になるでしょ」

「時間はわかるが……苗だと、魔力は少なくてすむものなのか?」

「当然でしょ! 発芽するときが一番魔力を必要とするの。だから、種を植えてからすぐ芽吹くことは普通ないの」


 そんなことも知らないのかと呆れられても、俺はそっちの専門じゃないからな。


「でも、森にある若いハーブを根っこごと移せば、手間が省けるってわけ!」

「なるほど。そんなやり方があったのか」

「ルーファスって……本当に、なにも知らないのね。それで、よくハーブ栽培する気になったもんだわ!」

「……自分で育てたハーブなら、安心だからな」

「安心? 森のハーブだって、いいものよ。まあ、畑の方が育ちが良いのもあるけど」


 首を傾げたジャスミンは、スカートの裾についた土ぼこりを叩きながら立ち上がる。

 その横で、生い茂る若葉を何枚か摘み、籠に入れた。そろそろ収穫して、保存用に乾燥させる準備をしてよさそうだ。

 さて、どのくらい収穫したものか。

 畑を見回していると、ジャスミンが「そもそも、なんでハーブなの?」と尋ねた。


「は?」

「こんなに広いなら、野菜や麦を育てたらいいじゃない。麻や綿花を育てることだって出来るわ」

「それは……忘れられないハーブティーがあってな」


 生計を立てるとか、儲けるとかって頭は欠片もない。その内、自分が食べられるだけの野菜を育てるのはいいかもしれないが。

 山風樹の木から葉を摘み、赤いベリーもいくつか摘み取る。


「ハーブティーのためだけに、この荒れた畑を耕そうと思ったの?」

「まぁ、そんなとこだ」

「顔に似合わず、ロマンチストなのね」


 呆れ顔のジャスミンは、籠の中を覗き込んだ。


「どうするの、それ?」

「俺の思い出の味ではないが、これで淹れる茶も美味いぞ。飲んでいくか?」

「いいの!?」

「顔に似合わないハーブティーで悪いがな」

「もう、根に持たないでよ!」


 ぷうっと頬を膨らませるジャスミンを、裏口からログハウスに招き入れると、彼女はきょろきょろと見渡した。


「立派なキッチンね」

「独り暮らしにはデカすぎるくらいだな」

「こっちはなに?」

「おい、勝手に見て回るな」

「貯蔵庫も広いわね。まだまだ色々置けるじゃない」


 貯蔵庫を覗くジャスミンを摘まみ出そうとすると、ひょいっと避けた彼女は別の扉にてをかけた。


「こっちはリビング? わぁっ、広い!!」

「まったく、お前は……そこが、ログハウスの表から入ってすぐの部屋だ。ソファーに座って待ってろ」

「広すぎ! この棚だって、まだまだ食器置けるじゃない。えー、この広さにこのテーブルとソファーって寂しいくない?」


 騒ぐジャスミンは、部屋をうろうろし始めた。特に見られて困るものはないし、放っておくか。飽きたら大人しくなるだろう。


 キッチンで湯を沸かし、洗ったハーブをティーポットに入れる。そこに湯を注ぐと、甘い湯気が立ち上がった。

 カップ二つとポットを持って部屋に入ると、ジャスミンが寄ってきた。


「甘い香りね!」

「ほら、座れ」


 いいながらソファーに腰を下ろすと、ジャスミンも素直に横に座った。

 カップに注がれたハーブティーは、ほのかな若葉色でキラキラと輝いている。


「いただきます……甘くて美味しいわ! ほんのり酸っぱいのもいいわね。ベリーが入ってるからかしら?」

「甘味は山風樹の葉だろう」

「この爽やかな香りは、今日摘んだミスティアね!」

「ああ、そうだ」


 温かなハーブティーを一口飲み、鼻を抜ける爽やかな香りにほっと吐息をついた。


「これがルーファスの、思い出の味なの?」

「いや、これじゃないな」

「もっと美味しいってこと?」

「そうだな……もっと深みがあったというか、穏やかになれる香りだったな」

「穏やか? これも充分、優しい香りだけどな」

「……まあ、思い出補正だろう」


 だとしても、もう一度あの味を飲みたい。何年かかってもいい。そのためには、もっと他のハーブも育てる必要がある。

 カップの中身を見ていたジャスミンが、ぱっと笑顔になった。


「それ、あたしも飲みたい!」

「……いつ出来るかわからないぞ」

「いいわよ。付き合ってあげる! 森にはいろんなハーブがあるんだから。きっと、ルーファスの記憶にある香りのものもあるわよ!」


 その自信はどこから来るのだろうか。

 目を輝かせるジャスミンが「森の大魔女様に任せなさい!」といって胸を張った。


「暇なのか?」

「べ、別に暇じゃないわよ! ただ、森は危険もあるんだから。なにも知らないルーファスが、獣に教われでもしたら、後味悪いでしょ!」


 顔を赤くして頬を膨らませたジャスミンは、ぶつぶつと「森で死なれたら困るのは嫌なのよ」といった。

 もしかしたら、過去に誰かが森で死んでいるのか。


 まあ、今の俺は丸腰だしな。森に詳しい案内人がいるに越したことはない。


「なら、森を案内してもらおうか」

「任せてちょうだい!」


 ジャスミンの頭をくしゃりと撫で回すと、彼女は嬉しそうに笑った。

次回、本日17時頃の更新となります


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