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転生した失地王がハーブ畑を耕したら、押し掛け魔女に癒しのカフェをはじめないかと誘われました!  作者: 日埜和なこ


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第18話 ルナディルの香りが教えてくれる

 ジャスミンが、ハーブを使った料理のリクエストを挙げ始めた頃、少し眠気が襲ってきた。


 シルヴェローズを使った肉の香草焼きは外せない。トマトのマリネはミスティアで爽やかに。シルキーセージを使って手作りソーセージを作るのはどうか。アップルミスティアと果物でゼリーを作るのもいい。──饒舌に語るジャスミンに、そうだなと頷きながら欠伸を噛み殺した。


 ルナディルが効いてきたのだろうか?


「ルーファス、眠そうだな。大丈夫か?」

「……大丈夫だ」

「そういえば、寝不足だったよね」

「今朝も、うなされてたよな。悪夢を見るんだろ?」

「……今日は遅くまで森でハーブを摘んだし、よく眠れるだろう」


 空になったカップにハーブティーを追加して、それを口に運んだ。

 優しい香りが口の中に広がり、鼻を抜けていく。

 短い息をつくと、また眠気に視界が揺らいだ。いくらリラックス効果があったとして、これほど眠気が出るのは珍しいな。ハーブ摘みで疲れが蓄積していたのか。それとも、ハーブの効果なのか。


「……ジャスミン。ルナディルは睡眠効果もあるのか?」

「んー、そうね。疲労が蓄積してたり、魔力抵抗が低かったら……ルーファス?」


 ジャスミンの声が遠くなる。

 眠気に抗って額を抑えたが、どうにも堪えられそうにない。視界が暗くなっていく。


 死ぬ前は、他人に寝姿をさらすなんてことも出来なかったが……まあ、ここはログハウスの中だ。こいつらの前なら、少し眠ってもかまわないか。

 楽しげに話す二人を見て心が緩んだのだろう。

 眠気に抗うのをやめ、ソファーに体を横たえた。遠くに、俺を呼ぶ二人の声を聞きながら。



 気付けば森にいた。暗い夜の森だ。

 幽閉されていた牢屋でも、処刑台でもない。だが、月明かりのない森は果てしなく暗く、どこからか突き刺さる視線を感じる。


 闇の中、ひそひそと声が聞こえてきたの。


「国を滅ぼしておいて、のうのうと生きて」

「裏切り者のくせに幸せになろうなんて」

「失地王を信じたらいけないよ」


 罵声や陰口にはなれている。──自身に言い聞かせながら、奥歯を噛んだ。

 どこで囁かれているのか。誰がそういうのか。見えない憎しみに晒され続けるのには慣れた。そう思っていた筈だ。なのに、足元が揺らいだ。


 黒い影が足にまとわりつき、ずりずりと俺を引きずりおろそうとした。

 それが真っ黒な手だと気付いた時、ぞわぞわと背筋が震えた。


「お前のせいだ。お前さえ、いなければ」


 声がする。

 憎しみに満ちたそれは、兄上の声。


 これは夢だ。

 わかっているのに、目を覚ます手段がわからない。身体が動かない。


「……ルナディルは安眠に効くんじゃなかったのか?」


 全身から汗が噴き出した。

 俺がいなければ──国はただ滅びた。もっと、民衆に死者も出た。俺は間違っていない。俺は、王弟として間違った選択をしなかった。

 過去を思い出すごとに、足が地面に飲み込まれていく。抗うことも出来ず、ゆっくりと飲まれていく。


 間違ってなどいない。だけど、もっと頼れる仲間がいたら、結果は違ったんじゃないか。例えば、ジャスミンのような……


 暗闇の中、遠くで小さな光が揺れた。ランタンの灯りだ。


「──ルーファス!」


 ジャスミンの声が響いた。

 暗い森の中、ランタンの光が揺れる。光が近づくにつれ、柔らかなルナディルの香りが次第に濃くなった。


「もう、こんなとこでなにやってるの?」


 ずぶずぶと底なし沼に落ちる俺の顔を、あっけらかんとしたジャスミンが覗き込む。


「こんなとこで寝たらだめだよ。ほら、こっち!」


 俺の手よりも遥かに小さな手が、俺を引っ張り上げようとした。だけど、びくともしない。そりゃ、そうだ。大の大人を女一人で引き上げるなんて無理だろう。


「もう! 強情なんだから。トレヴァー!!」


 ジャスミンが声を上げると、暗闇からトレヴァーが現れた。実にめんどくさそうな顔をしている。


「あー、なんだよ。俺は金になんねーこと、しねーかんな!」

「つべこべいわないの! ルーファスがいなくちゃ、カフェが成り立たないでしょ」

「……そうだけどよ」

「ほら、手伝って。引っ張り上げるわよ!」

「仕方ねぇな……貸しだかんな。こんなとこ、さっさと出て、俺にたんまり稼がせろよ!」


 ジャスミンの手に加え、トレヴァーの手も俺の手を掴む。

 

「さあ、帰るわよ。ログハウスに!!」


 ジャスミンの声が森を駆け抜け、甘い風が巻き起こった。

 闇が晴れる。ランタンの光がはじけ飛び、世界が真っ白になった。


 顔を上げれば、そこはログハウスの前だった。花が咲きほころび、丸太で作られたテーブルには、テーセットとサンドイッチに、ケーキが並んでいる。


「いらっしゃいませ、お客様!」


 可愛らしいエプロンドレスを翻したジャスミンが笑った。


「今日のオススメセットは、ルナディルのハーブティー。怖い悪夢も、悲しい思い出も、きっと大切な今が吹き飛ばしてくれるよ!」


 ティーポットから淡い青紫色のハーブティーが、白磁のカップに注がれる。

「さあ、召し上がれ」と笑う愛らしい顔に、自然と口元が緩んだ。


 大切な今、か。

 あまりにも簡単なことだと気付く。この香りと共に、見失っていた大切な今を、忘れないようにしよう。


 ルナディルの香りが全身を覆っていく。

 一度瞳を閉ざし、再び目を開けた時、床で丸まって眠るジャスミンとトレヴァーを見た。二人とも毛布をかぶって、ソファーに寄り掛かるようにして眠っている。よく見ると、ジャスミンの手にはルナディルが一束、握りしめられていた。

 もしや、俺のことを心配して、ルナディルを持って側にいたのか。


 起こした身体は不思議と軽かった。

 丸まって寝る二人の髪をそっと撫で、小さく「ありがとな」と呟く。気のせいだろうか、二人の口元が少しだけ笑ったように見えた。


 振り返った窓の外からは夜明け前の静かな空が見える。それに、部屋は穏やかなルナディルの香りで満たされていた。


 ◇


 湯気の立ち上がる鍋の中では、スープがいい具合に煮えている。コトコトと音を立てる蓋を開け、木製のレードルでゆっくりとかき混ぜる。

 カブがだいぶ柔らかくなった頃合いだろう。


 次に、切ったパンをフライパンで温めなおす。昨日の昼間に焼いておいたシルヴェローズのパンだ。

 しばらくすると、花の香りがふわりと立ち上がった。後は、バターを塗れば──朝食の用意が終わる頃、ジャスミンが目を輝かせてキッチンに入ってきた。


「シルヴェローズ!」

「ああ。前に食いたいといってただろう?」

「そう、これ。この香り!!」


 嬉しそうに近づくジャスミンは、用意した他の料理に目を向けて「カリカリベーコンと目玉焼き!」と喜び始めた。こんなシンプルな料理でも、ジャスミンは嬉しそうに食べるんだよな。ただ、フライパンで焼いただけだぞ。


「なに騒いでんだ? おっ、いい匂いだな」


 トレヴァーもキッチンに入ってくると、鍋を覗き込んで顔を輝かせた。


「スープのカブが美味そうだ!」

「ああ。農家からもらったからな」

「早く食べよう。お腹ペコペコ!!」

「ルーファス、皿はこれでいいか? ジャスミン、運ぶの手伝え!」


 棚から食器を取り出すトレヴァーは「ほらよ」といいながら、ジャスミンにサラダが盛られた木製のボウルを渡すと、スープを用意した皿に注ぎ始めた。

 ジャスミンは、ご機嫌な様子で料理をテーブルに運び始めた。


 三人で食事をするのは、まだ数える程度だが、こう賑やかなのは悪くないな。

 テーブルに並んだ食事を前に、三者三様に「いただきます」といって、食事を始める。ジャスミンの手がパンに伸び、トレヴァーがスプーンでスープのカブをすくう。俺は三人分のサラダを皿に盛り分けてから、フォークを手に取った。

 食べる順序も三者三様だ。


「美味しい! やっぱり、シルヴェローズはパンに合うわ。これ、絶対カフェのメニューに入れてね!!」

「このつぶつぶしてるのがシルヴェローズか? いい匂いだな。こういうパンは初めてだ」

「ああ。細長い葉を刻んで練り込んでいる」


 舌触りは少し悪くなるが、優しい花の香りは、クリームや蜂蜜と合わせてもいいし、焼いた肉をのせても美味い。なにか具を挟んだっていい。


「蜂蜜とも合う~!」

「ジャスミン、他のものも食えよ」


 さらにパンへと手を伸ばすジャスミンに苦笑すると、幼い顔が少し赤くなった。小声で「わかってるもん」といいながら、今度はフォークとナイフでベーコンと目玉焼きを切ってい口に運ぶ。すると、その目が驚きに見開かれた。


「これ! ハーブ塩!?」

「ああ。試しに作ってみた。どうだ?」

「最高よ!!」

「そういや、目玉焼きがいい匂いしたなと思ったんだよ。ハーブ塩ってなんだ?」

「乾燥ハーブをすり鉢で細かく砕いたものに、塩を混ぜたものだ。手軽に味付けに使える」

「コショウの代わりみたいなもんか? 便利だな。これも売れるんじゃないか!?」


 今度は、金儲けに気付いたらしいトレヴァーが目を輝かせる番だった。

 塩は女神の贈り物だから、貯蔵庫から減ることもないしな。原価はあってないようなもんだ。お試し商品として売り出すのには、丁度いいかもしれない。


 食事の度に、こうしてカフェに繋がる話をするのも悪くない。

 これが、未来を見据えて語らうということか。


 自然と口元が緩むのを感じながら、スープを口に運んだ。


 それから、賑やかな食事を終えてキッチンを片付けていた時だった。

 畑の方で「ルーファス、大変!」と、ジャスミンの悲鳴が響いた。

 なにが起きたというのか。手を拭きながら外に顔を出すと、ジャスミンが杖を振って蝶を追いかけ回していた。

 畑の上を、きらきらと虹色に輝く蝶が舞っている。


「なに、騒いで……って、おい、ちんちくりん! なにやってんだ!?」


 トレヴァーも外に出るやいなや、悲鳴を上げた。

 蝶を追いかけ回しているジャスミンを見て、どうして真っ青になって驚くのか。

 二人の状況が全く飲み込めず、髪をガシガシかき回していると、ジャスミンは杖の先端い魔力を集め初めた。


「ばっ、やめろ、ちんちくりん!」

「煩いわね!! こんな害虫、野放しに出来ないわ。──ライトショット!」


 光が放たれ、ひらひらと舞う蝶を打ち抜いた。


「バカヤローーーー!! シャドウニブルの成虫がぁああああっ!!」


 きらきらとした蝶の羽が霧散して、地面に落ちていくのを見たトレヴァーの絶叫がこだました。

 シャドウニブル? さっきの蝶の名前だろうか。あれほど輝いていたというのに、影と名がついているのはどういうことだろうか。


次回、本日17時頃の更新となります


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