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転生した失地王がハーブ畑を耕したら、押し掛け魔女に癒しのカフェをはじめないかと誘われました!  作者: 日埜和なこ


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第16話 大魔女ジャスミン様のありがたい回復薬?

 西の空が茜色に染まる頃、ジャスミンがログハウスを訪れた。

 持っている杖はいつも持ち歩いているものと違い、先端にランタンが吊るされている。その中で輝いているのは、魔法鉱石のようだ。


「ルーファス、お弁当はできた?」

「ああ、簡単なサンドイッチだけどな」

「やったー!……ところで、トレヴァーは?」

「まだ寝てるぞ。夕方には起きるといっていたが」


 苦笑していうと、ジャスミンは「やっぱりね」と呟いた。てっきり、へっぽこ魔術師と罵るもんだと思っていたが、その顔は笑っている。これはどういう意味か。


「あいつってバカね」

「なんだ、急に」

「あんなに全力で魔法使ったんだもん。放っといたら丸一日寝るわよ」

「……そうなのか?」

「そうよ。あいつの使った魔法は、風と光の魔力を大地の魔力に変換するものなの」

「はあ……」


 農家の畑のことを思い出してみるが、あの時、トレヴァーはなにをしていたのか。呪文を唱えたら、空から光が降ってきて、それを畑にまいていたように見えたが。

 そんなに大層なことをしていたのか。


「あれは、そんなにすごい魔法だったのか」

「あたしが畑に魔法の水をあげるのと、似たような魔術ね」

「魔術? 魔法とは違うのか?」

「んー、簡単にいえば、魔法を組み合わせたのが魔術よ」


 いいながら、ジャスミンは鞄に手を突っ込み、がさごそとなにかを探し始めた。


「魔術師や魔女は、なにかしらに特化してるの。あたしは水ね」

「トレヴァーは土だろう?」

「そう。それぞれ相性があって、風と光の魔力を合わせると、土に馴染みやすい魔力に変化させられるるの」

「……つまり、足りない土の魔力を別ので補おうとしたのか?」

「そういうこと。手伝ってあげようとしたのに、あいつ、見栄張って『俺の役目だ』っていうから放っておいたんだけど」


 ため息をつきながら、小さなガラス瓶を引っ張り出したジャスミンは、少しきまり悪そうな顔をする。それを俺に付き出して「これ」っといった。

 瓶の中で揺らぐ青い液体が、ランタンの灯りを反射してキラキラと輝いた。


「薬か?」

「ジャスミン様特製、魔力の回復薬よ。叩き起こして飲ませてくるわ」

「……もしかして、わざわざこれを作りに帰ったのか?」


 その問いに返事はない。


「まあ、人手が多いに越したことはないが」

「そういうこと! 連れていかなかったら、後で文句をいいそうでしょ」


 薄暗い中、ランタンに照らされたジャスミンの顔は、やはりどこか照れているように見える。正直に、トレヴァーを心配しているといえばいいものの。

 ずかずかとログハウスに入る姿を少し微笑ましく思っていると、不満の声が上がった。


「あー、もう! あたしのソファーで寝てるし、最悪ね! ちょっと、起きなさいよ。このへっぽこ!」


 ぺちぺちとトレヴァーの頬を叩いたジャスミンは、俺を振り返ると「手伝ってよ!」と叫んだ。

 こんなに煩くしても起きないのだから、寝かせておけばいいものを。


 やれやれと思いながらトレヴァーの体を起こすと、不満そうに「なんだよ」と呟きが聞こえてきた。


「ほら、森に行くわよ。これ、飲みなさい!」

「は? なにいって……」


 わずかに開いた口に、開けた瓶の口を突っ込んだジャスミンは「いいから、飲む!」といって、それを傾けた。だいぶ乱暴だな。少量の薬はすぐに口に流れ込み、ほぼ無意識にトレヴァーは飲み込んだ。


「──!? にがっ……げほっ、なっ、なに飲ませやがった!」

「ほら、目が覚めた」

「……だいぶ乱暴だがな」

「はぁ!? なんなんだよ!」

「安心しなさい。ちょーっと苦いだけの回復薬よ」

「回復薬だぁ?」


 眉をしかめたトレヴァーだったが、はたとなにかに気付いたらしく、広げた両手をしげしげと見ると俺を振り返った。

 いや、俺に答えを求められても、なにも答えてあげられないんだが。


「さっさと森に行くわよ!」

「おい、ちょっと待て! もしかして、魔力快復の薬か? おい、ちんちくりん!」


 立ち上がったトレヴァーを振り返ったジャスミンの顔がものすごく険しくなっている。ああ、これはおそらく「ちんちくりん」といわれたからだろうな。


「ふんっ、貸しよ! あたしの上等な薬を分けてあげたんだから、せいぜい、馬車馬のごとく働きなさい!!」


 全く素直じゃないな。まあ、つい昨日までいがみ合っていたのだから、こうなるのも仕方ないのか。

 ため息をつきつつ、トレヴァーの肩を叩く。


「今のは、お前が悪かったと思うぞ」


 こうして、だいぶ日が沈んだ頃、ログハウスの裏に広がる森へと俺たちは向かった。

 空には満月が上り、暗い森を照らしていた。


 ジャスミンのランタンの明かりのおかげで、足元がなんとかわかる。それがなかったら、とてもじゃないが踏み込みたくはないな。

 歩くたびに、腰に下げた獣除けの鈴が静かに音を奏で、暗闇に響き渡った。


「ジャスミン、ルナディルはどこにあるんだ?」

「あたしの家から、少し行ったところにある泉の側に群生地があるの」


 前を歩くジャスミンが杖を掲げると、その先にだいぶ太い大木が見えた。クリムナットだろうか。何十年、いや、百年以上の樹齢だろう。


「あれが、あたしの家」

「あの木が? お前、とんでもねーとこに住んでんな」

「魔女の家を見た目で判断するなんて、ほーんとへっぽこね!」

「あんだとぉ?」



 また睨み合う二人に「お前ら」と呟くと、二人はぴしっと背筋を伸ばした。


「泉はどっちだ?」

「こっちよ!」


 大木を横切り、さらに奥へ進むと、小川のせせらぎが聞こえてきた。それに沿うように進んでいくと、冷たい風が吹いた。

 木々の合間に現れたのは、岩の間から水が流れ落ちてできた小さな泉だ。ちょうど泉の真上は木々がなく、月明かりが差し込んでいて、水面がキラキラと輝いていた。


「どれが、ルナディルだ?」

「花なんて咲いてないぞ?」

「ちょっと待って。お祖母ちゃんのメモには、魔力に反応して光ったって書いてあったわ」


 そういいながら、ジャスミンは泉に足をつけ、その中央へと入っていった。なにか、やる気のようだな。

 持っていた杖が泉に突き刺される。


「夜の乙女よ……その力を光となして、森の命を輝かせよ──アストラチャージ!」


 凛とした声が響くと、泉に映る満月が輝いた。上空から、キラキラと銀の光が粉雪のように舞い降り、水面を震わせる。直後だ。まるで間欠泉のように、泉の水が吹き上がった。


「ジャスミン!?」


 吹き上がった水が、杖の先にあるランタンへと吸い込まれていく。光がいっそう強まり、まるで爆発したように、輝かしい光が四方八方へと放たれた。


 眩しさに目を閉ざし、しばらくすると「見て!」とジャスミンの嬉々とした声が響いた。

 そっと瞼を上げると、泉の周りでキラキラと輝く花が揺れていた。


「……これが、ルナディル?」


 まるで羽のように柔らかそうな、細い葉が集まった風にそよいでいる。その先には、青白く輝く小さな花が咲いていた。


「さあ、摘んで帰りましょう!」


 持ってきたハサミをパチパチと鳴らして笑うジャスミンは、丁寧にルナディルを摘み始めた。それを唖然と見ていたトレヴァーが、俺を振り返る。


「なあ、ルーファス……ジャスミンって何者なんだ?」

「……さあな」

「さあなって。月の魔力を使うとか……あいつ、マジで大魔女なのかもな」

「月の魔力?」

「ああ。今、あいつは月の魔力を水と混ぜてこの一帯に撒いたんだよ。月ってのは、強力なんだけど扱いにくくってさ」


 顰められた声から、トレヴァーの緊張が伝わったてきた。

 魔法のことはよくわからないが、同業者が凄いというのだから、ジャスミンのやっていることは相当凄いのだろう。もしかしたら、国の中枢に存在が知られたら、引く手あまたなのではないか?


「俺があんだけの魔術を使えたら、こんな森になんて住まないけどな。どこでもやってけるし、稼ぎ放題だぜ」

「……ジャスミンにも訳があるんだろう」

「訳ねぇ……もったいねぇな」


 トレヴァーがため息をつくと、ジャスミンが「ちょっと!」と声を上げた。


「二人とも、お喋りしてないでよ! ほら、あっちでも咲いてるよ!」

「へいへーい!」

「ルナディルの花は満月の夜にしか咲かないんだから。今を逃したら、手に入らないのよ!」

 

 ジャスミンが森で生きるのに、どんな理由があるのか。いつか話してくれる時があるのだろうか。──それを知りたいと、思っている自分がいることに気付き、驚いた。

 もう二度と、他人と関わらずに生きたいと思っていた筈なのに。

 脳裏に、俺を裏切った臣下の顔がちらついた。


「ルーファス、見てー! ここにも、いっぱい咲いてる!!」


 名前を呼ばれ、振り返った先で満面の笑みを浮かべるジャスミンを見て、ほっとする。


「あーっ、へっぽこ! そうじゃなーい!! 外葉だけを摘むのよ。そんな摘み方したら、株が弱るでしょう!!」

「知らねーし! だったら、初めからそういえ!!」


 ぎゃんぎゃん騒ぐ二人を見ていると、おかしくなってくる。

 目的の違う俺たちが、こんな夜更けにハーブを摘んでいるなんてな。それも、ほぼ俺のためだ。

 二人の側により、その頭に手を置いて、がしがしと撫でまわした。二人が驚いた顔をして俺を振り返る。


「ケンカをするな。ログハウスに戻ったら夜食にするぞ」

「サンドイッチ!」

「お前ってさ、食うことばっかだな」

「誰かさんのおかげで、余計な魔力も使ったからね。さあ、もうひと頑張りするわよー!」


 再びハサミを動かし始めた二人を見て、自然と口元が緩んだ。

 素性の知れない者同士だというのに、不思議と、城の中で生きていた時よりも安心する。

 

 いつか、二人はログハウスを出ていくだろう。それが、寂しいと思う日が来るのかもしれないな。

 ルナディルの葉に挟みを入れながら、ふとそんなことを考えていた。

次回、本日13時頃の更新となります


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