免罪符
まずは、この作品を拝見しようと思ってくださりありがとうございます。未熟者の作品ですから温かい目で見てくださると幸いです。前置きが長くなってしまいましたね…「喫茶 404」にようこそ!
疲れた。もう疲れた。うんざりだ。世間様は俺らを褒め称えるような目で街に歓迎している。「いやはや、遠い遠方の地からお越し下さりありがとうございます。さぞお疲れでしょう。この街で最も…」恰幅のよい立地なヒゲを携えた男性がこちらに話している。そんなのどうでもいいんだよ。早く、早く一人にさせてくれ。そんな事を考えているとこの街の地図を受け取った。どうやら俺らパーティーに是非とも泊まってほしいという宿は随分と入り組んだ場所にあるらしい。これがいわゆる"秘境"ってやつか?と考えているとパーティーメンバーの一人が背中を押してきた。まるで遠足にやってきた子供のようにキラキラさせた目で早く宿へ行こうと催促してくる。「わかったよ。だからあんまり急かすな。この街で迷子にでもなったらどうするんだ」。そう、この街はダンジョンのように入り組んでいる。月明かりに照らして地図を見ながらぼんやりと考えていると…着いた。ここが泊まる宿だ。パーティーメンバーが嬉しそうにはしゃいでいる中、ただ一人俺は曇った表情で光沢のあるいかにも高級そうな宿の扉を開けた。
眠れない。そう思った俺は一人でこの街を散策することにした。気を紛らわせるためにと。時刻は0時を過ぎた辺りだろう。街も静かで皆が寝静まった時間帯の散策は俺の冒険の中で好きな事の一つだ。どれくらい歩いただろうか。ふと、横を見ると明るい場所を見つけた。こんな時間に何やってるんだ?光に集まる虫のように俺の体はそちらに向かって行った。看板が出ていた。そこには「喫茶 404」と書かれていた。何だこの店?数字に意味があるのか?そんな疑問に駆られながらも俺の手は素朴な、でも暖かみのある扉を開けた。
「嘘だろ…」と自然と口から溢れていた。目の前の店員さんはとっくの昔に滅んだと言われたエルフだった。特徴的な長い耳と大地を感じさせる美しい碧眼が見える。こちらに気づいた店員さんは「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」と聞いてくる。だが、俺はその場でフリーズしてしまっていた。「大丈夫ですか?」と優しく肩を揺さぶられてやっと声を出すことができた。「え…はい、一人です…」と震えた小さな声で…。「では、カウンター席でよろしいでしょうか?」と聞かれ「はい、カウンター席で大丈夫です…」。未だに動揺が止まらぬまま案内されると、白髪が混じった黒髪を整えた男性がカウンターの向こう側でグラスを拭いているのが見えた。こちらに気づくと「ようこそ、"喫茶 404"へ。ここではあなたは何者でもありません。一人のお客様として対応させていただきます」。「えっと…何でエルフの店員さんがいて働いているんだ?」どうして疑問に思った事を何の捻りもなくダイレクトに聞いているんだ!頭を抱えて自問自答していると、マスターが「エルフ?冗談が上手いですな」と答えた。いや、どっからどう見てもエルフだろ。この世界のお伽話になっているあのエルフだろ。と内心突っ込んでいるとマスターが真剣な眼差しで「ここにいる者は何者でもないのです」。やばい所に来ちゃったかなと後悔していると間髪入れずに「例え働いている店員が人間の愚かな欲望によって滅ぼされたエルフの生き残りだとしても!」その言葉に思わず驚愕する。なぜならお伽話では魔王が森に火を放ち滅ぼしたと、この世界に生きる人間の多くが親から聞かされてきた。「マスター、それ本当なのか?」と問い詰めると知らん顔をして「本日は何をご注文になりますか?」と聞いてきた。どうやら本当にこの店の中ではあのエルフの店員さんは"何者"でもないただの店員さんらしい。しかめっ面でメニュー表を見て適当にホットミルクを注文した。提供されたのはホットミルクとは程遠いクリームがたっぷりの苺のパフェとコーヒーだった…は?
あの、注文と全然違うんですけどと伝えようとした刹那、「あなたは何に苦しめられて眠れない日々を送っているのですか?」とマスターがコーヒーを飲みながら聞いてきた。何でそんな事知ってんだよ。パーティーメンバーにすら相談してないんだぞ。この店に来てから驚いてばかりだったが今回のはレベルが違う。まるで俺の心を読んだ風に聞いてきた。「あんたに相談して変わるモノじゃねぇよ」と少し反抗的な態度をとってみる。「じゃあその目の下の隈は何でしょうか?明らかに良い睡眠がとれていない確たる証拠でしょう」。沈黙が訪れた。ちくしょう!何も言い返せない。マスターがこちらに視線を合わせて「貴方が持っているその"指輪"は何ですか?」と尋ねてきた…透視スキルでも持ってんのか?「これは…俺のパーティーメンバーの一人にプレゼントする予定の指輪だ」。ハッタリをかけてみる。「ほぅ、その魔大陸の小さな村で少ししか採取する事のできない"メモリアルマナタイト"の鉱石を削って作られたこの世界で片手に収まる程しか作られていないその指輪をパーティーメンバーに…凄いですね。貴族の者が全財産を投げ打ってでも買えないその指輪を…」。「分かったから!説明するから!」…マスターには全てお見通しらしい。
「これは魔王軍幹部の一人"ラーゼリア"を倒した時に拾った物だ。最初はただのドロップ品だと思ってたんだ…指輪の裏に名前が刻み込まれた事を発見するまでは」。何を話しているんだろう。どうして口が動いてしまうんだろう。「"カルミリア"って名前が刻み込まれていた。そいつも魔王軍幹部の一人だ…そして何となく察したんだ。コイツら魔物の癖に人間の真似事をしてるんだって…」。マスターは口を開かず真剣に聞いてくれてる様子だった。それがありがたかった。これは懺悔室でも話すことができないと思っていたから。「そして数ヶ月後に魔王軍幹部カルミリアと戦うことになった。そいつのダンジョンの最深部までギリギリで到着することができたんだ。俺ら以外のパーティーはいなかった。限界だとか言ってテレポートのスクロールで街まで帰ったんだ。そん時は俺を含めたパーティーメンバー全員が疲れていたから気づかなかったんだ」。コーヒーを一口飲んで喉の渇きを潤し、震えた声で話す。「"どうして魔王軍幹部のダンジョンなのにテレポートのスクロールが使えたんだって"野良のダンジョンだってある程度の深さまで行ったらスクロールは使えないことが多かった。いや、そもそも使えるはずがないんだ。ダンジョン内の魔素が濃くなって上手くスクロールが使えないことがこの世界の常識だったから」。この事に気づいたのは罪の意識が芽生えた直後だった。「仲間はミスっただけと俺に伝えた。当時の俺も何となくそれで納得した。いや、"納得したかったんだ"」。自分の唇を強く噛んだ。後悔が強く滲み出る。一旦、コーヒーを飲んで心を落ち着かせる。「カルミリアを倒した。最後まで立っていたのは俺だけだった。そいつは、いや彼女は死ぬ間際に"彼は、ラーゼリアは今、何をしているんだ"って俺に聞いてきた。簡潔に俺が倒したって例の指輪を見せながら言ったんだ。そしたら彼女は泣いたんだ。魅了の魔法でもなく、生き残りたいと懇願する愚かな涙でもなく、愛する者を失った涙を流していた…」。俺はまだ彼女の泣き顔が忘れられない。ママごとだと思っていたモノは本物で、その愛は人間と何が違うんだって考え始めたのも確かその頃だった気がする。「彼等は付き合っていたんだでも魔王軍の幹部だから仕事を簡単に抜け出す事はできない。だけどスクロールが使える環境にすれば頻繁に会うことが可能になる。スクロールさえある限り。」ラーゼリアを倒して部屋に宝箱があるのを発見した。開錠スキル持ちの仲間が宝箱を開けると中に入っていたのはテレポートのスクロールだけだった。当時はガッカリしたが、全てを知った後では見方が変わってくる。定期的に会いに行っていたのだと。俺らパーティーはそのスクロールを何の躊躇いもなしに売った。何に使っていたのか露知らずに。「俺はモンスターを見るたびに考える。コイツらにも大切な者がいるんじゃないのかって」。俺は全てをマスターに話した。当然、理解されるものじゃないと考えていた矢先、マスターは「魔物にも大切な者はいます。我々は忘れてはいけないのです。命を奪っている事を…ですが貴方はこの事を軽んじなかった。それだけで十分ですよ」。優しい言葉をかけてくれた…でも「俺には分からないんだ。魔王軍が悪いと伝えられてきた。被害もある。けど、それは俺たち冒険者と何が違うんだ?守るべき者のためにお互いが戦っている。俺ら冒険者は"魔王軍は、モンスターは悪しき者"を免罪符にして戦って正当化しているだけじゃないのか?」。きっとこの問に答えを求めてはいけない。マスターは静かに、だが確かな声で「答えは…パフェの中にある!!!」と言った。…正気かこの人は。途中までカッコよかったのに急にどうした?と考えているとマスターの眼力が強くなった気がする…。苺パフェを手に取る。口に運ぶと甘くて濃厚なクリームと苺の酸味がちょうどいい塩梅でお互いを引き立て合っている。「おいしい」と思わず言ってしまった。その言葉を聞いてマスターは一瞬微笑むと俺の目を見て「ここでは貴方は冒険者ではなく"お客様"です。それを踏まえて聞いてください」マスターは一呼吸置いて「酸いも甘いもなくては人は成長できませんし、どちらかが多ければ均衡が崩れて立ち止まってしまうでしょう」と淡々とマスターは語る。「この世界も同じですよ。魔王軍と冒険者の均衡が崩れれば悲劇が起こる事は間違いないでしょう。だからこそ傍観者でいてはいけないのです」。マスターが俺の手元のコーヒーを見ながらまた話の続きを語り出した。「街の一般人も一度は苦い経験を味わうべきなのです。全てを冒険者に任せずにできる事をなすべきなのです」そして「これは貴方一人が背負うべき責任ではない」と言ってくれた。…仲間には見せられないような姿で泣いてしまった。まるで子どものように。エルフの…店員さんが泣き止むまで背中を優しくさすってくれた。
涙が止まり少し残っていたコーヒーを飲んだ。冷めていたが美味しさはあまり変わらなかった。マスターの腕が凄いって事なのだろうか?会計を済ませパーティーメンバーが泊まっている宿に戻る事にした。もう少しで太陽が上りそうだ。俺、何時間ここに居たんだよ…。扉を開ける直前店員さんから呼び止められた。「お客様少し待ってくださってもよろしいでしょうか?」と尋ねてきたので「はい、大丈夫ですけど…何ですか?」少し待っていると店員さんが首飾りをくれた。「それは"喫茶 404"に次回以降入る時に必ず首にかけていてください。それはこの喫茶の"扉"です。」と店員さんが説明してくれた。どういう事かさっぱりわからないがとりあえず首にかけておく事にした。マスターは最後に「またのご来店をお待ちしております」と言った。俺には何故だか鼓舞するように聞こえた。「頑張ってください」と。扉を開けると…ベッドの上に居た…は?
「何か体調良くなった?」とパーティーメンバーの一人が聞いてきた。「おうよ。元気いっぱいだぜ!」と心配されないように答える…"俺一人の責任じゃない"という言葉が頭の片隅にずっといる。深呼吸を挟んで俺は話し始めた。俺の心情とこれからの事を。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」と店員さんに聞かれ「はい、一人です」と答える。いつものカウンター席に座る。「"喫茶 404"へようこそ!本日は何をご注文になりますか?」
まずはここまで読んでくださり本当にありがとうございます。何となくお風呂場で考えていたものを作品にしたので設定や雰囲気、その他諸々が曖昧です。私にとって初めての作品になるのですがどうでしたでしょうか?楽しめていただけたら幸いです。正しいとは何か?と疑問を抱いていただいたらこの作品の伝えたい事が伝えられたと思うので私的にはとっっても嬉しいです。駆け出し小説家の物語を読んでくださった皆様にもっと面白い作品を書けるよう頑張ってまいりますので次回作以降も楽しみに待っていてください。




