第14話 『補給線を折れば、戦争は崩れる』
敵が静かな時ほど、こちらの耳は忙しくなる。
風の音に紛れて、森の奥で枝が折れる音がする。雪のない季節でも、夜の森は音を飲む。飲まれた音の“欠け方”で、人の動きが分かる。
前線の見張り台では、兵が肩を寄せて息を潜め、松明の火を最小限に絞っていた。火が大きいほど、敵に位置を教える。火が小さいほど、寒さが骨に入る。寒さで手が震えれば、弓がぶれる。弓がぶれれば、死ぬ。
ミレイユは指揮所の机に、斥候報告を並べていた。昨夜からの報告、今朝の報告、昼の報告。紙の端を揃え、時間順に並べ、同じ場所を指す情報を一つの束にまとめる。
矛盾は捨てない。矛盾は、現実の影だ。
ルーカスが外から戻り、短く言った。
「敵の火が、今夜も少ない。炊事の煙が見えません」
ミレイユは頷いた。
「……移動が前提。もしくは、補給が途切れている」
「敵が、こちらと同じ状態に?」
「可能性はあります。だから、こちらが補給を守れれば勝てます」
勝てる、という単語は口にしない方がいい。前線で勝てると言うと、油断が出る。
ミレイユは言い直した。
「……崩れません」
ルーカスは苦笑し、机に一枚の紙を置いた。敵斥候を捕まえた報告だ。捕まえたと言っても、生きてはいない。矢が刺さったまま倒れていた。身元と装備だけが手がかりになる。
アルベルトが入ってきたのは、その直後だった。外套の肩に霜がつき、冷気を連れてくる。顔色は悪いが、目は冴えている。目が冴えている人間が一番危険だ。疲労を無理やり押さえつけている。
アルベルトは地図の前に立ち、指で国境線をなぞった。
「正面は当面来ない。来るとしても偵察だ。……問題は、向こうが補給をどうするかだ」
ミレイユは机の紙束を一つ持ち上げ、静かに置いた。
「敵の補給線を切れば、正面は来られません」
ルーカスが息を止めた。
前線で“切る”と言うのは簡単だ。実行するのは地獄だ。敵の補給線は敵の領域で、守りが厚い。こちらが出れば、逆に首を取られる。
アルベルトがミレイユを見た。
「今、俺に攻めろと言うのか」
「攻めるのではありません。補給を削るだけです。正面の勝利ではなく、戦争の体力を削ります」
アルベルトの目が細くなる。
「どこを」
ミレイユは地図の端、敵領へ伸びる一本の道を指した。川沿いに蛇行する細い道。その道が一度だけ、枯れ川の橋で狭まる地点がある。
橋の前後は斜面。左右は森。視界が切れる。逃げ道はあるが、逃げる方向を選ばせる地形だ。
「ここです。枯れ川の橋。敵の荷車が通るなら、ここが一番詰まります」
ルーカスが地図を覗き込み、指で距離を測る。
「砦から、半日弱。往復で一日。夜を挟むと冷えます」
「夜を挟みます。夜の方が成功率が上がります」
アルベルトが低い声で言う。
「夜襲は、味方が迷って死ぬ」
「迷わない手順を作ります。隊列は伸ばしません。人数を絞ります。目標を一つにします。撤退線を最初に決めます」
“最初に撤退線”。
その言い方は軍人の言い方だ。死にたくない者の言い方でもある。
アルベルトは顎で示した。
「説明しろ。短く、具体的に」
ミレイユは頷き、紙に簡単な図を描いた。
文字は少ない。矢印と線だけ。
敵補給車列が通る時間帯の推定。護衛の人数の推定。橋での詰まり。斜面からの射撃位置。橋上の障害物。
「斥候報告から、補給車列は二日おき。今夜か、明日の夜に通る可能性が高いです。
護衛は多くて五十。荷車は十前後。
狙うのは荷車と飼料。燃やせば、敵騎兵が動けなくなります」
ルーカスが呟く。
「燃やす……」
ミレイユは淡々と続けた。
「燃やすための油は、こちらが持っていきます。敵の油に頼りません。
火は最小限。火を大きくするのは撤退後です。
橋の上に障害物を置き、車列を止めます。止めたところを弓で削り、混乱した護衛を槍で抑えます。
追撃はしません。目標は物資の破壊です」
アルベルトは一拍置き、問い返した。
「障害物は何だ。石か、丸太か」
「丸太です。運べます。斜面から落とせます。音は出ますが、出る音は短い。短い音は許容です。長い音は殺します」
ルーカスが頷いた。短い音は、敵が構える前に終わる。長い音は、敵が構える時間を与える。
アルベルトは顎を撫でた。
「誰が行く」
ミレイユは答えを用意していた。
行く人数は少ないほどいい。少ないほど見つかりにくい。だが少なすぎると、混乱で潰される。
「弓兵二十、槍兵二十、盾持ち十、工作役十。計六十。
班長は、昨日動きが良かった者。命令を短くできる者。
私とルーカスは後方の伝達と撤退線の管理。団長は前に出る必要はありません」
最後の一言は、危険だった。指揮官に“出るな”と言うのは反感を買う。
だが、アルベルトは反発しなかった。
「俺が出ないと、纏まらない」
「纏まります。班長に権限を渡し、団長は後方で線を持ってください。団長が死ぬと全て終わります」
終わります、という言い方が冷たい。
しかし前線では、冷たさは正確さになる。
アルベルトは少し黙り、最後に言った。
「……分かった。俺は後方。前は、第二隊長に任せる。ルーカス、準備に入れ」
「承知しました」
命令が落ちた瞬間、指揮所の空気が変わった。
会議から作業へ。作業から実行へ。前線はそれが早い。早くないと死ぬ。
ミレイユは紙を整え、必要な物資を列挙した。油、火口、布、縄、斧、鋸、予備の弓弦、矢束、簡易担架、止血帯、乾燥肉と水。
水は多めに。火は体力を奪う。火が体力を奪うと、撤退が遅れる。撤退が遅れると死ぬ。
準備が進む中、指揮所の外で兵のざわめきが増えた。
「敵地に入る」
その噂は兵を興奮させる。興奮は強さでもあり、事故の種でもある。
ミレイユはルーカスに短く言った。
「言葉を揃えましょう。これは“敵地襲撃”ではなく“補給妨害”です」
ルーカスが頷き、班長に伝達した。班長が兵へ伝える。兵の興奮が少し落ちる。落ちると、夜道で足を滑らせにくい。
───
出発は日没直後だった。
空が灰色から黒へ落ちる瞬間が一番危険だ。目が闇に慣れていない。敵も同じ。だから、動くならその瞬間がいい。
隊列は伸ばさない。六十を三つに分け、間隔を詰める。前後の距離が近いほど、迷子が出にくい。迷子は死者だ。
ミレイユは隊列の最後方寄りにいた。前に出ない。前に出ると、矢が飛ぶ。矢が飛んでくる場所に、幕僚がいる意味がない。
だが後方でも、耳は前へ伸ばす。足音の乱れ。息の荒さ。装備の擦れる音。
森へ入ると、冷えが増した。
土の匂いが濃くなり、苔の匂いが混ざる。吐く息が白くなる。白い息は夜では見えにくいが、月が出れば見える。月が出たら、顔を伏せる。
斥候が戻り、第二隊長へ小声で報告する。
荷車の軋む音が遠くにある。馬の鼻息が聞こえる。金属が触れる音が混ざる。護衛の鎧の音だ。
車列は来ている。
第二隊長が合図を出し、隊列が散った。散ると言っても広がりすぎない。森の陰に身を伏せ、弓兵は斜面へ上がり、槍兵は橋の手前の影へ。工作役は丸太を抱え、斜面の上で息を殺す。
ミレイユは後方で、撤退線の確認をした。
戻る道は一つではない。敵が追ってきた時の分岐。小川の浅瀬。滑りやすい斜面。
“帰り道”は、来る前に頭に叩き込む。戦闘が始まれば、頭は熱で白くなる。白くなった頭は地図を思い出せない。
ルーカスが横に来て、囁く。
「……本当に、やるんですね」
「……はい。今やらないと、こちらが削られます」
ルーカスは頷いた。頷き方が少し硬い。彼も怖い。怖いのが正常だ。怖くない者は、死ぬまで前に出る。
遠くで軋む音が近づき、やがて、橋へ入る足音が聞こえた。
馬の蹄が木を叩き、荷車の車輪が橋板を軋ませる。木の橋は音が出る。音が出る場所は、こちらが狙うべき場所だ。音で敵の位置が分かる。
護衛の声が小さく響いた。
「急げ」
「止まるな」
声が荒れている。余裕がない。余裕がないのは、補給が逼迫している証拠だ。焦っている補給は、守りが乱れる。
第二隊長の合図が、闇の中で僅かに動いた。
次の瞬間、斜面の上から丸太が落ちた。
短い轟音。
木が木を叩く乾いた音。
丸太は橋の中央で荷車の前へ転がり、車輪に当たって跳ね、橋板が軋んだ。
馬が嘶き、荷車が止まる。
止まった瞬間が、殺しの瞬間だ。
弓が鳴った。
闇の中で弦が震え、矢が風を裂く。音は小さい。だが刺さる音は鈍く、耳に残る。
護衛の一人が喉を押さえ、血を噴き、膝をついた。別の一人が肩を射抜かれ、盾を落とした。盾が落ちた瞬間、次の矢が胸に入る。胸板の隙間に矢が滑り込み、男が息を吐きながら倒れた。
敵が叫び、盾を上げ、橋の上で隊形を作ろうとする。
だが橋は狭い。狭い場所は、隊形が作れない。隊形が作れない場所は、混乱が勝つ。
こちらの槍兵が橋の手前の影から出た。
盾持ちが前へ出て壁を作り、槍が隙間から伸びる。
突く。引く。突く。
槍先が腹に入り、抜け、血が橋板に落ちる。落ちた血はすぐ黒く見え、滑りを作る。滑った敵が転ぶ。転べば盾がずれる。盾がずれれば矢が刺さる。
敵の護衛が反撃に出た。
盾を押し出し、槍を突き出し、こちらの盾に槍先が刺さる。木が裂ける音がし、盾の縁が欠ける。欠けた隙間から槍が滑り、盾持ちの前腕を削った。肉が裂け、血が走る。盾持ちは呻き、歯を食いしばり、盾を落とさない。盾を落とすと、後ろが死ぬ。
第二隊長が短く命じた。
「押すな! 止めろ! 荷車を狙え!」
狙いを人から物へ移す。
それが“補給妨害”だ。殺し合いをしたいのではない。物資を潰したい。
工作役が前へ出る。
斧が振り下ろされ、荷車の軸が叩かれる。木が割れ、車輪が傾き、荷が崩れる。
崩れた麻袋が橋板に落ち、白い粉が舞った。飼料だ。粉が舞うほど乾いている。乾いている飼料は燃えやすい。
敵がそれを守ろうと前へ出た瞬間、弓兵が上から矢を叩き込んだ。
矢は盾の上から落ちる。盾の上から落ちる矢は、首に刺さる。
首に刺さった男が目を見開き、口を開き、音にならない叫びを漏らし、橋板に倒れた。倒れた体を踏んだ別の護衛が滑り、膝をつく。膝をついたところへ槍が入る。脇腹に槍が沈み、男が吐き、血が泡になる。
火口が回る。
油を含ませた布が麻袋に投げ込まれ、火が一気に走った。乾いた飼料は炎を抱え、炎は荷車へ移り、木の車輪が燃え、脂の匂いが立つ。
火の明るさが一瞬増え、敵もこちらも顔が照らされた。
照らされるのは危険だ。
だから、火は“最後”にするはずだった。だが今は、敵が荷を守ろうとして固まっている。固まっているなら、火で散らせる。散れば、こちらは撤退できる。
第二隊長が叫ぶ。
「撤退準備! 荷車二台、燃やせ! 矢、最後まで削れ!」
矢が飛ぶ。
燃え上がる炎の明かりで、敵は逃げ道を失う。橋の上は狭い。燃える荷車が障害になり、後ろの荷車が詰まる。詰まった車列が動けない。動けない車列は、燃える。燃えれば補給が消える。
敵の一人が狂ったように突っ込んできた。
短剣を振り、こちらの盾に体当たりし、隙間へ刃をねじ込もうとする。
盾持ちの兵が一瞬退き、刃が空を切った。そこへ槍が喉元を突き上げる。喉が裂け、血が噴き、男が短剣を落とした。短剣が橋板を叩き、乾いた音がした。
その瞬間、敵の弓がこちらへ飛んだ。
矢が闇を裂き、盾の縁に当たって跳ね、後ろの槍兵の腿に刺さった。男が叫び、膝が折れる。膝が折れたところへまた矢が飛び、地面に刺さる。敵も必死だ。必死な弓は当たる。必死な弓は、狙いが粗い代わりに数で来る。
ミレイユは後方で声を張らないまま、伝令へ短く指示した。
「負傷者、撤退線へ。担架は引きずらない。二人で抱えて運ぶ。足音を減らす」
伝令が走る。
負傷者を置けば、撤退線が乱れる。撤退線が乱れれば追いつかれる。追いつかれれば全滅する。
襲撃は成功しても、帰れなければ意味がない。
火は橋の上を赤く染め、煙が立ち上がった。煙は敵の目を潰す。こちらにも刺さるが、撤退を選ぶこちらは煙を盾にできる。
第二隊長が最後の命令を落とした。
「退け! 森へ戻れ! 追うな! 拾うな! 線を崩すな!」
拾うな。
倒れた敵の剣も、盾も、鎧も拾うな。拾った瞬間に隊列が乱れる。乱れた隊列は追撃で死ぬ。
前線の兵は戦利品に目が行く。だから命令が必要だ。
撤退は速かった。
最初に決めた道を、決めた順で戻る。
弓兵が最後尾を守り、盾持ちが負傷者を挟み、槍兵が左右を見張る。
誰も走らない。走ると息が荒くなり、足音が大きくなり、隊列が伸びる。伸びれば迷子が出る。迷子は死者だ。
背後で敵の叫び声が遠ざかる。
叫び声は追ってこない証拠でもある。追う余力がない。補給線が燃えている。荷車が詰まっている。護衛が死んでいる。追う兵は、火を消すか、馬を守るか、負傷者を引きずるか、何かを選ばなければならない。
選ばなければならない瞬間は、敗者の瞬間だ。
森を抜け、斜面を越え、小川の浅瀬を渡る。水が冷たく足を刺す。足が痺れる。痺れた足は転ぶ。転べば音が出る。音が出れば追撃に見つかる。
それでも隊列は乱れない。乱れないように、途中で小休止を挟む。小休止を挟むのは臆病ではない。小休止を挟むのは生存の手順だ。
砦の柵が見えた時、夜空はまだ黒かった。
戻ってこられた。
戻ってこられたこと自体が勝利だ。
襲撃の勝利は、燃やした荷車ではなく、戻った人数で決まる。
───
砦に戻ると、指揮所の中は静かだった。
アルベルトが待っていた。立ったまま、地図の前で。蝋燭は一本だけ。余計な火を使わない。
第二隊長が報告する。声が掠れている。煙を吸ったのだろう。
「荷車、三台炎上。飼料と乾燥肉が大半焼けました。馬二十ほどが逃げ、護衛は……こちらで確認できただけで二十以上が倒れています。追撃はありませんでした」
アルベルトが短く頷いた。
「こちらは」
「死者一。重傷二。軽傷八」
一、という数字が落ちた瞬間、指揮所の空気が一瞬止まり、次に、静かな安堵が広がった。
襲撃で死者一は、異常だ。異常なほど少ない。
異常に少ないのは、運ではない。手順が守られたからだ。
アルベルトの視線がミレイユに向いた。
「……お前の見立て通りだ。奴らは補給に縛られている」
ミレイユは淡々と答えた。
「補給は、戦争の首です。首を絞めれば、腕も足も動きません」
ルーカスが小さく息を吐く。
「明日、敵は荒れますね」
「荒れます。荒れる敵は危険です。危険ですが、長く続きません。荒れるのは余裕がない証拠です」
アルベルトが腕を組んだ。
「明日、正面に来るか」
「来ます。でも、勝ちに来るのではありません。取り返しに来ます。燃えた分を補うために、こちらの補給を狙います」
アルベルトが低く言った。
「なら、明日は守りを固める」
ミレイユは頷き、机に新しい紙を置いた。
襲撃の損耗記録。矢の消費。油の残量。斧の刃の欠け。
次に同じことをするなら、次の手順が必要だ。
アルベルトが紙を一瞥し、目を細める。
「……お前、戻った直後にそれか」
「……戻った直後だからです。熱が残っているうちに、手順を固定します」
熱が残っているうちに固定する。
それは、戦闘の記憶が正確なうちに記録するということだ。
前線の記憶は、睡眠不足と恐怖で歪む。歪む前に押さえるのが幕僚の仕事だ。
アルベルトは短く言った。
「よし。お前のやり方でやれ。——ただし、休め」
「……休みます」
ミレイユは即答したが、実際に休めるかどうかは別だ。
休みは必要だ。必要なのに、責任が増えるほど休みは削られる。
それを止めるのは、指揮官の仕事でもある。
アルベルトはそれ以上言わず、外套を掴んで外へ出た。
夜の見張りを確認しに行くのだろう。守りの線は、最後まで指揮官が見なければ切れる。
───
部屋に戻ると、リネが起きて待っていた。
灯りは小さく、布が用意され、水が温められている。侍女の手順も、前線仕様になっている。
ミレイユが外套を脱ぐと、血と煙の匂いが立った。自分の血ではない。だが戦場の匂いは、身体に染みる。
リネが震える声で言う。
「お嬢様……敵地へ……」
「……戻りました」
それだけで、リネの目に涙が浮かんだ。
涙は落ちずに止まる。止める力がついたのだろう。前線は、泣いても仕事がある。
ミレイユは手を洗いながら、淡々と報告した。
「荷車を燃やしました。飼料を焼きました。敵は、明日荒れます」
リネが唇を噛む。
「怖くありませんでしたか」
ミレイユは少しだけ考えた。
怖い。怖いのは当然だ。怖くないふりをするのは簡単だが、怖さを認めないと手順が甘くなる。
「……怖いです。だから、手順を守りました」
リネは頷き、布を差し出した。
布で顔を拭くと、煤が落ちる。煤は戦場の印だ。
王宮で付く印は香りだった。ここで付く印は煤だ。煤は生存の匂いだ。
ミレイユは記録帳を開き、今日の作戦を短く残した。
(目標:敵補給車列、枯れ川橋で阻止)
(手段:丸太障害、弓で削り、荷車破壊、飼料焼却)
(結果:荷車三台炎上、護衛損耗大、追撃なし)
(損耗:死者一、重傷二、軽傷八)
(次:敵は補給回復のため荒れる。こちらの補給線が次の標的)
最後に一行。
——敵を倒すより、敵を動けなくする方が早い。
蝋燭を消す直前、ミレイユはふと、アルベルトの横顔を思い出した。
襲撃の報告を聞いた時、彼は喜ばなかった。
ただ、死者が少ないことに、ほんの僅かに安堵した。
その安堵が、なぜか胸の奥に残る。
残る理由は、まだ分からない。
今は任務だ。
任務の線を切らないことが最優先だ。
だが——補給線を燃やす火より小さく、確かに、彼の安堵の温度が心に残っている。




