第4話 僕の夢が終わる
──どこまでも、落ちていった。
音がない。
重さもない。
世界も、自分も、ぜんぶ曖昧だ。
でも、わかった。
ここは……夢だ。
あの夢の続き。
「修学旅行のバス事故の患者が運ばれてきました!」
誰かの叫び声が響く。
手術室。ざわめく足音と、ぶつかる器具の音。
その真ん中で、彼女は運ばれてきた。
天井に向かって、かっと目を見開いている。
どうやら、焦点が合っていないようだ。
モニターの警告音が、耳を刺す。
「点滴追加! アドレナリン、もう一回!」
重なる声、重なる手のひら。
「… 死にたくない」
「… 生きたい」
彼女の唇がそう動いたように見えた。
魂が、震えた気がした。
医師が手を止め、静かに横に首を振った。
誰かが、彼女の胸にそっとシーツをかけた。
その瞬間、まぶたの裏が、すうっと──闇に沈んでいった。
***
まぶたに、強い光が透けて差し込んでくる。
僕はおそるおそる、目を開けた。
「……こうっ!」
声がして、誰かが顔を寄せる。
泣いてるのに、笑っている母さんだった。
「航、わかる? 聞こえる? 大丈夫……? 大丈夫だよ……!」
視界がまだぼやけてる。
でも、天井の白と、電子音だけははっきりしていた。
母さんの手が、僕の手を強く握っていた。
涙で濡れたまま、あたたかかった。
「ごめんなさい……ごめんね……ほんとに、ごめんね……!」
母の肩が震えているのを、僕は黙って見ていた。
さっきの夢の中。
彼女は、確かに言った。
──「生きたい」
あの声にならない声は、今でも胸の奥に残っている。
なぜか、それだけがはっきりしてた。
それを思い出すと、不思議と胸にあたたかさが灯ってくる。
──もう、あの子の夢は見ないかもしれない。
でも……それでも。
その“願い”だけは、たしかに僕の中に残っていた。




