第2話 僕と彼女の夢が交差する
雲の切れ間から差し込んだ陽が、スニーカーのつま先に斜めの影を落とす。
フェンスの向こうでは、風が騒いでいた。
昼下がりの屋上で、私は、缶のプルタブを引いた。
ぷしゅっ、と炭酸の音。
空気に弾けて、すぐに消えた。
ここ最近、よく見る夢がある。
明るいようで、どこか影のある場所。
その中で、私は“誰かに見られている気がする”。
──正確に言えば、「見つめられている」感覚。
距離はある。でも、ずっと視線が貼りついている。
顔も、声もわからないのに、不思議とその目線だけが強く残る。
目が覚めるころ、いつも胸の奥がざわざわしていた。
理由はわからない。
けれど、懐かしさと怖さがごちゃ混ぜになったような、そんな感覚が消えない。
「サボり魔、ここにいたか」
扉が開く音と一緒に、頭上から声が降ってくる。
振り返らなくても、知沙だとわかった。
「そっちこそ、よく見つけたね」
「まあね。あんたの行動パターン、最近わかってきた」
「ここにいないときは、保健室か図書室」
そう言って、知沙は当然みたいな顔で私の缶を取って、おかまいなしに飲む。
「……で、修学旅行のバスで何やるか決めた?」
「バス? 何が」
「もう。うちら、バスのゲーム係でしょ。
いっそカラオケ大会とかどう?
……まあ、また誰かが演歌独演会始めなければ、だけど」
ああ、それ絶対、この前行ったカラオケの話、引きずってる。
「はぁ? 独演会とか言うけど、あれ、知沙が『渋いやつ一曲』って言ったんでしょ?」
「一曲って言ったの! 一・曲!」
「気づいたら“石川さゆりメドレー”に突入してたんだよねー。
『津軽海峡〜』から『ウイスキーがお好きでしょ?』まで、全部制覇コースで」
「しかも最後の、それ、さゆりじゃないから!」
「えっ、マジで?」
顔を見合わせて、ふたりで吹き出した。
しばらく笑ったあと、知沙が半分空になった缶を戻しながら、少しだけ声を落とす。
「──で、まだ見てる? あの夢。男の子に見られてるってやつ。進展あった?」
私は缶を受け取りながら、曖昧に首をかしげた。
「うーん……ていうか、そもそも男の子かどうかも、正直わかんないんだよね」
「でも、“見られてる”って、やっぱ気になってるってことでしょ。
実はクラスの誰かじゃないの?」
「はいはい、恋愛脳」
苦笑いで受け流したけど、胸の奥のざわめきは、まだそこにあった。
知沙のからかいで笑えるほど、軽いものじゃない。
その視線は、夢の中でずっと私を見ていた。
誰なのかも、なぜなのかもわからないまま──ずっと、そこにいた。




