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英雄は今日も血に濡れる  作者: 年中暇な人
2章 在り方
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ゴールドラッシュ

車内は気まずい空気で満たされていた。

いつもであればうるさい連中も今日は静かに座っている。


烏丸はミラ越しに榊原を睨みつける。


榊原はまるで気づいていないかのように外の景色を眺める。


「...もうすぐゴールドラッシュにつくぞ。

シートベルトをしてくれ」

そう言う烏丸は、ばつが悪そうな声で囁く。

皆何を言う訳でもなく指示に従う。


車が減速するにつれ外が騒がしくなってきた。

怒号、笑い声、鉄を叩く音。

どれもが混ざり合い一つの熱になっている。


巨大なゲートの前には長蛇の列ができていた。

浮浪者、子供、老人、大人。


全員が同じ目をしている。


飢えた目だ。


「...噂以上に闇の深そうな街だな」

誰も返事を返さない。


榊原だけが薄く笑う。

「活気があっていいじゃないか。

死んだ街には亡者も寄りつきませんから」


烏丸が舌打ちを落とす。

「....相変わらず悪趣味な奴だ」


榊原は薄ら笑いを浮かべるだけでそれ以上は何も言わない。


列がジリジリと進む。

ゲートの奥では品定めが行われている。

武装した連中はヒョロガリだがその目は鋭い。


「どう言ったご用件ですか?」

ガードマンが尋ねる。


「仕事だ」

烏丸が軽快に答える。


「なるほど。

では名前をお願いします」


全員の名を告げるとガードマンは端末を操作する。

だが、目線はこちらを片時も離さない。


「確認が取れました

ご協力感謝いたします」


「ならもう行っていいよな

悪いが急いでいるもんで」


「ええいいですよ。

ですが後ろの方達は入国を許可出来ません」


「はあ?」

剣聖の声が低くなる。


「どういう意味だ」

剣聖が身を乗り出す。


ガードマンは一歩も引かない。

冷淡かつ冷酷に告げた。


「言葉通りです

入国出来ません」


剣聖が榊原を睨みつけて言う。

「話が違うぞ

まとめて通れるって話だった筈だろ」


榊原は無言のまま外を眺めている。

その表情はどこか呆れているようにも見えた。


沈黙が続く。


剣聖の苛立ちが空気感で伝わってくる。

「おい

聞いてんのかよ」


ため息を一つ溢し榊原が剣聖の方に向き直る。

ただ呆れている。


「ええ、聞いていますよ」

あまりにもあっさりとした答え。


その温度差に剣聖のこめかみがピクリと動く。

「聞いてんならさっさと返事しろ

この事態の説明をしやがれ」


「僕は言った筈だ

何回も何回もな

忘れているのは君のほうだろ」

淡々と榊原は言った。


剣聖の怒りがピークに達し今にも刀を抜刀しそうになったその時。


「おい、面倒事は外でやってもらえるか」


ガードマンが窓から顔を覗かせていた。


予想外の乱入に剣聖の動きが一瞬止まった。


ガードマンもため息を吐き理由を述べた。


「ゴールドラッシュでは正当な理由のない武器の所持は禁止されている。

だから入国出来ないと言っているんだ」


榊原が頭を抱えぶつぶつと呟いた。

「ここにくる前に説明しただろ

事前に武器を帯刀する許可証を出しておけと。

本当に君は話を聞いていないんだな」


(やべーすっかり忘れてた。

完璧俺の自業自得じゃねーかよ

ここは穏便に)


「すいませんでした。

これ許可証です」


ガードマンが目を通し、またため息を出して言う。

「...今回はいいが次は事前に許可証を出して下さい。

次はないですからね」


「はい、面目ないです」


「よし入国を許可する」

ガードマンの表情も和らぎ高らかに宣言した。


巨大なゲートが開くと共に中から活気に溢れた音が響いてくる。

ちょっとしたトラブルはあったがまあ結果オーライだ。


剣聖は少し気まずい顔をして窓の外を見つめるだけだった。


クリスさんと常田さんは何事もないかったように深い眠りについている。


榊原は呆れ頭の中で次の策を練っている。


烏丸はハンドルに力を込めゆっくりと車を走らせる。


不労所得国家。

ゴールドラッシュ。

必要なのは頑丈な肉体と精神のみ。

今日も日雇い労働者で活気付いている。

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