六話
「……なに!?」
槍のような突きを、木刀の側面で受け流した加奈。
「……けない」
「あ、なんだ?」
「私は負けない!」
攻撃をいなされ、無防備になっていた雄馬。
腹部に、突き抜けるような拳を入れた加奈。
「グハッ」
骨が軋む鈍い音と共に突き飛ばされる雄馬。
「お兄!」
訓練所の壁まで突き飛ばされた雄馬はガクッと意識を失っていた。
「よくもうちのお兄を!」
兄の仕返しに飛び込む麻衣。
雄馬のように直線的な動きではなく、撹乱させるように左右に飛び交う。
いつどこから攻撃が仕掛けられるか読みづらい動きだが、加奈は俯いたままジッと立ち止まっている。
「さっきのはまぐれだったようね!」
背後に周り真上から木刀を振り下ろす。
ブゥン────木刀が空を切る。
「あれ?」
身を傾け、背後からの攻撃を避けていた加奈。
「なんであれを避けれるし」
苛立ちながら加奈に視線を向ける。
背筋に悪寒が走る。
身の危険を感じ取った麻衣は、廉の所まで距離を取る。
「……なに、今の」
冷や汗を流す。
「僕にも分からないけど……油断は出来ないね」
明らかに先ほどまでとは違う雰囲気。
訓練室が重い空気に包まれる。
「あの子を見てると、すごく息が重くなる……」
「集中して、あれは彼女だけでなく……モンスターの殺気も混じってるよ」
刹那────廉と麻衣の視界から加奈の姿が消えた。
「「!?」」
咄嗟に背中を合わせて周囲を警戒した。
麻衣は左右を見渡し、廉は上からの奇襲を警戒した。
「どこに行った!?」
すると、上を見上げていた廉の視界に麻衣が飛び込んだ。
「──麻衣!」
後ろを振り返ると、木刀を逆手に持ち、麻衣を突き上げる加奈の姿があった。
「……今の君は、人間なのかい?」
加奈から放たれるプレッシャーに額汗流す。
「私は、私のままだよ」
そう言葉を発する加奈は、とても静かで落ち着いた様子だった。
「私がちゃんとしないから、みんなやられちゃった。お母さんだったらこんなことにはならなかったのに……」
「……お母さん?」
「でも、仕方ないの。お母さんはAランクで私はBランクだから……」
何を言っているのか理解できない廉は、今がチャンスと攻撃を仕掛ける。
加奈の真正面に突っ込む廉。
木刀を振り上げ迎え討つ加奈。
加奈が木刀を振り下ろしたと同時に、廉は加奈の前から姿を消した。
「土壇場でのフェイントだ……油断したね!」
加奈の背後に回っていた廉。そのまま攻撃に移ろうとするも、動きが止まった。
目の前から消えた廉に一切気に留めることなく、そのまま木刀を地面に思い切り叩きつけた加奈。
訓練室に轟々と響く爆発音。床は窪み、部屋全体が揺れる。その衝撃で大きく飛ばされた廉。
「なんて馬鹿げた力!」
直接的な攻撃は食らってない。体制を整え反撃に備えようとするも、
「……疾い!」
鋒を向け、廉に向かって一直線に向かってくる加奈が視界に映った。
防御は間に合わない。死を覚悟した廉は瞳を閉じた。
「…………」
何も起きない。
再び目を開けると、廉の前に誰かが立っている。
「……あなたは!?」
廉の前にいたのは小倉美里。
「よかった、間に合ったようだな」
安堵する瑞希。
加奈の暴走はCランクの自分には止められないと判断した瑞希は、安全を期してAランクに要請を出していた。
加奈の突きを素手で掴み止めた美里。
「少年、無事か?」
「は、はい。大丈夫です!」
「ならよかった、すぐこの場から撤退しなさい」
「了解」
美里の指示に従い、即座に撤退する廉。
「……加奈、どうした」
「私は負けない!」
「私がわからないのか?」
「私は強くならなきゃいけないの!」
加奈の暴走は、目の前にいる美里を判断出来ないほどのものだった。
理性を失い、暴れる獣。暴獣化に近い症状。
瞳孔が大きくなり、呼吸のリズムがかなり荒くなっている。
「少し手荒になるぞ、加奈」
掴んだ木刀を握り潰す美里。
それを見た加奈は木刀を手放し美里に襲い掛かる。
加奈の一撃一撃を防ぐ度、地揺れし空気を震わせる。
美里は攻撃の一瞬に加奈の腕を掴み、流れるように地面に叩きつけた。
背中から落ちる加奈。掴まれた腕を返し逆に美里の腕を掴む。
体を回転させながら蹴りに繋げる。
「……強くなったな」
笑顔を見せた次に瞬間。美里は掴まれた腕を思い切り振り上げ、加奈を宙に放り投げた。
体制を崩した加奈を飛び越え背後に回る。そして首元に一本の注射器を打ち込んだ。
「う、うぅ……」
打ち込まれた鎮静剤で意識を失う加奈。
「すみません美里さん」
「気にしないで、瑞希さんもご苦労様でした」
「はい」
訓練室は半壊し、軽症者二人・重傷者二人で何とか死者を出すことなく模擬戦は終了した。
救護室。
「…………ここは」
ベッドの上で意識を取り戻した加奈。
「おはよ〜」
「御陵さん……」
「よく眠ってたけど体調はどう?」
「え、あ……特に、大丈夫です」
「よかったぁ〜」
記憶が曖昧な加奈は、自分がなぜ救護室にいるのか尋ねた。
自分の記憶は、由香が倒れて負けを確信し所まで。その後、鹿乃兄妹に重傷を負わせ、美暴走した自分を美里に止められたことを千鶴から聞かされた。
「重症って……二人は!?」
「CCPに入ってるから大丈夫よ〜、お仲間も大した傷じゃなかったから、今頃部屋に戻っているんじゃないかなぁ」
「よかった……」
生きていた。その安心感からホッと肩を撫で下ろすも、自分の失態に気付き涙目になる。
「私……神格者、失格だ……」
人々を守るべき力、地上を奪還するために手に入れた力。それを制御出来ず、誰かを傷つけてしまったこと。
まして、憧れている美里に手を煩わせてしまった。
取り返しのつかないことをしてしまった事実に言葉を失った。
「そんな顔しないで〜、事故みたいなものだからぁ」
千鶴の励ましは加奈の耳に届かなかった。
──私は神格者に向いていない。
──私はお母さんのようにはなれない。
──私は誰かと一緒にいるべきではない。
自分の言葉が自分の心を痛めつける。
自分の声なのに、自分じゃない誰かに戒められている。
一度落ちれば自分で止めることが出来ない。
呼吸が荒くなり、目の前が真っ暗になる────パチン。
頬に痛みが走る。
顔を上げると、美里がいた。
「お、母さん……」
「何をしている」
「……え?」
「怪我人でもないのに、いつまで救護室のベットを使っているの。起きたなら早く自室に戻りなさい」
「でも……」
戸惑う加奈の前に廉が現れた。
「あ、四十四期生の……」
「廉だ。今回はすまなかった」
頭を下げる廉。
「え、ど、どうしてあなたが頭を下げるんですか?」
「四十四期のリーダーとして、鹿乃兄妹の行き過ぎた戦いを容認してしまったのが原因だと思う」
「そんな、違います。あれは模擬戦のルールに則って……むしろ私の方がやり過ぎてしまって……」
「そんなことはないよ、普段荒れている二人には良いお灸を据えられたと思うから」
「……廉さんはすごいですね。あんな横柄な人たちまとめてリーダーをしてるんですから」
廉のリーダーシップ、戦闘、そして常に冷静でいる姿に尊敬の念を向ける。
自分と対して変わらない年齢なのに、ここまでしっかりしている反面、自分はダメだとまた自責する。
「四十五期生も良いチームだと思うよ。仲間のためにあそこまで思えるのはすごいよ。僕たちのチームにはない強さだよ」
「……ありがとうございます」
落ち着きを取り戻した加奈は、美里の指示のもと四十五期生の部屋に戻った。
読感はいかがでしょうか?




