四話
アナスタシ────東京八王子の山の中に存在する施設。神格者、非戦闘員、一般市民含め二十万人が在住する。
多層階に区切られ、居住区・研究室・神格者たちの訓練室など、広さを活用した様々な施設がある。
神格者としてBランクの加奈とりあ、Cランクの由香は四十五期生として同じ部屋に割り振られ、日々の生活を送っていた。
測定が終わった後は部屋に戻り、お互いのことについて改めて自己紹介をし親睦を深める。
「小倉さんのお母さんもすごいけど、小倉さんもすごいよね」
「私なんてまだまだだよ」
「いや、うちだけCランクだよ」
「よ、吉戸さんだって、じゅ、十分すごいと思います」
何てない会話。
そこから切り出したのは加奈だった。
「やっぱりお互い名前で呼び合う方がいいと思うんだけどどうかな」
「名前?」
「うん、私たちそんなに年齢も変わらないでしょう? 私と吉戸さんは十二歳、今雪さんは一つ上。これから四十五期生として一緒に行動するならその方がいいかなって……」
「い、いいと思います」
「うちも、さんとかも付けんと由香って呼んでくれていいよ」
「ありがとう、えっと……由香ちゃん、りあちゃん」
少し恥ずかしそうにする加奈と、慣れない様子で照れる二人。
「明日は実戦に向けての訓練だから一緒に頑張ろうね」
「二人とも、うちよりランクは上だけど負けないから!」
「が、頑張りましょう」
互いの絆を深めることが出来たが、訓練は想像以上に過酷だった。
「何をしている、それでは地上に出た時に死ぬぞ!」
怒声を上げるのは訓練課の鬼とも呼ばれる教官。
千熊瑞希。オレンジ色の長髪を持つ少女のような体躯。右目には黒い眼帯をつけ、残る左目には紅蓮のような深紅の瞳が輝いている。
アナスタシで支給される全身黒に包まれた戦闘服と、その上から体格には大きくボロボロになったデニムのポンチョを身に纏っている。
「お前たちは人類を超越した力を手にいれた! その力を使いこなせなければただの人間ミサイルだ!」
瑞希の言葉の前に壁に激突する三人。
想像を画する力。次元を超えた速さ。突然スポーツカーより早い速度で動き出しても感覚も体も何も追いつけず、文字通りただの人間ミサイルになってしまう。
「すみません!」
先に立ち上がった加奈。
続いて由香とりあも立ち、再び訓練を再開する。
思いのまま体を動かすだけでも苦労する。武器もまともに振るえない。
力を手に入れて少しばかり過信していた三人。SやAでなくともBランクもCランクも上位に当たる強さ。少しでも地上で役に立てると思い込んでいた。
走り出せば壁に激突し、武器を振るえば二回転三回転する。
それでも、三人は諦める様子なく少しずつ力のコントロールを身につけていく。
「それではこれより模擬戦を行う!」
「模擬戦?」
「お前たち三人と私の模擬戦だ! 構えろ!」
「そ、そんな教官と模擬戦だなんて……」
「戦場ではお前たちの気持ちも、状況も何も待ってくれない。準備は初めから終わらせておけ!」
その言葉と同時に姿を消す瑞希。
見失った瑞希を探す三人は木刀を構えながら辺りをキョロキョロと見渡す。
三人の背後に回っていた瑞希は、後ろから後頭部をコンコンコンと叩いた。
「ほら、死んだぞ」
三人は同時に後ろに振り返るもそこには瑞希はいない。
「そんな、どこ!?」
「動きが全く見えない!」
「あ、あわわ」
また三人の背後に回っていた瑞希は同じように後頭部をコンと叩いていった。
「三人もいるんだ、死角くらい補え」
その言葉に三人は背中を合わせるように互いの死角をカバーする。
由香の前に瑞希の姿。
「ちなみに私のランクはCだ。能力値だけで言えば加奈とりあに劣る。それでも今のお前たちに私を捉えることは出来ない」
三人の周りを駆ける。
残像が残るほどのスピード。どれが本物でどれが偽物か判断出来ない三人は、木刀を構えジッと瑞希の動きを見つめる。
加奈とりあはBランク。集中すれば瑞希の動きを捉えることが出来ると踏んだ。
「加奈、どれが本体かわかる?」
「……ダメ。速すぎて目で追いつけない。りあちゃんは?」
首を横に振るりあ。
ふと、三人の前から瑞希の姿が消えた。
「また消えた!」
驚きながらも周囲を見渡す加奈。
「由香ちゃんの方は?」
「いない!」
「りあちゃんの方は?」
「い、いません」
「そんな、どこにもいないなんて……」
コンコンコンと三人の後頭部を叩かれる。
「全く死角を補えてないぞ」
三人は後ろを振り返ると、中心にいた瑞希。
「これが今のお前たちの実力だ。ランクの有無ではなく戦闘の経験がないお前たちは、戦場で生き抜いたEランクより弱いと思え」
ランクは力の水準を示すものであって、ランクの力がイコールではない。そう伝えたかった瑞希。
「単純な殴り合いなら勝てるかもしれないが、お前たちがこれから戦うのは知恵を持ち、武器を使い、複数の連携を駆使するモンスターと戦うんだ。私一人で手を焼いているならいつまでも地上には出られないぞ!」
瑞希の言葉が重く刺さった三人。
力に溺れていたわけではないが、それでも力を手にした。それだけで強くなった気になった。自分達はもう地上で戦っていけるんだと思った。
「すみません。もう一度お願いします」
再度、模擬戦を申し込む加奈。
「加奈、また同じ結果になるよ」
「でも、私は早く強くなりたい。少しでもお母さんに近づきたい!」
「加奈……」
「わ、私ももう一戦お願いします!」
「りあ……」
「私も、みんなの足手まといにはなりたくないから!」
りあの瞳は真っ直ぐ前を向き、瑞希を見つめていた。
「……うちも! もう一戦お願いします!」
「いいだろう。何度もでかかってくるがいい!」
その後も訓練は続き。瑞希から一本取れることはなかったが、背後からの攻撃は防げるようになっていたのは五時間経った頃だった。
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ボロボロになった三人は救護室に向かった。
「千熊教官、半端なかったね」
語り出す加奈。
お互い、今の実力を理解し「うちも、あれくらい強くなれるってことだ!」と同じランクの由香はCランクでも決して弱いわけではない期待が高まった。
「わ、私もあれ以上強くなれるかな」
「大丈夫だよ、りあちゃんはBランクなんだから頑張ろう」
救護室に着いて、扉を開けると。
「ぎゃああああああああ!!!」
男性の絶叫が響き渡る。
三人は驚き固まっていると、パーテーション裏からひょっこり顔を出す一人の女性。
「あら、お客さんね。少し待ってね」
そう言うとまた、顔を引っ込める。
「ヒギャァァァァァァ!!」
悲痛な叫び三人の鼓膜を震わせる。
何が起きているのか分からないが、何となく怖い想像をし顔が青ざめる三人。
「ごめんね、お待たせ〜」
何事もなかったかのように駆け寄る女性。
「三人ともボロボロねぇ、何かあったの?」
「あ、千熊教官の元で訓練してました。神格者四十五期生の小倉加奈です!」
「ああ、新人ちゃんね。私は救護長の御陵千鶴です。以後お見知り置きお〜」
ミルクティー色のカールが効いた髪は、ふわふわした彼女の言葉のようにふっくらとしている。目を開けているのか分からない細目がお淑やかさを増す。凹凸が目立つ白い看護服を纏い、なぜか片手にモーニングスターを持っている。
「瑞希ちゃん容赦なかったでしょ〜。新人ちゃんには厳しいから〜」
千鶴の姿を見て、不安が増す三人。
(この人が治療をするの?)(さっきの悲鳴って……)(あわ、あわわわ)
「とりあえず、可愛い女の子が傷だらけだと将来心配お嫁さんに行けなくなっちゃうからね」
そう言いながら三人を奥の部屋に案内した。
そこには大型のポットが並列し、中には人が入っているポットもある。
「これはCCPって言ってね、簡単に言うと治療風呂ね」
CCPの中には、神格者の細胞分裂を加速させ治癒力を極限まで高める液体が満たされている。
元々再生力も増している神格者は、生きてさえいれば部位欠損でも二、三日で回復すると言う。
「数に限りはあるし、重症者優先だけど。まぁ男は後回しすればいいから〜」
「重症者がいるなら私たちは後でも……」
「いいのいいの〜」
軽口に乗せられ三人はCCPに入り傷を癒した。
いっぱい登場人物が増えてきましたが、みんなはどんなキャラが好きですか?




