表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

 残り三日。


 机の上に置いたカレンダーに、その文字を赤ペンで大きく書き込んだのは、今朝のことだった。


 数字として見れば、まだ七十二時間ある。

 だけど、体感としてはもう終わっている。

 十件集める約束。今、書き上げた話は、ようやく八本目。


「間に合うのか、これ……」


 呟いた声は、誰にも届かない。

 狭いワンルームの天井は黙ったまま、蛍光灯の光をやけに冷たく返してきた。



 だけどふと思う。

 これまでの話、全部、特別な人から聞いたわけじゃない。

 友人、バイト先の後輩、近所のおばさん、店長。


 ごく普通の人たちが、なぜか一つや二つ、不思議な話を持っていた。


 以外と俺の身の回りでは、不思議な体験をした人が多い。


 案外、変なことって、どこにでも転がってるのかもしれない。


 ふと、母のことを思い出した。

 実家に帰るのは、ここ半年ほどしていない。連絡も、必要最低限だけ。


 実家といっても、ここから徒歩四十分ほどの場所にある一軒家。

 用があればいつでも行きやすい距離にあるからこそ、あまり帰ることが少ないのだ。


 でも、なんとなく。今なら話せるかもしれない。

 俺はスマホを取り出し、母のLINEを開いた。


「久しぶり。なんか変なこと体験したことある?」


……というのも妙なので、


「昔さ、不思議なことって何かあったっけ?」


 と、少し柔らかく送る。


 数分後、返信がきた。


「あるよ笑。小学校のときの話だけど、聞く?」


 予想以上のスピードで返ってきた。

 母のこういうところ、ちょっと助かる。


「うん、ぜひ」


 母からの長文メッセージが届いた。


「小三の時ね、うちのクラスで“宿題の紙”ってのが流行ったのよ。正式な配布物じゃなくて、生徒同士で回してたやつ。

 紙には、その日やるべき『宿題』が手書きで書いてあって、例えば“明日、赤い鉛筆を三本持ってくること”とか、“学校に着いたら昇降口で後ろを三回振り返ること”とか。

 最初はふざけ半分でみんなやってたんだけど、不思議なことに、その“宿題”をやらなかった子が、次の日からぽつぽつと学校を休み始めたの。病気とか、怪我とか。理由は色々だったけど、偶然とは思えないくらい、連続で。

 それで、ある日ついに、担任の先生がその“宿題の紙”を取り上げたのね。『こういうのはもう禁止です』って。

 そしたら、クラスの空気が急に冷たくなって、紙を回してた子が、先生に向かって『でも先生、これは“誰か”が作ってるんですよ?』って言ったの。“誰か”って、誰?って聞いても、うつむいて何も言わなかったけど……。

 それ以来、その紙はぴたりと回らなくなった。けど、なんとなく、今でも覚えてるのよ。紙の端っこに、小さく、“宿題係:オキヤマ”って書かれてた気がするの」


 母の文章は、文末に(笑)もなく、妙に淡々としていた。


 俺はスマホを持ったまま固まった。


「……オキヤマ?」


 俺は思わずその名前を声にする。


 いや、よくある名前だ。自意識過剰だ。全国にオキヤマさんは何人いると思ってるんだ。



 だけど、なぜ母は、それをわざわざ俺に送ってきたのだろう?


 そう考えると、じわりと背筋が冷えた。


 俺はスマホを伏せ、深呼吸してから、ノートにペンを走らせた。


 第八話:「消えた宿題小学校のクラスで流行した“宿題の紙”。不思議な課題、果たさないと何かが起こる。そこに記されていた“宿題係”の名前はオキヤマ」


 ペンを置いたとき、心臓がわずかに早くなっていた。


 話は……まだある。

 きっと、まだ、俺の周りに。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ