表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

「先輩って……怖い話、苦手ですか?」


 それは、バイトの閉店作業も終盤に差しかかった頃。

 店内の照明が落ち、バックルームにぽつんと蛍光灯の光が落ちる中、

 俺と宮下さんはレジ締め作業をしていた。


「怖い話? うーん、聞くのは好きだけど、苦手でもあるかも」


「じゃあ、ちょっとだけ……聞いてもらってもいいですか」


 宮下さんは、高校二年生。


 控えめでおっとりした性格だけど、慣れてくると結構話してくれる。


 少し年下なのに、ふとした瞬間にドキッとさせられるような落ち着きもあって……。


 俺は、たぶん彼女のことが少し、気になっている。


「……私の家、最近……夜中に変なことがよく起きるんです」


 レジの釣銭を数える手を止めて、彼女はそっと声を落とした。


「何もしてないのに、ドアが閉まる音がしたり、台所で物音がしたり……。

 最初はお母さんかと思ったけど、違ったんです。

 起きて確認しても、誰もいない。鍵もかかってるし……」


「それ、怖いやつだね」


 僕はできるだけ軽く返した。

 けど彼女の表情は真剣そのもので、冗談で済ませられる雰囲気じゃなかった。


「一番怖かったのが……朝起きたら、机の上のリップが洗面所に置いてあったんです。

 しかも、キャップがきちんと閉まってなくて。

 なんか、使われたみたいな感じで」


「それって……お母さんじゃないの?」


「聞いたんです。でも、触ってないって言われて……。

 なんか、“使われた形跡があるのに、誰も知らない”って、すごく気持ち悪くて」


 宮下さんは、両手を胸元で組みながら、視線を落とした。


「家にいると、誰かの視線を感じることがあるんです。

 でも振り返っても、何もいない。

 寝てるときも……枕元で、息遣いが聞こえたような気がして、目が覚めたり」


「……それ、カメラとか置いてみた?」


「最初は、私の考えすぎだと思ったんですけど、怖くなって。それで、お母さんと相談して、一度だけカメラを置いてみました。

 でも、何も映ってなかったんです。

 でもやっぱり、何か“いる”って感じはするんですよ。

 物の位置が変わってたり、書いた覚えのないメモが机にあったり。

 歯ブラシの位置も微妙に変わったりしていて。

 クローゼットにある着てない服に、見覚えのないシミとか汚れがあったり。」


「ストーカー……とか?」


「外では変な人に会ったことないし、家もオートロックなんです。

 でも、家の中に“誰か”がいるような気がして……。

 ううん、なんか……“混ざってる”っていう感じです」


「混ざってる?」


「私の生活の中に、その“誰か”が。

 完全に侵入してるわけじゃなくて、

 気づかれないように、少しずつ……」


 僕はうなずくしかなかった。

 幽霊とも違う。けれど、明らかに“不自然な何か”が、彼女の周囲で起きている。


「怖くないの? 泥棒とかじゃないよね」


「怖いです。でも、誰にも言えなくて。……はい、泥棒とかではないと思います。何も盗られてないので。

 先輩、いつも落ち着いてるから……つい、話したくなっちゃいました。

 すみません、変なこと言って……」


「ううん、全然。ちゃんと話してくれてありがとう。もし、何かあったらすぐ言ってね。話聞くことくらいはできるからさ」


「はい……ありがとうございます」


 彼女は安心したように微笑んだ。

 俺はその笑顔に、少しだけ胸があたたかくなった。


──それにしても、不思議な話だった。

 日常の中の、ごくわずかなズレ。

 見えない何かの存在。


 でも、信じるも信じないも、本人にしか分からない種類の恐怖だ。


 もしかしたら、これは……“小説のネタ”になるかもしれない


 松林さんに言われた「身近な不思議な話」。

 それにぴったりだと、僕は思った。


 部屋に戻ると、俺は机の上に置いてある用紙の一枚を取り出して、宮下さんから聞いた話を細かく書く。


第二話:「知らない同居人」


 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ