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転生したら不正入国者だった。終わった。  作者: 旅人凛人
一章

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20/23

第十九話 ギルニアは『絶望組』だった。


「エスマリアは、お前らの隠れ家がある、森の中にいる。」

「それ……結構広くないか?」

「そう!広い森だから、隠れ家に出来てるんだよ!」

「私はエスマリアを森の中に転移させただけだ。その後、本人がどう動いたかは、把握していない。」


 転移……させられるのか?

 抱えて運ぶにしても、難しすぎるだろ。


「椅子は残ってたし……エスマリアがピンチってことにはならなさそうか?」

「いえ……ここに残っていた方が、100倍は安全よ。」

「えっ……?あの森、そんなに危険なのか?」


 薬草採取の依頼で、G(ゴキブリ)級冒険者が出入りするような森だろ?


「私たちの隠れ家は、あの森の中心にあるのだけど……それよりも奥へ進むと、一気に危険度が増すの。」

「だから、森の中心に隠れ家を置きたかったんじゃなくて、そこがギリギリセーフな奥地だったってこと。」

「えっ、そんな危険な森だったの!?」


 だから薬草採取なんて、出された瞬間に受注されそうな依頼が、俺が行った時まで残ってたのか。

 

 他には、ゴブリン退治の依頼とかあったけど……もしかして、この世界のゴブリンは強いのか?


「危険な森だよ。だからこそ、誰も近寄らない。ってことで、死神の野郎が、隠れ家はそこにしようと言ったんだ。」

「また死神さんかよ……」


 死神さん……有能すぎでは?

 消息不明だけど、ワンチャン生きてるだろ。それだけ有能なら。


「死神……か。懐かしい名前だな。あの時、私はまだ新人だった。」


 ヘルシアが新人だったころ……って、いつだ?

 そもそも、絶望組が刑務所を脱走したのって、何年前なんだろう。


 イエスタは今16歳だし、そんなに昔の話じゃあ無いだろう。


「昔の話はいい。エスマリアは森にいるんだな?」

「それは間違いない。」

「そうか。」


 ギルニアは、縛られていたヘルシアを乱暴に投げ捨た。


「よし。森に向かうぞ。」

「まだ契約……というか、あれが終わってなくないか?」

「転移魔法は教える。だが、私が死刑になったら無理だ。」

「死刑……どうにかして止められないのか?」

「今の国王は、欲望の限りを尽くす独裁者よ。過ちを犯した騎士に慈悲をかけるほど、優しい王じゃないわ。」


 欲望の限りを尽くす独裁者……か。

 転生ものだと、国王は話がわかるいい人が多いはずだが……悪役なパターンか。厄介だな。


「それに、政治に全く関心がなくってさ。大司教に全部やらせてるんだよね。」

「政教分離が出来てないじゃねえか。」

「ちょっと前までは増税しまくってたが……最近は落ち着いたな。理由は知らんが。」

「理由は私も知らない。大司教くらいしか、知らないだろう。」


 増税か……確かに薬草採取の依頼報酬、ありえない額の税金取られたもんな。

 

 大司教は、悪役ハゲな場合が圧倒的に多い。この世界も、そのパターンなのか……?


「……だが大司教は、別に悪人という訳でも無いんだ。少し前、イエスタを逃がしてしまった後、国王に処刑されかけたんだが……大司教に助けられた。」 

「なるほどね……でも、流石に今回は助けて貰えないわよ。」


 やらかしと言っても、俺たちが原因だけどね。


「……『絶望組』として大司教に話をつけて、国王と会談を試みましょうか?」

「え、どういうこと?」

「『希望組』は、私たちと同じ犯罪者集団……だけど、国王側につけている。ということは、私達にもその可能性があるということよ。」

「でもそれ……エステルが体を売って成立してたよね?」

「あの緑野郎、体売ってまで……そういうことか。」


 エステルは、ギルニアに緑野郎と呼ばれているらしい。悲しいな。


 エステル……炎魔術をぶっぱなしてきたのは、正直マジでビビったけど……なんか憎めなくなってきた。


「国王は、無類の女好きだ。体を売れば……話くらいは、聞いてくれるかもしれないな。」

「マッジでゴミみてえな国王だな。反乱とか、起きてないのかよ?」

「起きてないわね。」

「そうなんだ……」


 この世界は、前いた世界よりも数倍、一般市民が強い。冒険者とか、いっぱい居るからな。


 なら国王側も、市民の反乱にはめちゃくちゃ神経質になってるはずだ。


 ……だから、絶望組を全力で潰そうとしてるのか?


「体を売る……にしても、私やエスマリアは貧相で使い物にならないし、トワも魔族だし、イグニスやギルニアは、何をやらかすか分からない……」

「行為中は隙だらけになる。暗殺には、絶好の機会だぞ?」

「よし、ギルニアは絶対ダメだな。」


 イグニスも……絶対に何かやらかすだろう。確信すらある。

 イエスタやエスマリアは未成年だし、やらせる訳にはいかない。


「……そもそも、体を売る以外の選択肢は無いのか?このままだと、R18になるぞ?」 

「何を言ってるの?」

「そんなことはどうでもいい。……それ以外に、無いのか?」


 この場の全員が黙って、冷たい静寂が訪れた。

 凍った騎士がたくさんいるせいか、気温もどんどん下がっている気がする。


「大司教に話をつけるといっても、一体どうするつもりだ?」

「『絶望組』を説得したが、こちら側につく際の条件を話し合いたいらしい……とかはどう?」

「それなら、体売らなくても行けそうじゃね?」

「いや……話し合いの条件として、持ち出してくるだろうな。『希望組』の時、そうだった。」

「ヘルシア。お前が体を売ったらどうなんだ?なんで私たちが売らなきゃならないんだよ。」

「……」


 ヘルシアは、黙ってしまった。


 実際、そうなんだよな。ギルニアの言う通り、ヘルシアが体を売る代わりに……って出来れば、ヘルシア自身も、罪を逃れられるだろうし。


「なあ、どうなんだよ。結局、体を売る覚悟がないだけだろ?その点では、エステルにすら負けてるぞ。王国騎士団の副団長ともあろうお方も、こんなもんか。」

「ギルニア……それは、少し言い過ぎよ。今は、それ以外の解決策を探しているの。」

「イエスタらしくねえな。少し見ないうちに、丸くなったか?」

「…………」


 火力たけえなおい。

 

 いや多分……イエスタは、俺の考え方を尊重してくれているのだろう。それなのに、イエスタが言われるのは違う。


「俺が言い出したことだ。イエスタにとやかく言うのは、やめてくれ。」

「そうだったな……あまちゃん新人のせいで、こうなっちまったんだ。さっさとヘルシアを殺して、エスマリアを助けに行くのが……今までの、私たちのやり方なんだよ。」


 そうだろうな……絶望組は今までずっと、そのやり方で問題を解決してきたんだろう。


「そのやり方をやり続けたから、国王に狙われちまったんじゃないのかよ?」

「国王も、大司教も、全員ぶち殺せばいいだろ。」

「そう単純に行くもんなのか?政治って。暴力による支配は……長く続かないぞ。」


 それだけは……間違いない。


「俺も、エスマリアを助けたい。ギルニアがひとりで助けに行ってくれよと言いたくなるくらいにはな。」

「そうか……行きてえなら、勝手に私ひとりで行けと?新人の一般市民が、随分上から目線でものを言うな。」


 ギルニアが怒っているのが、とても強く伝わってくる。


 当たり前だ。ひよっこ一般人ナメクジが、犯罪者集団のやり方に口出ししてる。

 そんなの、元から居た人達は許さないし、怒るに決まってる。


「……だが分かった。いいだろう。私ひとりで、エスマリアを助けに行ってやるよ。」

「本当にいいの?ギルニア。」

「いいわけねえだろ。だが……このままグダったら、エスマリアが死んじまうかもしれねえんだ。」

「……おい。ひよっこ。」

「…………」


 なんと返事をすればいいのか分からず、俺は黙ってしまった。

 だがヘルシアは気にせず、俺を睨みつけながら続けた。

 

「エスマリアは、私に任せろ。ただ、ヘルシアはお前がどうにかしろ。私は今回関与しない。ヘルシアがどうなろうと、どうでもいいからな。」

「関与しないが……代わりに、お前のやり方で、全てを完璧に解決してみせろ。うまく解決出来なかったら……問答無用で、お前を殺す。」


 明確な、殺意の視線を向けられた。

 だが……これは敵意ではない。挑発……というよりも、試練だ。


「分かった。完璧に解決する。……完璧に解決できたら――」

「その時は、お前を『絶望組』の一員だと認めてやるよ。本当は、あの時既に認めたはずなんだがな。撤回する。」

「ありがとう」


 俺は沈黙を一切挟まずに、感謝の言葉を伝えた。


 ギルニアは、俺にチャンスをくれた。今すぐに俺を殺して、ヘルシアも殺して、全てを解決出来たのに。


 なら、感謝の言葉を伝えるべきだろう。ギルニアがくれた機会を……無駄にはしない。


 ギルニアは、何も言わずに背を向けて、森の方へダッシュしていった。

 身体強化を使ったのだろう。すぐに見えなくなってしまった。


「……すぅーー……ふぅ。」


 俺は深呼吸を一度して、みんなの方へ向き直った。


「今、計画を思いついた。」

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