第十七話 ヘルシアの視力はイカれてた。
(ここだな……)
ここに来たのが昔という訳でもないのに、懐かしさを感じる。不正入国者になった時の絶望感を……鮮明に思い出すな。
建物の入口の扉は、当たり前だが閉まっていて、鍵もかかっている。が、見張りらしい騎士は見当たらない。
沢山の騎士が巡回しているが、この建物を気にしている様子はない。
(ここで合ってるのか……?)
そう思っていると、トワが広域魔力探知を発動した。周りからは見えていないようだし……魔法陣も透明化出来るのか。
トワは目を閉じて少し集中した後、こちらを向いて、こくりと頷いた。
(ここにエスマリアが居る……ってことか。)
でもどうする?透明化は見えなくするだけで、すり抜けとかは出来ない。入口の扉を開くしかない……
どうしようかと考え始めたその瞬間に、トワから魔力の気配がした。
驚いてトワの方を見ると、赤色の魔法陣を展開していた。
もしかして……
バアアアアアアアン!!!!
と、轟音を響かせて、扉は吹き飛んだ。
『いやああああ!!!!』
通行人の悲鳴が、鼓膜を貫く。
「バッカ……何してんだよ!」
「今のうちに!」
トワは、まだ砂ぼこりが舞っている入口(もはやただの穴)に向かって歩き始めた。
すると、扉の横にヘルシアが転移してくる。
トワも足を止めて、ヘルシアの様子を伺い始めた。
「おうおう……やってんねぇ。」
ヘルシアは、パラパラと崩れる壁を見ながらそう呟いた。
「爆発魔術……珍しいな。トワ・マジカリエルあたりなら使ってきそうだが……見当たらない。」
トワはニヤリと笑みを浮かべて、堂々と入口に向かって歩き始めた。
「逃げたのか……?爆破だけして即退散とか、イカれてるな。」
ヘルシアはため息をつきながら、呆れた表情を見せる。辺りには、異変を察知した騎士が寄ってきた。
トワは、ずんずんと歩みを進めている。
「……止まりな。」
ヘルシアは、透明化しているはずのトワを見て、そう言った。
トワも歩みを止めて、ヘルシアの方を見る。
「砂ぼこりが不自然な動きをしている……透明化でもしてるのか?」
見破られた……だと?
どういう観察眼してるんだよ。砂ぼこりの動きでバレるとか、視力高すぎるだろ。
「ふふ……やるじゃん。」
トワは透明化を解いて、ヘルシアの前に立った。
イエスタの透明化も解けているが……俺の透明化は解けていないようだ。
トワは俺に視線を送って、入口の方を小さく指さした。
(俺が助けろ……ってことね。)
俺がゆっくり、足音を立てないように歩き始めると、被せるようにトワが喋り始めた。
「さすが副団長。すごいね!まさか見破られるとは思ってなかったよ。」
「トワ・マジカリエルに、イエスタ・エクニアル……2人だけか。もっと来ると思っていたが……まあいい。」
「もっと来るって……どういうこと?」
気になったのか、イエスタが問いかける。
「なぜ……今になって、エスマリアから連絡が来たのか。疑問に思わなかったのか?」
「思った……けど、それよりも、救出を優先したまでのことよ。」
「ふっ……ふははははは!!!さすが犯罪者。思考回路が単純で助かるよ!」
ヘルシアは笑いながら、トワの方を見る。
「広域魔力探知……もう一回してみたらどうだ?」
「は?さっきして……」
トワの顔色が、一気に寒くなる。
「魔力反応が……消えてる。」
……なんだって!?
俺は足音をできるだけなくしつつ、建物内にダッシュした。
魔力反応が無い……それって……!
魔力反応が消えている……その言葉を聞くだけで、悪寒が止まらくなった。
「ヘルシア。エスマリアたんは……どこにいるの?」
トワは重い声色で、ヘルシアに質問をした。
周りには鎧を着た騎士が集まって来ている。囲まれるのも、時間の問題か……
「……さあ?どうなったんだろうな。」
ヘルシアがそう言った瞬間に、トワは魔法陣を起動して、ヘルシアに爆発魔術を浴びせた。
だがヘルシアは、軽く流すように転移魔法でかわす。
「おっと……危ないな。」
「エスマリアたんは……長い間拷問をされてたのに、まだ話せるような状態だった……なんで?」
「ふっ……私がそう指示したんだよ。殺さずに、気力だけ奪えとな。情報を吐かせろとも言ったが……それは嘘だ。」
ヘルシアは、にこり。と、意味深で、不気味な笑みを浮かべながら、あいつには特別手当をやらないとな。と呟いた。
「なんで、そんな意味の無い指示を……?」
「エスマリアを長い間生かして、その近くに魔道具を置いておけば……必ずハッキングして、絶望組に連絡を送るだろ?」
「……通信魔法を使ってな。」
「――!!」
エスマリアは、広域魔力探知が遮断されるような部屋にいた……。
なのに、通信魔法だけ使えたのは――!
「一時的に結界を解いて、わざと連絡させる。すると……あら不思議!絶望組の本拠地が、大公開!」
「――!!!」
「今頃……『希望組』の連中が、大量の騎士を引き連れて、スッカスカの拠点を焼け野原にしてるだろうよ。」
希望組……このために王国側は……ヘルシアの提案で、希望組と王国は協力関係になったのかもしれない。
「希望組……ね。残念だけど、彼女たちは動かないわよ?」
「どういうことだ。」
「もう既に、私たちは希望組と接触してるもの。」
「……そういうことか。依頼をした時、妙に殺気立っていたのはそれか……ふっ、やるな。」
「絶望組をおびき出して、拠点を潰すつもりだったようだけど……そっちの拠点が潰されそうね。滑稽だわ。」
「……舐めるなよ?冒険者協会にも、既に連絡係を送っている。直に、S級レベルの冒険者が支援に来るぞ?」
冒険者協会にまで……冒険者ギルドはタスメニスにあるし、多少時間がかかるはず。その間に、ヘルシアを処理出来れば……
「ちなみに、連絡係の騎士は、転移魔法で送ってある。」
「転移魔法で人を送る……?そんなこと、出来るわけないでしょう。」
転移魔法は自身と、自身に触れているものしか転移させられないはず……それですら難易度が高く、服でさえも、転移に失敗することがある。
だが、ヘルシアは重く質量の大きい鎧を付けたまま、転移できる。
それだけでも、相当高レベルな転移魔法。
なのに、2人分の質量を転移させて、即座に帰って来られるの……?扉が爆発してから、あの短時間で……?
「今頃……身体強化で全力ダッシュしてる冒険者は、何人いるかな?」
「……早く片付けた方がよさそうね。」
「…………」
トワは黙って、透明化魔法をもう一度発動した。私も、一緒に透明化された。
「透明化か……面倒なことを。」
「イエスタ。周りの騎士は任せたから。」
「……わかったわ。」
私は氷魔術を発動させて、周囲の騎士を全員氷漬けにした。
ガチンと硬い氷の音が鳴り響き、季節外れの冷たい風が辺りに漂った。
「うっわ……全員死んだか、これ。」
「殺してないわ。全員固まって、動けないだけよ。」
ヘルシアも氷漬けにするつもりでやったのだけど……転移魔法で避けられてしまった。
「……死ね。」
トワはそう言い放つと、一気に魔法陣を十数個も並列起動させて、魔力弾を打ち始めた。
ヘルシアは余裕そうな表情を浮かべながら、身体強化を使って避けている。
私も、氷を飛ばして援護する。
……でも、一発も当たらない。
「くっそ……透明化しながらこれとか、余裕で死ねるな。」
と言いつつ、ヘルシアは転移魔法すら使わずに、攻撃を避け続けている。
(魔力弾……洗練されすぎだろ。なんだその黄色の濃さは。)
ヘルシアが、トワの魔力弾に注目しているような視線の動きを見せた。
魔力弾は、普通は薄い黄色で、魔術の初歩のような魔法……属性魔術に適性のない魔術師が、よく使う技。
トワは全属性に適性を持っているのに、魔力弾を多用する。
魔法陣の起動が早く、シンプルで攻撃力も高いから……らしい。攻撃力は、普通低いはずなのだけど。
「おいおい、魔力込めすぎだろ!これだから、魔力量でゴリ押す魔族は……!」
ヘルシアが魔力弾を避けながら、トワに文句を言う。
「この程度で込めすぎ……?」
トワは煽るような口調で、ヘルシアに返事をする。
ヘルシアからすれば、私たちは透明。どこからか聞こえてくる煽りは……相当なストレスになる。
「その透明化……いつまで続けられるんだ?」
魔力弾と氷をかわしながら、ヘルシアは問いかける。本人には、私たちがどこにいるかも分からない……そんな状況が、不安で仕方ないのでしょう。
トワは魔法陣を止めずに、ふわっとヘルシアの目の前へ飛ぶ。飛行魔法……?
ヘルシアの目の前に行ったトワは、一瞬だけ透明化を解いた。
「一年中!」
「――そうか。」
ヘルシアは、少しだけ目を見開いて、そう言った。
焦っているのが伝わってくる。
「……ふふっ。」
久しぶりに、私はにこりと笑った。
「くそ……なんだこの鍵!」
隠されていた地下室……魔力の気配が分かる俺にとっては、魔法で隠してるせいか、逆に魔力垂れ流しで分かりやすかった。
転生してから初めて、チート主人公をやってる気分になれたのに……!
異様な雰囲気を放っている、薄い黄色の石壁に囲まれた、金属の扉……が、開かない。
(ロックが……ようわからん魔力放ってるし!)
ごつい鍵だが、鍵穴もダイヤルも見当たらない。魔道具……なのか?
中にエスマリアが居れば、ハッキングして貰えたかもしれないが、魔力反応が無いということは、ここに居ないのか、既に……
「……クソっ!」
何か無いのか……?
この鍵、ヘルシアや騎士なら開けられるものなんだよな。それを識別する……何かがあるはずだ。
騎士団だけが貰えるものとかだったらおしまいだが……こういうのって、個人の魔力を登録するタイプが多いよな?
このようわからん魔力は……複数人の魔力が混ざり合ってるから、複雑に感じるだけなんじゃないのか?
……とは言っても、騎士の魔力を帯びてるものとか、俺は持ってない。
冒険者カード……で開いちまったら、ガバガバセキュリティすぎるしな。
俺は困った時、スマホに頼る癖があった。
左手前のポケットには、5万円なのに、某リンゴのスマホを上回るスペックをしていた神スマホが、常備されていたからだ。
その癖は、一日二日で治る癖ではない。
俺はふっと、左腰に手を回す。
「……ナイフ?」
俺の手に触れたのは、ヘルシアに返された、あのナイフだった。
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有能な敵キャラっていいよね。




