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転生したら不正入国者だった。終わった。  作者: 旅人凛人
一章

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17/23

第十六話 身体強化で助けに行った。


「……………………」


 もう、声を出す力も……ない。

 でも、その方が情報を与えないで済むし、一周まわっていいのかも……しれない。


 椅子に縛られている分、吊られるよりはマシですが……


「まーーーだ喋らねえのかよ!心を読む魔道具も、ハッキングされて使い物にならねえし……」


 ハッキングは、私の得意分野ですから。拷問に使うような、安っすい魔道具なんて余裕です。


「マジで……拷問って残業代出なくて、固定ボーナスなんだよ。ガチで早くしてくれ!時給換算したらもうヤバいんだって!」


 へっ……ざまあみろです。

 私を捕まえたのが運の尽き。弱そうな見た目に、騙されましたね?


 ……確かに、みんなと比べたら、力は弱いです。佐久間さんにギリギリ勝てるくらいの力しか無いし。


 どれだけの時間が経ったのかは分かりませんが、佐久間さんも、少しは強くなっているはず……もう、私では勝てなくなっているかも?


「満更でもなさそうな表情しやがって……このやろう!!!」


 シンプルな軌道のムチがとんでくる。左肩にバチンと直撃して、鋭い痛みが走る。


 ……でも、それだけ。

 

 『絶望組』ですよ?いつまで、ムチなんてぬるい拷問を続けるつもりなんですかね。

 

 あの頃は、爪やら何やら……色々やられたのに。今は、空腹が1番辛い始末。こんなの、拷問なんて言えません。


「……弱いですね?」

「うっせえ!俺はな!今すぐてめえをぶち殺したいんだがな!副団長が許さねえから……!クソ!!!」


 また、ムチが飛んでくる。今度は横から、左脇腹に先端のカタい部分がクリーンヒット。


「オエッ……」

「はっ!くらったか!よっしゃ!!!ずっとそこ狙ってやる!!!」


 それはちょっとやめて……


 バチン!バチン!バチン………………!











「……なあ、エスマリアってまだ見つからないのか?」

「広域魔力探知で見つからないし、めっちゃ遠くに連れ去られたか、探知を遮る部屋にいるのか……だね。」

「どちらにせよ、エスマリアの身に何かあったと考えるのが妥当ね。もうかなり時間が経っているし、エスマリアが危ないわ。」


 エスマリアが帰ってこなくなってから、もう1週間は経ったか?

 

 身体強化魔法を教えてくれていたトワも、数日前から魔力探知に徹している。目の下には、かなり濃いクマができていた。


「エスマリアたん……どこなの……?」

「エスマリア側から連絡が来てくれれば、早いんだけどね。」

「数日来てないし、それは無いよな……じゃあ、イグニスが聞き込みから戻ってくるのを待つしかないのか。」


 イグニスは少し前、エスマリアの目撃情報を求めて、タスメニスにダッシュしていった。


 俺は呑気(のんき)に魔法の練習をしていた訳だが、エスマリアは、その間何をしていたんだろう。


「こういう時、俺には何も出来ないのがきちぃな……」


 自分に出来ることの少なさを痛感して、静かに呟いた。情報も何も無いし、エスマリアの状況が一切分からない。


 転生者の能力か何かがあれば、この状況を打破出来たかもしれない……が、現実はそうじゃない。


 実は、ただ遠くに魔道具を買いに行っただけとか、平和な事だったらいいなと思っていたら……トワに通信魔法がかかってきた。


「通信魔法……?」

「それって、トワと死神さんしか使えないんじゃなかったか?」

「いや、通信魔法と通話魔法は違う。通話魔法の方が高度。エスマリアが開発した魔道具があれば全員使えるし、盗聴されにくいから、いっつも通話魔法を使うってことになってたけど……」


 ……ってことは、この通信魔法をかけてきたのは、エスマリアじゃないってことか?


「一応、出ない方がいいと思うわ。」

「出た方がよくね?通話魔法にすることが出来ずに、通信魔法を使ってるだけかもしれないだろ?」

「……出てみる。」


 トワは、そっと通信魔法の魔法陣に触れた。


「出て……くれましたか。良かったです。」

「エスマリアたん!!!」


 通信魔法からは、かすれたエスマリアの声が聞こえてくる。声が枯れているし、かなり良くない状況だろう。


「今……騎士団の小さい建物の……地下に居ます。具体的な場所は……分かりません。部屋全体に魔力を遮断する何かが……あって、魔道具もとられて、通話魔法がかけられませんでした。」


 ゆっくりだが、端的に情報を伝える。俺含め、3人は一切話さずに、一言も聞き漏らすまいと耳をすませていた。


「拷問に使われていた……のをハッキングして、外の魔道具と繋いで……無理やり通信魔法を……してます。多分、すぐ切れます。……場所はおそらく、タスメニスの……南側です。とても小さな建物で……分かりずらいです。」

「地下で……上からヘルシアの声がたまに……あっ」

「……エスマリア?」


 通信魔法は、そこで途切れてしまった。

 イエスタは顎に手を当てて、情報を整理し始めた。


 トワはそっと広域魔力探知の魔法陣を消して、上を向いた。


「拷問……ね。騎士団は、エスマリアたんにそういうことしちゃうんだ。」


 トワが、上を向いたままそう呟いた。

 (あき)れや憎しみ……沢山の感情がこもっているように、聞こえた。


「タスメニスの南側で、騎士団の建物。小さくて、ヘルシアが居る……全く検討がつかないわ。」


 建物がちっこくてヘルシアが居る……


「……そういえば、俺が不正入国者認定された建物って、だいぶ小さかった気がするな。ヘルシアに尋問(じんもん)をされたし、あの辺りがヘルシアの担当地域とかなら……」

「その場所、詳しく教えて。」

「……とりあえず、その建物がタスメニスの南側にあるのは、ほぼ確定だ。」


 俺はタスメニスに入る時、南側の小さな入口を通った。

 なら十中八九、建物はタスメニスの南側にあるだろう。


「でも、その建物に地下があったかまでは……分からないな。」

「そう……行ってみる価値、ありそう?」

「十分にある。その建物じゃ無かったとしても、あの辺りには騎士が結構巡回してた。」


 俺が連れていかれたのは、そこらへんの交番ぐらい小さい建物だったが、周辺は普通の住宅地に見えた。

 

 なのに、鎧を着た騎士がやたらと多かった。ただの巡回だと思ってたけど……重要な施設があったから、巡回している騎士が多かったのかもしれない。

 

「行ってみないことには、何も分からないし、今すぐ行こう!」

「賛成ね。ここで待機しているよりも、100倍マシだわ。」

「珍しく、道案内は俺にやらせてもらう。身体強化魔法の練習がてら、風ダッシュで行っても大丈夫か?」

「無論よ。追い抜かれないようにね。」

「上等だ。」


 そう言って、俺たちは隠れ家の扉を開けて、外の森に出る。

 

 エスマリアの声の状態からして、あまり時間の余裕は無いはずだ。通信魔法を使っていたのがバレて、より激しい拷問を受けている可能性もある。


 俺は足を少し上げて、身体強化魔法をかける。まだ強度を上げてカッチカチにするぐらいしか出来ないが……それでいい。


「おらっ!!!」


 上げた足を地面につける直前に、足元に風魔術を出す。

 その風を踏みつけると同時に、前傾姿勢になり、風の勢いを使って――前に跳ぶ!


 風がバシュっとはじけるような、小さい音を出して、俺は一気に数メートル進んだ。

 派手さは皆無だが、スピードは速い。木に激突しそうになるが、どうにか避けつつ、風魔術を連打する。


「よし……いける!」

「だいぶいい感じになってる!凄いよ!」

「まだ……細かく移動するのは難しいけど、目の前の木を避けるくらいは出来る!」


 俺は全速力で、超集中しながら走っているのに、当たり前のようにイエスタとトワは着いてきている。


 トワに関しては、なんか浮いてるし。


 あっという間に森を抜けて、教会へ行く時に通った平原を駆け抜ける。

 邪魔な木が無くなったので、全速力で直進しても危なくない。


 俺は数段ギアを上げて、平原を駆け抜けた。スピードが速すぎて、吹いてくる風がめちゃくちゃ痛い。

 全身に身体強化を使えば、この痛みは止められるだろうが……魔力が尽きる。


 エスマリアを救出するためには、絶対に騎士団との戦闘が必要になってくるし……逃げられるだけの魔力は温存しておきたい。


「そんなに使って……魔力は大丈夫なの?」

「感覚的には、まだ大丈夫だ。それに、戦闘はトワとイエスタがメインだろ?」


 俺はあくまでもエスマリア救出に徹する。ヘルシアと騎士たちの相手は、2人の役目だ。




 平原を一気に駆け抜けた俺たちは、住宅地に近づいた。

 住宅地で身体強化ダッシュをすると、目立って騎士団が寄ってくる可能性がある。


「家が近くなってきたし……ここからは、身体強化なしで行くぞ。」

「目立つと良くないもんね!」

「ま……魔族と白髪なんて、目立って仕方ないでしょうけど。」


 その通りだな。トワは派手な魔法使いの服をしてるし……冒険者ってことで説明は出来るかもしれないが、視線は集める。

 

 イエスタも、見たことがないくらい綺麗な白髪だし、つい視線を送ってしまうだろう。


「まあ……住宅地を爆走(ばくそう)するよりはマシじゃね?」

「歩いてる間に、騎士団に見つかったらおしまいだけどね……。」

「じゃあ、透明化する?」

「透明化できるの!?」

「鬼ムズいけど、できるよー!」


 鬼ムズいんだ……そりゃそうか。


「光魔術を限界まで応用してやるんだけど……原理が複雑すぎて、うまく説明出来ないよ。」

「だろうな。」

「なら……透明化して身体強化を使えばいいんじゃないの?」

「質量を無くせるわけじゃないから……爆風を撒き散らすのは変わらないよ。」

「ほぼ意味ねえな。」


 透明化しても、気配とか風で気付かれたら意味が無い。


「じゃ、透明化するよー。」


 トワは軽くそう言うと、直径5mくらいのバカでかい魔法陣を出現させた。


 足元が、黄色に光り輝く。魔法陣には謎の文字やら記号やらがみっちりと詰まっているし……魔力の気配も半端ない。


 気配どころか、魔力の塊のように感じてしまう。


「……よし!成功!」

「……変化を感じないわね。」

「すごいでしょこれ。同じ魔法にかかってる人は見えるの!」


 すげえ。どういう仕組みで出来るんだろう……


「この、特定の人だけに見えるようにするために、術式の半分くらい使ってるからね……」

「マジか……」


 透明化に成功した俺たちは、少し早足で歩きながら、例の建物へ向かう。


 歩きつつ、トワは透明化の仕組みを簡単に説明してくれた。


「正式名称は、完全(かんぜん)屈折(くっせつ)調整(ちょうせい)魔法。透明化の『状態』、見えなくなるって『現象』を引き起こしてるから、魔法ね?」

「なるほどな……魔術と魔法の違いが、ようやく分かってきた気がする。」

「光の屈折の調整……透明化以外にも、応用出来そうね。幻覚を見せるとかかしら。」


 幻覚……か。光の屈折を調性出来れば、本当とは違う場所に居るように見せたりできるのか。


「幻覚かぁ……鬼ムズいどころじゃないよ。この魔法は、消すことに特化した術式してるからさ。ちょっといじるだけでも、おかしくなるんだよ。」

「トワでもいじれないレベルの魔法なのか。」

「だって……昔の転生者に教えて貰った魔法だもん。見よう見まねでやってるだけだし、仕組みも理解しきれてないから。」


 昔の転生者……!?

 トワの言う昔って……何年前だよ。数百年前だろうけど……そいつ天才だろ。


「そいつの能力がさ、魔法創作とかいうチート能力でさ。それで創作したから、本人もよく分からんって言ってたよ。」

「それをシラフでコピーできるトワの方がチートだろ。」

「間違いないわね。」

「でも、魔法創作……か。そんな能力を貰えるやつも居るんだな。」


 俺は……相手がちょっと攻撃を躊躇(ためら)ったりするだけなのに。


「でも作ってから5年くらいは、能力が使えなくなったらしいよ?」

「代償おっも!」

「5年使えなくなるだけで作れるなんてチートでしょ!たったの5年だよ!?」

「たったの……トワにとっては5年という年月も、とても短く感じるのでしょうね。」

「5年なんてすぐだよー。」


 そう言いながらトワは右手を広げて見せ、すぐにギュッと握った。


 周囲にはだいぶ建物が増え、人通りも増えてきた。


「……あ、この魔法透明化するだけだから、喋ると普通に聞こえるよ?」

「マジか……じゃあ、ちょっと声量抑えないとな。」 

「抑えるとかじゃなくて、黙った方がいいわよ。」

「そっ……か。」


 それから、俺たちは一言も話さずに、例の建物の前までたどり着いた。

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さあさあ…敵陣に突撃ー!!!

しますよ。

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