第十六話 身体強化で助けに行った。
「……………………」
もう、声を出す力も……ない。
でも、その方が情報を与えないで済むし、一周まわっていいのかも……しれない。
椅子に縛られている分、吊られるよりはマシですが……
「まーーーだ喋らねえのかよ!心を読む魔道具も、ハッキングされて使い物にならねえし……」
ハッキングは、私の得意分野ですから。拷問に使うような、安っすい魔道具なんて余裕です。
「マジで……拷問って残業代出なくて、固定ボーナスなんだよ。ガチで早くしてくれ!時給換算したらもうヤバいんだって!」
へっ……ざまあみろです。
私を捕まえたのが運の尽き。弱そうな見た目に、騙されましたね?
……確かに、みんなと比べたら、力は弱いです。佐久間さんにギリギリ勝てるくらいの力しか無いし。
どれだけの時間が経ったのかは分かりませんが、佐久間さんも、少しは強くなっているはず……もう、私では勝てなくなっているかも?
「満更でもなさそうな表情しやがって……このやろう!!!」
シンプルな軌道のムチがとんでくる。左肩にバチンと直撃して、鋭い痛みが走る。
……でも、それだけ。
『絶望組』ですよ?いつまで、ムチなんてぬるい拷問を続けるつもりなんですかね。
あの頃は、爪やら何やら……色々やられたのに。今は、空腹が1番辛い始末。こんなの、拷問なんて言えません。
「……弱いですね?」
「うっせえ!俺はな!今すぐてめえをぶち殺したいんだがな!副団長が許さねえから……!クソ!!!」
また、ムチが飛んでくる。今度は横から、左脇腹に先端のカタい部分がクリーンヒット。
「オエッ……」
「はっ!くらったか!よっしゃ!!!ずっとそこ狙ってやる!!!」
それはちょっとやめて……
バチン!バチン!バチン………………!
「……なあ、エスマリアってまだ見つからないのか?」
「広域魔力探知で見つからないし、めっちゃ遠くに連れ去られたか、探知を遮る部屋にいるのか……だね。」
「どちらにせよ、エスマリアの身に何かあったと考えるのが妥当ね。もうかなり時間が経っているし、エスマリアが危ないわ。」
エスマリアが帰ってこなくなってから、もう1週間は経ったか?
身体強化魔法を教えてくれていたトワも、数日前から魔力探知に徹している。目の下には、かなり濃いクマができていた。
「エスマリアたん……どこなの……?」
「エスマリア側から連絡が来てくれれば、早いんだけどね。」
「数日来てないし、それは無いよな……じゃあ、イグニスが聞き込みから戻ってくるのを待つしかないのか。」
イグニスは少し前、エスマリアの目撃情報を求めて、タスメニスにダッシュしていった。
俺は呑気に魔法の練習をしていた訳だが、エスマリアは、その間何をしていたんだろう。
「こういう時、俺には何も出来ないのがきちぃな……」
自分に出来ることの少なさを痛感して、静かに呟いた。情報も何も無いし、エスマリアの状況が一切分からない。
転生者の能力か何かがあれば、この状況を打破出来たかもしれない……が、現実はそうじゃない。
実は、ただ遠くに魔道具を買いに行っただけとか、平和な事だったらいいなと思っていたら……トワに通信魔法がかかってきた。
「通信魔法……?」
「それって、トワと死神さんしか使えないんじゃなかったか?」
「いや、通信魔法と通話魔法は違う。通話魔法の方が高度。エスマリアが開発した魔道具があれば全員使えるし、盗聴されにくいから、いっつも通話魔法を使うってことになってたけど……」
……ってことは、この通信魔法をかけてきたのは、エスマリアじゃないってことか?
「一応、出ない方がいいと思うわ。」
「出た方がよくね?通話魔法にすることが出来ずに、通信魔法を使ってるだけかもしれないだろ?」
「……出てみる。」
トワは、そっと通信魔法の魔法陣に触れた。
「出て……くれましたか。良かったです。」
「エスマリアたん!!!」
通信魔法からは、かすれたエスマリアの声が聞こえてくる。声が枯れているし、かなり良くない状況だろう。
「今……騎士団の小さい建物の……地下に居ます。具体的な場所は……分かりません。部屋全体に魔力を遮断する何かが……あって、魔道具もとられて、通話魔法がかけられませんでした。」
ゆっくりだが、端的に情報を伝える。俺含め、3人は一切話さずに、一言も聞き漏らすまいと耳をすませていた。
「拷問に使われていた……のをハッキングして、外の魔道具と繋いで……無理やり通信魔法を……してます。多分、すぐ切れます。……場所はおそらく、タスメニスの……南側です。とても小さな建物で……分かりずらいです。」
「地下で……上からヘルシアの声がたまに……あっ」
「……エスマリア?」
通信魔法は、そこで途切れてしまった。
イエスタは顎に手を当てて、情報を整理し始めた。
トワはそっと広域魔力探知の魔法陣を消して、上を向いた。
「拷問……ね。騎士団は、エスマリアたんにそういうことしちゃうんだ。」
トワが、上を向いたままそう呟いた。
呆れや憎しみ……沢山の感情がこもっているように、聞こえた。
「タスメニスの南側で、騎士団の建物。小さくて、ヘルシアが居る……全く検討がつかないわ。」
建物がちっこくてヘルシアが居る……
「……そういえば、俺が不正入国者認定された建物って、だいぶ小さかった気がするな。ヘルシアに尋問をされたし、あの辺りがヘルシアの担当地域とかなら……」
「その場所、詳しく教えて。」
「……とりあえず、その建物がタスメニスの南側にあるのは、ほぼ確定だ。」
俺はタスメニスに入る時、南側の小さな入口を通った。
なら十中八九、建物はタスメニスの南側にあるだろう。
「でも、その建物に地下があったかまでは……分からないな。」
「そう……行ってみる価値、ありそう?」
「十分にある。その建物じゃ無かったとしても、あの辺りには騎士が結構巡回してた。」
俺が連れていかれたのは、そこらへんの交番ぐらい小さい建物だったが、周辺は普通の住宅地に見えた。
なのに、鎧を着た騎士がやたらと多かった。ただの巡回だと思ってたけど……重要な施設があったから、巡回している騎士が多かったのかもしれない。
「行ってみないことには、何も分からないし、今すぐ行こう!」
「賛成ね。ここで待機しているよりも、100倍マシだわ。」
「珍しく、道案内は俺にやらせてもらう。身体強化魔法の練習がてら、風ダッシュで行っても大丈夫か?」
「無論よ。追い抜かれないようにね。」
「上等だ。」
そう言って、俺たちは隠れ家の扉を開けて、外の森に出る。
エスマリアの声の状態からして、あまり時間の余裕は無いはずだ。通信魔法を使っていたのがバレて、より激しい拷問を受けている可能性もある。
俺は足を少し上げて、身体強化魔法をかける。まだ強度を上げてカッチカチにするぐらいしか出来ないが……それでいい。
「おらっ!!!」
上げた足を地面につける直前に、足元に風魔術を出す。
その風を踏みつけると同時に、前傾姿勢になり、風の勢いを使って――前に跳ぶ!
風がバシュっとはじけるような、小さい音を出して、俺は一気に数メートル進んだ。
派手さは皆無だが、スピードは速い。木に激突しそうになるが、どうにか避けつつ、風魔術を連打する。
「よし……いける!」
「だいぶいい感じになってる!凄いよ!」
「まだ……細かく移動するのは難しいけど、目の前の木を避けるくらいは出来る!」
俺は全速力で、超集中しながら走っているのに、当たり前のようにイエスタとトワは着いてきている。
トワに関しては、なんか浮いてるし。
あっという間に森を抜けて、教会へ行く時に通った平原を駆け抜ける。
邪魔な木が無くなったので、全速力で直進しても危なくない。
俺は数段ギアを上げて、平原を駆け抜けた。スピードが速すぎて、吹いてくる風がめちゃくちゃ痛い。
全身に身体強化を使えば、この痛みは止められるだろうが……魔力が尽きる。
エスマリアを救出するためには、絶対に騎士団との戦闘が必要になってくるし……逃げられるだけの魔力は温存しておきたい。
「そんなに使って……魔力は大丈夫なの?」
「感覚的には、まだ大丈夫だ。それに、戦闘はトワとイエスタがメインだろ?」
俺はあくまでもエスマリア救出に徹する。ヘルシアと騎士たちの相手は、2人の役目だ。
平原を一気に駆け抜けた俺たちは、住宅地に近づいた。
住宅地で身体強化ダッシュをすると、目立って騎士団が寄ってくる可能性がある。
「家が近くなってきたし……ここからは、身体強化なしで行くぞ。」
「目立つと良くないもんね!」
「ま……魔族と白髪なんて、目立って仕方ないでしょうけど。」
その通りだな。トワは派手な魔法使いの服をしてるし……冒険者ってことで説明は出来るかもしれないが、視線は集める。
イエスタも、見たことがないくらい綺麗な白髪だし、つい視線を送ってしまうだろう。
「まあ……住宅地を爆走するよりはマシじゃね?」
「歩いてる間に、騎士団に見つかったらおしまいだけどね……。」
「じゃあ、透明化する?」
「透明化できるの!?」
「鬼ムズいけど、できるよー!」
鬼ムズいんだ……そりゃそうか。
「光魔術を限界まで応用してやるんだけど……原理が複雑すぎて、うまく説明出来ないよ。」
「だろうな。」
「なら……透明化して身体強化を使えばいいんじゃないの?」
「質量を無くせるわけじゃないから……爆風を撒き散らすのは変わらないよ。」
「ほぼ意味ねえな。」
透明化しても、気配とか風で気付かれたら意味が無い。
「じゃ、透明化するよー。」
トワは軽くそう言うと、直径5mくらいのバカでかい魔法陣を出現させた。
足元が、黄色に光り輝く。魔法陣には謎の文字やら記号やらがみっちりと詰まっているし……魔力の気配も半端ない。
気配どころか、魔力の塊のように感じてしまう。
「……よし!成功!」
「……変化を感じないわね。」
「すごいでしょこれ。同じ魔法にかかってる人は見えるの!」
すげえ。どういう仕組みで出来るんだろう……
「この、特定の人だけに見えるようにするために、術式の半分くらい使ってるからね……」
「マジか……」
透明化に成功した俺たちは、少し早足で歩きながら、例の建物へ向かう。
歩きつつ、トワは透明化の仕組みを簡単に説明してくれた。
「正式名称は、完全屈折調整魔法。透明化の『状態』、見えなくなるって『現象』を引き起こしてるから、魔法ね?」
「なるほどな……魔術と魔法の違いが、ようやく分かってきた気がする。」
「光の屈折の調整……透明化以外にも、応用出来そうね。幻覚を見せるとかかしら。」
幻覚……か。光の屈折を調性出来れば、本当とは違う場所に居るように見せたりできるのか。
「幻覚かぁ……鬼ムズいどころじゃないよ。この魔法は、消すことに特化した術式してるからさ。ちょっといじるだけでも、おかしくなるんだよ。」
「トワでもいじれないレベルの魔法なのか。」
「だって……昔の転生者に教えて貰った魔法だもん。見よう見まねでやってるだけだし、仕組みも理解しきれてないから。」
昔の転生者……!?
トワの言う昔って……何年前だよ。数百年前だろうけど……そいつ天才だろ。
「そいつの能力がさ、魔法創作とかいうチート能力でさ。それで創作したから、本人もよく分からんって言ってたよ。」
「それをシラフでコピーできるトワの方がチートだろ。」
「間違いないわね。」
「でも、魔法創作……か。そんな能力を貰えるやつも居るんだな。」
俺は……相手がちょっと攻撃を躊躇ったりするだけなのに。
「でも作ってから5年くらいは、能力が使えなくなったらしいよ?」
「代償おっも!」
「5年使えなくなるだけで作れるなんてチートでしょ!たったの5年だよ!?」
「たったの……トワにとっては5年という年月も、とても短く感じるのでしょうね。」
「5年なんてすぐだよー。」
そう言いながらトワは右手を広げて見せ、すぐにギュッと握った。
周囲にはだいぶ建物が増え、人通りも増えてきた。
「……あ、この魔法透明化するだけだから、喋ると普通に聞こえるよ?」
「マジか……じゃあ、ちょっと声量抑えないとな。」
「抑えるとかじゃなくて、黙った方がいいわよ。」
「そっ……か。」
それから、俺たちは一言も話さずに、例の建物の前までたどり着いた。
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さあさあ…敵陣に突撃ー!!!
しますよ。




