第十四話 防御魔法はアメーバだった。
「……なんで口を割らないかな。」
「仲間を売るなんて、出来ないからです……!」
「犯罪者の癖に、生意気な野郎だ!」
バンッ――バンッ――
「……………………ペッ」
「お前が吐けば、潰せるんだって。早く言えよ。」
「……言えって言われたら、言わないのが、お決まりです。それに、この程度の拷問、拷問とも呼べません。私が、本当の拷問を教えてあげましょうか?」
「……どうやら、ここで死にたいようだな!!!」
バンッ――バンッ――バンッ―――
「……エスマリアって、まだ帰ってこないのか?」
「エスマリアが外出する時は、いつも魔道具を買い漁るのが目的だから、戻らない時は戻らないわよ。」
「……なんか、引っかかるんだよな。」
「どこが?」
希望組が王国側だったなら、まず真っ先に、王国側に絶望組のアジトである、この家の場所を教えるはず。
なら、挨拶なんてせずに、奇襲を仕掛けてくるはずだ。王国は、わざわざこの森を大人数で捜索したりしてたのに、その情報を求めない訳が無い。
「……今は分からん。ただ、矛盾みたいなものがあったから、気になってな。」
「矛盾……ね。ギルニアなら、そういう違和感に気付けるかな?」
「そうだ、トワ。忘れないうちに、ギルニアを呼び戻しておいて。」
「おっけー。通話魔法やるね。」
トワはそう言うと、2階への階段を上った。
「……私達も、しないといけない話をしましょうか。」
「しないといけない話……?」
「ええ。もうゆっくり本を読んでいる暇は無い。組織については、今は希望組と王国の存在だけ知っていればいい。」
「そういえば、俺この王国の名前知らないんだけど。」
近くの都市がタスメニスって名前なのは覚えてるけど、王国第二の都市としか書いてなかったからな。
「この国の名前は、ギフトス王国よ。」
「ギフトス王国……」
「組織の説明なんかより、もっと大切なことがあるの。これから重要になってくる話よ。」
重要な話か……。俺は静かにイエスタの顔を見て、 話を聞く姿勢になった。
「転生者の能力について、あなたは何も知らないでしょう?」
「転生者の能力……?そんなのあるのかよ。」
「普通はあるのよ。無能力の、あなたが例外なだけ。」
マジかよ。能力持ちのやつだけズルいぞ。俺にも、適当でいいから能力をくれ。
「で、その能力にも、3つ種類があるの。動詞、道具、その他能力の3つね。」
「動詞……?道具は聖剣とか、死んでも生き返る指輪とかだろうけど、動詞って何だ?」
「その名の通り、動詞を操る能力よ。例えば『殺す』の能力持ちなら、相手を殺せる。」
「最強だろそれ。」
「勿論、使用条件があるわ。『殺す』なら、相手と5秒目を合わせないといけないとか、半径0.5メートル以内とか。」
なーるほどね!その条件を、動詞の強さごとに重くしたり軽くしたりして、バランスを保っているのか。
「転生者は、この動詞の能力持ちがほとんどよ。転生者の九割以上は、動詞の能力持ち。道具やその他能力は、本当に珍しいわね。」
「……なら『覗く』とか、『探す』とかで、ここを見つけられるかもしれないのか。」
「そうね。王国側に転生者が居ないなんて事はありえないし、少なくとも数人は、転生者を味方につけているはずよ。」
動詞能力か……中々にマイナーな能力だな。
今まで読んできた作品の中に、動詞能力系が無いわけではない……が、条件でバランスをとるタイプだと、事前に対策を考えるのがきつい。
「動詞能力持ちが複数人居ると、動詞を組み合わせる事が出来るようになるの。『刺し殺す』とか、『捻り潰す』とかね。」
「……なるほど。相手に転生者が複数人居るなら、動詞の相性が良いペアも、警戒しないといけないのか。」
連れ去るとか、盗み聞くとかの対策も必要って事か……。
あれ?きつくね?
「『盗み聞く』とか、そもそも対策出来なくね?」
「あくまで知識を入れておいて欲しいの。いざ転生者との戦闘になった時、なんだこれってならないために。」
「……そっか。」
確かに、戦っている相手の能力が、『動詞』って分かるのは大きい。
「まあ、道具持ちは見れば分かるけど、その他能力持ちは対策のしようが無いわ。」
「その他能力って、動詞以外の能力ってことか?」
「そうよ。」
異世界転生系でよく見るようなチート能力とかも、軒並みその他能力に分類されるのか。
「でも、その他能力が全部強いって訳でもないの。ピンからキリまであるわ。」
「まあその他能力って、超アバウトだしな。」
「ええ。強い能力は、この世界を支配できるほど強かったりするし、逆に弱い能力は、今の佐久間より雑魚よ。」
「ほんっとに、ピンからキリまであるんだな。」
今の俺より雑魚って、相当のクソザコだぞ?
借りパクしてる雑魚Tシャツ(地味に字体がかっこいい)を、あげたい。
ちなみに今の俺は、雑魚Tシャツの上からジャージを羽織っている。最高にダサい。
「……ギルニアに連絡したよ!ヤバそうなら来るって。」
「ヤバそうって……今がまさにヤバそうな時なのでは?」
「ギルニアは、多分今よりヤバい状況を、何度も経験してるのよ。」
「ギルニアって、一体何者なんだよ……?」
絶望組メンバーで、唯一会ったことがないし、顔も何も知らない。通話魔法越しに声を聞いたことがあるだけだ。
「ギルニアが何者か……と言われても、イカれた人間としか言えないかも。魔族から見ても、ギルニアは頭おかしいくらい強いから。」
「トワから見ても強いって、マジで最強じゃねえか。」
「ま、私が本気を出したら、多分勝てるけどね!」
「トワといい勝負ができる人間なんて、この世界に数人レベルだから、ギルニアは人類最強レベルね。」
人類最強レベル……だと?
異世界系を読み漁ってきた俺でも、ギルニアの戦闘スタイルが1ミリも想像出来ない。
「ギルニアって、どういう戦い方をするんだ?」
「色々……としか。針みたいに小さな武器から、大剣、魔術まで器用に扱えるから、相手によって使い分ける感じね。」
「十徳ナイフギルニアか……。」
「えっ、十徳ナイフって何?」
「転生前の世界の物でしょ。」
「十徳ナイフってのは……」
……あれ、十徳ナイフって、どう説明すればいいんだ?
「……えっと、ナイフにもなれば栓抜きにもなれる、万能道具みたいなものだ。」
「なるほどね……カルナカルなら作れるかしら?」
「やってみないと分からんけど、魔道具とか作れるなら、出来るんじゃないか?」
それほど複雑なものでも無い……はずだからな。
「なるほど……色々片付いたら、頼むことにするわ。」
「色々片付いたら……かぁ。ホントに片付けられるの?これ。」
「俺に聞かれてもな。俺は間に立ってるだけだし。」
「1番の問題は、王国側の動きが全く読めない点ね。いつ、どう攻撃を仕掛けてくるのか。そもそも攻撃を仕掛けてくるのかすら、分からない。」
そうなんだよな……。王国側が大量の兵を引き連れて凸ってくるかもしれないし、最強レベルの魔族を仲間にしてたりするかもしれない。
「……だから佐久間。あなたにも、まともな戦闘が出来るようになって貰わないと困るわ。」
「まともな戦闘……俺に出来るかな。」
「今日分かった。佐久間の強みは、常人離れした反射速度よ。紫の攻撃を避けるなんて、本来不可能に近いもの。」
確かに、反射速度には自信がある。反射速度を測る系のゲームを一回やったことがあるが、ツールを使ってると判定されて、BANされてしまった。
「後は、動体視力にも自信あるぜ。」
「ステータスを見てるから、知ってるわ。」
「あっ、そっか。」
「じゃあ、視力強化あたりのバフは教えた方が良さそう?」
「防御魔法と身体強化は必須ね。転移魔法にも興味があるようだし、やらせてみたら?」
「よし!せっかく外にいることだし、特訓開始!風魔術は一旦ストップ!」
回転する風の弾と、風の刃の同時発射は、一旦保留か。
「防御魔法からになるけど、複数枚、違う場所に出すのは結構難しいんだよね。」
「だよなぁ……」
異世界系の小説やアニメでは、よく敵の攻撃に合わせて、色々な所に小さな防御魔法を出している。
「思考力強化とか出来れば使えるけど、脳ミソの神経細胞だけ強化するとか、今のさくたんにはムリゲーでしょ?」
「ムリゲーだな。……ちなみに思考力強化は、神経細胞以外も強化すると、どうなるんだ?」
「脳内の血流が一気に増えて、脳内で出血したり、脳が膨張して、頭蓋骨と接触したりするわ。」
「………………マジか。」
思考力強化……恐ろしや。
「よく拷問に使われるよねー。キツイんだよなーあれ。」
「想像を絶する程の痛みだ……私でもかなりキツかったし、佐久間がやられたら、多分死んでしまうな!」
「拷問の話なんていいから、さっさと防御魔法を教えなさい。」
「そんなすぐに出来るようにならないって!防御魔法なんて、イメージしにくいし。」
「イメージ?」
「魔術は、体内の魔力を様々な物事に変換する術だから、自分のイメージが大切なんだよ。うっすい防御魔法の板なんて、そうそうイメージできないでしょ?」
トワが、パッと3枚ほど防御魔法を展開しながら言う。縦に長い六角形の、あるあるな防御魔法だな。
……防御魔法のうっすい板のイメージなら、俺は誰よりも思い浮かぶ自信があるぞ。それに、こんなにテンプレ的な防御魔法なら尚更な!
ちょっと水色っぽくて……緑が1ミリくらい入った色の、超固くて、縦に長い六角形の板を……
右手の前に作り出す!!!
「おりゃっ!!!!!」
俺の右手の前に、縦に長い六角形の板が浮いている。
「マジか!防御魔法、私まだ使えないんだけどな!羨ましいぞ!!!」
「………………」
イエスタは、無言で俺の防御魔法にデコピンした。
俺の防御魔法は、音もたてずに粉々に砕けて、消えた。デコピンの衝撃をほぼ吸収していないせいで、俺の手のひらにデコピンが当たる。
「痛った!」
「こんなんじゃ、防御魔法とは言えないわね。見た目に凝りすぎなのよ。強度に注力しなさい。」
「強度……」
確かに、見た目に凝りすぎたな。薄い板であればいいから、とりあえずくそ固い板を……
「ふおっ!!!!」
「その掛け声は何なの?」
「よっしゃ出てきた!」
アメーバみたいな形だし、石鹸の泡を広げた時みたいな、パチモンな虹色をしているけど、硬そうだ。
イエスタは、またも無言でデコピンをする。俺の防御魔法は、コンッと硬そうな音を鳴らす。
「よし!」
デコピンを耐えて、喜びの声を上げた瞬間、イエスタから魔力の気配が漂ってくる。
身体強化した指でやるつもりか!?おい、それ貫通したら絶対痛いやつじゃねえか。
「頼む……耐えてくれ……!」
バァン!と、指からはなるはずのない爆発音が、辺りに響き渡った。
目をつぶっていた俺がおそるおそる目を開くと、イエスタが人差し指がえぐれて、第一関節から先がぐちゃぐちゃになっている。俺の防御魔法は無事だ。
「おい!?それ大丈夫なのか!?」
「まあ、合格ね。これを自由な場所に出せるようにしなさい。」
「イエスタ、もっと躊躇とかしてよ!エスマリアたん居ないんだからさぁ!」
トワが指に回復魔法をかける。みるみるうちに指が再生していくが、見た目が中々にグロい。
「指じゃなくて、氷で試せば良かったのではないか……?」
「珍しく、俺もイグニスの意見に賛同するわ。」
「珍しく、は余計じゃないのか!?」
イグニスの言う通り、別に指を犠牲にしなくても、防御魔法の強度確認くらい出来たはずだ。
「氷で強くぶつけて、破片が佐久間に当たったら危ないでしょう?」
「思ってた百億倍優しかった。」
「なっ……何よ?何がおかしいの?」
「別に、何もおかしくは無い。」
イエスタの白い肌と耳が、ほんの少しだけ赤くなった。
イエスタはコホンと可愛く咳払いしてから、何事も無かったかのように、身体強化の説明に移った。
誤字、脱字等ありましたら、指摘お願いします!
エスマリアが大変なことになってそうだねぇ…
佐久間はアメーバみてえな防御魔法を出せるようになったり、着実に成長してるし、佐久間が戦闘する日も近いのかも…?




