第十二話 銀髪の女騎士は超強かった。
「……お前は、この前の不正入国者か。」
「そうだよ。世話になったな。」
こんなところで再会するとは思ってなかった。せっかくだし、あのナイフだけでも返して欲しい。
「どうやら、元気にやっているようだな。」
「はい。運良く助けてくれる人が居て。」
「ああ……それについてなんだが、少し気になってな?」
「……そこの、無口な白髪。ちょっと顔を見せてくれないか?」
「………………」
イエスタは、顔を上げようとしない。
イエスタって、もしかして騎士団に顔バレしてるのか?だとしたら、俺もまずいことになるぞ。
イエスタが犯罪者だったなんて知らなかった……とは、もう言えないからな。
「……イエスタ・エクニアルだな?」
「……なら、どうするつもりなの?」
「無論、犯罪者を拘束する。」
銀髪の女騎士のオーラが変わった。
俺は、思わず数歩引いた。イエスタは被っていたフードをとって、女騎士と睨みあっている。
「不正入国者。お前が助けられたのは、この女か?」
「えぇ……まぁ……そうですね。」
「そうか。運が悪かったな。お前はまた、一文無しで路上に寝ることになる。」
女騎士はそう言いい、ポケットから少し土で汚れている、60モルを取り出した。
「……まさかそれ!?」
「あまりに無防備でなぁ……現実を教えてやるには、安いものだろう。私が近くで見ていたから良かったものの、犯罪者に殺されていても、何も不思議では無かったぞ。」
「……返してくれ。俺が汗水垂らして稼いだ金なんだ。あと、あのナイフも出来れば。」
「あのナイフは、汗水垂らして手に入れたものなのか?」
「多くの血を流して手に入れたものだ。」
嘘はついていない。
「そうか……じゃあ、ほらよ。」
女騎士がひょいと右腕を振り上げると、どこからかナイフが現れた。
「何それ!?」
「転送魔法だ。押収した物には、盗まれた時のために、転送魔法がかけられるんだよ。」
女騎士は、そう言いながら俺にナイフと60モルを投げた。
ギリギリでキャッチした俺は、ナイフを左腰に着ける。
「あの時の現金は無いが、我慢しろよ。」
「わかった。」
「……さて、そこの犯罪者をどうするかな。」
「貴女……まさか、私に勝てるとでも?」
「当たり前だ。対策くらい練ってきてる。」
イエスタは、確か氷魔術がとんでもなく上手かったよな。
氷って攻撃も防御もできるし、イエスタに勝算がありそうだけど……女騎士の戦闘力が未知数すぎるな。
「……佐久間。一応言っておくけど、乱入はしないで。足手まといだから。」
「分かってるよ。」
今の俺は、風の刃を出すだけのクソザコだ。
さすがにナメクジは卒業したが、現地の人間と比べたら、まだカス同然だ。
「私としては、穏便にやりたいんだけどな。大人しく着いてきてくれれば、互いに痛い思いをしなくて済む。」
「ふ……どうせ拷問するくせに、何を言っているのかしら。」
「いやぁ、貴女を拷問することは出来ませんよ。私の首が跳ぶ。」
女騎士は、チラリとこちらを見た。
イエスタを拷問出来ない理由がイマイチ分からないけど……何かありそうだな。
女騎士が拷問しない、優しい騎士って訳でも無いだろうし。
「いやー、マジで大人しく来て貰えませんかね。定時で帰りたいんですよ。」
「残念だけど、残業確定ね。」
「じゃあ、さっさと終わらせますか。」
そう女騎士が言った瞬間に、視界から銀髪が消えた。
驚く暇もなく、俺の視線はイエスタの目の前に現れた、女騎士に移る。
速すぎる。それほど大きな魔術の気配もしないし、使っているのは軽い身体強化程度か?
なのに、消えたと錯覚するほどに速い。
しかし俺とは違い、イエスタには見えていたようで、薄い氷の壁を四方に張り、女騎士を一瞬にして拘束した。
氷の壁からは、一切魔力を感じない。どういう仕組みなんだ!?
「おぉ……見えたのか。凄いな。この氷も、薄いのに硬い。素晴らしい技術だ。」
「あら、まだ他人を褒める余裕があるの?」
イエスタはそう言うと、女騎士の頭上に、大きな氷柱のような氷を生み出して、落とした。
しかし、女騎士は一瞬で消え、いつの間にか最初に居た位置へと戻っている。
「……やるわね。一体どんなトリックで抜け出したの?」
「さあ?」
女騎士はとぼけたが、俺には分かる。
一瞬だが、シスターさんが使っていた転移魔法と似たような気配がした。
恐らく、転移魔法で抜け出したんだろう。
つまり、女騎士は転移魔法が使えるレベル……ということだ。
イエスタは、転移魔法を使えるのは全人類の数パーセントだと言っていたし、女騎士は相当のエリートってことになる。
分析を続ける暇は無く、女騎士は一瞬でイエスタの死角に連続移動して、短剣のようなもので攻撃を加える。
身体強化と転移魔法を組み合わせて、緩急をつけているようだ。
しかしイエスタも対応し、薄い氷をバリアのようにして守り、攻撃を全て防いでいる。
目で追うのがギリギリだ。動体視力には自信があるが、テレポートされると、さすがに厳しい。
転移魔法を連打しまくれる女騎士も、それに対応して高度な氷魔術を展開しまくれるイエスタも、はっきり言って異次元だ。
「……このままだとキツいわね。」
「こっちのセリフだ。なんでこれに対応出来るのか、知りたいね。」
女騎士の声色からは、少し焦りが伝わってくる。連続で転移魔法を使うのは魔力の消費が激しいだろうし、長期戦はあまり得意じゃないのかもしれない。
そう思った瞬間、ずっと防御ばかりしていたイエスタが、反撃に転じた。
薄い氷を横向きに細くして、周囲を薙ぎ払うように1周させた。まるで氷の剣を振っているような、薄い水色の軌跡が残る。
「――!?」
女騎士も反応が遅れ、腹に一文字を刻まれた。
距離をとるためか、女騎士は転移魔法で数メートル後退する。
イエスタは、そこに追撃の氷の弾(氷魔術でよく見るひし形の弾)を十数発打ち込む。
女騎士は転移魔法の連打で氷を回避するが、イエスタが一瞬溜めて打った高速の氷を避けきれなかった。
「ぐふっ!?」
左の脇腹に、かなり深い傷を負ったようだ。
魔力の気配も少し弱くなってきている。転移魔法の使い過ぎで、魔力が減っているからかもしれない。
「はぁ……はぁ……流石、絶望組の生き残り……やるね。」
「ええ、まあ。」
イエスタは、女騎士へ向かって歩みを進め始めた。
「……殺すのか?」
「当たり前でしょう?私達の情報を、王国側に漏らされる訳にはいかないもの。」
「…………ふっ」
「あっ!ちょっとまt」
イエスタの意識が俺に向いた瞬間を見逃さなかった女騎士は、転移魔法でどこかに消えてしまった。
まだ長距離を転移できる程の魔力が残っていたのか……魔力の気配も、もう追えなくなった。
「……俺のせいで、逃げられたな。」
「……もういいわ。彼女とは、元々何度か交戦してるし。」
「そうなの?」
「ええ。彼女はヘルシア・スクリプト。転移魔法のスペシャリストで、王国騎士団の副団長よ。」
「副団長!?そんなに偉い人だったのか……」
鎧が結構豪華だったし、偉い人なのかなとは思ってたけど……副団長とは。
確かにめっちゃ強かったし、実力でその地位まで上り詰めた……ってことか。
「彼女が、王国騎士団の中では1番脅威よ。出来ればここで仕留めておきたかったけど……仕方ないわね。」
「本当にごめん。」
「謝ったら、完全に犯罪者の味方よ?王国騎士団の副団長を殺すのを……」
「俺は何も言ってないぞ。」
「……そういうところ、潔いわね。」
「俺は、あくまで一般人だからな。」
イエスタは、はぁ……とため息を吐き、森の方へ歩みを進め始めた。
「早く戻りましょう。増援を呼ばれたら、流石にちょっときついわ。」
「……そうだな。」
そうして、俺たちは早足というよりも駆け足で、森の隠れ家に帰った。
「……ただいま。」
「おかえりー!……何かあった?」
「ええ、ちょっとヘルシアとばったり会ってしまったから。」
「殺せた?」
「逃げられたわ。」
「えー?勿体ない……」
トワはソファーでくつろぎながら、イエスタとゴリゴリ犯罪者な会話をしている。
エスマリアは……リビングには居ない。イグニスも、まだ帰ってきてないらしい。
「……って、さくたんの存在が、王国騎士団にバレちゃうじゃん!?」
「……って確かに!?終わった!!!!!」
「まだ終わるのは早いわよ。ヘルシアが報告しない可能性もあるから。」
「流石にそれは無くね?」
「いや……ヘルシアって、あんまり余計なことをやろうとしない人なんだよねぇ。面倒事を避けたがるんだよ。こっちとしては、ありがたい限りだけど!」
残業は嫌だみたいなこと言ってたし、そういう性格……で、片付くのか?
エスマリアに、ヘルシアの盗聴とかして貰えないかな。そうすれば、言うか言わないか分かる……
……これ完全に犯罪者の思考じゃん。俺、何回これやるんだよ。
「私たちにできることは、現状何も無いわ。」
「エスマリアたんに、盗聴を頼むくらいかな?」
「ええ、通話魔法で伝えておいて。私はご飯の準備をするから。」
「了解!」
その後、イエスタの絶品料理を食べた俺は、少しトワの気配が残ったソファーで眠りについた。
トワの魔力には、不快感がない。シスターさんとはどういう違いがあるのか、まだ分からないな……。
今日は結構歩いたから、明日筋肉痛にならないかだけ心配だ。すでに足の裏が死にかけている。
俺レベルの引きこもりだと、歩いただけで筋肉痛になるんだよ。
この世界で生きるなら、筋トレもしないとだな。明日は、イグニスと筋トレでもするか。
そのまま、俺は目を閉じた。
「ふぅ……」
私は、自室のベットに座り込んだ。
まさか、佐久間の前でガッツリ戦闘になるとは、思っていなかった。氷の違和感には、気がついたのかしら……?
佐久間には、魔力の性質を感じる、例の能力がある。教会に入った時、確信した。
あそこで違和感を覚えると言うことは、そういう事なのだろう。
本人は、ただ魔力を感じるだけの能力だと思っているけど。
「…………」
ベットをさわさわと撫でて、真下に居るであろう佐久間の寝顔を想像する。
マヌケに口を開いた顔が浮かんできた私は、不意に込み上げてきた笑いを抑えながら、横になった。
明日は……佐久間の魔術練習に付き合って……また、教会に行けたらいいな。
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だいぶ物語のエンジンがかかってきたかな…?
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