4.私の救世主はおばちゃん
「ほら、これをお飲み」
おばちゃんは私の前に素朴なカップに入った白湯を出してくれた。
「ありがとうございます」
なんの変哲もない白湯だけど、今はあったかいだけで少し落ち着く。
服も雑巾水でびしょびしょだった為、今は借りたワンピースを着ている。
招き入れられた家は、家屋というよりは食堂か宿屋といった風情で
簡素だけど綺麗に掃除してあった。
「落ち着いてきたかい?」
「はい、いろいろとありがとうございます」
ずっ、と鼻をすする私の前に
テーブルを挟んでおばちゃんも椅子に腰かけた。
「それで、あんたはなんだってあんなところに、あんな無防備な恰好でいたんだい?ここいらは本当に危ないんだよ?」
おばちゃんは本当に心配して言ってくれているのがわかる、まっすぐな瞳で問いかけてきた。
「あの、私、山本 鞠子って言います。信じてもらえないかもしれないけど、こことは別の世界で暮らしていました。」
麻のような、木綿のようなちょっと固いワンピースの裾を見つめながら答える
こんな荒唐無稽な話、信じてもらえないかもしれない、そんな不安感からおばちゃんの目が見れない
「ヤマモト マリコ。変わった名前だね。別の世界から来たと」
じろっとおばちゃんが見つめてくる。
「あっ、あの、、、信じてもらえないのはわかるんです、、、、」
なんたって休日で、だらけ切っていた私はセールで買った部屋着のワンピースにサンダルしか身に着けていなかった
スマートフォンも持ってないし、現代を説明できるようなものなど一つも持っていないのだから
「そうだねぇ、別の世界、、少なくともこの辺りの人間ではない事は信じるよ。」
「えっ?」
「あんたの顔つき、髪の色、肌の色、この辺りでは見ない。こんなあっさりした顔の人間、初めて見たよ。」
「えーーーっ、、、、」
確かにおばちゃんは白髪交じりとは言え金髪、顔もしわはあるけど目鼻立ちははっきりしていて
青い瞳をしている、現世でいうヨーロッパ系の顔立ち。
私は遺伝もあるがあっさりした顔立ち&黒髪。
「それにね、このあたりの治安で、あんたみたいなひょろっとした女がここまで無事に歩けるはずがない。ローブを羽織るでもなく、あんな薄いワンピースひとつ、走れもしなさそうな靴。別の世界からぽっと放り出されたって言われた方が真実味があるよ」
この世界、そんなに治安悪いの?
「私、これからどうすればいいんでしょう」
さっき散々泣いたはずなのに、また目が潤んでくる。
私、洗濯をやり直して、動画サイト見ながら晩酌して
月曜日からまた社会の歯車として働くだけだったはずなのに
なんでこんなことになってしまったのか
「ううぅぅ、、、」
我慢したつもりが目からまた涙がこぼれだす
「もう、しょうがないねぇ、、、」
おばちゃんがまた固いタオルを差し出してくれ、私はごしごしと顔を拭いた
「あんた、ここで働くかい?飯と寝床は用意してあげるよ」
テーブルの向こうでおばちゃんがちょっと呆れたような笑顔でこっちを見ていた
「いいんですか?わたし、、わたし、、」
「いいも悪いもないさ、このまま放り出せばまた新しいチンピラに攫われるか売り飛ばされるか、殺されるだけさね。それは流石に私も寝覚めが悪いよ」
やっぱり治安悪い。
どう考えても一人で生き抜く術を持っていない私は
おばちゃんのところで働くこととなった