2.洗濯機が私の異世界送りトラックだった
「あー、またやっちゃった」
古いアパートの一室、タテ型洗濯機のフタを開けて私はひとりごちた。
目の前には朝、洗濯機に入れて洗ったまま干すのを忘れた洗濯物が
生乾き特有の悪臭を放っている。
これだから洗濯は嫌い、色柄を分けるのも干さなきゃいけないのも、取り込むのも畳むのも嫌い。
家事の中で一番嫌い。お母さんのありがたみを一番感じる。
今日は日曜日、重い腰を上げて溜まった洗濯物を洗ったものの
これまた溜まった見たい動画を見ているうちにすっかり忘れてしまっていた。
夏の夕方、オレンジ色の夕日が差し込む中、洗濯機の中の臭くなった洗濯物は洗い直すしかない。
「嫌だなぁ…でもこれ洗わなきゃもう着る物ない、タオルもない」
これは再度洗濯して、乾燥しにコインランドリーに行くしかない。
せっかくの休みの最後がコインランドリー…
「もー、乾燥ぐらいしてくれてもいいじゃん」
そんな機能が付いているハズもない安い洗濯機
ドラム式の乾燥機能付きが欲しいけど、あれは高価だ。
洗濯スイッチを押して、液体洗剤をキャップで測って
洗濯機に入れようとしたところで水が入り出した洗濯槽にキャップを落としてしまった。
「もー」
そして、キャップを拾うために洗濯槽に手を伸ばしたところで
ぐいっと何かに引っ張られて私は洗濯槽の中に吸い込まれた。
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で、目が覚めれば私は異世界の路地裏にいて。
よくある路地裏チンピラに絡まれ、あわや貞操の危機というところでおばちゃんに助けられたのだ。