序《白濁・Sucker》
――血がお腹から漏れるにつれ、意識が霞んでいくのがわかった。
青白い、童女だった。チャイルドシートに座す腹筋は挫滅し、鉄屑に穿たれたそこは腑と、赤くどくどくしたものを吹き溢している。
眼前、笑い合っていた両親を、前座席ごと押し潰す鉄塊がある。その横入りが恐らく現状の元凶だった。破滅の余波が、酷く明るげの斜陽が、車内後部の彼女を迎え入れんと伸びたのだ。
その、理解に至った彼女は既に、流れ出過ぎた痛みと熱を――みんなのとまざって、足元に敷かれた赤絨毯を、靄がかる思考と眼で見下ろして。
勿体無いな、なんて。漫然と思ったのも覚えている。
この力はきっと、その時に産まれて来たのだろう。
「ごちそうさまでした……タバコ臭いけど、大事に使うね」
流れ込む熱量に頬が上気して、受けた傷は急速に塞がる。
傷付けた喧嘩相手は討伐完了。
干からびて死んで、引き替えに成人男性一人分の血をゲットだ。
その栄養を人体以上に引き出し、身体を回復・強化し維持させる、長期存命の『畏能』――これで、向こう暫くの安泰は勝ち取った。
なので、頭に昇った血と思考を、声も覚えていない父親にでも巡らせていた手前。
「……生きてれば、次がある。次があれば明日がある。明日があれば…………なんだっけ」
うん、口癖も既に覚えてなかったらしい。
てか、よく考えると名前も覚えてない。
頭回って絶好調の今でこれとは地味にショック……。
ですらないのは、もはや混血し過ぎて血縁もクソもなく、是非も無い。
「――、ま。いっかぁ、そのうちで……」
……あれから、十年。
夜に逆らって賑わう街明かりの裏側。
薄暗い路地で人知れず、鎖を軋ませて少女は血の馴染みを試す。
保育園だがで習った体操の動作だ。
昔よりか延びた四肢は痩せぎすで、両腕を上げればボロ服越しに肋がありありと浮き出る。
ミルク色の血気付いた肌には不釣合な鉄枷がはめられ、流れる白髪は低身長の背を覆い、堀の浅い童顔には、紅く塗れた大粒の相貌があって。
その眼は自然、体温を奪った相手へ確認を向かう。
――少女への仕事相手は、『怪人』という。
少女のような畏能持ちが狂気に呑まれた暴走個体。
もう二度と戻らない、正真正銘の人外だ。
人に手を出そうものなら殺処分される害獣だ――同情など一切、されはしない。
そんな、凡そ同じ血の通う者とは思えぬ、化物と自分とを見比べて最後に、満月を見て。
「お父さん、お母さん……わたしは、元気だよ」
大概ありそうな、そんなことを言ってみる。
白い身体がとくとくと脈打っている、ただそれだけを確かめ、安堵しながら。
――奴隷少女は、動物の様に生きていた。
ご覧になって下さり、誠にありがとうございます(≧∀≦人)
本作1-5話までがプロローグで、一話ずつ毎日12時に投稿予定。
初日だけは、次回の二話も同時に投稿しました。
だいたい「こういうコトを描きたい作品なんだぜ!」とわかる内容となってます。
第一章以降では、そのコンセプトをより遠大に描けていければな~。なんて思っていたり。
所々薄暗いモヤモヤ展開があるかも知れませんが、最終的には後味スッキリな感じに持っていく予定です。後悔はさせません!
ので、お見逃しにならないようブックマークのほど、何卒よろしくお願いします!
自分にとって、初の長編でありネット投稿作品である、
本作が面白いな、と思った時には評価して頂けると嬉しいです!
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