第四十七話
「あっ戻ってきた!」
「お師匠さまも一緒だね」
「ヴェヒッ」
干し杏を食べながら空を眺めていた悟浄、八戒、白竜が立ち上がる。
「おーい兄貴ー!ここここ!」
「あ…でもお師匠さまたちの分の干し杏食べちゃった」
「ヴェへッ」
「何だお前ら」悟空が觔斗雲から飛び降り、その背後で玄奘法師が転げ落ちる。
「こんな村外れで…何コソコソしてんだ」
「それが聞いてくれよ兄貴!あの村長、やっぱとんでもなくせこい業突く張り村長でさ」
「は?」
「お代官さまもびっくりだよね」
「ヴェへへ…」
「わけ分からん」
「ちょっと、あんたたち何か聞いたの?」
玄奘法師を助け起こしながら小鈴が訊ねる。
「それが…」
悟浄の説明に、玄奘法師は「そんな」とよろけながら
「じゃあ、あのユキヒョウは…奪われたお坊さまの形見を取り戻すために村を襲っていたということですか」
「まあ」悟浄が頭をかき
「そのお坊さんが来る前は純粋にただ襲ってたんでしょうけど」
「だから、その器を返してあげないとあの白猫さん、いつまでもこの村を襲いに来ちゃうのに…村長さんたちはそれを売ってお金にしたいみたい」
八戒の隣で白竜が憤懣やるかたないというように鼻を鳴らす。
「あの村長、気弱そうに見せかけてとんでもない業突く張り野郎だな」
「兄貴、それもう俺言った」
「玄奘さま…」
考え込む様子の玄奘法師を小鈴が覗き込む。
「とにかく…とにかくユキヒョウの目的がその器なら、返してあげるのが村のためにも…」
「なら話は簡単じゃねえか」
頭の後ろで腕組みした悟空が
「どうせあいつ、お師匠さまを追ってまたここまで来るぜ。そのときにその器ってのを返してやりゃいいじゃねえか」
「村長が素直に返せばだだけどね」
「えっ」悟浄たちが声を上げた。
「いまここに来るのはまずいっすよ!危険、絶対だめ!」
「は?」
「いま来たら白猫さん、毛皮にされちゃう」
「何!?」
「どどどういうことですか!?」
そのとき、村のほうから輸送部隊がこちらへと向かってきた。隊長の傍らには村長もいる。
「貴公が噂の御坊か」
丁寧だが横柄な口調で、隊長がジロジロと玄奘法師を眺める。「ところで」と切り出され、玄奘法師は体を強張らせる。
「御坊はどちらから参られた。まさか、唐ではないだろうが…」
「そそそれはっ」
「唐から来たと、確かに最初申しておりました」
村長が隊長に耳打ちした。隊長が改めて法師を品定めする。
「それは妙だな。軍人でもない者が国外にいるとは」
後退る玄奘法師の前に悟空が立った。
「お師匠さま…これ以上面倒なことになるまえにこんな村おさらばしようぜ」
「悟空…」
「隊長!あれを…!」
一兵士の言葉に全員がそちらを向いた。見ると、後を追ってきたユキヒョウが胡楊の陰からこちらを窺っている。
「おお、あれが」隊長の目の色が変わる。
玄奘法師をちらりと見やり
「ひとまず貴公のことは後回しだ。まずはあれを捕らえ、長安への土産にしなければ」
「土産だあ?」
隊長の合図で兵たちが取り出した物に、玄奘法師一行ははっとする。
「それは…弩…」
弩とは、普通の弓よりもはるかに大きな威力を持った機械仕掛けの横弓である。
「これを知ってるとは、やはり唐の人間らしいな。我々はこれをここより西の先の安西節度使のもとまで届ける途中なのだ」
「…使いの途中で遊んでていいのかよ」
薄く笑う隊長に、悟空が低く言う。
「わざわざこんな僻地まで来たのだ。これくらいの余興、許されるだろう」
更なる合図で、兵たちが弩をユキヒョウに定める。
「やめてください!」
玄奘法師がユキヒョウと弩の間に立ち塞がった。
「あのユキヒョウは大切な人の形見である器を返してもらいたがっているだけです!それさえ返してあげれば村を襲うことも…」
「形見…?器…?」
隊長に視線に村長が首を竦める。
「ああ…あの器か。あんな物より、あれの毛皮のほうがよっぽど金になる。それとも御坊」
隊長が玄奘法師を見据え
「唐に連行されるより…ここで射殺されるほうを選ぶか?」
「玄奘さま!」小鈴が法師の肩につかまる。
「小鈴っ危ない…」
「射て」
ためらった兵たちの手元を風がかすめた。
「ひいっ!」
鋭い水の刃が箭もろとも弩弓を切り刻んだ。
「あんたら運がいいぜえ」悟浄が月牙鎩をつき
「ちょっとでもくるったら手ごと持ってかれてたぜえ」
「やっぱエグいな」
「エグいよね」
「ヴェッ」
「ここは俺を褒め称えるとこじゃない!?」
ただの木片と化した弩を取り落とし怯む兵たちに隊長は舌打ちし
「弓だ!弩が使えなくとも弓があるだろ!」
慌てて背負っていた弓に持ちかえ、兵たちがユキヒョウに向かい矢を放った。
ユキヒョウはそれをかわしながら村のほうへと駆けてゆく。
その後を兵たちは執拗に射掛ける。
「そうだ!射続けろ!」
「やめてください!」
玄奘法師が隊長へと駆け寄り
「あのユキヒョウに器を返してあげればきっと大人しくなります!無益な殺生はおやめください!」
「無益かどうかはあれを毛皮にしてみれば分かることだ」
ユキヒョウの行方を目で追う隊長は法師を一瞥し
「心配せずとも、御坊もあのユキヒョウの毛皮と一緒に長安に連れ帰ってやるわ」
言い捨てると、ユキヒョウを追う部下たちについていった。村長が慌ててその後を追う。
「おいお師匠さま」悟空が険悪な目付きで
「弓矢なんざ効かねえだろうが…あの連中をどうにかしねえと、白猫も守れねえんじゃねえか」
「けれど…」
「ああいう欲に目がくらんだ連中が一番性質悪いんすよね!お仕置きしてやらないと!」
月牙鎩を振り振り悟浄も言う。
「玄奘さま…」
「それに…」八戒が村のほうを見やり
「あの人たち、何だか白猫さんを追い込もうとしてるみたい」
「いい訓練だ」
ユキヒョウを追う部下たちの背を眺め隊長が言う。
「輸送部隊とはいえ、ただ物を運ぶだけでは兵たちの士気も上がらんからな」
「はあ」その後に従う村長が
「それで、あの器は…」
「安心しろ。貴公の言い値で買ってやる」
「ただし」と隊長は村のほうを見据え
「あのユキヒョウを無事仕留められたらな」
「村長さん!」
背後から玄奘法師が駆けてきた。
「器はどこですか!早くあのユキヒョウに返してあげてください!」
「しっしつこいなあんたも!」村長は隊長に陰に隠れながらも
「あれは私たちが危険を冒しながらこのときのために必死に守ってきたんだ!簡単に返すもんか!」
「なら」進み出た悟空が如意棒を地面に突き刺し
「村ごとぶっ壊してでも探しだしゃいいじゃねえか」
「ひいいっ凶悪弟子!」
「い、いけませんよ悟空!」
「獣一匹にごちゃごちゃと」隊長は先を進みながら
「心配せずとも後でお主ら全員引っ括ってやる。弩を全て破壊してただで済むと思うな」
そのとき、ユキヒョウの雄叫びが辺りに響き渡った。
「てめえら何を…!」
とっさに悟空が駆け出す。
「仕留めたか!」
隊長も歩みを速める。
「玄奘さま…いまの…」
「ええ…悲鳴のように聞こえました」
「だって弓矢なんか効かないんじゃ?」
「…痛そうな声だった」
玄奘法師たちも急いで村の方へと向かうと、ちょうど村の袋小路になった場所に兵たちが集まっていた。
壁際に追い詰められたユキヒョウの片方の後ろ脚には太い矢が刺さっており、それを庇うように悟空が兵たちと対峙している。
「あれは…」
兵たちに囲まれ置かれているのは、車輪のついた台に据えられた巨大な弩だった。
その大きさは兵たちの持つ弩の四倍あり、槍のように太い矢が七本装填されている。
「節度使へ持っていく最新式の車弩だ」
隊長がしたり顔で玄奘法師を見やり
「いいのか御坊?車弩の威力は弩の五倍だぞ。あの小僧とユキヒョウもろとも串刺しになるが」
言い終わらないうちに玄奘法師が車弩と悟空の間に飛び出した。
「玄奘さま!」
「お師匠さま!!」
「…邪魔だぜお師匠さま」
目の前の背中を見据え悟空が言う。
「大丈夫ですっ」玄奘法師は声を上ずらせながら
「唐の人間ならっ僧を殺めることにためらいがあるはずです…いまのうちにユキヒョウを…!」
悟空はこちらを眺める隊長をちらりと見て「どうだかな」と呟いた。
「ちょっと悟浄!さっきみたいに月牙歳であのでかいのを切り刻んでよ!」
「むむ無理だって!下手に切り刻んだらあの矢がどこに飛んでいくか…」
「じゃあおいらの玖棘棍で地面を陥没させて」
「そ、それも危険だと思うぜえ八戒」
隊長がため息をつく。
「僧とはいえ所詮は罪人だ。何をためらうことがある」
そして、車弩の傍らで棍棒を握る兵に言った。
「射て」
兵が弦をとめる牙へと棍棒を叩きつけた。
「玄奘さま!!」
玄奘法師が後ろに倒れ込む。
恐る恐る目を開けると、車弩の牙と台座の間に一本の弓が突き刺さっていた。
「でかしたぞ恩享」
どこか聞き覚えのある声に目をやると、三人の部下を連れた髭の男がこちらへやってくる。
「あなたは…」
「そこのお弟子さんが岩山から爆誕した以来ですね。玄奘法師」
伯欽が恭しく頭を下げる。
「いやあ、危ないところでしたな。いえ、礼にはおよびませんよ」
「伯欽さまが偉そうに言わないでください」
傍らで弓を納めながら恩享が言う。
「何者だ貴様ら!」
突然現れた四人組にいきり立つ隊長に、伯欽が横目を向け
「これは失礼しました。私は北衙の劉伯欽と申します」
北衙と聞き、隊長は怯んだように口をつぐむ。
「あんた、気づいてたんでしょ」
玄奘法師のもとに飛んできた小鈴が悟空に言う。悟空が鼻を鳴らし
「遠くであのちっさいのがあのでかい弓狙ってんのが見えたからな。ちっさいのがどれ程の腕か分からねえぶん賭けだったが」
「ちっさいのにちっさいのって言われた!」
「気にするな恩享、小さいことと弓の腕は関係ない」
「フォローになってませんが!?」
「八戒」玄奘法師が呼んだ。
「手当てを手伝ってもらえますか」
八戒と玄奘法師がユキヒョウの側に屈み込む。ユキヒョウはそれを大人しく見つめている。
「おい、村長」
悟空に睨まれビクリと村長が震える。
「いいかげんその器とやらを返せよ。これだけ騒ぎにして金になったところで割に合うとは思えねえがな」
村長はしばしためらったが、やがて諦めたようにとぼとぼと家の方へと歩いて行った。
「さて」
今度は伯欽に見据えられた隊長がびくつく。
「節度使のための物資を輸送中に勝手に使用し、あまつさえそれを破壊してしまうとは」
「ま、待て!破壊したのはそこのタレ目だ!」
「テヘ☆」
「言うまでもなく、弩は国で厳重に管理されている物…長安に戻られたら厳しい罰を覚悟なさるんですな」
歯軋りしながらも、隊長は黙り込む。
「しっかしまだついて来てたのかおっさん」
寄ってきた伯欽を悟空が横目で見る。
「まだ玄奘さまを捕まえる気だったの変なおじさん」
「いやいや」
警戒する小鈴に伯欽は首を振り
「私たちは追捕使としてここにいるのではありません。純粋な観光です」
「認めちゃいけないけど一番説得力ある…」
「えっこの人たち知り合いなの?何者?」
「うわっ何だこの人馴れ馴れしいな。恪洵と恭大が怯えてるでしょ」
恪洵と恭大の肩に腕を回す悟浄を恩享が追い払う。
「それはそうと、ユキヒョウの傷はいかがですか玄奘法師」
ユキヒョウの後ろ脚に刺さった太い矢を見つめる玄奘法師は
「幸い、骨は無事のようですが…この矢が相当深く刺さっていて、抜けるかどうか」
矢に触れるだけで、ユキヒョウは苦しげな声を上げる。
「…車弩は攻城用兵器。それをこの近距離で射たれては…」
全員に見つめられ、不安げに首を巡らすユキヒョウに、告げるように玄奘法師が言った。
「苦しいかもしれませんが…矢を抜くしかありません」
「いやあっ痛いよ怖いよ!」
「何であんたが怖がるんですか。だから引っ付かないっでくださいよ」
「…私が抜きます。他の方々は押さえていていてもらえますか」
弟子たちに伯欽一行も加わり、全員でユキヒョウの体を押さえる。
誰もがユキヒョウを注視していたため、剣を手にした隊長が忍び足で移動するのに誰も気づかなかった。
「…こんな辺境まで来て…長安に帰れば罰せられるだと…」
部下たちを押しのけ、車弩に突き刺さった矢を引き抜きながら隊長が唸る。
「そんなもの…いまここで全員の口を塞げばどうとでもなるわ!!」
叫ぶなり剣の柄を牙に叩きつけた。七本の矢が放たれるのと全員が弾き飛ばされるのが同時だった。
目を開けた玄奘法師が状況を理解するのに、前回ほど時間はかからなかった。
車弩と自分たちの間には、全身に矢を受けたユキヒョウが倒れている。
「てめえ…!!」
「悟空!」いきり立つ悟空をユキヒョウに駆け寄った玄奘法師が制止する。
「…それよりも器は…器はまだですか!?」
そこへようやく器を手にした村長が村人とともに戻ってきた。
何が起こったのか分からず辺りを見回す村長の手から悟浄が器を奪う。
「返してもらうぜ村長さん」
それを受け取った玄奘法師は、腰に下げた瓢箪を外し水を注ぐとユキヒョウの顔へと向けた。
浅い息をするユキヒョウは、薄く開いた眼でじっと玄奘法師を見つめている。
「…見てください。このなかに、あなたの大切な人は…映っていますか」
その声が聞こえているのかいないのか、ユキヒョウはひたすら玄奘法師を見つめ続ける。
「ひょっとしたら」と伯欽が呟いた。
「その器ではなく、そのなかに入っていた水が原因なのでは?」
全員が伯欽を見た。
「いえ、何かの書物で…西方に人の面影を映す、不思議な水の湧く場所があるとかないとか」
「ほんとかよおっさん…どこだよそりゃ!」
「ええと、西方としか…」
「思い出せよ!早く!」
「いえ」玄奘法師が言った。。
「もう…」
ユキヒョウはもう息をしていなかった。
まだ温かいその体に突き刺さった矢を、玄奘法師がつかんだ。
「玄奘さま…」
何本も突き刺さったそれを懸命に抜こうとする玄奘法師の側に、悟空が屈んだ。
「…お師匠さまの力じゃ抜けねえだろ」
「…ありがとうございます」
手を血まみれにし、玄奘法師とともに矢を抜く悟空がギロリと振り向いた。
「モタモタするな!」
隊長が部下たちを怒鳴る。
「さっさと装填しろノロマめ!いまのうちに次の矢を…うおっ!?」
振り下ろされた如意棒に車弩が真っ二つに砕かれた。
「いいかげんいしろよてめえ…!!」
悟空が跳躍した勢いで隊長の顔面を殴りつけた。
「ぐあっ!」
「悟空!」
倒れ込んだ隊長に馬乗りになり、悟空は更にその顔を殴り続ける。
「やめなさい悟空!」
「玄奘さま!」
駆け寄った玄奘法師を突き飛ばし、悟空は尚も隊長を殴り続ける。
「やめるんだ悟空…」
その背中と、変形してゆく隊長の顔を見つめる玄奘法師がぎりっと唇を噛んだ。
「やめろ!!」
怒声が辺りに響き、その場にいた誰もが息をのむ。
「もういい…」
玄奘法師が立ち上がり、悟空が振り返る。
「もういい」
もう一度言うと、玄奘法師は悟空を見た。
「孫悟空…お前を…今日限り破門する」
悟空が金目を見開いた。
「玄奘さま…?」
「えっ、何で!?何で兄貴が破門になるんすか!?」
「お師匠さま落ち着いて?何か食べる?」
「ヴェッヴェッ!」
「いえ」法師は悟空を見つめたまま
「もう…決めたことです」
「…っざけんな」
悟空が血まみれの隊長を放り投げ
「お師匠さまは腹が立たねえのか!?白猫よりこいつのほうが大切なのかよ!?」
「どちらが大切という話じゃない」
いつになく厳しい声と表情で玄奘法師が言った。
「お前をもう…弟子として連れていくことはできない」
「ちょちょお師匠さま!怒る兄貴の気持ちだって分かるでしょ!?何もそこまで…」
「悟空もお師匠さまもお腹減ってるんだよ。何か食べる?」
「ヴェヒンッ!」
「わーったよ」
「そうそうってええ!?」
全員が悟空を見る。ゆっくりと悟空は立ち上がり
「そもそも望んで弟子になったわけじゃねえ。これで縁が切れんならせいせいする」
「ただな」と金目が法師を見返す。
「緊箍児はまだ外れてねえんだ。師でも弟子でもなくなったとしても、あんたが弱音や愚痴を吐いたらこいつが締まるってこと忘れんなよ」
「…分かりました」
「玄奘さま…」
目を逸らした悟空は舌打ちすると、すぐさま觔斗雲に乗り、瞬く間に空の彼方へと消えていった。
「兄貴…」
悟浄、八戒、白竜はその方角を揃って見つめる。玄奘法師は兵たちに介抱されている隊長に歩み寄り、頭を下げた。
「私の弟子が…申し訳ありません」
腫れあがった顔で隊長がもごもごと呟く。
「あの…厚かましいお願いかもしれませんが」
隊長が理由もなくビクリと震えた。
「向こうの岩山の洞穴に置いてある経典を、長安に帰られたときに…洪福寺というお寺に届けてはいただけないでしょうか。きっと…それを遺されたお坊さまもそれを望んでいらっしゃると思うので」
尻で後退りながら、隊長は黙って何度も頷く。
「それから」
今度はこちらを向かれ、村長が後退る。
「村長さん…どうかこのユキヒョウを…亡くなったお坊さまのお墓の側に埋葬してあげてくれませんか。この…」
玄奘法師が青い器を持ち
「器と一緒に」
「はっはいいっ必ず!」
村長と一緒に村人たちも必死に頷く。
「どうか…お願いします」
目を閉じたユキヒョウの顔の側に器を置き、その冷たくなった体を撫で法師は呟く。
「玄奘法師…」
傍らに立った伯欽を、玄奘法師は見上げ
「伯欽さま…私は、先に進まなければなりません」
有無を言わせぬその眼差しに、伯欽は頭を下げる。
「ええ…またどこかで」
白竜の手綱を引き、足早に村を離れてゆく玄奘法師一行の姿を、誰もが黙って見送った。
「伯欽さま…」
「ああ」
恩享の声に伯欽は振り返り、隊長と村長を見据える。
「あなた方が玄奘法師の言葉をきちんと遂行するかどうか…私が責任を持って見届けさせていただきます」
隊長と村長は、ただ黙って部下と村人の間で小さくなる。
いつの間にか陽は傾き、西陽が横たわるユキヒョウの白い体を赤く染めていた。
——いいかい、私がいなくなったら…この器のなかを覗くといい。
——そうしたら、いつでも会えるからね。
――いつでも…




