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異説西遊記  作者: 圓堂
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第二十七話



  夜気が満ち、昼間の熱風が嘘のように辺りには冷気に覆われている。

 頭上には満天の星が輝き、東の地平には青龍が顔を出していた。

 そんな空の下、焚火を囲んでいた一行になかで、ぶるっと悟空が身震いをした。玄奘法師が顔を上げ訊ねた。

「寒いんですか悟空」

「別に」悟空は布にくるまりながら

「ちょっと冷えただけだ」

 八戒も悟空を見つめ

「悟空…牛さんと戦ってから顔色が悪いよ」

「そういわれてみれば」小鈴も覗き込む。

「たしかに兄貴…いつもより耳が小さいぜ」

「うるせえよ、どうってことねえから近寄んなっ」

 まじまじと見てくる悟浄の顔を悟空が押しのける。

「悟空…」

 今度は玄奘法師がまじまじと覗き込み、「何だよ…」と悟空は身を引く。法師が悟空の手をつかんだ。

「ひっ…何だよやめろおい!」

 法師は構わず悟空の服をめくる。その腹は青く痣になっていた。

「ちょっとあんた、こんなひどい怪我してたなら言いなさいよ!」

「怪我ってほどでもねえだろ!ほっときゃ治るぜこんなもんってぐあっ…」

 悟浄につつかれて悟空が腹を抱え込む。

「…やっぱあの牛のおっさん、四天王なだけに攻撃のダメージも違うな」

「だから大したこと…」

「白竜、ありがとうございます」

 白竜が鞍の脇に置いてあった荷物を咥え、玄奘法師に渡した。法師はその中から何やら取り出しながら言った。

「悟浄、すみません。お湯を沸かしてもらえますか」

「お安い御用で!」

 袋の中から更に小さな袋を取り出す法師に、八戒が鼻をヒクヒクさせる。

「桃仁…桂枝…甘草…芒硝…大黄…お師匠さま、桃核承気湯をつくるんだね」

「ああ、八戒はご存知でしたか」

 法師は微笑み

「腹の打ち身だけでなく、体も冷えきっているみたいです…もしかしたら、あの戦いで牾王の妖気にあてられたせいかもしれません」

「ああ、あの牛のおっさんの吐息に」

「吐息言うな」

「この薬湯なら、体の冷えと打ち身の両方に効くはずです」

「さすが玄奘さま!」

 乾燥した薬草を法師が小さな鉢で擂り潰しながら

「あと他に、やせ薬にもなります」

 全員が八戒を見た。

「おいらのお肉、脂肪じゃないもん」

「あとヒステリーや」

「よし、お前飲め」

「しっっつれいね私のどこがヒステリーなのよ!」

「あと高血圧、肩こり、腰痛、痔など」

「やけにオールラウンダーな薬っすね」

 結局、悟空以外のメンバーも飲むことになった。

「…訴えてる…口に入れちゃ駄目なやつだって舌が訴えてる」

「…体に摂りこむ前に全部吐き出すかと思った」

「げっ…玄奘さまがつくってくれたものなのよ…勿体なくて吐き出せない!」

「甘草の甘みがいい感じだよお師匠さま」

 玄奘法師は鍋をかき混ぜながら

「私のせいで…皆にはいつも苦労をかけてしまって」

 ピリッと空気が張りつめる。

「私には…こんなことぐらいしかできませんが」

「あーピリッときたー頭がピリッときたー」

「おいらもお腹が一瞬きゅっとした」

「道具的にもビミョーなラインだったみたいだな」

「玄奘さまそんな気にすることありませんよ!この三人はダイオウグソクムシなみにしぶといですから!」

「おいら、絶食はできないよ?」

「でも」法師は鍋を見つめたまま

「やはりチヨさんの忠告のとおり…この先どんどん危険が増して…ますます皆を危険な目に遭わせてしまうと思うと…」

 と、横から白竜が法師をつっついた。玄奘法師が目を上げると、弟子たちと小鈴が既に眠りに落ちている。焚火に照らされるその寝顔を眺めていた法師は白竜と微笑み合い、頭上の星々を振り仰ぐ。

 冷たい夜風が、果てしない荒野をどこまでも渡っていった。


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