合コン再び
「いや、ほんとありえないから!」
「まぁまぁオタコンってやつだし、絶対盛り上がるってばよ。なっなっ」
なじゃねーよ。受付で皆待たせてるんだから、俺は帰らせてもらう。
「あっ、コスプレしてないと盛り下がるからなんか着てきてちょ」
ちょじゃないだろ、ちょじゃ、皆で正月休みを楽しむ予定が、何が悲しくて合コンの穴埋めなんかしなきゃならんのだ。
と心で憤慨しつつも、更衣室に放り込まれて適当なコスチュームに袖を通す律儀な自分。
戦闘機コレクションというゲームのプレイヤーキャラコスである空軍の真っ青な軍服を着こなし、わりかし似合ってるんじゃないかと鏡を見て思う。
更衣室から出ると、何故か摩周兄の爆笑を買って釈然としないまま俺はまた背中を押されてカラオケールームに連れて行かれる。
「ここ、ここ」
俺は半ば押し込まれる感じで中に入ると。そこには二人のコスプレ姿をした微妙な可愛さをした女の子がいた。
微妙と言ってもわかりづらいと思うが、多分マスクとかしてたら凄く可愛く見える系。でも外すととあっ、あー…ってなる感じ。俺が人様の容姿に対してどうこう言える立場ではないのだが、表現の為言わせてもらうと後ろ姿美人の振り向くとガッカリ系女子達。
二人はどこぞのギャルゲーらしき食い倒れ人形みたいな縦じまの入った学生服を着ており、俺を見るなりきゃいきゃいと姦しく「ゼルさんそれ代打~、マジありえないんだけど~」っと一言で俺の苦手系な女子に分類された。
「ごめんごめん、こんな奴しかいなくてよー、でも男呼んできたから帰っちゃダメだぜ」
「え~それを男って認めるのはちょっと~」
「だよね~」
なんてアホ丸出し、パンツ丸出しでキャッキャとわめくコスプレ女子達。
お母さん見たら泣くぞと言いたくなる様相だ。つくづく俺は良い女性に囲まれてると理解した。
「いや、俺も用事あるから」
「いやいやいや用事ってなんだよ~」
摩周兄が腹立つにやけ顔で聞いてくる。カラオケ屋に正月からピンで歌いにくる奴もそういないだろう。
「いや、ツレ待たせてるから」
「ツレって誰だよ?どうせ男っしょ。いいじゃん、正月くらい楽しく女の子達と遊ぼうぜ」
あー鬱陶しい、これが世のリア充であるなら、俺は一生引きオタでいいと思う。
「えっ、てかもしかして女子?女子会」
女子会は関係ないだろう。
まさか?とニヤケ顔の摩周兄に俺は首を縦に振る。
「えっ、マジで?」
途端に表情がニヤケ顔からいやらしい笑みにかわる摩周兄。
「あっ、もしかしてイベントに来てた女の子とか?」
そういやこいつ雹と面識あるんだったな。一緒にいると聞いたら会わせろと更に鬱陶しいことになると容易に想像ができたのでサラッと否定しておくことにする。
「いや、今日は違う子」
「えー何それ今日は違う子ってミッチーもしかしてやり手系?」
いやらしい笑みを浮かべて、俺をどこぞのバスケ選手みたいなあだ名で呼ぶ摩周兄。
「じゃあ、じゃあ、その子も呼んじゃえよ。皆で遊ぼうぜ」
YOUやっちゃいなよと、予定通りのセリフがでてきたなと思い、俺は顔をしかめる。
「ゼルさん浮気性~」
「そうそう私たちいるのに~」
「いやいや、さくらちゃん、のんたんそういうわけじゃないんだよ~」
女の子N○Kアニメみたいな名前してんなと思いつつ、俺はじりじりと摩周兄から距離をとっていくが。
「おっと逃がさないぜ」
男から言われると最高に嫌すぎるセリフだ。
「ミッチーの友達来てるみたいだしさ、皆で遊んだ方がぜってー楽しいって」
摩周兄が強引に言いくるめると、女の子達もしょうがないにゃ~と了承した。
「ささっ、遠慮なく呼んじゃえよ」
遠慮じゃなくて、普通に呼びたくないだけなんだが。
俺は顔をしかめつつ、携帯に指をかける。
とりあえず、皆俺がいなくなって探してるだろうから、メールいれるか…。
俺はささっと玲愛姉さんに[知り合いに捕まってる、なんとか抜け出すつもりだけど先に遊んでて]と素早く送信する。
「呼んだ?」
「ま、まぁ…」
後はもう、来ないな~ちょっと探してくる。でそのままフェードアウトしてしまえばいいだろう。
こいつに対して何かしら義理があるわけでもないしな。
「じゃあ来るまで皆で遊んでようぜ」
「「イェーイ!」」
正直よそのサークルのテンションについてくのは難しい、一○○パー俺合コンとかに向かないな。そう思いながら、差し出されたオレンジジュースを口に含む、この一杯飲んだらフェードアウトしようと固く決めるのだった。
摩周兄が合コン独特のキャッキャウフフした、女の子褒め殺しトークを聞いて俺がげんなりしていると、コンコンとノックが響いた。
「おっ来たんじゃない?」
「はっ?」
何をバカな、俺は呼んでないし、そもそも部屋番号も伝えてないから来れるわけがないんだが。
「こんばんは~」
「イシシシ、やっぱり三石君じゃないでしか」
俺は扉から顔を出した二人を見て、驚愕に震える。これガンニョムだったらパララーってアイキャッチ入ってCMいくから。
扉から顔を出した二機のドムは、違う二人の女性は以前相野と合コンしたことがある牛渡椿さんと五十嵐桜さんだった。
その容姿は串にささった三つの団子に手と足をくっつければ完成する。(失礼)
「さっき~、三石君っぽい人が見えたから~」
「イシシシ、見つけたのあちしよ」
チェリーさんは巨漢を震わせながら、可愛らしいアピールをしているのだが。彼女たちの格好があまりにも凶悪な為目をそらしてしまう。
まだリックドムの格好でもしていれば可愛げがあるものの、彼女たちの姿は赤のチェックスカートにフリルのついたシャツ、頭に小さなシルクハットに首元には黒の蝶ネクタイと衣装はとんでもないくらいに可愛かった。
それは今放送されているアイドルアニメ、ラブサバイバーのオープニングで着用されているステージ衣装だった。
しかしならがあまりにもパツパツに張ったシャツは今にもボタンが吹き飛んできそうだし、短すぎるスカートから覗く太ももは太ももと言うより丸太に近く、凄まじい破壊力のある蹴りを繰り出せそうだ。
「みこみこみこりん、チェリーブロッサムちゃんだみょん、みっこみこー」
チェリーさんは頭にピースをつくり、兎っぽくぴょこぴょこ動かしながらアニメのセリフをほざいている。
何それピッコロさん?と言いたくなるくらい、アイドルアニメとナメック星人くらい印象はかけ離れていた。
俺がうわぁ…と表情を作っていると、摩周兄には思いのほか好評だったようで、ゲラゲラ笑いだした。
「あっはっはっはっはっはっははははは、何それミッチーが呼んだのってこの子ら、あはははははは」
どうやら摩周兄は俺のツレが彼女達だと誤解したようだ。今すぐにでも違うと言いたかったが、この場をやり過ごすため苦々しく肯定した。
「ま、まぁ…そうかな…」
「あっははははははははは、ミッチーマジウケルー。いやいやわりーわりー、考えてみればミッチーなら妥当な線だよね」
とりあえず俺とカルビさん達両方に謝罪を要求する。
「ひー、ひー、あーミッチーマジおもしれぇわ。サイコー。こっちの女の子達に対抗しようとして見栄張ってるところが超ウケる」
本人の意図しないところで大爆笑をとるのはあまり気分的にはよろしくなかった。対抗するつもりはなかったが、偶然摩周陣営に女の子が二人、俺の陣営にドムが二機配備されただけだ。
「いいじゃんいいじゃん、マジおもしれーし。一緒に遊ぼうよ」
摩周は完全にネタとして楽しみたいらしく、俺の予想としてはお帰りいただいてもいいかな?と提案されるかと思ったのだがアテがはずれてしまった。
「あっ、お二人さんはミッチー挟んでよ」
お前は鬼か。
三人掛けのソファーにチェリーさん、俺、カルビさんの順で並ぶ。肉に挟まれたバンズというか、なんというか。
もともと小さ目だったソファーだった為、狭い、たまらなく狭い。何もしなくても肩と腕が触れ合ってしまう距離感。そして何でこの子達こんなに熱いのと言いたくなるくらい二人の体温は高かった。
「串にささったお団子、お団子♪」
軽やかなリズムで歌う摩周兄。おい言っていいことと悪いことがあるぞ。俺だってさすがに本人の前で団子兄弟の歌なんか歌えるか。(失礼)
チェリーさん達は摩周兄の歌の意味合いを深く理解せず、勝手気ままにメニューを開いてご飯を注文しだした。
「はいミッチーピース」
摩周兄は面白そうに携帯でパシャパシャと写メを撮りはじめた。もういっそ殺してくれとさえ思える状況だ。
やがて、チェリーさん達が注文した肉と炭水化物が届くと、バグバグと凄い勢いで飯を食らい始めた。
それを見て、摩周兄がまたニヤケながら写メを撮っている。どうせツイッターで養豚場なうとか書き込みしているのだろう。申し訳ない言い過ぎた。
しかしながらそう言われても仕方ないくらいに、彼女たちは凄い勢いでご飯をかきこんでいく。
「ふぅ、今日は腹八分目にしておこうかしら~」
「ありゃりゃ、カルビちゃんダイエットちう?」
「お正月で家にあった鏡餅まるまる全部食べちゃったら、三キロも太っちゃったのよねぇ」
えっ、鏡餅って一人で食べれるものなの?と驚愕に襲われる。
「そういやこれ合コンでしょ、皆自己紹介はしたでしか?」
したでしかって、する間もなくフードファイトが始まったからねと、俺も苦笑いしかできなかった。
「そんじゃ軽く、摩周健斗。ブレイクタイム工房っていうちょっと名前の知られた同人グループで企画屋やってるぜ。他にもヌコ生の生主とかやってるから、名前とか知られてっかもしんねーな」
いやー有名人つれーわと聞いてもないことをつらつらと。
カルビさん達に気圧されながらもコスプレ少女たちが自己紹介する。
「私ー、山下ののか。のんたんって言われてるー、歌ってみたとか踊ってみたとかで動画あげてるから良かったら見てねー」
「わたしぃ城石さくら。さくらって呼んでねー、わたしわぁ、描いてみたで絵師とかやってまぁす。歌ってみたでボカノ曲も歌ったりぃしてまぁす」
こいつも結構ねじ飛んでんなって城石さんを見ていると。
「キャラ作ってんじゃねぇよ!!」
物凄い声量でチェリーさんが吠えた。
一瞬背景に狼が見えた、食肉系女子じゃなくて、猛獣系女子だったよチェリーさん。
「わたしぃ(ハァト)じゃねーだろうが!私だろうが、わ・た・し!」
チェリーさんの物凄い雄々しい叫びと充血した鋭い眼光に、コスプレ少女ドン引きである。ちなみに俺もドン引きである。
「ふん、あちしと同じ名前とか改名してほしいくらい……でし」
ようやく自分のキャラを思い出したのか、最後に小さくでしと付け加えるチェリーさん。
「ごめんねぇ、チェリーちゃんちょっとカマトトぶってる子見ちゃうとつい男らしくなっちゃうのよ~」
いや、それは大問題なのではないのだろうか。
ふんすと鼻息荒くチェリーさんは座りなおして、息を整えると。
「あちし~、五十嵐桜。声優の卵やってます!皆からはチェリーブロッサムって呼ばれたり、神って呼ばれたりしてます。きゃるん☆皆も気軽に神って呼んでね☆ミ」
なんというか摩周陣営に負けないように精いっぱいこれでもかというくらいにキャラづくりされたチェリーさんの自己紹介に誰一人として突っ込める人間はいなかった。
「わたしは~牛渡椿、皆からカルビって呼ばれてるから同じ呼び方してもいいわよ~。チェリーちゃんと同じで声優の卵やってま~す」
思ったよりまともなカルビさんの自己紹介が終わり、俺は短く三石悠介ですとだけこぼして終わった。
誰かこの場から助けてほしい。
一人二、三曲ずつ持ち歌を披露した後、カルビさんがまた王様ゲームやりたいとか言いだしたのでそれを全力で阻止した後。皆特に歌う気分でもなく、それぞれでトークに花を咲かせている。
と言っても盛り上がっているのは摩周陣営だけであり、摩周兄はチェリーさん達に飽きたのか、もうコスプレ少女達を口説くのに夢中だ。
「えぇーゼルさんそんなこと言って~、会う女の子全員に言ってるんでしょ?」
「いやいや、俺は可愛い女の子には嘘つかねーってば。マジでのんたんもさくらちゃんも超レベル高いって」
「やーん」
やーん、じゃないよやーんと言いたいのはこっちだ。やーん帰らせてー><
「俺今企業から声がかかってさ、ヴァーミットってところでゲーム作ってんだよね~。まぁ俺の才能が認められたっていうかなんていうか」
「ゼルさんすごーい」
やっぱりインセクター摩周弟もこぼしていたが、ブレイクタイム工房がヴァーミットとくっついているのは間違いないらしい。
「でもよー、なんかプロデューサーみたいなのが上についてさ、偉そうな事ばっか言ってきやがんの。マジうぜーっての」
「あぁいるよね、そういうの」
「俺に全部やらせてくれりゃサイコーにおもしれーゲーム作れんのに」
「ゼルさん超カッコイイ」
「あぁ、それでウケルのがさ、その人実家が結構やばいらしくて、前の会社ブッチして高額報酬につられてヴァーミットに入ったらしいんだけど、今回作ったゲームが前いた会社にいた時のモノより売れたら何億って成功報酬がでるらしい」
「えー凄ーい」
「これオチがあってよ、社長がそんな金個人に払うわけねーだろガハハハって笑ってんの見ちゃったんだよねー」
「えーひどーい」
アッハッハと笑う、摩周兄とコスプレ少女達。
あー嫌な話聞いちまったな。
「でも社長曰く近々大金が手に入るらしくて、うまく言ったら払ってやってもいいって笑ってたけど、ありゃ払う気ないね。最後に適当なこと言ってけむに巻くタイプだ」
「ゼルさんも気をつけないとね~」
「まぁ俺ぐらい裏側に詳しかったら、今の無能な上司みたいにはなんねーよ」
あひゃひゃと癇に障る声で大笑いする摩周兄。
俺は無言で既になくなりつつあるオレンジジュースのグラスを傾けた。
男が女を必死に口説こうとしているのを見て、げんなりするのは別に俺だけではないらしくチェリーさん達もあまり気分のいいものではなかったようだ。
カルビさんはまた新たに食べ終えたパフェのグラスを置くと、放置プレイも飽きてきたのか、新たな遊びを提案する。
「何か遊びしない~?王様ゲームは却下されちゃったけど、遊び道具いくつかもってるわよ~」
「あ~うん、ミッチーと遊んどいて」
摩周兄のこの露骨な態度の違いである。あるある俺もこんな感じでハブにされることよくあった。仲の良かった友人にダシにされ、挙句の果てに邪魔者扱いされることを経験した人は意外といるのではないだろうか?
えっ何で俺呼ばれたの?って言いたくなるような状況、そして後日怒っても本人はあまり気にしていないと言う、悲しき友情ブレーカー。二次元サイコー裏切らない女の子って素敵。
「あちしなんだかつまんなくなってきちゃったでし」
はふんと疲れた大女優のように、ない首を振りながら両手を上げるチェリーさん。若干イラッとくる仕草だが、暇を持て余している為仕方ないだろう。
「三石君なんか面白いことやってほしいでし」
あっ、やばい俺への無茶ぶりにシフトし始めてきてると気づき、俺が顔をしかめていると。
「はやくはやく~」
「あらあら三石君そんな合コンで持ちネタなんてもってるのかしら~」
そんなのないですから。
「合コンアプリとかもあるのに無駄になったでし」
「合コンアプリ?」
「最近多いのよ~、携帯で出来る合コンゲーム」
ゲームと言われてピクリと反応してしまった。
「これなんて面白いのよ~。全員でダウンロードしなきゃいけないんだけど、双六アプリでね。皆で対戦できるの」
「そうそう、一位が三位にキスとか、合コンっぽいマスもいっぱいあるでしよ」
「えっ何それ、面白そう」
唐突に食いついてきた摩周兄、お前ほんとわかりやすいな。
「どれどれ、なんてソフト?」
「これでし」
摩周兄はすぐさま自分の携帯にアプリをインストールすると、ゲームの内容を確認した。
「おほっ、隣の人にハグとかあるじゃん」
「結構過激なのも多いでし」
「いいじゃんやろうよ」
エロイことにつられた摩周兄が即座に賛成する。
こいつわかっているのか、この六人でやってお前的な当たりはそこのコスプレ少女だけであって他はハズレなんだぞ。
コスプレ少女にもゲームをインストールさせると、もうゲームをプレイする雰囲気ができあがってしまった。
「一位は最下位に命令できることにしようぜ。もちろんなんでもアリで」
「何でもって、摩周ちん、あちしの体狙ってるでしね」
「や~ん、こわ~い」
と言いつつも満更ではなさげな二機のドム。
「あっ、俺達三人でやるから、ミッチーたちはそっち三人でやってね」
驚愕の提案をしてくる摩周兄、さすがリア充自分にだけ都合の良いことをこともなげに言ってのける根性が凄い。
それを聞いて、さすがにドムも黙ってはいなかった。
「それじゃあ意味ないでし」
「そうよ~、皆でやりましょうよ~」
「あぁごめん、もう三人で始めちゃった」
ウハハハと確信犯的な笑いをする摩周兄、性格悪いなコイツと思っていたが、ドムもまだ引き下がらなかった。
「え~じゃあ一回リセットするでしよ」
「まだ始まったところだしいいでしょ~」
「あぁもう、うっせーな、あんましうるさいなら帰っていいぞ」
鬱陶しそうに言う摩周兄に、二人は閉口してしまう。
「もういいでし、カルビちゃん帰ろう」
「そうね~、私たちお邪魔みたいだし~」
二人に嫌な思いをさせたなと罪悪感。
チェリーさんとカルビさんはずんずんと足音を怒らせながら、部屋を出て行ってしまった。
「あっ、行っちゃった。ミッチーとあの二人がハグしてるところとか見たかったけどな」
なんともまぁ性格の曲がってる奴なんだと、俺も出るかと立ち上がろうとしたとき、部屋のスモークガラス状の扉に人影が写ったかと思うと、カチャっと音をたてて開いた。
二人が帰って来たのかなと思ったのだが。
「あっ、いた」
ドムが抜け、代わりに入ってきたのは玲愛姉さんだった。
偶然なのか玲愛姉さんはチェリーさんとカルビさんと全く同じラブサバイバーのキャラクターコスチュームだった。しかし劇的なまでに違うのは、玲愛姉さんが着ると並のアイドルが俯いてしまいそうなくらいに可愛らしく、とても似合っていた。チェックのスカートは何故こうも男心を鷲掴みにするのか。
黒のニーソと見えそうでハラハラす短さのスカート、靴についた赤いリボンが可愛らしいのだが、玲愛姉さんが身に着けるとなんでもカッコよく見える。イケメンが何着たってイケメンに見えるのと同じ理屈だと思う。
入ってきた人物を見て、驚愕しているのは摩周兄も同じようだった。そして一拍おいて。
「なんだその美人はーーーーーーー!」
口をパクパクさせながら、白目むきそうな摩周兄、摩周ちんその顔ウケるよ。
何ってそりゃ…。
「カルビさんだよ」
「んなわけあるかー!もっとピザ体系だっただろうが!」
なんて失礼な奴なんだ。
「カルビさんだよねー」
「ああ」っとよくわかってもいないのに語調を合わせてくれる玲愛姉さん。
「いや、もっとあのえっとなんていうかふくよかだったでしょう」
摩周兄が頑張って気を遣おうとしているのが少し面白い。
その質問に対して玲愛姉さんは。
「痩せた」
んなわけあるかー!と言いたげな摩周兄。
「トイレ行ったら痩せたんだよ」
何リットルため込んでたんだ、そんだけ吐き出したら人間脱水症状で死ぬわと言いたげな摩周兄
いいから双六の続きしようぜ。
玲愛姉さんにごにょごにょと経緯を耳打ちする。
「お前もバカなことやってんな」と呆れられる。
そして携帯を取り出しどこぞかに電話する。
「あぁ私だ。いた。うん、部屋番号401。私と同じ格好して一人来て、よろしく。他の人いるからチェリーちゃんって名前で入ってきて」
玲愛姉さんは摩周兄に聞こえないよう小声で用件を伝える。そして五分程してから。
「チェリーです」
玲愛姉さんと全く同じ格好をした火恋先輩が部屋にやってきた。
すらっと長い脚に短いチェックスカート。フリルの多い服を恥ずかしげに着ているが、火恋先輩可愛い服好きだから満更でもないのだろう。逆に玲愛姉さんが可愛い服を着こなしているのが凄い、なんか普通に渋谷とかにいそう(小並感)
二人とも街にいればきっとアイドルなんだろうなって勝手に思ってしまうほど似合っていて、これがアニメのキャラコスとは到底思えなかった。
「チェリーおそーい」
「姉さんがいきなり着替えろって…」
「姉さん?誰?私今カルビちゃんなんだけど」
火恋先輩は周りを見渡し、なんかそういう名前をつけて遊ぶのが流行ってんのかな?と勝手に解釈して。
「ごめーんカルビちゃん、遅くなっちゃった」
テヘッとキャラ作りを始めた。
(;゜ Д゜) …!?(つд⊂)ゴシゴシってなってる摩周兄
玲愛姉さんと火恋先輩は本来なら無理やりでも俺を引っ張って行きたいようだったが、知り合いがいるということで少し付き合ってくれるみたいだ。
なので一つ遊びに付き合ってもらう。二人は俺に言われるまま双六アプリをインストールしてゲームを開始する。
「じゃあゼルさん?でしたっけ、こっちはこっちで遊んでおくんでお気遣いなく」
「いや、えっ?」
今まで散々気分悪い目にあわされたのだ、多少の仕返しも許されるだろう。
「いや、やっぱ全員でやった方が面白いってば」
いいね、いいよその手のひら返し、そういうの嫌いじゃないよ。小物臭がはんぱなくて。
だから俺はこういう。
「ごめん、もう始めちゃった」
半笑いでそう伝える。
「悠、お前性格悪い」
「ねじれてるよ」
玲愛姉さんと火恋先輩はジト目で呆れているようだった。
摩周兄はさっきやったことと全く同じことを返されて、ぐぬぬぬぬといら立っているようだ。
いいよ、その顔。ブーメランでやったこと返されて何も言えない感じ。俺も相当性格曲がってるなと気づいて少し笑う。
「なにこれ、止まったら隣の人の耳を甘噛みってでたんだけど」
「私も同じのでた」
玲愛姉さんと火恋先輩は普通の双六アプリだと思って始めたようで、出た目を見て困惑しているようだった。
「あぁじゃあ両サイドから耳噛んで」
「お前の?」
「悠介君の?」
耳たぶ甘噛みって結構ハードル高い内容だから普通の女の子は嫌がる。それを知ってか、摩周兄の顔が嫌われろ!キレられろってワクワクしてる顔になっていた。
だが甘い。
「まぁいいけど」
「人前でするようなことではないと思うけどね」
右耳から玲愛姉さんのきつめの痛みが、左耳から火恋先輩の舐めるような甘噛みが。両方で抱きつかれながらされる。
ガジガジ、レロレロと痛みと甘ったるい刺激が両耳から襲ってくる。ナニコレ凄い恥ずかしい。
摩周兄の方を見ると、なんかムンクの叫びみたいになってるんだけどアイツ。
俺は調子に乗って二人の肩を抱く。なにこれ雑誌の裏とかによく載ってる、パワーストーンで億万長者に、ってタイトルの下に万札風呂に入りながら女の子の肩を抱いてるおっさんみたいになってる。
「大胆だね」
「調子に乗ってるな。お前見られてる方が興奮するタイプなのか?」
断じてそんな性癖はない。しかしながらちょっと楽しくなってるのは間違いない。
次は俺と、携帯の画面をタッチするとダイスが転がり、棒人間のキャラクターが出た目だけテクテクと歩いていく。
今順位が最下位の人とポッキーゲームと表示される。
「おぉ定番の出たな」
現在順位が最下位なのは火恋先輩だから…。
ちなみにこのアプリwifi通信で、他の人がどんなマスに止まったかちゃんと表示されるようになっている。
火恋先輩の方を見ると…。
既にポッキーくわえて準備万端と言いたげだった。
それでは遠慮なく…。
チラリと横を見ると、摩周兄もコスプレ少女、のんたんだっけ?その人とポッキーゲームをやっているのだが、摩周兄ずっと横目でこっちを見たまんま、全然進んでないんだけど。やめてよね、そんなガン見されたら恥ずかしいじゃないか。
気にしないで俺が、火恋先輩の咥えているポッキーの反対を咥えると。
サククサクサクサクサクサクサクサクサクサク
早い!火恋先輩早すぎる!
リスでもそんなに早くないと言いたいスピードで、火恋先輩は正面衝突上等で突っ切ってくる。
ぶつかりそうになった瞬間。
「やらせるか!」
玲愛姉さんが無理やり俺の後頭部を掴んで後ろに引き倒した。結果ポッキーは割れて、不満そうな火恋先輩が残る
。
「カルビちゃんなんで邪魔するかな」
「お前はポッキーゲームを勘違いしている、あれ最後には避けるゲームだから」
「避ける?なんで?」
そこで可愛らしく小首を傾げられても困ります。
「別にキスの一回や二回減るものでもないし」
「じゃあ俺と」
テメーはすっこんでろ摩周兄。つかのんたん困ってんぞ、早くポッキー食えよ。
「次私、近くの異性に何かを食べさせるってでたぞ」
「何かと言ってももうフライドポテトくらいしか残ってないけど」
玲愛姉さんはじゃあそれでいいやと、ポテトをつまんで俺の口に放り込む。が指までぐいぐい突っ込んでくる。
「ほら、食え食え」
段々楽しくなってきたようで、口の中に次々とポテトを突っ込んでくる玲愛姉さん。
口の中がポテトだらけになって喋ることもままならなくなっていると、指でぐいぐいと口の中を押し込んでくる。
「あはっ、楽しい」
S的な趣向が気に入ったのか、口の中を指で引っ掻き回してくる。
「姉さ…、カルビちゃん行儀悪い」
「あー楽しかった」
ようやく満足したのか玲愛姉さんは口から指を引き抜くと、その指はポテトの残骸やら、俺の唾液やらで激しく汚れていた。
俺が悪いわけではないが、綺麗なものを汚してごめんなさいと平謝りしたくなった。
「あーあ汚れた」
「すみませぬ(モクモク)」ポテト食ってる。
「火れ…チェリー」
「何?」
ぐっと、今度はその汚れた指を火恋先輩の口の中に無遠慮に突っ込む。
「うぇっ!?」
俺は驚いたが、火恋先輩はさして気にした様子もなく玲愛姉さんの指をちゅーっとすって綺麗にしてしまった。
「うん、塩味」
簡素な味の感想と共に口周りをナプキンで拭く火恋先輩。ついでに俺の口の周りも拭いてくれる。この姉にしてこの妹ありだから、やはり数年後火恋先輩が玲愛姉さん化する姿が見えた。ただ性癖はSとMで真逆っぽいけど。
こちらの様子を呆気にとられながら見ている摩周兄だった。
「ちくひょうめ~!!」
いいから早くポッキー食えよ、いつまでこっち見てるんだ。
双六アプリは合コン用とあってか、一五分程で終了するもので、ちょっといやらしいマスをいくつか過ぎると、ゴールはすぐ近くにまで見えてきた。
「やった、ゴールしたぜ!」
鼻息荒く立ち上がる摩周兄。
こちらも続々とゴールしたので、じゃあこのへんで切り上げるかと、立ち上がろうとした瞬間。
「ミッチー、俺が最初に言ったこと覚えてるよな!」
「最初?なんか言ったっけ?」
「一位は最下位に何でも命令できるってやつだ!忘れんなよ」
あー確かそんなこと言ってたなぁとぼんやり。でもこっちは一位が玲愛姉さんで、最下位が火恋先輩だから、別に命令って言われても……。
「いやミッチー、順位は総合だから」
「はっ?総合?」
「そう、一位が俺で最下位はそっちのチェリーさんだ!よって俺はチェリーさんに命令することが出来る。彼女達がカルビさんとチェリーさんなら当然合意したうえでゲームを開始してるはずだ」
ニヤリと笑う摩周兄、セコイことにかけては頭回るなコイツ。
「命令って?」
火恋先輩が小首を傾げる。
「ちょっと待ってね。いいだろう、チェリーさんになんでも命令するがいいさ」
「よ、よし、じゃあキ、キスだ」
わぁキモーイ。
コスプレ少女達もドン引きでもう帰ろっかみたいな話をしている。
「よし、じゃあちょっと待ってろ」
俺は玲愛姉さんと火恋先輩の肩を押して、一旦退出する。
「なんかキスがどうとかって言ってたけどいいのかい?」
「気にしなくていいよ、ちょっと可哀想な頭してるだけだから」
「そうなのかい?」
二人を退出させて俺はまた摩周の待つ部屋へと戻ってきた。
「お待たせ」
「おせーって、ミッチー何して……」
摩周兄の表情が急変する。
「イシシシ、摩周ちんもおませさんでしね。あちしとチューしたいだなんて」
「あらあら、わたしとしたいとも言ってたみたいじゃな~い」
姿を現したドム二機。
「おい、ミッチーこれはどういう…」
「何言ってんの?チェリーさんとカルビさんじゃん、さっきまで一緒にいたのにもう忘れたの?」
鳥頭?と付け加えたが、摩周兄はもう現実を見ていないようだった。
「じゃあチェリーさん、後よろしく」
「まかせな」
チェリーさんが雄々しく頷き、べろりと唇を舐める。
「うあああああああーーーーー!」
「待てや、オラァ!」
「待ちなさ~い!」
ドタドタとやかましく、三人は部屋から出て行ってしまった。コスプレ少女達も、私たちも帰ります~と言って帰ってしまった。
うん、一件落着だな。
ようやく皆の元に戻って、コスプレカラオケを楽しむことができ、俺たちの正月休みは終わったかのように思えた。
「いやぁ酷い目にあった」
「酷い目にあわせたの間違いだろ」
間違いない。
帰り道、大所帯ながらリムジンを使わずブラブラと帰宅していた。
電気街は夜でも明るく輝いていて、いつもとかわらぬ様子だった。
「明日からはゲーム制作やね」
「おう、冬休みスパートかけよう」
「「「「おー」」」」っと全員が声を上げる。
最後の追い込みの開始だ。そう思っていると後ろから急に。
「待ちなさ~い」
「待てオラァ、キスさせろ」
「勘弁してくれ!」
と声が聞こえてきて振り返ると、予想通り摩周兄達がまだ追いかけっこをしていたようだ。
三人は俺達に気づくことなく、凄い勢いで走ってきて雹に体当たりをして去って行った。
その拍子に雹は後ろ向きに倒れてしまった。
全員が手を伸ばしたがギリギリ届かなかった。
「いたたた」
「大丈夫か?」
慌てて雹の体を抱き起す。
「うん、大丈夫。ちょっと擦りむいただけ」
「そっか、帰ったら手当しよう」
「そんな大げさなもんやないよ」
と言った瞬間雹の顔が曇った。
「どうした?痛かったか?」
「ん、いやなんでもないよ。それよりゲーム頑張ろうね」
「お、おう。そうだな、もうちょっとだしな」
雹は誰にも気づかれぬよう、赤くなった右手首をそっと左手で覆った。