火恋とコスプレ
店の中に入ると、わりかしオシャレな服屋さんに見えなくもない。かかっているBGMはアニソンで、店内にアニメキャラコスを着た店員さんが何人かいるけど。
「ご察しの通り、ここはアニメコスチューム屋さんです」
「えっ…あっ…、そっそうなのかい?」
もう先輩は異次元空間を眺めているようで脳の理解がおいついてないように見えた。
「先輩この中でどれか着て写真をとらせて下さい!」
俺は両手にメイド服と水着なのか制服なのかよくわからない衣装を持ってお願いする。
この光景を見れば相野は男泣きしながらハラショーと言ってくれるだろう、女子に見られれば撲殺された上に俺の高校生活は暗黒空間へと変貌すること間違いないだろう。
最初から負けるレースを走らされる事になったんだ、好きな人のコスプレ写真の一枚ぐらいバチは当たるまい。
「えっえっ?」
先輩は戸惑いまくって、本来なら「お前は何を言っているんだ?」と一蹴してもいいお願いに対して。
「ど、どれを着ればいいのだい?後衣装代っていうのは?」
「レンタルなんで、気にしなくていいです。好きなのを選んでいただければ」
先輩は戸惑いながら、衣装を見ていくが顔には好きなのと言われても困ると書かれていた。でしょうな。
「先輩、オススメとしましてはこちらのメイド服なんて非常にメジャーでして、可愛らしい作りになっていますが」
俺はノリノリで衣装を選んでいく、キモオタ全開だ。
店の品揃えは非常に良く、メイド服だけでコーナーを作っており、その中でもアニメキャラ使用のメイド服に、ゲーム使用のメイド服、更にオリジナルメイド服等、ポップにはメイド服だけで一〇〇種類!と大きく書かれていた。
「わ、私はこういうフリルの多い服は似合わないから!」
凄く恥ずかしがって突っ返そうとしてくるが、貴女が似合わなければ他に誰が似合うと言うのだ。
「着るだけでもいいんで、自身でこれはないだろうと思われたらやめてもらってもいいですので、そちらに更衣室があるんでお願いします」
先輩は顔を赤くしながら無理だ無理だと言っているが、俺にぐいぐいと背中を押されて更衣室に入っていく。
俺は自分でも強引すぎたかなと思いつつも、店の人にカメラの貸出を依頼する。
一○分後、ようやく先輩が顔だけ更衣室のカーテンから出してきた。
「悠介君、これはない、本当にない」
「あっ、着れました」
ガチャ○ン衣装を着た店員さんと雑談していた俺は更衣室の前に立つ。
「本当にこれはないと思うんだ」
「いやぁ、そんなんいいんで早く見せて下さい」
「君意外とSだよね」
恨みがましい視線を送られるが全く動じない俺。
「どうしてもダメなら、やめましょうか?」
一向にカーテンを開いてくれそうにない先輩。
もしかしてやりすぎたかもしれないとちょっと後悔してきた。大体そういう知識のない人を連れてコスプレさせるってのはやりすぎかと思った。自分でもそんな知識がないのに無理やり連れてこられて、この服着て、写真とらせてとか言われたら引くな。うん引く。
「君はまたそういう、やらせておいて困った顔をする」
「すんません」
なんだか変な熱が冷えてきて、冷静になってきてしまった。
「なんかごめんなさい、変なことさせてしまって」
俺は店員さんに向かってバッテンを作る、店員さんもがっかりしたような感じで、候補に上げていたコスチュームを直し始めた。
「これでいいのだろう!」
シャーっと先輩は男らしく吹っ切れたようにカーテンを開く。
「…………」
俺と店員さんはその似合いように絶句していた。
「な、何か言うなり、笑うなりしてほしい」
パチパチパチ、俺と店員さんは拍手していた。
「何なんだ!何で泣いてるんだ君は!」
「ハラショー」
店員さんと俺は拍手でハラショーと先輩を讃えた。
先輩の衣装は黒と白を基調としており、胸元やスカートの裾各所にフリルがふんだんに使われており、メイドのくせに異常なまでのミニスカートで先輩の長い足が引き立っていた、その綺麗な足を損なわないようにラインがよく見えるニーハイソックスを履いていて、上部にはガーターリングがついており、そのリングにもフリルとリボンがついていて可愛らしさと美しさを兼ね備えた、まさしく絶対領域と化していた。
腰についたエプロンの白い大きなリボンも現実じゃありえないだろの一言だが、そのありえなさと非現実感が絶妙でこの衣装をデザインした人にグッジョブと最高の評価を与えたい。
「最高です、ボキャブラリーが貧困で申し訳ありません、この言葉しか出できません。最高です」
先輩は勢いで出てきたのはよかったが、絶賛されると思っていなかったらしく耳まで真っ赤になっていた。
「この衣装背中が空きすぎじゃないかい?」
しきりに後ろを気にしている先輩。背中が気になるらしい、確かにこの服のデザイン上背中の部分がぱっくりと見えている。俺も背中を覗き込むと。
「ぶっ」
思わず吹き出してしまった、ピンクのブラ線が丸見えになっている。
そうだよね、背中を出したらそうなるよね。
「先輩、最高です。この衣装で撮らせていただけるんでしょうか?」
先輩は少し迷っているようだった。ただ恥ずかしいから嫌というよりかは他にどんなものがあるのかと言った興味の方が強いようで、メイド服の格好で他の衣装を物色し始めた。
俺はすぐさま先輩の後ろに立ち、背中を見えないようにガードする。
「その、悠介君、この服は何かのキャラクターのものなのかい?」
「それは元々ゲームのキャラクターがいるんですけど、衣装自体は原作には登場せず、キャラクター商品で人形が出たんですよ、フィギュアって言うんですけど。そのフィギュアにオリジナルデザインのメイド服を着せたら非常に人気がでまして。それが元ネタです」
「そ、そうなんだ、結構いろいろあるんだね」
本当はレンタル衣装を着たまま他の衣装探すとかやっちゃいけないんだけど、ガチャピ○店員さん嬉しそうだしいいだろ。
しばらく物色していると、店員さんからこのようなものもありますがと勧められてきた。
「おぅ、これは」
まさしく魔法少女リリカルサザンカちゃんのバリアフォームジャケット、アニメコスはハードルが高いんじゃないかと思ったが、先輩意外とノリ気なようでまじまじと見つめてらっしゃる。
「これはキャラクターものだよね?」
「そうですね」
すると丁度のタイミングでサザンカちゃんのアニメが店内で放送されていた。
「あれですね」
「あっあれかい?」
俺が差すモニターにはサザンカちゃんがデスティニーちゃんというライバルキャラクターと死闘を繰りひろげていた。
「まだ子供じゃないか。あれが人気なのかい?」
「えぇ…、大きな少年達に…」
俺は自身を恥じるように両手で顔を隠す。
「いや、アニコスはハードル高いと思うんで」
それに何よりサザンカちゃんの衣装は今着ているメイド服より、フリフリ度が高い上に可愛いを追求したフォルムになっている、難易度が天保山から富士山クラスに上がっている事だろう。
「だ、男性はこういうのを着ると喜んでくれるのかい?」
先輩は恥ずかしそうにアニメのサザンカちゃんと手元にある衣装を見比べている。
「一概には言えないですけど、俺は嬉しいです。ただこれは多分オタク限定なんで、普通の人にやるとドン引きされます」
「そう…なの?」
「好きな人たちが、情熱をかけて好きを形にしたものなんで、そっちに興味がある人にはバカウケですが、そっちに興味がない人には理解しがたいと思います」
先輩は意を決したように顔を上げると俺に尋ねた。
「君は今の衣装とこちらの衣装どっちで写真を撮りたいと思う?」
俺はその答えに対して。
「両方で撮りましょう」
男らしい先輩は、手渡されたサザンカちゃんとデスティニーちゃんの衣装を手に取り、メイド服姿で。
「何処で撮影するんだい?」
と聞いてきた。カッコ良すぎです先輩。
俺たちは撮影室を借り、最初の一枚という話はどうなったんだというくらい撮りまくった。
俺としては各衣装一枚ずつと思っていたのだが、ついシャッターを切ってしまった、と言うのも実は俺より先輩の方がノリノリだった。
「先輩もう一枚いいですか?」
「か、構わないよ」
先輩はメイド服姿で様々なポーズをしてくれた、結構きわどいのも多くよく許してくれたなと思ったのだが、先輩は顔を真っ赤にしながら言うとおりにポーズしてくれるわ、なんならこうしたらいいんじゃないかなとか言いつつ自分でアレンジを加えてポーズをとってくれるし、お店から貸出してくれたポーズカタログを見ながら、ポーズしていってくれた。
そのキャラクターはツンとしてるキャラクターなんですよって、キャラクターのプロフィールを教えていくと一生懸命表情等を作ってくれた。
「先輩、次そっちの黒い衣装いきましょうか?」
「もうこっちはいいのかい?」
いま着ているのは、主人公サザンカちゃんの衣装だ。次の衣装はライバル役デスティニーちゃんの衣装だが、デスティニーちゃんの衣装は可愛いよりカッコイイ寄りになる。
なんというかサザンカちゃんの大きいリボンやフリルを触っているところを見るとどうやら、可愛い系の衣装の方が好きなようだ。
「先輩、じゃあその衣装でもう少しいいですか?」
「あ、あぁ構わない」
と言いつつ、先輩は嬉しそうに、小物であるステッキを格好良くクルクル回している。
「君が写真を撮るんだね」
カシャ
「本当は店の人が撮るんですけどね、無理言ってかわってもらいました」
カシャ
「それは何故だい?」
カシャ
「勿体ないからです」
カシャ
先輩はシャッターを切るたびにもうノリノリでポーズをかえてくれる。
「勿体ないとは?」
カシャ
「最高の被写体を撮れるんですよ、カメラのスキルは俺あんまりないですけど」
カシャ
「自分の好きな人が可愛い衣装で写真撮らせてくれるなんて、他にその権利を渡すなんて勿体ないでしょ?」
「えっ?」
カシャ
「あっ先輩、今のなんか変な感じになりました」
とれた写真をデジカメのプレビュー画面で確認するとその写真だけ先輩の表情が素に返っていた。
「先輩、顔、顔、サザンカちゃんじゃなくなってます」
「す、すまない」
カシャ
「先輩こういのって絶対頼んでもしてくれないと思いました」
カシャ
「私もこんなことをするとは思ってなかったよ」
カシャ
「良い思い出が出来ました」
カシャ
「良い思い出というか、恥ずかしい思い出だな」
カシャ
「いや、良い思い出になったのは俺のほうなんで」
カシャ
「あっ…」
「ん?どうかしました?」
「いや、何でもない」
カシャ
「先輩、写真とかとられるの好きなんですか?」
カシャ
「いや、こんなにたくさんとられることは今までになかったし初めてだよ、写真なんて家族旅行の時に撮ってるくらいだ」
「まぁそれが普通ですよね」
ただ、俺としてはデジカメに保存されている写真を見ると、どんな時よりもイキイキしている気がしてならない。
「先輩は進学するんですか?」
カシャ
「そのつもりだったんだけどね、家の話でどうなるかわからなくなってきた、もし早くに子を成すのであれば学業どころではなくなってしまうしね」
ですよねーと言いながら俺はシャッターを切り続けた。
「先輩は凄いですね、俺がもし女だったとしていきなり子供を作れと言われても、そんな覚悟できないですよ」
「常に物事というのは覚悟が出来た後にくるものじゃないよ。それを準備不足といって回避するのはただの逃げだ」
先輩マジかっけーす、ただ、今先輩サザンカちゃんで左手を腰にあて右手を顔の横で水平ピースしている萌えポーズをとっていなければもっと良かった。
「むしろ私は自分で相手を選ばせてもらっている分幸せだと思っている、私のような魅力のない女に君も居土君も候補なんて偉そうな事を言って、選ぶことをしてすまないと思っている」
「その辺はお家事情なんで先輩もむしろ巻き込まれた側なんで、しょうがないですよ。俺としては先輩とお近づきになれただけでもラッキーと思ってます」
「しかし…」
先輩は陰鬱気に下を向くが、シャッターを切ると顔を上げてくれる、責任感が強いのか写真を写りを気にしたのかはわからないが。
「先輩、じゃあこの辺にしましょうか?」
俺はメイド服、サザンカ服、デスティニー服の写真全部で一○○枚をオーバーした。
俺はお店の人にデジカメからのプリントアウトを依頼する、枚数が多い分時間がかかったが先輩はその間また違うコスプレ衣装を見ていたので暇はしていなかった。恐らくよっぽど気に入ったんだと見える。
店員さんから出来上がった写真の封筒を渡してもらった。あまり重さはないが厚みがある便箋ほどの大きさの封筒を先輩に手渡す。
「先輩一応同じの二セット焼き増ししてるんで、先輩の分これです」
「お、多いね」
「山ほど撮りましたからね」
「す、すまない」
「いやいや、ごちそうさまですよ」
先輩は恐る恐る封筒をあけると。
「ひゃう!」
なんて可愛らしい悲鳴を上げた。
「どうかしました?」
「こ、これが私……」
なんだかありえないものを見るようで、先輩は自身でノリノリで撮られた写真を赤面しながらまじまじ見ていた。
俺はクスリと笑いながら。
「先輩、楽しかったですか?」
それを否定できる材料が写真には写っておらず、全て笑顔でピースやアニキャラになりきった表情が写っている。
「……楽しくなかった、なんて言って誰が信用してくれるんだい?」
はぁっとため息をを吐くと先輩は小さい声で楽しかった…と呟いた。
「なんだか、新しい自分になったようで、その…新鮮だった」
「それは良かったです。先輩、ほんのちょっとだけでいいんで待ってもらえますか?先輩の家ブルーレイデッキってありました?」
「ぶるーれい?」
「ビデオデッキみたいなやつです」
「ああ、ある…けど?」
俺は全力ダッシュでマママップに入り、物を購入して、先輩の元に戻る。
「あの、これリリカルサザンカちゃん第一シーズンのアニメブルーレイなんで、良かったら見てください」
俺は先輩にサザンカちゃんブルーレイ第一巻を手渡す。
「い、いやこんなのは貰えないよ、それにさっきのは時計のお礼で」
「お礼をもらいすぎたので、多少の還元は必要ですし、それをきっかけに少しでもその分野に興味をもっていただければ嬉しいです」
先輩は唸りながらも写真と一緒にブルーレイを受け取ってくれた。あぁなんて今日はいい日なんだろうか。
「あの、もしこれ以降の話も見たいと言っていただけるなら、俺の家に全巻あるんで全部お貸しします。なんなら布教用にもう一セットあるので、差し上げたいです」
「わ、わかったよ。これは今日私が、…その着ていたキャラクターが?」
「そうです、バトルものなんで楽しんでもらえると思います」
「わかった、ちょっと見させてもらうね」
「ありがとうございます!」
大きくお礼を言って俺は先輩を駅まで送って別れる。
束になった写真を気持ち悪いニヤけ顔で見つめる俺、不審者として逮捕されても文句は言えない。
「あれ?俺何しに電気街来たんだっけ?」




