強行突破
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少女は泣いた。久しぶりに泣いた。
これからいいところを見せようと息巻いていたのは、最近姉に彼との距離を離されてしまったからだ。
彼にキスをした火恋姉さん、彼が追いかけている玲愛姉さん。じゃあ自分は?そう考えて自分を支えているものがないと気づいてグラッと体が揺れた。
ちょっと浮気性だけど、良い人、間違いない。すぐにフラフラしちゃうけど、私が彼にくっついていけばいいだけ。
だから首輪をねだった。首輪って凄い、玲愛姉さんがつけてるのには凄く憧れたし、少し嫉妬もした。
こんな自分はちょっとおかしいんだろうなと思いつつも、よく考えれば伊達でまともな人間なんていないじゃないと気づき、クスリと笑う。
昔アニメで、飛行機乗りの男の子がガールフレンドを二人作って、結局お前たち二人共好きだって決着をつけない終わり方をして、賛否両論な結果になった。でもどちらかというと非難が多かったみたい。
なんでだろう?誰も悲しまないのになぁっと私は思った。私はそのアニメのヒロインは二人共好きだし、どちらかが悲しむ展開は見たくなかった。もうずっと二人で取り合いしてればいいのになって…。
そんなことを現実でも思うから私は歪んでいるのかもしれない。
一番になって私の大好きな人たちを蹴り落とすなら皆一番でいいと思う。そりゃあ私にだけちょっと優しくしてくれると、とってもとっても嬉しいけど。
彼が必死に玲愛姉さんをつなぎとめようとしているのはきっと、私たちの為でもあると思う。このまま姉さんがどこかに嫁げば、きっと私たち姉妹にはわだかまりができると思う。私は気にしないけど火恋姉さんは凄く気にして自分を責めそう。
彼はきっと無意識だと思うけど、直感でこのままだと壊れちゃうと思って今走ってるのだと思う。
壊れかけた世界って言うと大げさ?大げさかな。でも人とのつながり合いで幼い頃に切れてしまった事がある彼は、きっと人とのつながりが切れちゃうのを恐れてるんじゃないかな?今追いかけてる人は幼い頃切った人と同じ人だし。
頑張れ私の大好きな人。私達の世界を守る、貴方は私にとってヒーローなんだから…。
ねぇ、どうして今貴方は胸にぽっかりと大きな穴を開けてうずくまってるの?
どうして私は彼を応援していたのに、彼を傷つけているの?
「大丈夫だよ雷火ちゃん、次は勝つから任せてくれ」
そう言って彼は光の粒子となって消えた。顔はわからなかったけど、きっといつもの困り笑顔だと思う。
ダメじゃない、これだと私が足を引っ張ってるだけじゃない…。
ちっとも役に立ててないよ…私…………。
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さっきの練習試合で破壊されたオブジェクトが全て元に戻った状態で、俺は再び荒野のバトルフィールドへと戻った。
これから本戦が開始だって言うのに、皆なかなかログインしてこない。
ザザッと一瞬ノイズが走って、嵐ちゃんの声が聞こえる。
「悠介様……本戦なのですが、さきほどの練習試合で悠介様のチームの約半数がリタイアされました…。これではゲームになりません。………今回のゲームを中止しようと思います」
「………やめないよ」
「悠介様、意固地になられても困りますわ。一○○対五○以下まで落ち込んでいるのです。これではどう足掻いても悠介様に勝ち目はありませんわ」
「全員操られたら二○○対二でしょ?」
「……………」
「それにゲーム内で話を聞きたい人もいるからね。この状況をどう思っているのか」
「それではもう一度チーム分けを再抽選いたしますので…」
「もうそっちの人たちは敵なんでしょ?敵と同じチームにはなれないよ」
後ろから撃たれたらたまらない。
「しかし!」
「はじめよう、久々に頭にきてるんだ」
「くっ……。勝負がついたと判断した場合すぐにゲームを終了させていただきます」
「それでいい。俺にだってゲームに美学があるんだ。ルールで決められてなくても、やっちゃいけないことだってある。遊べばきっと最高の時間を提供してくれる、こんないいゲームを一気にクソゲーにまで叩き落としたことは許せることじゃないよ」
「悠介様…………。ご無理はなさらないように。それと…キャラクターへのダイレクトプレイヤーフェイスはこの試合以降削除致します。後コントロール系のキャラクターも…」
「調整は俺が”勝った”後にしてくれないかな?」
今は勝ち以外に興味がないんだ。
「悠介様…更に好いてしまいますわ…」
「順番待ちあるけどね」
「いつまででも待たせていただきますわ…………。それではご武運を」
プツンと音声は途絶えた。
「ご武運か…。ゲームに使う言葉なのかな?」
俺は首を傾げながら、一向に増えることのない味方を待った。
そして数分後、西洋甲冑の雹と武者鎧の火恋先輩、猫スーツのみぞれちゃんに魔女っ子の一ノ瀬さんが光の中から現れた。
俺は小さな禿山の上であぐらをかきながら、対面の崖の上に設置されているCPを眺める。向こうは数も揃い準備万端のようだった。
「悠介君……」
「雷火ちゃん来てくれるかなぁ…」
攻略の鍵となるのは彼女なのだが、さっきので相当まいってたっぽいし…。
「お兄ちゃん…」
俺が皆の声を無視していると、雹と火恋先輩が禿山を蹴り飛ばし、オブジェクトが崩れ山は光の粒子になって消えていった。当然その上に乗っかっていた俺は重力に逆らわず転落する。
「ダーリンやっと降りてきたっすね。うんうんうなってるから腹でも壊したのかと思ったっすよ」
俺は頭から落ちて、変な方向に曲がった首を元に戻す。
「皆来てくれたんだ」
「その…さっきはすまなかった…」
「あんな簡単に操られちゃうとか、マジありえないんですけど」
その通りだと思う。
「向こうにコントローラー系のキャラがたくさんいるらしいんだ。だから闇雲に進んでもダメみたい」
「それはさっきのでわかったっすけど、じゃあどうすればいいんですかね?」
「俺のキャラクターが状態異常無効だから、俺が倒してくるよ」
「えっ一○○対一とか、そんな無双ゲーみたいなことできるんすか?」
「さっき悠介君が一対三は勝てないって言ってなかったかい?」
「俺一人では無理だけどね…」
じっと、まだ姿を現さない彼女を待ちわびる。
「雷火待ちかな?」
「…そうですね、彼女のキャラクターも状態異常を無効化するスキルを持っているので」
「私がゲームから抜けて、直接雷火を連れてこようか?」
火恋先輩が心配げに提案するが、俺は首を横に振る。
「無理やりやらされるゲーム程つまらないものはないです。無理強いはできません」
しかし雷火ちゃんが来ないなら、一人でやるしかないんだが…、それだと成功率が一桁から一桁を割りそうなくらいにまで落ち込むんだが…。
五分以上待ってみたが雷火ちゃんが戻ってくる気配はなく、嵐ちゃんにリタイアした人の中に彼女が含まれているか聞こうと思った頃。
「あっ来た」
みぞれちゃんが声を上げると、そこには杖を握りしめて俯いたままの雷火ちゃんの姿があった。
「お帰り」
俺はその一言だけをかける。
「…………」
「戦えるかい?」
来てくれただけでもありがたい、もし彼女が戦う事を拒否しても、ただマリアの加護を使ってくれるだけでも随分と展開はかわる。
「……すいません…」
「謝る必要はないよ」
「でも…ごめんなさい……」
また泣きそうな表情の雷火ちゃん。
俺はじっと遠くに見える敵のCPを見据える。
「雷火ちゃん。君はオタクかい?」
「えっ?」
唐突で意味不明な質問に雷火ちゃんは驚いた様子を見せる。
「俺は自分の事をオタクだと思ってる。人間的に秀でたところもなく、むしろ劣っているところの方が目立ってる。でもそんな自分だから、ゲームや漫画に憧れを抱き、のめりこんでいく。だから俺はオタクになったと思う。好きだからガンニョムに出てくるロボットの名称から型番まで覚えてるし、好きなゲームはと言われれば監督の名前で答えてしまう。それはなんでだと思う?」
「好きだからっすか?」
おかしい雷火ちゃんに答えを聞いたはずなのにみぞれちゃんが答えた。
質問した少女は小さく俯いた後、顔を上げ
「愛ですか」
と一○○点の答えをだした。
「いい答えだね。良いものを生み出すというのは多大な労力、裏側には人間、お金、情熱、時間、制限が渦巻いて神ゲーは出来上がるんだ。今は玲愛さんのことはおいておこう。彼らのやっていることは神ゲーに対する冒涜だ。神ゲーをクソゲーに貶める行為はいくらだって存在する。その度に規制、規制、規制。不自然に武器が弱体化したり、キャラクターが消滅したりするのはそのせいだ。さっきの試合のせいでコントローラー系のキャラクターは削除する方向で嵐ちゃんは動いている。プレイヤーの顔がキャラクターに反映される機能もだ。ここはゲームの世界だからってなんでもありじゃないんだ、FPSで全員がサイレンサーを使って草むらや角で待ってたらどうだろう?一つの戦略かもしれない、でも…そこに本来のゲームの楽しみはないだろう?格闘ゲームでずっとバリアを張りながら敵を一方的に打ちのめして、それで爽快かな?違うよね。だから…俺は今回の彼らの行動を許せない、勝ちだけを狙った、自分のことしか考えていない身勝手なプレイを。だから負けられない、そんなくだらない戦法に負けたら、それこそオタクの名折れであって、愛が足りない」
俺は雷火ちゃんに手を差し出す。
「その為には君の力が必要なんだ」
一瞬目を見開いた雷火ちゃんは力強く俺の手を握り返してくれた。
「作戦は俺がガードしながら中央を突破して、雷火ちゃんをコントローラー系のキャラクターまで運びます。温存しておいたMPを使いグランドクロスで全て倒します、その後火恋先輩たちは続いてください」
「お、お兄ちゃん、たった二人で正面突破する気なの!?」
この作戦聞くだけだと無茶苦茶に聞こえるが、実は意外とそうでもない。
「敵の大多数はサイキックジョーって言うコントローラー系キャラクターだ。このキャラクターのサイキックウェーブは強力だけど、実際本体の戦闘能力はほとんどないに等しい。全能力をコントローラースキルに持っていかれているから、遠距離近距離含めて攻撃の種類はほとんどないし、状態異常無効のキャラクターに関しては為すすべがないんだ」
「為すすべがないと言っても、一○○体近くいたら…」
「そこは、まぁ頑張るってことで。後大砲を撃ってるキャラクターがいるんだけど、このキャラクターは遠距離がほぼ主力の攻撃と言ってもいい、その分大砲の威力は高いけど、ガードして進めばなんとかなる。必殺技がちょっと厄介かもしれないけどね」
これは相手が玲愛さんだから使えるわけで、玲愛さん以外なら砲台を違う使い方される可能性が高いが、内海さんが入れ知恵しない限りは大丈夫だろう。
「それと、俺の予想では今回落ち度があると思ってる、嵐ちゃんと藤乃さんのペアは恐らくCP前から動かない。よって驚異となるのは内海さんと玲愛さんのペアだけだ」
「そのサイキックなんとかってキャラを倒せば、後は嵐、藤乃、と玲愛さんペアだけってことっすよね」
「ああ、だから別にコントローラー系のキャラさえ倒せれば俺たちはやられても構わないと思ってる」
「そりゃ二人で一○○体も倒したら、それ以上仕事しなくていいっすよ」
「その後は我らが是が非でも成功させよう」
火恋先輩がどんと、自身の胸を叩き、ゆさっと果実を揺らす。
俺はゲーム内にログインしてくれた四○人近いペアに同じ内容を話す。
まず、もし成功したらポイントが俺と雷火ちゃんのペアでほぼ総取りになること、それでも良いということを条件になんとか勝ちを狙いにいきませんかと話した。
「オイオイオイオイオイ、そんなロックなことをそこの可愛子ちゃんとできんのかよ~」
「アタイもそんなデビルのこと出来るとは思えないね」
デビルペア、お前らいたのか……。
鳥人間のようなヒーローが一歩前にでる。
「ポイントに関しては君がそこまでのリスクを負うのなら文句はないが、本当にうまくいくのかね、大砲も結構スピード早いよ?見てからガードとか出来るのかい?」
いくつも質問が上がるが、俺は
「彼女となら出来ます」
俺は雷火ちゃんをひょいっと前に出した。
「へっ?」
「彼女は俺とは比較にならないほどの超ゲーマーです、K○F時代から腕をならしてますから」
「何年のK○Fだよ!」
「98です」
「何…ロックじゃねーか…」
「ふん、何使いだって言うんだい」
「雷火ちゃん何使ってたの?」
「京ですけど…」
打ち合わせしてなかったけど、やっぱりやってたんだ。
「け、京様かい……デビルじゃないの……アタイはギース使いだよ!」
だからなんだ。
何、この、お前どこ中だよみたいなノリは。
「まぁ俺たちが行っても操られるだけだしな。君らに勝ちの見込みがあるなら賭けてみるよ」
参加者は概ね、理解を示してくれた。
よし、これで下準備は整った。後は始めるだけだ。
説明が終わり、俺と雷火ちゃんだけが前に、後は全員後ろに待機する。
網膜にカウントダウンが表示され、3、2、1と進み、0になった直後ほら貝の音がブォォォォォと鳴り響く。なんでだよ、さっきこんな音してなかったじゃん。
片手に拳ほどの石を握り込みながらゆっくりと前に、俺と雷火ちゃんは前進していく。
「悠介さん、私自信ないです。また操られたらと思うと恐いです」
「多分大丈夫だと思うよ」
「どうしてそう思うんですか?」
「絶対に俺が君を送り届けるからだよ」
思いの他カッコイイ言葉が出て、慌てて取り繕うが、雷火ちゃんの顔はポーっと赤くなっていて、あまり耳に入っていないようだった。
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伊達玲愛はあまりゲームが好きではなかった。彼女自身ゲームをプレイしたことはあるし、それなりに達者だ。
しかしながらアクションゲームに関しては、昔火恋をボコボコにして泣かした苦い記憶と、その後に雷火に報復でボコボコにされた記憶を持つのでどうにも苦手意識があった。
今現在のプレイしているゲームもそうだ、自分以外が全員敵を操るキャラクターで、さっきの試合は仲間同士の潰し合いで勝利するという、勝っているのに全く嬉しくない勝利だった。
そして今の自分は適当にボンボンとマップを穴だらけにしているだけ、全く楽しみがない。
しかし、ゲームとはそういうもので、勝ってる方がどこまでも有利で、負けている方にはどこまでも不利なものと理解していた。
「玲愛ちゃん、超不機嫌そうだね」
隣にいるのは天使の羽と悪魔の羽を二枚ずつ持つヒーロー、ルシファーマンの格好をした内海だった。
「こんなもので楽しいというのなら、そいつは頭が異常だ」
「そうかな?世の中にはマウスをクリックしているだけで最高に楽しいって感じる人もいるんだよ」
「そいつは異常だ、一度医者に見てもらった方がいい」
「玲愛ちゃんにはレアドロップした瞬間の興奮はわからないだろうねぇ」
「そんなことに時間をとられるくらいなら、私は妹に勉強でも教えてやる」
「相変わらず君は生産的だね」
内海がそっと玲愛の頬に触れようとした瞬間、玲愛はその手を打ち払った。
「触るな、殺すぞ」
さっきまでマップを焼き払っていた大砲が内海の目の前に現れる。
玲愛のキャラクターは女海賊の姿を模していて、ドクロのかかれた帽子に、アイパッチをつけ、上は黒の三角ビキニで下はホットパンツ、その上にコートを羽織っていた。
「玲愛ちゃんガード硬すぎ、おじさんもうラッシュでガードを削り切るようなプレイはできないよ」
「くだらん。それで、私はいつまでこの無意味な砲撃を続ければいいんだ?」
「さっきみたいに向こうのチームが全てコントロールされるまでかな?」
「そんなゲーム何が楽しいんだ?」
「楽しいよ、僕のゲームでの美学は、どんな手段を使っても勝つ、だからね。負けに意味はないよ」
「だから、こんな反則的なキャラクターを全員に使わせたのか?」
玲愛が周りを見渡すと、どのキャラクターもガスマスクをつけた、見た目危ないキャラばかりだった。
「なんのことだか、流石に僕だってここまで露骨な手は打たないし、むしろ驚いてる方だよ」
玲愛はジトっとした視線を内海に投げつける。
「本当だよ!その目完全に信じてないよね!」
「むしろ私と水咲のペア以外全員同じキャラなんだ。疑うのはお前しかいないだろ」
「なんでよー、もしかしたら水咲さんのペアが優勝させたくなくて一芝居うってるのかもしれないよ」
「あいつはそんな卑怯なことはしない。むしろ…」
玲愛がCPの前にいる馬に跨った騎士甲冑の二人の姿を見る。
「あの馬で一気に単騎がけを狙うつもりだったが、予想外の事態に主催者として動けなくなったという風だな、あれは。これ以上不正をさせるわけにはいかないから、全員を見張る必要ができたというところだろう」
「凄いね、玲愛ちゃんそこまで読めるんだ」
「私が逆の立場ならどうするかと考えただけだ。あいつと私の思考は似てるところが多い」
「そりゃ彼女も光栄だろうね」
「上に立つものは思考が似るだけだ」
玲愛はゆっくりと視線をマップ中央の穴ぼこの荒野に戻す。
「藤乃がこっちの情報を漏らしたようだが」
「漏らされたところでどうにもならないよ、向こうのプレイヤーは四○数人、そのうちコントロールが効かないのはプレイヤーは二人だけだ」
「そのプレイヤーは責任重大だな…、まさかその二人を近づかせない為だけに私は砲撃しているのか?」
「そうだよ」
玲愛は頭を抑える、そんなことの為にこんな無駄な砲撃を続けていたのかと。
「状態異常無効っていうスキルがあってね、コントロール系はなんの役にもたたなくなるんだ。水咲さんとこは多分動かないから、実質僕と玲愛ちゃん以外にその二キャラに対抗する手段がないんだよ」
「お前自分で仕組んでおいて意外とザルだな」
「だから僕が仕掛けたんじゃないってば!」
「二人くらい、お前一人でなんとかしろ。腕に自信があるんだろ?」
「そうなんだけどね~、これが嫌なプレイヤーでさ、何してくるかわかんないんだよね」
「たかが二人を恐れるなんて、お前らしくもない」
「いやーほんとに読めない子だからね~、でも俺の予想と願望としては……」
玲愛がマップの方に視線を戻すと、遠くの方にだが、二人のキャラクターが列になって動いているのが見える。
「あれか…」
玲愛はまだ遠くに見えるが、向かってくる二人に向けて砲撃を開始する。
自分自身届くわけがないと思っていた砲弾は思いの他良い位置に飛び、直撃コースへと入った。
「あっ、運が悪かったな…」
やっぱりゲームなんてくだらないと玲愛が思った瞬間だった、直撃コースに入った砲弾は光り輝く壁に阻まれ上空で爆破した。
二キャラのうち一人がバリアを展開できるようで、咄嗟に防いだようだった。
「へー、やるなぁ…」
しかし、そんなことは無駄な労力であり、玲愛のキャプテンベルベットのスキル無限大砲は三発までなら連射を可能としている。
ドンドンドンと耳をつんざくような音と火薬臭がたちこめ、三発の砲弾は次々にマップ中央に向かうプレイヤーへと飛んでいく。
だがそのどれもが空中で爆破した。
「なぜ爆破した?」
玲愛が内海に尋ねると、内海は丁度拡大しながら今の爆発を見ていたようだった。
「石みたいなプレイヤーが何か投げてるね……」
「あのゴー○ムみたいな奴か…。何かとは?」
「多分岩とか、拳くらいの大きさのオブジェクトを砲弾に当てて爆発させてる」
「そんなことできるのか?」
「やってるからできるんじゃないかな?正確に砲弾の位置を予測して、空中で爆破するくらい強くオブジェクトを投げる技量が必要だけど」
「何故最初のバリアを使わない?」
「単純にMPの問題でしょ?多分できる限り温存しながらこっちに来たいんだよ」
向うの狙いはわかったが別段玲愛のやることはかわらない、近づいてくる前に打ち倒して、お疲れ様。皆の潰し合う姿を見なくてよかったねと皮肉をのべるだけ。
だが玲愛の予想に反して、二人の進行は止まらない、進んでくるペースは早くないが、岩のプレイヤーの技量が凄い、ことごとく砲弾を空中で爆発させるわ、その身を盾にして後ろのシスター服の少女を守っている。
その二人に玲愛は少し面白みを感じた。
「凄いな、あの石のプレイヤー完全に自分を捨て駒にして後ろのプレイヤーを進ませてる」
「玲愛ちゃーん感心してる場合じゃないよ、彼らにサイキックジョーをやられたらおしまいだからね」
「それぐらいリスクがあった方が面白いだろ」
玲愛がニヤリと笑うと、内海は顔をしかめた。
「僕も彼じゃなかったら、遊ばせてあげてもいいんんだけどね…。これ以上巻き返されるのはちょっと…」
「何か言ったか?」
「何にも。玲愛ちゃん石の方結構フラフラだから早く倒しちゃってよ」
玲愛が指をパチンと鳴らすと、今までは一門しかなかった砲台が一気に三門現れ一斉にその砲口が石のプレイヤーに向く。
三連発×三門の大砲が次々に砲弾を吐き出し、祭りでもやってるのか言いたくなるような轟音を轟かせていた。
玲愛自身その火力に驚いているようで、二人のプレイヤーがいた場所は火山の火口のように煙が巻き起こり、中心部は熱で赤く輝いていた。
水咲の技術力に感心しながら、ウチもゲーム事業何か考えた方がいいかなと、やりすぎたことに少し後悔している玲愛だった。
だが…
煙が晴れると、そこには両腕をたてて、まるで顔面をガードしているボクサーのように立っている石のプレイヤーがいた。
後ろに控えている、シスターの少女は今にも泣きそうな表情で石のプレイヤーの背中を見つめている。
どうやら全弾あの石のプレイヤーが受け止めたらしい。後ろにいる少女を守るために一歩も引かなかったようだ。
石の腕はパラパラと崩れて右腕がぼそっと抜け落ちる様が見えた。
ここまできてようやく玲愛は、後ろに控えているシスターの少女が自分の妹だと気づいた。
「お前…まさか、状態異常が通じない二人のプレイヤーって…」
「そうだよ、三石君と君の妹の雷火君だ」
しれっと言ってのける内海に玲愛は激昂する。
「最初から知ってたな!」
「君は彼らには甘くなるからね、でもここまで削ってくれたなら十分だろう、後は僕がやるよ」
内海は悪びれもせず、ふわりと空を飛んで二人の前に舞い降りる。
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