お宅訪問
体育が終わり、教室で満足げに制汗スプレーをカッターシャツの中に吹きかけている玲愛さん。レモンの良い匂いが広がり、動き回った汗の臭いを完全に消してくれる。
脱ぐ方の着替えは流石に教室ですることはできないので、女子トイレの個室内で行った。
俺はいつ女子が入ってくるかと思い、ドキドキしながら早くしてくださいと急かすと、玲愛さんは男らしく個室内に俺を引き込み、そのまま着替えた。
教室に戻ると、制服に着替えて、制汗剤のミントの匂いをさせる雹が次の授業の準備をしていた。
「最近、俺恥じらいって何なのかなって思ってるんですが」
「お前はガードの硬い女の方が好みなのか?」
好みの話に興味津々と雹が耳を傾ける。
「いや、鉄壁よりかは少々フランクな方が好みですが」
「スカートをまくりあげるような変態でもないから安心しろ」
つい最近お宅の妹さん二人でスカートまくりあげてましたが、何か。
「そういや、雹は一人暮らしするんだよな?どこに住むんだ?」
「星空橋の近くかな」
「おぉ、それ俺の家の近くだぞ。星空橋のどの辺り?」
「国道を超えて小さなトンネルを抜けたところにあるよ」
「マジか、ますます近くじゃないか。俺そのすぐ近くにあるマンションペンペン草ってところに住んでるから、すぐに遊びにいけるな」
友人がすぐ近くに引っ越してきたりするとテンション上がるよね。
しかしながら俺と手錠で繋がった女性はしかめっ面でむーっと唸っている。
「あっ雹がすぐ近くに引っ越してきたから焦ってるんですか?」
ちょっと茶化し気味に言ったつもりだったが、玲愛さんは表情を崩すことはなかった。
「雹もマンション暮らしだろ?マンションの名前は?」
「それは別にいいんじゃないかな…」
どうして露骨に話を逸らす。
「いや、でもちょっと待てよ、あの辺マンション他にあったっけ…」
俺が自宅周辺の地理を思い出していると、何故だか雹は冷や汗をかいていた。
「お、お兄ちゃん、やっぱり人がどこに住むとか、そういう詮索はちょっと」
早口でまくしたてる雹、どこに住んでるかとか詮索するな気持ち悪いと言われた気分で、お兄ちゃん少し悲しい(被害妄想)
「そっか、遊びに行くくらいはしたかったんだが」
そりゃ一人暮らしの女の子だもんな、特に雹は超大金持ち、おいそれと住所を教えるわけにはいかないのだろう。
ストーカーとか怖いもんね、もし俺が雹の家に忍び込もうものなら、ニュースで自称水咲雹さんの兄だと名乗る男が一人暮らしの自宅を狙い忍び込みました。なおこの男は水咲さんとは何の関係のない男だと判明しており、ストーキング容疑で現行犯…。
なんて痛い報道をされるのだろう。相野の顔にモザイクがかかりながら「いつかやると思ってました」とか適当な事を言われるのだろう。
「ペンペン草502号室」
玲愛さんがぼそりと呟くと、雹は肩をびくっと震わせる。
「何で俺の部屋番号を言ったんですか?」
そこは俺の今住んでいる部屋番号だった。玲愛さんは俺の質問は無視して続ける。
「ペンペン草501号室」
「……………」
沈黙している雹だが、冷や汗が尋常じゃない。大丈夫か制汗スプレーした意味が全くなくなってるぞ。
「ペンペン草503号室」
「!!?」
体をビクンと痙攣させ、泣きそうな瞳でこちらを見る雹。
「ごめんね、お兄ちゃん…」
えっ、何?何の謝罪なの?
玲愛さんは呆れ顔でため息をつく。
何?何で二人で話が成立してるの?
「お前の部屋の隣に越してきたんだよ、雹は。この流れでわかれ」
「えっ、そうなの?」
何故か不安げな瞳で俯いている雹。
「何にも言わずに押しかけてきちゃってごめんなさい」
しゅーんっとまるで捨てられた犬猫のように、萎縮している雹。
「いや、全然いいよ、むしろ歓迎だ。友達が隣に越してくるって楽しいと思うんだけど」
そういや最近伊達家で寝泊りさせてもらってるから、全然部屋に戻ってないや。それで越してきたとかわからなかったんだな。
「じゃあ帰りに引越し手伝うよ、まだちゃんと終わってないんだろ?」
「引越し自体は大体終わってるよ、後はインターネットの回線工事くらいだから」
「そっか、じゃあやることはないな」
それに俺は今玲愛さんと繋がっているわけだし、許可もなく遊びにいくわけにもいかないだろう。
「あっあっ、でも、来てくれると嬉しいかな。私もお兄ちゃんの部屋に入ってみたいし」
俺は玲愛さんにお伺いをたてると、勝手にしろと、どうしてか怒っていた。
「じゃあ今日帰ったら行くよ。帰ったらって言っても帰り道も一緒だけど」
「うん」
雹は嬉しそうにはにかんでくれる。
本日の授業が全て終了したので、雹宅に向かうことになったが、その前に残りの伊達姉妹プラス水咲妹にもメールで声をかけてみたが、雷火ちゃんはみぞれちゃんに連れられて同人ショップに行くらしい、最近深夜に水泳アニメを見たらしく、二人でハマったようだ。同人ショップ初体験のみぞれちゃんにはさぞかし新世界が見えることだろう。
火恋先輩も連れて行かれることになったらしい、とりあえず乙女ゲーを仕込むのはOKだがBLゲーの沼にお姉さんを落とすんじゃないぞと釘をさしておく。
俺たちも先に同人ショップに行こうかとも思ったが、雷火ちゃんに全力で拒否されてショボンだ。
メールには、悠介さんと一緒に同人誌あされるわけないじゃないですか!と書かれていた。雷火ちゃんエロ本は一八になってからだよ。
結局三人で向かうことになった。
帰る途中に、いつも使っているスーパーや、本屋、服屋、雑貨屋等、生活に必要なお店を案内していると、マンションの前についた頃には日も暮れかかっていた。
見慣れた玄関のオートロックを解除して、五階まで上がると503号室に水咲と書かれた銀のプレートがはまっていて 本当に隣の部屋に引っ越してきていた。
早速雹の部屋にお邪魔させてもらうと、当然ながら俺の部屋と同じ間取りが広がっており、短い廊下?の脇にトイレとお風呂場、一人用の台所があり奥に八畳程の部屋が広がっている。
「あれ、雹台所改造した?」
見慣れているはずの台所なのだが、火力の低い電気コンロと水道がついている程度の簡素なつくりのはずなのだが、雹の部屋のものは最新型のIHヒーターで、シンクも大きなものに取りかえられていた。
調理器具も本格的なものがいくつも置かれ、これならなんでも作ることができるだろう。
「あの台所だと多分お料理出来ないと思うから。お兄ちゃんあれで本当にご飯作れてる?」
「弁当とカップ麺と塩と砂糖と水さえあれば人間生きていけるよ」
玲愛さんから、お前は虫かと苦言が入る。
「じゃあ晩御飯は私の部屋で食べるといいよ、これでも向こうにいた時はしっかりと作ってたから、ある程度は作れるよ」
マジか、なんて頼もしい奴が引っ越してきたんだ。おんぶに抱っこしてもらおう。
くいっと手錠が引かれ、俺は後ろを振り返ると玲愛さんが不機嫌そうにしていた。
「世話焼きの妹がやってきて良かったな」
「正確には姉ですが」
玲愛さんのぶすっとした態度はかわらない。
部屋の中に入ると、ダンボールなんかがまだ散らばっているかと思ったが、そんなことはなく大きめのベッドと衣装ケースが置かれ、勉強机の上にデスクトップPCとトレス台が鎮座していた。
「あれ、雹ぬいぐるみ捨てたの?」
「す、捨ててないよ。家に置いてきた…お気に入りは持ってきてるけど」
昔雹はぬいぐるみに囲まれてないと寝れない子だったので、未だにベッドの枕元にいるウサギと猫のぬいぐるみに、その名残を感じる。
「このトレス台を見ると漫画やアニメ描いてますって感じするな」
俺は机の上で存在感を放つトレス台、下から電気を当てることが出来る小さな机で、主に原画を下に敷いて、その上に紙を置いて下から光を当てれば、下にある原画を忠実になぞる、トレースすることが出来る為トレス台という。
「絵まだ描いてるの?ってトレス台が置いてあるってことは描いてるんだろうけど」
「うん、描いてるよ」
雹は嬉しそうに、机の中から自分が描いたであろう絵を見せてくれる。どれも凄いデキでド迫力の戦闘シーンから、土地神でも出てきそうな美しい風景画まであって感動した。
「す、すげー。雹マジでプロレベルじゃないのか?」
「私なんか全然だよ、皆凄く早く描くのにウチなんか全然遅くて」
「いやー、こんなの描いてたらそりゃ時間もかかるだろう」
俺は、緑が生い茂る天空城の絵を見て、凄さにため息がでた。
なんというか雹の絵は空気感が凄い。眩しげな日差しから、小鳥が空を飛び、木の上でリスが木の実をつつき、緑だけじゃなくて様々な色の木々が咲き誇り、この天空城で色々な木が成長していったんだろうなと、そんなところまで読み取れる。
「マジで凄い、感動した」
雹の頭をわさわさと撫でると、嬉しそうに目を瞑っていた。
隣にいた玲愛さんも、なんだこれ、人が描けるものなのかと驚嘆の声を上げていた。
雹の性格がでているのだろう、とても優しい色合いのものが多くて、その美しさは額に入れて飾りたくなるほどのものだ。
「すっげーなぁ…こんなの魔法とかわんねーよ…」
優れた科学もそうだが、これだけのものを生み出してしまう人の手は魔法と変わらないだろう。
ライターだって昔の人が見れば魔法だ、しかしその構造が理解されているからこそ科学になるのだと思う、しかしこの絵はなんだ?どうやってそうなったらこうなるんだ?とメカニズムがさっぱりわからない。
自分の想像の範囲を超えるものを人は魔法と呼ぶんじゃないかと思う。
玲愛さんと、すげーすげーと言いながら、絵の鑑賞をしていると玄関のチャイムが鳴り雹が外に出た。
ものの数秒で雹がとっとっとっと駆け足で戻ってくる。
「ごめん、お兄ちゃんインターネットの工事をするらしいから、少しだけ外に出てほしい」
「わかった」
工事の間に俺の部屋に行こうかと思ったが、回線工事はものの数分で終了した。
どうやらモデムなどの機材を設置すれば終わりなようで、回線工事自体は終了していたようだ。
業者のおじさんは設置が終了すると、足早に帰っていった。
「良かったな、これでインターネットが開通したじゃないか」
「うん、ネット出来ないと不便だしね」
雹が一応確認の為、PCの電源をつけブラウザを立ち上げるとヤホーのトップページが表示される。
「そういや、雹最近はパソコンでも絵って描くのか?」
俺はPCの横に置いてあるペンタブレットとプリンターを見て尋ねる。
「うん、最近は多いよ。画像投稿もできるしね」
「やったことあるのか?」
「私はないけど、見るだけでも楽しいよ」
「画像投稿サイトか、最近SNSは流行ってるもんな」
雹がPIXYと書かれた画像投稿サイトにログインすると、大量の絵がリアルタイムで投稿されていた。
「すげーな、更新するとどんどん絵がかわる。絵上手い人多すぎだろ…」
ほーっとまた感心しながら見ていると、再度インターホンが鳴り響いた。
雹がまた出て行くと、さっきのインターネットの業者らしく、書類に印鑑を貰うのを忘れたとの事。
雹がゴゾゴゾやっているので、俺と玲愛さんは二人でほーっとか言いながらPIXYのページを開いていた。
その時唐突に画面上に赤い文字で、投稿イラストに感想がつきましたとメッセージが表示される。
「あれ?雹投稿はやってないんじゃ?」
俺は何気なしにその赤いメッセージをクリックすると、画面が移動して半裸の男女が濃厚なキスを交わしている画像が映し出された。
「うぉっ!?」
「なんだこれは!?」
玲愛さんも驚いて目を丸くしている。
びっくりしたがしげしげと画像を眺めると画面下部のコメント欄にデスティニーさん、新作楽しみにしています(^○^)と書かれていた。
「し、新作?」
ページを見ると、前の投稿作品に戻るのボタンがあり、どうやら投稿作品はこれだけではないようだった。
俺は悪いと思いつつも投稿作品を一覧表示にする。
そこにはさっき見た美しい絵から、濃密な男女の営みが描かれていた。むしろそっち系の画像の方が多い。
驚いたには驚いたが、段々慣れてきて、うわーやっぱ雹うめーっと普通に画像鑑賞した。
「ふあああぁっぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁーー!!?」
絹をさくような雹の悲鳴が巻き起こる。
雹はダダダダダダダダっと大きな音を立てて走り、PCの前にいる俺のお腹に後ろか抱きつくと、そのまま後ろに向かってブリッジするように放り投げると華麗なジャーマンスープレックスが決まり、俺の体は雹のベッドに突き刺さった。
「ちゃうの!ちゃうんよ!そんなんちゃうんやから!」
この早口っぷりから、真っ赤になっているのであろうが、俺の体はビーンっと矢尻の如くベッドに突き刺さっているので、その様子を伺うことは出来ない。
五分程して、PCの電源を引っこ抜いた雹が、ようやく冷静さを取り戻したみたいなので、俺と、玲愛さんも一緒に正座して雹の前に座った。
「か、勝手に見ちゃダメだよ…」
怒っているのか拗ねているのか、恥ずかしがっているのか複雑な表情で、手を組みもじもじとしている雹。
「いや、ちょっとびっくりしたけど、まぁその絵の仕事をしたことがあるなら、自分の妄想って、きっと描きたくなるもんだと思うし、それをまさか画像サイトに投稿しているとは思わなかったけど」
「ごめん」
くすんと涙目になっている雹を見ると、悪いことをしたと反省する。誰しも日記とか見られると恥ずかしいよね。ブログで知らない人はOKだけど身内バレは勘弁してほしいみたいな。
「そんなに恥ずかしいなら、何故画像サイトに投稿する?」
玲愛さんがあっけらかんときくと、そ、そうですよね…と凹んだ声を出す雹。
そこに追い討ちをかけるように玲愛さんの声が響く。
「ちなみにまだ何か隠してることは?この際はっきりさせておいた方が後々楽だぞ、お前は隠し事が多い。私に見せる必要はないが悠はお前の大切な幼馴染なのだろう?そいつにまで秘密にする必要はないだろう」
「ま、まぁ玲愛さん、誰しも隠したいことの一つや二つありますし。親しいからこそ見せられない秘密もありますから」
「お前はどっちの味方なんだ?」
むっとしたように玲愛さんは俺を睨む。
「いや、あんまり味方とか敵とかそういうのは…」
「私は煮え切らない奴は嫌いだ」
真っ向から嫌いだと言われるとガンとくる。
俺を呆れ顔で睨む玲愛さんに萎縮して小さくなる俺、そんな空気を察するように雹が声を上げる。
「あ、あのごめんなさい。中途半端に隠したりなんかして。昔からよく詰めが甘いって言われるから」
雹の困り笑顔はどうしても保護欲をかきたてる。
すると、またピンポーンとチャイムが鳴り響いた。
雹が外に出る前に、ドアが開いて何やら玄関先で複数人の声が聞こえる。
「ちっすちっす!引越し祝いに来ました!」
いい加減な警察の敬礼ポーズをとりながら入ってきたのはみぞれちゃんで、その手に大量の紙袋を抱えていた。
後ろには火恋先輩と雷火ちゃん、それに嵐ちゃんまで一緒に来ていた。
「ホーッホッホッホッホ!水咲アリスティア嵐、参上ですわ!」
最近トレードマークにしたのか紫の扇子をカッコ良く広げて入ってくる。
「ちょっと嵐、うるさいんだけど、みぞれなんとかしなさいよ」
げんなりとした表情で雷火ちゃんが入り、その後ろに火恋先輩が同人ショップで購入したのであろう、りゅうのあなと書かれた紙袋を大事そうに持っていた。
まさかの全員勢揃いである。
流石にですね、八畳に七人は狭いです。
これ地味に凄いんじゃないか?伊達の娘全員と水咲の娘全員が同じ部屋にいるんだろ、ちょっとした首脳会談じゃないか。
狭いながらもそれぞれ皆で話し合っている姿は華やかだった。
「見て見てダーリン、ガンプラっすよぉ!どうせガンニョム買ったら、にわかめとか言ってバカにされるに決まってるんで、コアなところをついて買ってきました」
嬉しそうにプラモの箱を掲げるみぞれちゃんだったが、その箱には機神ヴァルヴレイヴァーと書かれていた。完全に別の作品のプラモだった。
「みぞれちゃん、それガンプラじゃないよ…」
「えっ!?雷ちゃんがこれが通のガンプラだって」
慌てて箱を確認するみぞれちゃん。
雷火ちゃんはお腹を抑えて、笑いを噛み殺し…、いや笑ってるな、むしろ爆笑。
「嵐ちゃんも一緒に買い物行ったの?」
「私は明日のイベントの最終確認をしていましたわ。その後電気街のイベントにも顔を出していました。皆さんとはその時にお会いしましたわ」
「お姉さんとみぞれちゃんは転校してきたけど、嵐ちゃんはこっちに来ないの?」
「行きたいのは山々なのですが、私にもこれまで築いてきた交友関係もございますので」
そりゃそうだな、むしろ雹とみぞれちゃんがおかしいだけだな。
「そうなんだ、残念だね」
「悠介様がどうしてもとおっしゃるのでした、この私転校も考えますが」
いやいや、そこまでされるとプレッシャーがかかる。
ワイワイ話している中で唯一火恋先輩だけがちょこんと座ったまま、動いていなかった。
「火恋先輩どうかしました?」
「な、な、なんでもない」
なが多い、どうしたのだろうと覗き込むと、そっと手元にあった紙袋を後ろに隠した。
「火恋先輩、わかりやすすぎません?」
「な、なんのことかな?」
なんとなく察しはついているのだが。
「火恋先輩、まさかとは思いますが一八禁的なものを…」
「わ、私は一八だから、問題ないはずだ!」
語るに落ちた、てか落ちるの早すぎ。
本人も気づいたようで、頬をカァァっと赤く染めていく。
「何買ったんですか?」
「見せない」
「見せてくださいよ」
手をわきわきさせながら、火恋先輩に近づいていく。
「あぁ火恋さんが、買ったゲームっすか?姉弟禁断の奴隷関係、ほら姉さん豚みたいな声で鳴いてみなよっすよ」
「わーーうあああああああーーあーーーー!!」
みぞれちゃんが軽く暴露すると、火恋先輩が壊れた。
ついさっきもぶっ壊れた人いたな、と思っていると、さっきぶっ壊れた雹がそろりそろりと近づいてきて、火恋先輩とゴニョゴニョと内緒話をしている。
「……うん、終わったら貸す…、お姉ちゃんとしようがいい…」
「兄系と弟系なら他にもいっぱいあるんよ…」
なにやら不穏な会話が続いてるな…。
「雹も生粋のエロゲーマーっすからね、なにせ一X歳の時からやりこ…」
笑顔で恐ろしい事を言おうとしたみぞれちゃんは、姉からジャーマンスープレックスをくらい俺と同じようにベッドに頭が突き刺さった。
おかげでみぞれちゃんのスカートがまくれ上がって、ピンクの下着が丸見えだった。意外と可愛いの履いてるなと思いながらも、全然嬉しくないなとも思った。やっぱりパンモロよりパンチラだよね。
「私悠介さんの部屋に行きたいです、なんだかんだで行った事ないんで」
「あーしもー」
「私も行きますわ」
雹と火恋先輩はエロゲ談義に花が咲いているようなので、放っておくことにしよう。とうとう火恋先輩もエロゲーマーかと思うと感慨深いものがあるな。
バカなことを考えながら、俺が隣の自室を開けると、雷火ちゃんとみぞれちゃんはヒャッホーイとか叫びながらベッドの上に転がった。
「エロ本どこですか?やっぱベッドの下っすかね?」
「悠介さん、後輩モノと妹モノ以外は捨てるんでそのつもりでいてください」
やめてよ八割捨てられるじゃないか。
その後はみぞれちゃんが俺のプラモぶっ壊したり、嵐ちゃんがエロ本の隠し場所見つけたり、雷火ちゃんが俺のパソコンでいやらしいゲームを始めたりと、ここは託児所かといった気分だった。
しかしながら俺はずっと黙りっぱなしの玲愛さんが気になってしょうがない。
「元気ないですね、さっきのまだ怒ってますか?」
「……そんなことはないさ、ただお前は好かれているなと思っただけだ」
なんでもないと言いつつも玲愛さんの表情は曇っていて、俺にはどうすればいいかわからなくてただその横顔を見つめるしかなかった。