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オタな俺とオタク少女  作者: 蟻の巣
42/107

 火恋先輩と雷火ちゃんは予想外のお客に驚くかと思ったがそうでもなかった。


「二人共あんまり驚かないね?」

「驚くも何も、こいつ私のクラスに転校してきたんですよ」


 雷火ちゃんは既に何かあったのか疲れた表情をしていた。


「いやーあーしが雷ちゃんと同じクラスにしてって先生に頼んだら通ったみたいで」

「そのへんは先生も融通してくれたんだ」

「そーなんすよぉ、本当は二年のダーリンのクラスが良かったんですけどね」


 しなっと体をくねらせるみぞれちゃん。


「私と同じで悪うございましたね」


 不貞腐れ気味に雷火ちゃんが愚痴る。


「えっ?あーし雷ちゃんと一緒も嬉しいよ、女の子の友達って雷ちゃんしかいないし」


 取り繕うわけでもなくごくごく自然に出たみぞれちゃんの言葉は本心なのだろう。

逆に雷火ちゃんはキョトンとしていた。


「みぞれ、なんかかわったね。昔はもうちょっと…」

「嫌な奴だった?」

「そこまでは言わないけど、どちらかというと自己中心的気味だった」

「あーし、雷ちゃんのはっきり言ってくれるところ好きだよ」


 みぞれちゃんはニコリと雷火ちゃんに微笑みを向ける。それに戸惑いながら恥ずかしそうに視線を逸らす雷火ちゃん。


「なんというか素直ないい子になってる…。調子狂うな」


 雷火ちゃんはわさわさと髪を手櫛している、照れ隠しなのだろう。

 みぞれちゃんは角がとれて丸くなったと言うべきなのだろうか、心なしか笑顔が多い気がする。


「ま、まぁあーしもいい加減大人にならなくちゃいけないかなって思っただけで」


 言ったあとのみぞれちゃんも恥ずかしそうにしている、可愛いなぁ。


「い、いや先輩いきなり可愛いとか言われても困るっす。先輩じゃなかったダーリン」


 今度のは無意識のうちに言葉が口から溢れていたようだ。

 それを面白くなさそうに見つめる六つの瞳、伊達姉妹。


「悠介さん、本当にフラグたてたんですね。私みぞれが本気で照れてるところ初めてみました」

「私も、あまり浮気は好ましくないと思う。ただでさえ雷火と折半することになっているんだから、四等分はちょっと」


 人をケーキみたいに言わないで下さい火恋先輩。ちなみに四等分の内訳はどうなってるんですか?


「目の前で堂々と浮気とはいい度胸だな」


 玲愛さんは俺の頭を上から鷲掴みにして自分の方へと向かせる。


「決して俺に下心があったわけではないのです」

「嵐にみぞれ、雹が混ざれば完璧だな」


 玲愛さんはため息をつくと、みぞれちゃんが手を振りながら挙手をする。


「あっ、そのことを伝えに来たんですよ。今回私一人で転校してきたんじゃなくて雹も転校してきます。むしろ雹の方がメインなので」

「絵の修行をするといって出て行ったと聞いたが帰ってきたのか?」


 玲愛さんは雹さんとも顔見知りのようで、その顔は意外だと言わんばかりだった。


「はい、先週ようやく。ただ出席日数とか全然足りてないんで、留年です」

「あいつのスペックなら一年程度の学力差簡単に埋められるだろう?」

「可能ですけど、どうやらわざと留年したくさいんですよね。あーしと嵐がダーリンの話をしてた時に学校変えるって言い出しましたから」


 何故そこで俺の話がでてくるのだろうか?俺と雹さんとは全く接点がないと思うんだが。


「ダーリン何で自分の名前がって顔してるっすね。そんな顔雹の前でしたら自殺するんでやめて下さいよ」


 ますますわからない、というかこの会話ぶりから、俺と雹さんは会ったことがあるみたいなんだが。

 ちょっと待てよ、確か藤乃さんも俺と雹さんは会ってるみたいなこと言ってたような気がする。


「あー、ダーリン完全に忘れてるって顔っすね。雹超可哀想、きっと一度だってダーリンのこと忘れたことないと思うけど」

「ご、ごめん。本当にわからないんだけど、その雹さんって俺と面識あるのかな?」

「ありますよ、ダーリンが幼稚園~小学生低学年くらいのときですけど」


 …ん?その時期って俺の暗黒時代じゃないか?あの頃は完全に心を閉ざしてたから、あんまり誰と会ったかとかなんて覚えてない…。


「本人と会ったら思い出すかもしれないんで、ってか多分思い出すと思いますよ、あんな特殊な”呼び方”してるんですから」

「呼び方?」


 みぞれちゃんはおっといけないと言って口をつむぐ。


「それでみぞれちゃん、雹さん?はいつ転校してくるの?」

「明日っすよ」

「えっ早くない?」


 と言いつつもみぞれちゃんが唐突に転校してきたんだ、そこまで不自然でもないか。


「決めたのも結構唐突でしたからね。ちなみにダーリンと同じクラスなんで、よろしくっす」

「「「えっ?」」」


 みぞれちゃんの話を聞いてバカなと言いたげな伊達三姉妹。よくよく考えると、最近知り合いが増えたけど同学年は初めてだ。


「まさか彼女の留年目的って言うのは?」


 何故だか額に汗をにじませて焦り顔の火恋先輩。


「ほぼ間違いなくダーリンと同じ学年になる為でしょうね」

「そんな、同級生だなんて…やり方が汚いわよみぞれ!」


 何故だか皆驚愕の表情をしているのだが、イマイチその理由がよくわからない。


「あの、留年ってマイナスにはなりますけど、プラスにはならないのでは?」


 おずおずと聞いてみるが、玲愛さんが苦々しい表情で吐き捨てるように言う。


「一日の大半をお前と一緒にいられるんだぞ」


 えっ、そんなこと?むしろしょーもないと思ってしまったのだが。


「一緒に勉強」

「一緒に修学旅行」

「一緒にテスト」

「一緒に婚約」


 いや最後のは違うだろ。

 四人が交互にメリットらしきものを並べるがそんなに重要かな?


「そういや私も三年だから留年できるんだよね…」


 目に光を失った火恋先輩が亡霊のように呟く。


「私も学力的には高校飛ばしてもいいかなってくらいだし、一年くらい飛び級したって問題ないような気がする、いや問題ないよね…」


 同じくブツブツと怖いことを呟く雷火ちゃん。


「ちょ、ちょっと待って雷ちゃん一緒に卒業しようよ。あーしいきなりぼっちとか嫌なんだけど!」


 慌てて雷火ちゃんの手を握り締めるみぞれちゃん。

 その様子を見て、やれやれとため息をつく玲愛さん。


「お前らもバカなこと言うな、高校で留年したって何もいいことないぞ、普通に三年で出ろ。雷火も無駄な飛び級なんてしたって、ただの違和感にしかならないんだからな」

「はい」

「はーい」


 二人の妹は渋々諦める。みぞれちゃんもホッとしたようで胸をなで下ろしていた。


「ところで悠、お前大学はどこに行くつもりなんだ?」

「だ、大学ですか?自分の学力の一つ上くらいを目標に」

「ウチの大学にしろ、あそこはいいぞ面白い人間が揃ってる」

「姉さんさりげに自分の大学に悠介君を勧誘するのやめてよ」

「そうよ、悠介さんが入るまで休学するつもり?そのとき姉さん何歳なのよ」


 妹の批判に両手のアイアンクローで答える姉。


「誰が年増だ」

「言ってない、言ってない!」


 二人の妹は大きく頭を振って否定する。


「全く、雹の話から逸れた。なんであの子だけ明日に来るんだ?」

「雹は関西から引越ししてくるんで、今日はまだ引越し中です」

「そうなんだ?お姉さんが帰ってくるなら、家が賑やかになるね」

「いやー雹は一人暮らしするそうなんで実家には帰ってきません」

「みぞれちゃんは一人暮らししないの?」

「あーしは、一人だと腐ってくのがわかってるんでしないです。あーしにちゃんと水やって綺麗に育ててくれるならしますよ」


 何故そんなキラキラした目でこちらを見る…。

 そこに火と雷の姉妹が立ちふさがり、ダメだから!と必死な声で訴えていた。



 午後からの授業も午前中の授業と全く同じように玲愛さんにおんぶにだっこしてもらい、本日の授業は終了した。





 翌日、昨日と同じように手錠繋ぎで登校すると、皆まだ慣れていないようで、昨日よりは減ったが好奇の視線がグサグサと突き刺さった。

 カバンを置いて席につくと玲愛さんが、はぁっと小さなため息をつき、俺はつられるよに顔を横に向けると玲愛さんは複雑そうな表情をしていた。


「どうかしました?」

「ちょっと雹のことが気になってな…」

「知り合いなんですよね?」

「知り合いというほどのものでもないがな。新年の挨拶や祝い事で水咲を訪れた時に何度か会ったことがあるぐらいだ」

「どんな人なんですか?」

「んーそうだなー、気弱なくせにやたらとスペックが高い少女が私のイメージだな」

「玲愛さんと似てますね。玲愛さんは気が強くてハイスペックですもんね」

「私だって気が弱くなるときだってあるさ」

「はは、鬼の目にも涙ってやつですね」


 玲愛さんのアイアンクローがこめかみにヒットする。


「誰が鬼だ、誰が」

「嘘です、ごめんなさい、ギブギブ」


 ぺちぺちと腕を叩くと、離してくれた。


「昨日言ってましたけど彼女絵の勉強で学校を休んでたんですか?」

「私も詳しくは知らないがな」

「ってことは、やっぱり水咲はお金持ちですから海外で凄い美術を学んで来たんですかね?」

「私が聞いた話では日本のアニメーション会社や漫画家のアシスタントとして働いていたと聞いたが。今までもちょいちょい現場で技術を磨いていたらしいが、アニメーション会社にアシスタントで入ったら、そのまま音信不通になったとか」


 アニメーション会社こえぇぇ!


「凄いですね、一八才で既にプロのアシスタントで働くって」

「そんなことはないさ、雷火だってプログラムの技術を学びにアメリカに行っていたんだ。もっとも今はその技術を使って男が男を口説く謎なゲームを作っていたがな」


 く、腐っとる。なんという宝の持ち腐れ。


「それより私の方が聞きたい。幼少の頃一緒だったんだろ?何か覚えてないのか?」

「いやー、全くこれっぽちもですね。あの頃はどうやって叔父さんに怒られないように過ごすかしか考えてませんでしたからね」


 俺は気楽に言ったつもりだったが、玲愛さんは気まずそうな表情で、何故かすまないと謝った。


「いや、今はもう全然気にしてませんよ。苦い過去ってところですから」

「そうか…」


 なんだか心ここにあらずになってしまった。玲愛さんの凹みスイッチを押してしまったのかもしれない。

 丁度チャイムが鳴り響き、恐らく登場するであろう転校生を待ちわびる。

 するといつもは一つしか聞こえない足音が二つ聞こえてきた。ほぼ間違いなく転校生がいると見ていいだろう。

 ガラッと音がして、教室に入ってきたのは担任の男性教諭で、その後ろにリリカルサザンカに登場するライバルキャラデスティニーちゃん、高二バージョンが立っていた。

 ツインテールの髪を黒のリボンでまとめ、目尻が少し下がった顔は優しそうな印象を受ける。

 小さなロザリオを首にかけているが、どう見てもデスティニーちゃんの変身アイテムセイントクリスタルです本当にありがとうございました。

 本来例えるならデスティニーちゃんのコスプレをした人が正解なのだが、高校生の制服を着たデスティニーちゃんに見えてしまうほど彼女がアニメキャラクターに似ていて、むしろ彼女を参考にデスティニーちゃんができたんじゃないかとさえ思ってしまう。


「デ、デスティニーちゃんだ…」


 男子生徒の一人が呟くと、何人かの男女が驚きながら頷いた。今頷いた奴は隠れオタ、間違いない。

 かく言う自分もその一人だった。


「まさか生きてるうちにデスティニーちゃんに会えるなんて」


 相野が驚愕な表情でわなないているが、デスティニーちゃん実在しないから、普通生きてるうちに誰も会えないから。


「えー、本日は転校生を紹介する。水咲アリスティア雹君だ。彼女は長い間、京都で過ごされていて家庭の事情でこちらに引っ越してきた。皆仲良くするように。水咲君挨拶を」


 先生に促されて一歩前に出るデスティニーちゃん、違う雹さん。


「先週までは京都に住んでいました。水咲アリスティア雹です。個人的な都合で一年程学校を休んでいたため皆さんの一つ年上になりますが、どうか遠慮なく仲良くしてください」


 完璧に近い自己紹介を終え、担任がえー席はどこにしようかなー、なんて言っていると雹さんは先生に言われる前にカツカツと歩き出した。

 俺はぼーっとどこに行くんだろうデスティニーちゃんと眺めていると、何故か彼女は俺の目の前で立ち止まった。

 クラス全員が注目しているのがわかる、俺はわけがわからずキョロキョロと辺りを見回すが、彼女の視線は間違いなく俺に注がれていた。

 デスティニー違う、雹さんは俺の目の前でポロリと涙を一筋零した後


「やっと…会えたね、お兄ちゃん」


 なんて恐ろしいセリフを呟いて。ニコリとはにかんだ。そして両目から、もう一雫頬に線を描いた。



 全員がポカーンである。恐らく一番ポカーンとしているのは俺の隣に座っている人だろう。美人がそんな埴輪みたいな面白い顔をしてはいけませんよ玲愛さん。


「今更妹属性…だと…?」


 玲愛さんは金魚のように口をパクパクしながら、ありえないものを見る目で呟いた。

 みぞれちゃんの言った、特殊な呼び方ってのはこのことか。

 確かにこの強烈な呼び方は、俺の意識の底にあった記憶を蘇らせるには十分だった。


「もしかしてレイ?」

「うん、覚えててくれたんだね…」


 雹さんは目元を拭うと、本当に嬉しそうに笑った。お喜びのところ申し訳ないんですが、さっきまでばっちり忘れてました。


「ゆ、悠、説明、説明」


 玲愛さんはよほど気が動転しているのか早口になりなつつ、椅子から落ちそうになっていた。


「幼少期の唯一の友人です…」


 何で俺忘れてたんだろう、あの頃の友達なんて彼女しかいなかったのに…


「な、なんでお兄ちゃんになるんだ?」

「それは…」


 と言いかけて、クラス中の視線を集めていることに気づいて、口を閉じた。


「とりあえず最初の授業終わったら話ますね」


 雹さんは、当然のように俺の右隣の席に座ると、左に玲愛さんの極寒の視線と右から雹さんの熱帯のような暖かな視線を浴びて、フレイザードのように半身氷、半身炎を纏う珍しい体験をした。


 授業中も玲愛さんには全く落ち着きがなく、シャーペンをくるくる回しながら、キャッチした瞬間バキっとへし折っていた。普通そこ落とすとかですから、普通握り潰しませんから。

 対する雹さんも授業なんて全く聞いてる様子がなく、ただじっと微笑みながら俺の横顔を眺めていた。

 そしてクラス全員も、なんなん?あいつもうなんなん?手錠美人だけじゃなくて、年上の妹を連れてきた、わけがわからない奴と、噂と視線の的だった。

 可哀想なのは先生で、全く授業が進まなかった。



 最初の授業が終わり、今すぐ使える黒魔術を読んでいる相野の横を通り過ぎて、俺は玲愛さんと雹さんを連れて外に出た。

 何食わぬ顔で追跡してくるクラスメイトと書いてパパラッチな連中を振り切り、空き教室へと滑り込んだ。


「それで説明してくれるんだろうな?」


 玲愛さんは落ち着きがなく視線がウロウロと彷徨っている、そこまで慌てることでもないと思うのだが。


「とりあえず久しぶり」

「うん、久しぶり」


 あまりにも久しぶりすぎて何を話していいかわからない、それは向こうも同じようで落ち着き無く、手を組んだり離したりしていた。


「俺幼稚園から小学校くらいのときは三石家じゃなくて、違う引取り先の家で過ごしてまして、その方が関西出身の方で、しばらくは関西ですごしてましたから、その時に…」

「私が聞きたいのは、あの呼び方だ。なんだあの呼び方は?雹の方が年上だろうが、何故お兄ちゃんになるんだ」


 玲愛さんは何故だか半ギレだった。呼び方一つでそこまで怒らなくてもいいんじゃないでしょうか。


「それは当時は俺の方が年上だと思っていまして…後々俺の方が年下だと気づいたんですが、もうお兄ちゃんで定着してしまった為、直さなくてもいいかって」

「直せよ!」


 ペチコーンと玲愛さんに頭をはたかれるが、なんで貴女の方が泣きそうなんですか?


「レイって言うのは?」

「当時やってた美少女戦士のアニメキャラです。凄く目が大きくて、声がアニメっぽくて、そのキャラクターに似てたので」


 今は完全にデスティニーちゃんですが。時代が変われば作画も変わるのか、今風のキャラになっていた。


「それで雹は何で今頃になって東に来たんだ?」

「あっそれはお仕事の関係で、スタジオがこっちに移るそうなので、それと同時に人員が増えることになり、学校に戻ることにしました」

「学生を手放さないってどんなブラックだよ」

「ウチがやりたいって言ったので…」


 雹さんは困り顔で手をワタワタと振っている。雹さん一人称ウチなんだ、子供の頃もそうだったかな?

 俺がそんなことを思っていると、雹さんは俺の考えていることに気づいたのかボンと顔を赤くした。


「い、今私、ウチって言いましたね、すいません」

「ウチくらい普通だと思うけど、たまに使ってると思いますよ」


 ただ一人称ではなく、団体をウチって言うこと多い気がするけど。


「す、すいません。方言は直したつもりなんですけど、たまに出てしまいます」


 よっぽど方言が恥ずかしいのか雹さんは俯いて顔を真っ赤にしている。


「方言いいと思いますけど、別に無理になおす必要ないですよ。自分の育ってきた環境の言葉ですから」

「う、うん。ごめんね、お兄ちゃん」


 なんだか思い出してきた、雹さんって昔から小さなことでも迷う子だった気がする。


「それにしても…雹さんデスティニーちゃんに似てますね…」


 俺が思ったことを言うと雹さんは困り顔でチラチラとこちらを伺うように、俯いたり、顔を上げたりしている。


「あっあのお兄ちゃん…、さん付け…やだな…、後敬語も…」

「あっ、ごめん」


 昔のように気軽に話していいかわからなくてつい敬語で話してしまった。


「あの、多分お兄ちゃんが大きくなったらこのキャラクター好きなんじゃないかって思って似せられるところは似せてみた…」


 俺の好みはばっちり把握されていた。確かに俺は主役のサザンカちゃんよりデスティニーちゃんの方が好みだ。


「うん、凄くデスティニーちゃんだ(意味不明)」


 少し折れたリボンを直そうと思って手を頭に近づけると、雹は勘違いしたようで頭をすっと寄せてきた。

 昔よく泣いていた雹をなだめる時に頭を撫でていたのだが、その時も頭を寄せて撫でてとアピールしてきた、その癖は直っていないようだった。


「リ、リボン折れてるから」


 俺がささっとリボンを直すと、雹はまた全身の血液を顔に集めてきたように赤くなり


「ごごごごごごごめんね、意味わかんないね、ウチ何やってるんだろうね、ホントわけわかんないことしてごめんね」


 あわわわとブンブン手と頭を振る雹。


「い、いや大丈夫だから、大丈夫だから。勘違いさせるようなことしてごめん」


 俺はそのままそっと雹の頭を撫でた。


「あっ…」


 ぎこちない撫で方だったと思うが、雹は落ち着きを取り戻して、俺の胸にトンと額をくっつけた。


「ただいま、お兄ちゃん」

「お帰り、雹」


 その様子を間近で苦々しい表情で眺める女性の姿があった。


「まずい…、最強の敵が来たかもしれない」


 玲愛は焦りに満ちた声で呟いた。

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