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オタな俺とオタク少女  作者: 蟻の巣
37/107

玲愛と手錠

 俺と玲愛さんは平日の夕方から、高速を凄いスピードでかっ飛ばしていた。


「くそ、しくじった…」


 運転席の玲愛さんの顔は苦々しく、歯噛みしている。

 俺は苦笑いで助手席に座っていた。

 俺の左手首には銀色に輝く輪っかが、同じように玲愛さんの右手首に銀色の輪っかがついている。その輪っかは細いゴムのようなヒモで繋がっていて、一見すると手錠のようにも見える。


 まぁ手錠なんですけどね。


 玲愛さんがシフトレバーでガチャコンガチャコンとギアを入れ替える度に、俺の左手は引っ張られていた。

 法定速度なんて、なんのそのと言わんばかりにグングン加速していく車。


「そんなに急がなくてもいいんじゃないですか?」

「お前、明日学校だろうが、このままじゃマズイ」


 玲愛さんの顔には珍しく焦りの色が浮かんでいる。

 今向かっているのは玲愛さんの知り合いが経営している工務店で巨大なレーザーカッターで鉄を切って加工したりする工場なのだ。

 ここまで言って察しがよろしければわかると思うのだが、この手錠……とれなくなりました。


 事の始まりはこうだ。


「で、なんか言い訳あるの?」


 みぞれちゃんの一件が終わって次の日の話だった。

 ドキドキ魔女裁判ならぬ、第二回ドキドキ異端審問会が伊達家にて開催されていた。

 何故出禁を食らったはずの伊達家に入れるかと言うと、今週末に開催予定のアリスランドでのイベントに玲愛さんが出場する為、仕事を休むことになった。

 今週頭から剣心さんが仕事を引き継いでくれたのだ。

 しかし思ったより多忙だったようで、ちゃんと回ってないらしい。玲愛さんが週末までは手伝おうか?と提案したらしいが、そこは父親のプライドなのか、断ったようだ。

 結果として、剣心さんは会社での仕事と、自身が抱えている仕事を回すために、ひたすら業務に追われているようで、玲愛さんがイベントを終わらせて、帰ってくるまで家には戻って来れないそうだ。

 家政婦の田島さんも剣心さんについて会社に行ったので、伊達家には現在三姉妹しかいないのだ。

 だからこれだけ堂々とお邪魔させていただいているわけで…。


「日曜の晩にお前の携帯に電話をかけたら、何故だか水咲の執事に繋がった。そしてお前はしばらく水咲保有のマグロ漁船に乗るためしばらく会えないと聞かされたのだが、それについては?」


 玲愛さんは正座する俺の頭に、その豊満な胸のわりに控えめなお尻をのっけて座ると、足組みなんかして、スマホをサッサ、くぱぁと操作してらっしゃる。首が痛い。

 それを取り囲むように火恋先輩と雷火ちゃんがジト目でこちらを見ている。

 くそぉ水咲が絡むと毎回こんな目に合ってる気がするぞ。というか嘘つくならもっとまともな嘘にしてほしい。


「その、悠介君、怪我をたくさんしているようだけど、大丈夫かい?」


 やはり火恋先輩は大天使で、昨日、一昨日の喧嘩傷を心配してくれる。


「だ、大丈夫です」

「お前、水咲がらみで何かしてきたな?」

「身に覚えがございません…」


 玲愛さんの鋭い指摘に、椅子になっている俺はただ冷や汗を流すしかなかった。


「昨日から水咲の株が絶好調だ、特に嵐のがやばい。なんだこの上げ幅は…」


 玲愛さんは呆れているのか、スマホの株価変動アプリをじっと眺めている。てか嵐ちゃん株とか持ってるんだ。


「私のところにも昨日メールが来たよ、珍しくみぞれから。今日とってもいいことがあったって、これから友達としてライバルとしてよろしくっす、だって」


 雷火ちゃんもこれ、何か関係ある?と玲愛さんに聞くと一つため息をついた。


「お前たった三日でみぞれのフラグを立ててきたな?」

「…なんの事か僕にはわかりかねます」

「ほぉ…」


 玲愛さんは俺の首にかける圧力を更に増した。あの重さで本気じゃなかった…だと?


「悠、嵐と、嵐についている執事には近づくな、あいつは食わせ物だからな」


 重々承知しております。


「お前は目を離すとすぐ他の女に。そんなに伊達が不満か?」

「いえ、滅相もありません。僕には身に余る光栄です」


 疑わしい視線を向ける玲愛さん。


「今度勝手にフラグ立てたら。これを着けてもらうからな?」


 玲愛さんのその手にはいつぞやの首輪が握られていた。


「首輪…犬…、雌犬?……いいな」


 火恋先輩一人連想ゲームでエロい結果に結びついたらしく、恍惚とした表情で笑みをこぼしていた。


「あっ、それなら私もいいもの持ってる」


 雷火ちゃんは立ち上がって、一旦部屋を出ると、その手に何か怪しげなものを握りしめて帰ってきた。


「何?それ?」

「手錠です」


 確かに見れば、銀色の二つの輪っかが、ゴムチューブのようなヒモで結ばれていた。


「これ、凄いんですよ。一見すると簡単に切れちゃいそうなヒモなんですけど。鉄と鋼と炭素を織り込んだ合成金属なんです。チェーンカッターでも切れませんよ」

「そりゃすごい、でも何でそんなものを?」

「アメリカの友達に貰いました。フラフラして優柔不断な先輩をつなぎとめたいって言ったら。首に輪っかでもつけときなさいHAHAHA、って送られてきました」

「よくそんなの送れたね…」

「送ってもらったのはパーツごとですから、組み立てたのはこっちでです」


 なかなかなの周到さだが、それっていけないことなんじゃ…。

 雷火ちゃんは自分の手首に手錠をはめて、俺の手首にも銀色の輪っかをはめた。


「細いヒモだし、切れそうなのにね」

「引っ張ってみていいですよ」


 俺はお言葉に甘えて、めいいっぱい力を籠めてヒモを引っ張ってみたが、ビクともしなかった。


「凄いね、全然ビクともしない」

「でしょう、私もこの合成金属を作るのに一役買ってるんですよ」

「凄いね」


 忘れてたけど雷火ちゃんってハイスペックだったんだな。(失礼)

 俺が腕を上げると、雷火ちゃんの腕も一緒に上がる


「なんか、手錠をつけてると悪いことしたみたいだね」

「そうですか?私はなんだかテンション上がりますけど」


 確かに雷火ちゃんは嬉しそうに腕を振っている。

 それをぐぬぬの表情で眺めている火恋先輩。


「雷火、私にもつけさせて」

「やだ。悠介さん今日一日このままでいましょっか?」


 嬉しそうにブンブンと腕を振る雷火ちゃん。


「雷火ちゃんと繋がったままっていうのは魅力的だけど、いろいろ困ると思う、お風呂とかトイレとか」

「大丈夫です、安心してください」


 雷火ちゃんは手錠についている小さなボタンを押しながらヒモを引っ張ると、しゅるしゅると紐が伸びた。


「最長一.五mまで伸びます」

「凄いね、でも一.五mだとちょっと短いかな」

「そうなんですよねぇ、どうしても手錠に収納出来る長さだと限界があるんですよ。これだとPSのUSBケーブルくらいの長さしかありませんし」


 まぁ元から手錠にそのような機能は求められないだろう。ヒモが伸びたら、それこそ犬の散歩になってしまう。


「どうですか?私と一.五m以上離れられない生活って」

「朝も夜もくっつきっぱなしだね」


 雷火ちゃんは想像したのか、頬を少し赤くして、にへら顔でアリ…ですね、なんて小さく呟いた。

 美少女と繋がったままの生活なんて素晴らしいなって思ったが、同時に物凄い嫉妬の視線にさらされそうだな。

 現在目の前でむくれてらっしゃる火恋先輩の視線を見て思った。


「もー姉さん、そんな恨みがましい目で見ないでよ」

「雷火が見せつけるから…」


 雷火ちゃんは手錠についてる赤、青、黄の三つのボタンをピコピコ押すと、俺と彼女の手首についている輪っかが外れた。

 そして火恋先輩の手を後ろに回し、両手首に装着すると、見事に火恋先輩の両手は繋がれた。


「雷火、違うんだけど。これ私の思ってたのと違うんだけど…」


 腕を後ろに回され、上半身を振る火恋先輩。


「私は悠介君と繋がるのを想像していたんだけど…」


 われ知らぬと口笛を吹く、雷火ちゃん。

 火恋先輩も、ちぎれないものかと後ろ手に強く引っ張ってみるが、ビクともしなかったようで、しばらくして諦めた。


「とれない…」


 困り顔で胸を振っている火恋先輩はどうにも加虐心を煽られてしまう。

 俺は優しく火恋先輩の肩をすっと押すと、火恋先輩の体は座布団の上にパタンと倒れた。

 身動き出来ずに、芋虫のように這う火恋先輩。


「立て…ない…」


 いつもは圧倒的なスペックを誇る火恋先輩が、畳の上でもぞもぞと動いている姿はなんだか興奮してしまう。

 もぞもぞと動いているうちに、火恋先輩のスカートがまくれ上がって、ライトブルーの下着が顔を覗かせていた。

 火恋先輩も下着が見えているのはわかっているので、顔を真っ赤にして、もぞもぞと畳を這い回るが、動けば動くほどスカートはまくれ上がっていく。

 そして俺の足に顔をくっつけながら、まるで巨人でも見上げるように首を上げ、潤んだ瞳と蒸気した頬で


「スカート…なおして…ほしい」


 と懇願してきた。

 いかん、これは何か違うものに目覚めてしまう、あくまでノーマルを貫き通しているはずなのに。


「はいはい、直しますね」


 雷火ちゃんは火恋先輩のまくれ上がったスカートを元に戻して、手錠を取り外し立ち上がらせた。

 スカートを直してもらったのに、何故か火恋先輩は不貞腐れていた。


「お前ら唐突にプレイに入るのはやめろ」


 玲愛さんも呆れ顔だった。



 玲愛さんは銀の輪っかに指を入れてフリスビーのように手錠をくるくると回す。


「ふーん、凄いな。このボタンは電子ロックか?」

「そう、いずれは指紋認証もつけるつもりだって」

「ほー」


 自分の腕にカチャンとはめてから、玲愛さんはカウボーイのようにもう一方のヒモを伸ばした輪っかを放り投げると見事俺の腕にはまった。


「確かにこのボタンは格好良いな、押してみたくなる」


 玲愛さんは不用意にピッピとボタンを押すと


[指紋認証機能がONになりました]


 なんて不穏なアナウンスが手錠から流れた。


「…………今変な音が鳴ったな」

「鳴りましたね…」

「なんだこれは?」


 玲愛さんは視線を雷火ちゃんに送ると、雷火ちゃんは首を横に振ったあと。解除キーなのか手錠のボタンをピコピコと操作した。


[権限がありません]

「うっそ、私こんなの聞いてないよ」


 雷火ちゃんはもう一度ピコピコとボタンを操作するが、手錠からのレスポンスは同じように、権限がありませんと返ってくるだけだった。

 俺と玲愛さんに嫌な汗がつたう。


「もう一回やってみたらどうだ?」

「このロック三回間違えると、二四時間外れなくなるの」


 そいつは困るな。


「二四時間しても、解除できなければ同じ事だろう?」

「うん。ちょっと待って、聞いてみる」


 雷火ちゃんは携帯を取り出し、この手錠を送ってきたアメリカにいるお友達に電話をかけた。

 雷火ちゃんは英語で手錠が外れなくなった。どうしたらいい?と聞いているようだったが、返ってきた答えはあまりいいものではなかったようで、驚きの声と抗議しているような怒りの口調で話をしていた。


 雷火ちゃんが通話を終えて、気まずそうにこちらを向く。

 うわー、見るからに嫌な話しますって顔してるよ。


「あのですね、指紋認証機能自体は既に実装されてたらしいんです、でも指紋認証には事前に誰の指紋を使うかの登録が必要になるんですけど、その登録をしないまま指紋認証機能を動かしちゃったので、今登録されている指紋はブランク、つまり誰がやっても解除されません」

「つまりは?」

「指紋登録しないままでも指紋認証が起動出来てしまうバグです。私が何回解除キーを入れてもはずれません…」

「………マジ?」


 雷火ちゃんの顔はかなり気まずそうだ。


「じゃあ、どうやったら取れるんだ?」

「恐らく一週間程で内蔵バッテリーが切れるから、後は通常通りの解除キー入力で外れるみたい…」


 そう言って雷火ちゃんはごめんなさいと頭を下げた。

 指紋認証について、雷火ちゃんは知らなかったようだし、そんなバグがあるとも思っていなかっただろうから、彼女を責めるのは筋違いだろう。

 玲愛さんも、自分で指紋認証を起動させてしまった手前、苦い表情をしている。


「一週間もこのままだと…」


 女性にとっては死活問題だろう、さっきも言ったがこんな状態で生活出来るわけがない。

 しばらく皆押し黙った後に、玲愛さんはおもいっきりヒモを引っ張ってみた。

 手錠がミシミシと恐い音をたてる。


「こんのぉっ」

「無理よ、トラックをぶら下げても切れない合成金属なんだから」


 雷火ちゃんの言うとおり、合成金属の方が強かったようで、玲愛さんはゼェゼェと肩で息をしていた。


「これから悠と水着買いに行く予定だったのに…」


 目元を抑えてげんなりする玲愛さん。

 その後、伊達家にあった、カッターやはさみ、電気ノコギリにチェーンソー、ハンマー、火炎放射器等いろいろ試してみたが全て失敗。

 雷火ちゃん、これ強力すぎだよ…。

 半ば皆が諦めかけたが、それでも玲愛さんは必死にハサミでヒモを切ろうとしていた。


「こんなのレーザーでもないと無理ですよ」


 俺がポロっと発言したのに閃いたのか、玲愛さんはどこぞかに電話をかけ始めた。


「悠、外に出るぞ」

「これでですか?」


 俺は手首を持ち上げる。


「知り合いの工場にレーザーカッターがある、それで切る」


 ほんと、この人たちレーザーまで使えるんだなと驚いていると、玲愛さんはちょっと着替えてくる、と言って部屋の外に出ようとしたが手首が引っ張られ、俺はずっこけてしまった。

「どうやって着替えるんですか…」

「………」

 玲愛さんは苦々しい顔で、結局着替えずに俺と一緒に車に乗り込んだ。


 そして高速道路の景色をびゅんびゅんとかっとばして、工場に向かっている。今ココってところだ。


「玲愛さん…」

「黙れ」

「すいません」


 黙れと言われたので、ただ高速に流れていく風景を眺めた。


「………」

「……なんだ?」


 何で高速ってこんなにラブホばっかり建ってるんだろうなーとぼんやりしていると、沈黙に耐えられなくなったのか、玲愛さんから口を開いた。


「これ、レーザーで切れなかったらどうします?」

「私とお前の同棲生活が始まるな」


 冗談めかして言うが、実際は大変だろう。

 俺は別にいてもいなくてもどうでもいいが、玲愛さんがいないと困るって人は、きっと沢山いるだろう。

 そんな沢山の人に迷惑をかけると思うと気が重かった。


「……そんなに落ち込むな、私は別にお前をとって食うわけじゃない」


 凹んでいる俺を見て、何か勘違いしたらしく、玲愛さんは警戒するなと声をかける。


「玲愛さんにとっては死活問題だと思いますよ」

「安心しろ、私は水咲のイベントが終わるまで休みだし、学校も休学しているから影響は少ない。それよりお前は学校がある」

「別に皆勤賞というわけでもないんですし、出席日数もやばいわけじゃないんで、あまりお気になさらずに」

「バカ、一週間も学校休んだら、一気についていけなくなるぞ」


 もとからついていけてませんとは言えない。数学と英語はマジやばい、あと物理は呪文。


「着替え一つできないですからね」

「別に着替え程度出来なくても問題ない」

「そういうわけにもいかないでしょう、それにお風呂もトイレも、寝る場所も困りますし、女性は特に…」

「うるさい黙れ」

「はい…」

「あまり女のように、やかましくするな殺すぞ」

「はい、すいません」

「とりあえず行ってからだ、全てを考えるのは」


 玲愛さんらしからぬ、行き当たりばったりの思考に、きっと玲愛さんも困っているんだろうなと推測できた。

 あんまりくよくよして不安を煽るのはよくないので、黙ることにした。


 工場に着いたが、結論から言うとやはりうまくはいかなかった。

 ヒモをめいいっぱい伸ばしてレーザーカッターで焼き切ろうとしたが、焼き切れなかった。

 本当にどうなってんだこのヒモ?

 ヒモではなく手錠の部分なら焼き切れるだろうと、玲愛さんが提案したが、手錠だけでなく手首を切り落としてしまう可能性がある為、どうしても工場側がOKを出さなかった。

 そりゃそうだろう、従業員さんの腰の低さから、恐らくここも伊達の子会社の一つみたいだし。

 親会社のご令嬢の手首をレーザーで吹っ飛ばしたなんてシャレにならない。


 所長さんが平謝りしながら、無理ですと言っているのだが、そこをなんとかしてくれと玲愛さんは頼み込む。


「ようは玲愛さんの手が具合悪いのなら、俺の方をやればいいんじゃないですかね?」


 玲愛さんの利き手は右手だ、俺の利き手も右手だ。玲愛さんは右手がつながっているが俺は左手だ、つまり俺は利き手じゃない方だ。

 それなら、玲愛さんの利き手が落ちたなんて、そんな国家規模の損害を出すよりも俺の左手が落ちた方がよっぽど被害は少ないだろう。

 まぁ玲愛さんなら手首が落ちてもくっつけてくれそうな気はする。

 でもよく手首切って自殺するシーンとかあるけど、手首って落ちたらどうなるんだろうね?

 俺の提案を聞くと、玲愛さんはすぐさま却下した。


「ダメだ、そんなことやらせられない」


 冷たく切り捨てるように言い放つ玲愛さん。


「自分はやろうとしてたのにですか?」

「…………」


 無言。

 玲愛さんも、たまにいびつさを感じさせる。自分はいいのに人はダメみたいな。

 どうしても折れない玲愛さんに俺は


「じゃあ二人で諦めましょうか?」


 硬い顔を作り、珍しく必死さがにじみ出ている玲愛さんに、できるかぎりにっこりと笑顔で諦めましょうとすすめる。

 それでもなかなか折れてくれないので、俺は玲愛さんの胸に顔を埋めた、決してスケベ心じゃないよ、ホントだよ。

 玲愛さんは驚いて、俺を引き剥がすかどうするか迷っているように見えた。


「玲愛さんと一緒に生活するのは幼稚園以来ですね。今度は拒絶しないでもらえると嬉しいです」


 少し卑怯な手を使った。

 昔俺の両親が亡くなった時三石家ではなく伊達家へと引き取られる予定だったのが、分家と玲愛さんの反発により別の分家へと俺は引き取られた。剣心さんの奥さん、伊達烈火さんは分家に反発された程度では引かず俺のことを引き取る気満々だったようだが、娘からの直接反対の為引取りを断念した。

 その時の話をしている。

 ただこの話を玲愛さんが覚えていて、尚且つ思うところがなければ元も子もないが…。


 玲愛さんは、俺の体をぎゅっと抱きしめてくれた。俺が顔を上げると、何故だか涙目になっている玲愛さんの顔が間近にあった。


「もしかして、思ったよりきいてますか?」


 思いのほかクリティカルを飛ばしてしまったようだ。玲愛さんのこんな今にも崩れそうな顔を初めて見た。


「黙れバカ」


 俺と玲愛さんはしばらく抱き合ったまま時間を過ごした。


 そのあと困惑する工場の人に、謝罪と感謝を述べて俺たちは車に戻り、伊達家へと戻った。


 余談だが、帰る途中玲愛さんは何故かシフトレバーを俺に握らせて、その上に自分の手を重ねる謎なギアチェンジをしていた。

 ただ、その手の重ね方がまるで恋人のように指を絡めるものだったので驚いて、ドキドキした。

 玲愛さんの顔を見てもポーカーフェイスで、その心情を伺うことはできず、たまたま…なのか?と自分で解釈した。


 こうして俺と玲愛さんの手錠生活が始まった。

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