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オタな俺とオタク少女  作者: 蟻の巣
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謝罪

 玲愛さんの愛用車は真っ赤なスポーツカータイプで、車種に明るくない俺でも、この目つきの悪い車が数千万もするであろうというのはわかった。

 スポーツカーとか好きだったんですか?と聞くと、一番家に早く帰れる車をくれと言ったらこの車が出てきたらしい。それを普通に購入してしまうところが、なんとも玲愛さんらしい。

 市内を走ることほんの数分、窓からの景色は既に西日が落ちかかっていた。

 当然のことながら玲愛さんが車を停めたのは、伊達家の駐車場だった。

「何を言うか考えたか?」

「とりあえず真っ先に謝ります。話はそこからです」

「勘違いさせたことは謝るべきではあるが、早とちりでお前を避けたあいつらにも非はある。全面的に謝る必要はない。まずは写真の件を釈明しろ」

「わかりました」

 何を言うか決めたのかと聞きながらも、しっかりと内容をサポートしてくれる玲愛さんの心遣いがありがたかった。

 車から下りて、玲愛さんが玄関を開けると、割烹着を着た家政婦の田島さんがタオルで手を拭きながら出迎えてくれた。

「あら玲愛ちゃん、今日は帰ってこれたのね?あらあら、悠ちゃんも一緒なの?珍しいわね」

「どうも、お邪魔します」

「火恋と雷火はどこに?」

「二人共元気がなくてね、ずっと部屋に閉じこもりっきりなのよ。悠ちゃんも遊んであげてね」

 田島さんは心配そうに眉をひそめている。

「原因が解決しにきたから、大丈夫だろ?」

 玲愛さんは俺の尻をパンと叩いた。

「頑張ります」

 俺はそこで待っていろと玲愛さんから指示を受け、客間に通された後、待機することになった。すぐに廊下から大きな声で火恋先輩と雷火ちゃんを呼び出す声が聞こえた。

「火恋、雷火、客間まで来い!」

 呼び出してるだけなのに、玲愛さんの声には迫力があった。

 すぐにペタペタとスリッパの音がして、客間から見える障子越しに火恋先輩のシルエットが写った。

「姉さん、どうかしたの?」

「ちょっと待ってろ。雷火早く下りてこい!」

 雷火ちゃんは何やら用事をしているようで、なかなか下りてくる気配はなかった。しばらくして、二階の方から雷火ちゃんの声がした。

「今忙しい、後にして!」

 その言葉にカチンときたのか、玲愛さんの怒声が炸裂した。

「お前ゲームのレベル上げてたら、殺すぞ!」

 こええええぇぇぇ!

 玲愛さんはパタパタと足音を怒らせながら、二階へ向かった。

 とりあえず雷火ちゃん、もしゲームをしているなら今すぐ電源を切るんだ。コンセントを抜いたほうがいいかもしれない。

 雷火ちゃんの部屋は丁度客間の真上のようで、ダンダンダンダンと力強く階段を走り抜ける音がした後、すぐにバンと扉が開かれる音がした。

「お前やっぱりゲームやってたな!」

 くぐもった声で、二階から玲愛さんの怒りの声が聞こえる。

「いいじゃない、今週ずっと仕事に付きあってたんだから、今日ぐらい!」

 続いて雷火ちゃんが抵抗する声がする。

「飽きもせずゲームのレベルばっかり上げて!」

「違います、恋愛ゲームだからレベルなんてありません!」

 ちょっと皮肉っぽい声で抵抗する雷火ちゃん。きっと二階では玲愛さんが髪を逆立てて怒り狂っていることだろう。

 まぁでも、なんというか大声で姉妹喧嘩をされていらっしゃるが、内容は一般家庭と同レベルなので、なぜだかホッとする。

「ゲームの中の男を口説いてる暇があったら現実の男を口説け!」

「あーあー!今その話題する!?姉さんだって私のものに手出ししやがって、とか言いながら嵐と電話で大喧嘩したくせに!その上私の携帯壁に叩きつけて壊したくせに!」

「データもサルベージしてすぐに復元しただろうが!」

「そういう問題じゃありません!会社も一週間かかる作業を三日で終わらせる暴挙に出て、会社の人何人も潰したくせに!」

「そのかわり四日間有休にしたから逆に喜んでたっての!お前こそ帰ってきてそうそう、泣きながらキーボード叩き壊してただろうが!」

「あれはいらなくなったから処分してただけです!」

 ハハとなんだか渇いた笑いがこぼれた。煽られてキレたのって玲愛さんだったんだ。あの冷静な人が物に当たるなんてことが…。いやよく考えたら結構あるな。

「だからゲームをやめろと言ってるだろう!」

 完全に母親と子供の喧嘩になってるじゃないか。

「離してよ!もうじき悠介さんと結ばれるの!」

 どうやら恋愛ゲームの中に悠介というキャラクターがいるようだ。

「よく見ろ雷火、悠はこんなにカッコよくない!名前が同じだけのキャラクターに現実を重ねるな!」

 なんか俺が泣きそうになってきたんだけど。

「やめてよ!悠君は浮気なんかしないんだから!私だけを見てくれるの!」

【愛してるよ雷火!】

どうやらゲームを爆音にしたらしく、ムーディーな音楽と、子○武○のイケメンボイスで愛を囁く声が聞こえてきた。

 てか雷火ちゃん本名プレイなんだ。

「現実を見ろ、そんな鬼畜メガネいるわけないだろうが!」

「ゲームの中ぐらい夢を見させてよ!」

【もう一度言う、愛してるよ雷火!】

 うるさいぞ○安。

「もういいの、私子○さんと結婚するから!」

 中の人と結婚したいとか言い出したぞ雷火ちゃん。声優と結婚したいとか言いだしたら色々終わりな気がするぞ。

「○安って誰だ!せめてこのキャラクターの名前にしろ!」

 ごもっともですな。しかもちょっとチョイスが古ゲフンゲフン。いい声だよね子○さん。

【よせ雷火さんは渡さないぞ!】

 おやゲームの中でも急展開ですな。子○さんとはまた別の透き通るようなイケメン緑○ボイスが聞こえてきた。

「悠介さん!」

「何で別のキャラクターも同じ名前なんだ!」

「男性キャラも自分で名前を決められるの!」

【ちょっと待ったー、雷ちゃんは俺のもんだぜ!】

「悠ちーまで!」

 おや、三人目の三石悠介が登場したようだ。

「何なんだこのゲーム!三石悠介しかいないのか!お前は何かそういう病気なのか!?」

「失礼なこと言わないで!いろんな種類の悠介さんと付き合ってるだけなんだから!」

「お前はアホなのか!?もういい、お前はそこでずっと画面の中の悠介と付き合ってろ!」

 大体親との口論って最終的に親がキレて終わるよね。

 ズバンと凄い音をたてて、ドアが閉められる。

「悠が来てるけど、お前はそこから出てくるな!」

「悠介さんは私の目の前にいますー」

 更に煽った一言にブチギレたのか、ズゴンと思いっきりドアを蹴飛ばした音が聞こえ、その後ダンダンと怒りながら階段をおりてくる音が聞こえる。

「ちょ、えっ?姉さん、今悠介さん来てるって言った!?」

「うっさい、お前は二次元の悠介と結婚してろ!祝儀はだしてやる!」

 即離婚だろうな。

「ちょっと姉さんが蹴飛ばしたせいでドア歪んで出れないじゃない!」

 今度はバンバンと激しくドアを叩く音が聞こえる。何て賑やかな家族なんだろうな。




 玲愛さんは肩を怒らせながら帰ってきた。障子の前に玲愛さんのシルエットと火恋先輩のシルエットが浮かんでいる。

「姉さん、悠介君が来てるって本当?」

「ああ。もうお前だけでいい」

 凄いスピードで帰ってきた玲愛さんは、雷火ちゃんを待たずに障子を開けると、俺は火恋先輩と目と目があった。

「どう、どうもこの度は」

 俺は三点倒立土下座か、ダイナミック横受身土下座をするか迷っていたが、隣にいる玲愛さんの顔が般若の如く恐かったので普通に土下座した。

「悠介君…」

「あの、お騒がせな写真が送られてしまいまして、本当にすいませんでした」

 土下座して顔を伏せている俺に、驚いているのか火恋先輩からの反応はなかった。

 だがしばらくすると、俺の頭にそっと手が触れた。そしてその手は俺の顔をゆっくりと上げさせる。

 目の前には少し潤んだ瞳をした火恋先輩の顔が。

「来てくれたのかい?」

「はい、あの…学校では会えなかったので。玲愛さんに連れてきていただいきました。その皆が写真のせいで、いろいろと騒がさせていると聞きまして」

「うん、そうだね…」

 俺は説明をしているのだが、熱っぽい火恋先輩の瞳はほぼ確実に話を聞いているふうではなかった。

「あれはですね、月曜日に水咲さんの家にお呼ばれしまして、その時に撮られたものなんですが決してやましいものではなくてですね。水咲さんがコスプレをしていた雷火ちゃんを見て、是非自分もやってみたいということで、お付き合いさせていただいただけでして。それにですね、藤乃さんという水咲さんの侍従の方もいらっしゃいましたので、決して何かしらやましい行為などはありませんでした。その当事者が言うのは信憑性が低いと思いますが、嘘はついていません。信じていただくしかないのですが…」

「…そうなのかい?」

 必死に釈明する言葉を伝えたつもりなのだが、火恋先輩は可愛らしく小首をかしげている、本当に失礼ですが今の話、聞いてらっしゃいましたか?と聞きたくなる。

「私から聞きたいのは、…その…捨てられたわけではないんだよね?」

「いえ、本当に捨てるとか、ありえないです。本当にお騒がせしてもうしわけありませんでした」

「そうなんだ…」

 火恋先輩は熱っぽい瞳のまま、俺の両頬を掴むと、そのまま俺の唇にキスをした。

「んっ」

「!?」

「はっ!?」(目が点になった玲愛(∵))

 テレビなどでよく見つめあう時間は長いけど、結局キスも何もしないパターンは多い。自分の中でキスされるなんて可能性を一切排除していたので、火恋先輩の行動に脳がついていかない。

 二、三秒してようやく自分がキスされていると自覚して、慌てて後ろに首をひこうとするが、両頬を掴んだ火恋先輩の力は強く、全く逃げれるものではなかった。ベアハグの如く自身の欲求を満たすまで離す気はないと言いたげで、俺の唇に当たる柔らかな感触は永遠の如く続いている。

「う、ウンッ」

 露骨な咳払いに、俺は玲愛さんに見られているのだと気づいた。再び慌てて顔を離そうと首に力を込めるが、火恋先輩はそれがどうした?とでも言いたげに、色気のある声を漏らしながら、キスを続ける。

 俺はさすがにこれ以上はまずいと、強い力で無理矢理に火恋先輩の柔らか天国から逃れる。

 これ以上はまずい、脳が戦闘モードに突入してしまう。

 無限に続く天国から解放されたと思ったが、火恋先輩は無言のまま鮮やかな足さばきで俺を組み敷くと再び唇を重ねた。

「んっ…」

 語尾にハートマークのつく、いやらしい口づけは自由を奪われた俺の脳を溶かしてしまう程の威力を持っていた。

 今度は火恋先輩から口を離したと思ったら、またくっつけてくる。まるで小鳥のついばみのように短かいキスが何度も繰り返された。

 俺の脳内はもはや煮えたぎり、まともな思考を行うことはできなかった。

 口を離す度に、火恋先輩のイメージとは異なった、エヘヘと可愛らしい笑みを浮かべてキスを繰り返してくる。

 機能停止した脳では一体何回キスされて、今何分経ったのかさっぱりわからなかった。

「火恋、いい加減離れろ!」

 盛りのついた小熊を無理やり引き剥がす飼育員の如く、玲愛さんは火恋先輩の襟を掴んで無理やり俺から引き離した。

「あっ…、まだ…」

 ボソボソと何か言う火恋先輩だったが、明らかに口の動きは「足りない」って言ったと思う。

「誤解させた分の代価として、放置していたが、お前はやりすぎだ。盛った犬か」

 ビッチってやつですね、わかります。

「す、すまない」

 火恋先輩の思考が元に戻ったのか、体中の血液を全て顔に集めてきたように真っ赤になっていた。

「何であんなに長いんだ…普通はもっと短…じゃないの?」

 ゴニョゴニョと濁す玲愛さんは呆れ顔だが、心なしか少し頬が赤い気がする。

「マーキングかな?」

「犬か!」

 俺は未だ機能復帰を果たせず、ボイルされたタコの如く真っ赤になり耳や目から白い煙を吐き出していた。

「もういいのか?あんまり話を聞いていなかったようだが」

「じゃあもう一回キスさせてほしい…」

「それはダメだ!」

 玲愛さんがピシャッとシャットアウトしてしまうと、火恋先輩は残念そうに親指の爪を噛んだ。

「…姉さんのいぢわる」

 しゅんとうなだれる火恋先輩。

「ホントに、どんどんお前は性癖がオープンになっていくな」

 唇をそっと抑えて自分の世界に入っている火恋先輩。

「人の話を聞け!」

 ガクッと肩を落とす玲愛さん、心中お察しします。

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