雷火と嵐
「二人はお知り合い?」
「小学校の頃の幼馴染です」
忌々しげに見つめる雷火ちゃんにすまし顔の水咲さん、何やら因縁があるようだ。
「伊達さん、申し訳ございません。少々雷火さんとお話させてもらってもよろしいでしょうか?お時間は取らせませんので」
「うむ、構わん。儂もこやつに話がある」
そう言って俺の方を見る剣心さん。
「ありがとうございます、では後ほどすぐに参りますので」
そう会釈して雷火ちゃんと水咲さんと別れた。
「では行くぞ」
「はい」
俺は剣心さんに連れられて客間に入った。
一旦悠介達と別れた雷火は自室に嵐を連れて来た。
「どういうつもり?」
「どういうつもりもありませんわ。私は剣心さんの元に仕事のお話に来ただけですわ」
「仕事?」
久しぶりにあった幼馴染は我が物顔で雷火のベッドに座ると、自慢のツインロールを指で弾きながら続けた。
「貴女にも少し関係があるかもしれませんからお話しますが、現在伊達家と水咲家行動でプロジェクトが動いてますの、そのお手伝いを頼みにやってまいりました」
「プロジェクト?」
「ええ、新型アミューズメントパーク、アリスランドご存知なくて?」
「知らないわよ、そんなマイナーな施設」
「ご自分のグループが関わっている施設くらい覚えていた方が損はありませんくてよ」
「いちいちその喋り方しないとできないの?」
「できませんわ」
オホホホと作ったような笑いをする嵐。
「で、それが悠介さんと一体何の関係があるって言うの?」
「悠介さん…。私も聞きたい事がございますの。あれは本当に三石悠介様で宜しいのですね?」
「そうだけど?」
雷火は怪訝に思った、この友人は常に自分と張り合ってきて、すぐにどちらか上か決めたがる勝負好き。巨大グループのお嬢様だけあってプライドが高い。そんな彼女が第一声で人を様付けて呼ぶのは本当に稀だ。
「あ、あの彼のこと少し伺ってもよろしくて?」
「彼?」
「彼、昔何かやっていたとか?そんな話聞いていません?」
更に雷火は怪訝に思った、何故今日あったばかりの悠介に彼女が興味を持っているのかがわからなかったからだ。
「何かって?」
「そう、例えばカードゲーム等は?」
「何、悠介さんに興味あるの?」
「な、何を言ってらっしゃいますの!?私はこれからお話をする上で、少しでも悠介様に理解していただく為に、彼の人となりを聞きたいと言っていますの」
「悠介様?」
一回目は聞き流したが、もう一度となると間違いではなそうだった。
「か、彼は私より一つ年上でしょう?年上にはちゃんと敬称をつけるべきですわ」
更に驚いた。私の知る彼女は例え相手が年上だとわかっていても、初対面の相手に様なんてつけるような殊勝な人間じゃない。しかもファーストネームで呼んでいる、ありえない。
おかしいと思いつつも教えてあげることにした。
「趣味はゲームやマンガ、アニメ、アンタの嫌いなオタク分野全般、好きなものはコスプレ写真の撮影かな?」
「こ、コスプレ撮影!?言われてみれば貴女その姿仮面4の吹雪ちゃん、まさか…」
「そう、悠介さんに撮ってもらってた」
ドヤ顔で言ってやると、嵐は自身の親指の爪を噛んで悔しそうに唸っている。
これは彼女が本気で悔しい時に行う癖だ。昔算数のテストで目の下にクマを作った自信満々の嵐を、一点差で負かしたときにこの癖を行っていた、それ以来見ていない。
「う、羨ましい、今度私も撮影する時に呼んでいただきたいのですが」
「アンタこんなオタクチックな事嫌いでしょう?」
そう彼女の家水咲家は、かの有名な野武士ロードというアニメ、ゲーム系のカードゲーム会社が母体のグループで幼少よりオタクとの付き合いが深かった。その中でイベント等に参加しているうちにオタクの暑苦しさや、同じ価値観を押し付けようとしてくるところから嫌悪感を抱くようになった。それがこの水咲アリスティア嵐のオタク嫌いの元凶だ。
「私は別にコスプレもアニメも漫画も嫌いではありません。ただその手の趣味の方とお話するのを避けているだけです」
プクっと頬を膨らませる嵐。
「悠介さんはモロにその分野の人よ」
「そうなのですか?それは私と話が合いそうですわね」
にこやかに笑う嵐。
「なんでそうなるのよ、悠介さんはアンタが嫌いなオタクなの。だからちょっかい出してこないで。わかったなら話とかいいから、さっさと帰りなさい」
「悠介様…」
頬を染めてトリップしている嵐に愕然とする。
「何なの?悠介さん、そんなに好みなの?」
信じたくはないが、まさかの一目惚れというやつではないかと疑う雷火。
確かに嵐は昔から蛇やトカゲなどかわったものを可愛いという事が多かったが、まさかその延長ではないかと思う。悠介がこの場にいたら凹みそうだ。
「ち、違いますわ。私は単に悠介様に興味があるだけで、好意というものにはまだ…」
語るに落ちたなと雷火は薄く笑い、嵐は頬を真っ赤に染めた。
「アンタ一目惚れなんて一○○%しないタイプでしょ?」
「………」
嵐はツンケンして皮肉を言ったりするが、意外と単純なところが雷火には憎めないところだった。
嵐は観念するかのように話を始める。
「一目惚れ…ではないと思いますわ、もう調べてわかっていることなのですが、彼、水咲主催のカードゲームの大会で年間優勝記録のレコードホルダーですわ」
「えっ?もしかしてヴァイス&クロイツの?」
「ええ、悠介様が打ち立てられた若干一二歳の時の記録は未だに破られていません。ヴァイスカード、カード王の称号グリーエンは五年前から不動ですわ」
「えっ?でもそんなカードの話なんて聞いた事ないんだけど」
「年間優勝記録を打ち立てられた後、忽然と王は消えましたわ」
「王って…」
「数々のデュエラーが記録に挑んでは敗れてを繰り返し、五年前の決勝バトリングは伝説とまで言われてますわ。彼のアルティメットドローは今でも鳥肌ものです」
「あ、アルティメット、何?」
「勝利を引き寄せる究極のドローですわ、ピンチの時に彼が引くカードは全ての布石を起動させるキーカード」
ゾクゾクブルブルと震える嵐。雷火はこんな陶酔した嵐は見たことがないので正直気持ち悪いと思った。
「何なの?悠介さんって遊○王なの?」
「漫画と実物を混同するのはやめていただけます?ゲーム脳ですの?」
酷い言われようだが、お前にだけは言われたくないと思う雷火だった。
「それゆえにショックでした。玲愛さんとお話した時にようやく許嫁が固まりそうだと喜んでおられましたが、それが悠介様だっただなんて」
キッと睨むような視線を投げつけてくる嵐。雷火は知らんがなと言いたかった。
「そこでですね、雷火さんにお話があるのですが…」
「ダメ、絶対あげないから」
何を言うか見越して先手を打つ雷火。
「わ、私が、いえ水咲が総力を上げて、悠介様にかわる許嫁候補をお探しいたしますので…」
「絶対ダメ。かわりなんていないし、いらない」
「彼をまたヴァイスカードに引き戻す事が出来ましたら、経済効果は数億をくだらないのですよ?昔は争っていた水咲と伊達ですけど、今は水咲の利益は伊達の利益に繋がるほど、関係は改善していますのよ」
必死に訴える嵐だったが、雷火は肩をすくめて一蹴した。
「やっぱり、アンタはオタクを商売道具程度にしか思ってないわね。オタクに好きなものを縛るって一番やっちゃいけないことなのよ」
そう言うと嵐は目を見開いた。
「熱が冷めたのか、単にやることがなくなったのかわからないけど、悠介さんはもうカードゲームをしていない。それを経済効果が何億だとか、知った事じゃないわよ。悠介さんは優しいからきっとお願いすれば何だってやってくれるわよ、だけどそんなのアンタが一番嫌いな押し付けじゃないの?」
「………」
嵐は後頭部をバッドで振り抜かれたかのような衝撃を受けグラグラと揺れていた。
「あ、貴方にオタクの事で説教されるなんて、水咲グループとして恥ずかしいですわ」
よっぽどショックだったのかまだ揺れている。
「私、彼の大ファンでしたの…。常にうんうん唸りながらも常人が考えつかないような奇手を投じてきて、私直接トロフィーを渡した事もありますのよ。とても普通で素朴な方…」
「悠介さん、のめり込むと尋常じゃない力を発揮するからなぁ」
昔からその傾向があったのだろうと想像できた。
「もしかして、今回アンタの持ってきた話、何か仕組んでるんじゃないでしょうね」
「…オホホホ、私そろそろ戻らなければいけませんので。ご機嫌よう」
撤退を決め込もうとする嵐を即座に捕まえる。
「ご機嫌ようじゃないわよ、悠介さんは私の、正確には私たちの許嫁なんだから」
「一人くらい増えたって構わないでしょう」
「構うわよ!アンタが増えたらみぞれと雹さんも来そうで恐いのよ」
水咲家は伊達家と同じく三姉妹で、同じように後継者で困っている。ただ水咲の方は男の人という縛りはない為、伊達程の焦りはない。
「そんな泥棒猫のようなことはしませんわ」
「どうだか、私の好きなものすぐにとっていきたがるんだから」
「雷火さん、今回は違いますわ。貴女への対抗心でも、いやがらせでもなく、私は本気で悠介様が欲しいと思っていますの」
「余計悪いわ!!」




