表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタな俺とオタク少女  作者: 蟻の巣
1/107

オタの出会い

 カチャカチャカチャ

 ベッドと机、パソコンその他にはフィギュアにロボットの玩具、辺りに散らばる漫画に、ゲームソフト。一目見てそっちの人だとわかる部屋の中に二人の青年が思い思いに過ごしている。

 一人は眼鏡をかけ制服のままベッドに寝転がり、漫画を読んでいる。ボサボサの髪と薄い目の下のクマが青年の不健康さを表している、もう一人は同じように制服姿で机に置かれたパソコンのキーボードをカチャカチャとタイプしている。

「んー違うんだよなー」

「どうしたの悠介(ゆうすけ)?」

 ベッドの上で寝転んでいた、友人相野が体を起こす。

「いや、さっきから魔法少女板に張り付いてるんだが」

「掲示板?」

「そうそう」

 俺が指さすモニターにはスレッドと呼ばれる掲示板が表示されており、今もリアルタイムにレス(返信)が続いていた。

「それがどうしたの?」

「魔法少女で最強なのは誰なのか?って話になってさ、みんな魔法少女リリカルサザンカのサザンカちゃんだって言ってんのに一人だけ、魔法少女円堂マギカの(えん)ちゃんだとか言ってくる奴がいてさ、あれは確かに凄いけどサザンカちゃん第三シーズンのサザンカさんの強さは半端ないと思うんだよ」

「知らんがな」

 相野は呆れ顔で俺の顔を見る。

「元々リリカルサザンカで縛らなかったから違う世界の魔法少女が来ちゃったんだろ」

「いや、でも魔法少女と言えばサザンカちゃんだろ」

「そんなの俺たちの世代がそうなだけで、魔法少女って言ったらマリーちゃんって言う人もいるだろ」

「あのテクマクなんとかって言ってコンパクトで変身する奴か」

「それはシークレットアツコちゃんだ」

 そう言ってる間にスレッドは次々と更新されていく、ただ俺と同年代の人間がこの掲示板には多かったのか[そこはサザンカちゃんだろ常識的に考えて]や[円堂マギカとか新参乙]等、煽り文句を書く人間が多かった。

「あ…あぁ」

「どうした?」

 俺は無言で画面を指すとそこには[でも最強はスマイルリリキュアのしずくちゃんだけどね]と返信されていた。

「リリキュアって魔法少女のカテゴリーなのか?」

「あれはまた別カテゴリー。こいつがさっき言ってた円堂マギカの奴」

「多分世代が違うんじゃないのか?」

「そうだと思う」

「こいつID名前に変えてるのか?」

 見るとレスの横には更新時間と固有で振られるIDにサンダーボルトと書かれていた、通常何も弄らなければ、ここは名前無しになっているが、わざわざ名前を振っているのは珍しい。

「俺の見立てでここに名前を入れてる奴は大体子供だ」

「えっ?俺入れてるよ」

 俺は自分のレスを見せると名前欄にはハウスダストと記入している。

「まぁお前ハウスダストみたいなもんだけどさ」

「酷いなオイ」

 予想通り、サンダーボルトはそれは魔法少女じゃないだろと総攻撃を食らっていた。

「あー可哀想に」

 俺は最初の方は攻撃されているサンダーボルトが必死に抵抗しているのを見ていたが、段々攻撃の内容が魔法少女の話から逸れてサンダーボルトの人格攻撃に切り替わり始めていた。

[魔法少女との違いもわからないんですか?頭悪いですね]

[頭悪くないです、貴方たちよりかは」

[頭悪くなかったら、こんな掲示板張り付いてんじゃねーよ]

[キモイんだよ]

[小学校行かなくていいの?]

サンダーボルトに対しての罵詈雑言が並んでいく

「この一人を執拗に攻撃するのは掲示板のよくないとこだな」

 相野は苦い顔で掲示板の推移を眺めている。

「まぁ、流れを無視して自分の主張を続けてるとこうなる。サンダーボルトもこんだけ攻撃されてるんだから抜ければいいのに、何故火に油を投下し続けるのか」

[死ね]

[死にません]

[消えてくんないかな]

[嫌です]

「おーどんどん内容が幼稚になっていくな」

 相野はもう苦笑いしかでないようで引きつった笑みを浮かべている。

「見ていて気持ちの良いもんじゃないよな」

「どうすんの?」

「マナー違反だが荒らす」

 俺は別の掲示板から、アスキーアートと言われる、文字や記号だけで作成された掲示板用の絵をコピーして、さっきの魔法少女掲示板に貼っていく。

「なんなのこのクマ?」

「掲示板の流れがグダった時に現れる、そんなエサにつられないクマさんだ」

 相手の返信を許さないコピー&ペーストで一瞬のうちに掲示板は書き込み上限まで達した。

「グダった流れだったから次の魔法少女板は作成されないだろ」

「本当にお前ら不毛なことしてんな」

 俺が自己満足に浸っていると、携帯にメールが入った。

[明日実家に帰ってきなさい、例の話し合いがあります]

 俺はその簡潔なメールで顔をしかめる。

「まだやんのかよ」

「なんだよ、不幸のメールか?」

「最近そんなの見たことないよ、まぁそれと似たようなもん、明日実家に帰ってきなさいって」

「あーお前最近ちょいちょい帰ってるもんな、何で?」

「聞いて驚け、俺には許嫁がいるのだ」

「マジで?」

 俺は抑揚のない声で言ったが、相野は唐突な話に驚いていた。

「えっ何?結婚すんの?漫画みてーすげー羨ましいんですけど」

「はっはっは、羨ましがれ」

 言葉の内容とは裏腹に俺のテンションはすこぶる低い。

「何めちゃくちゃテンション低くない?」

「低い、まぁ正確に言うとですね、許嫁を決めようって話なのよ。俺の家、複雑なの知ってるだろ?」

「なんか、本家とか分家とかあるんだろ」

「そうそう、本家の人がさ後継ほしいって言ってるんだけど、奥さんが病気で後継どころの話じゃないんだよ、だから自分の娘と早々に結婚して、息子を作って欲しいらしいのよ」

「なんだよそれ、それなんてエロゲだよ」

「しかしエロゲのように行かないのが現実。先に相手の名前を教えてやろう、伊達火恋先輩だ」

「えっ、俺そんなエサに釣られないよ、つかそれお前の初恋の人じゃん」

 相野は正しく先程のアスキーアートのクマさんのような、黒く濁った瞳で俺を見た。

「本当だよ。俺本当だったら、あそこの子供だったし。ちなみに現在も恋してるから、終わった初恋みたいに言うのやめてくれないか」

「なんか養子がどうとか言ってたな。そのへんディープな話だったから聞くの避けてたけどさ」

「幼稚園くらいまではよく遊んでたらしくて、向こうの親とも仲良くてさ、俺の両親死んだ時に伊達家に引き取ろうと言う話になったみたいなんだけど。火恋先輩のお姉さん、玲愛さんって人に凄く嫌われててさ、その話はなくなった」

「幼稚園の頃から嫌われるって何してたんだよお前?」

「わかんね、まぁ本家に男の養子をいれるのはどうなんだって、分家からの反対もあったみたいだし、今となっては男の跡取りが生まれなかったから、俺引き取らなくてよかったねって話」

「何で?お前跡取りにしたらいいんじゃないの?」

「あぁ言うところは血がものを言うらしいよ。俺としては血は別にいいけど娘を跡取りにしてやればいいのにと思うけどね」

「血に、男ねぇ、俺たちにはよくわかんねぇ話だ」

 相野はしかめっ面で首をかしげた。その気持ちはよくわかる、古い慣習等は半ば呪いじみてると思う。

「それで本題だ、結局もう娘の息子でいいから跡取りほしいよって本家が言い出したから、早いけど娘の旦那探ししようって事になったみたい」

「それでお前にも白羽の矢が立ったってか、俺が言うのもなんだがもっと良いやついなかったのかよ、お前ただのオタクじゃん」

「その通りすぎてぐぅの音もでないね」

「休みの日は掲示板に張り付いてるか、電気街歩いて、ガ○プラ漁るか、美少女フィギュアと同人誌買って悦に浸ってるだけだろ」

「生きてるのが悲しくなるんでヤめろー」

「ネットゲームでネカマに騙されて、アイテムあげすぎて泣く泣くそのゲーム卒業したじゃん」

「ほんと、お願いですからヤめてください」

 過去の黒歴史は山ほど出てくるので真剣にヤめてください。

「お前のとこの本家、本当に大丈夫か?こんな奴の子供跡取りにして」

「まぁ、まだ続きがあるんですよ。跡取り候補にもう一人上がってましてね、居土先輩という学校でも有名な方が」

「あぁ…」

 相野はいろいろ納得した顔で俺の肩をパンパンと叩いた。

「成程な、当て馬か」

 相野は非常に的を得た例えをする。全くでもってその通りな為だ。

 居土先輩、剣道部主将で全国大会にも出場実績があり、容姿も端整で性格も頼りになる上に優しい、フツメン(自称)の俺には太刀打ちできる相手ではなかった。

「居土先輩も分家だったんだな」

「意外だろ、俺もつい最近知った」

「諦めろ居土先輩は無理だ、お前の顔じゃ太刀打ちできねーよ」

 そう言いながらも相野は笑いを隠そうとせず、凄く面白いもの見つけたような嬉しそうな表情だった。

「うるせーよ、わかってるよ、だから早く終わらせたいんだよ」

「とりあえず、結果教えてね、準備とか必要だし」

「準備?」

「長かった初恋が散った悠介君を励まそうの会するから」

「いるか!」



 翌日

 俺は学校から帰ると、早く帰ってきなさいと言われていたが日課になっている電気街の散策を行っていた。

「トラブルブラッドネスの画集でてるぅ、ミスったタイトルがでかすぎて他を拾うのに必死過ぎてビッグタイトルを見落とすなんて、俺とした事が…迂闊ぅ!」

 しかしここは作者矢作神のファンとして買わざるを得ない。

 俺が画集に手を伸ばすのと同時に横から誰かが手を伸ばしていた、オタク同士の触れ合いという残念な展開にはならず、僅差で俺の方が先に画集をゲットすることができた。俺が勝った相手にドヤ顔してやろうと相手を見ると、凄く可愛い女の子でした☆死にたい。

 やべぇ女の子相手に本を取り合いになって、勝ち誇った顔しちゃったぞ俺、しかもトラブルブラッドネスの画集、恥ずかしい死にたい。

 もう一度見ると女の子は明らかにムっとした顔をしていた。女の子は暗い茶色の綺麗な長い髪をして、小顔のわりに大きな瞳をしており少し気の強そうな目尻をしていた。すらっと長い足はこの寒空の中でもミニのチェック柄のスカートだった、また上はカッターシャツに赤の細いネクタイをしていた。

「どうぞ」

 俺の外での気の弱さは半端ではない、これは別に女の子怒らせて恐かったとかそんなのではない、別にこれ程のビッグタイトルならここで買わなくても他で買えばよいと思っただけだ、譲り合いの精神なのだ、ホントだよ?

 差し出された少女は少し困惑しながら

「いいです、いいです、他で買いますから」

 予想外の行動だったようで、困惑していた、しかし俺はここで自然な流れで「そうですか?ではすみません」と言って撤退すれば良かったのだが

「あっいや、僕あんまりトラブルブラッドネス好きじゃないんで」

 などと口走った。

「えっ?好きじゃないのに買うんですか?」

 おや、なんか変なところで食い下がってきたぞ。

「いや、そういうわけじゃないですけど」

「ファンじゃないんですか?」

「いや、ファンです」

「どっちなんですか?」

 何で俺は、本一冊で女の子に怒られてるんだ。

「譲ってくれるのは嬉しいけど、ファンなら他のファンに譲る必要ないのですから、買えなかったファンの手が遅かったのが悪いだけです」

「は、はぁ」

 どうやらこの子はオタクなりのルールがあるようだ。

「じゃあ私は他で買いますから」

 少女は譲った画集を俺の手元に戻すと、足早にスイカブックを出て行った。

「変わった子だな、相野の話のネタにしよう」

 その後、画集を購入してガ○プラを買いあさってから、マママップを出た。

「ふむ、なかなかに豊作でした。まさか今更マスターモデルのアポリー専用リックアディスンが出るとはな。気に恐ろしきはマママップの手広さよ、パソコンから同人誌にガ○プラまで手に入る、この汎用性の高さは専門店を殺しかねんな」

 遊んでいると既に一時間以上に経過していることに気づく。

「行きたくないけどそろそろ行くか」

 俺が両手に荷物、カバンにポスターという久しぶりのガ○キャノンスタイルで本家に向かうという暴挙を行おうとしていたとき、うなだれながらLブックから出てくる少女がいた。

 何気なしに両方で目と目があった。両方で会釈する、何だこれ。

 まぁ別段また会いましたね、という間柄でもないので、時間も押してきているし少女の脇を通ろうとすると、少しかすれた声で。

「すみません……場所…らないですか?」

「はい?」

「トラブルブラッドネス売ってる場所知らないですか?」

 少し大きめの声で頬を紅潮させ、トラブルの在処を聞いてきた。

「………」

 がっくりうなだれているところを見ると、どうやら他店を回ったがなかったようだ。

「りゅうのあなは?」

「行きました」

「ガンダーラは?」

「行きました」

「家康書店は?」

「行きました」

「もう密林で通販するしか」

「待ちたくないです」

「……」

 意外とわがまま。ただ気持ちはわかる、何故かオタクは待つのが嫌い。

「マママップは?」

「……あそこパソコンとゲームだけじゃないんですか?」

「あるよ、同人誌もラノベもマンガも、多分画集もある」

「行ってきます」

 彼女は水を得た魚の如くダッシュで俺の脇をかけていった。

「気になるから見に行こう」

 俺はガ○キャノンスタイルで、少女の後に続く。そのうち少女の後をガ○キャノン男がついてくる事案が発生とかで通報されそうだ。

 案の定パソコンの群れの中を泳いでいる少女を発見、俺は手招きしながら上の階を差す、少女はまた恥ずかしげに俺の後ろをついてくる。

 マンガコーナーにつくと目的の物は見つからなかった。

「ないなぁ」

「ないですね」

 同じ画集や、ありそうなマンガコーナーに立ち寄ってみたが、画集は無かった。

「確かトラブルって無印の時も画集出てたよね」

「出てましたね、トラブル女神Sのタイトルで」

「何でそれもないんだろ。古いのならあるはずなんだけど…」

 単に売り切れなのか?俺はふとエスカレーターの方を見るとピンと来た。

「ちょっと上行ってくる」

 それだけ言い残して俺は上の階に上がった。上の階はピンク色の空間が広がっており、これは酷いとしか言い様のないぐらいエロ本が広がっていた。

「発見」

 エロ本コーナーの一角に置かれている画集と単行本全巻を発見した、たまに全然違うコーナーに欲しいものが置いてる時あるよね。別に誰に言うでもなく呟いた。

「ありました?」

 背中越しに少女の声が聞こえる。マジか、このエロ本だらけの中に突っ込んできたのか彼女は。

 俺は平静を装いながら、上ずった声であったとだけ伝える。

「良かった」

 彼女の嬉しそうな声と花が咲いたような可愛らしい笑顔がとても良かった、ここがエロ本コーナーでなければ。

「何で階が違ったんでしょうね」

 そこでようやく彼女は辺りに売られている商品の違いに気づく

「………」

「………」

 二、三回首を振って周りを確認すると、彼女はボンと火がついたように真っ赤になった、元が白いから真っ赤になると凄いねと思ったが、彼女なんか半泣きでこっちを見てらっしゃる。保護欲をかきたてられるのと同時に、段々眉が逆ハの字になってきた。怒ってらっしゃる?

「どこに連れてきてるんですか!」

 えぇー理不尽と思ったが、行き場のない羞恥心をぶつけるところがなかったのでこっちで爆発したのだろう。

 少女は凄いスピードで会計を済ませると、脱兎の如く走り去った。

「悪いことしちゃった…のか?」

 これも話のネタにしよう、信じてくれるかな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ