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(94) レミュールの視界の中で

今回は、短めの間章のみのお届けとなります。続きは、まず一まとまり分について、来月(2022年1月)にスタートできる見込みでおります。


◆◆◇ヴォイム郊外 天帝騎士団駐屯地◇◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 レミュールの視界の中心にいる白金色の髪の女性騎士が、様子を探ろうとしていた不審者を打ち伏せた。とどめこそ指していないが、治癒術なしなら再起不能となりそうなダメージを受けている。


 やりすぎではあるものの、これまでのシュクリーファなら、それで終わりだっただろう。けれど、間諜らしき相手を追い払ってもなお、親しい存在が見せる変わらず苛立った様子に、レミュールは戸惑いを隠せずにいた。おそらく、魔王タクトとの交流の影響なのだろうと、彼女は考える。


 教会内序列の高い家で育ち、実績を積み重ねてきているシュクリーファだけに、身内以外から正面切って言動に意見される事態はほとんどない。それだけに、教義上は敵である魔物の長の対応に心揺らされているのか。


 本来なら、彼女が他者の言動を気にすることはほとんどない。そうなった理由を考えると、幼い頃から彼女を知るレミュールは、心の中で小さなため息を吐き出すのだった。


 多忙な両親に代わって養育役を務めた姉によって、シュクリーファは自分が物事を考えるのを苦手としているとの認識を植え付けられた。素直にそれを受容した彼女は、教会内で本流である教区側での活動はそこそこに、騎士としての戦闘に特化する道を選んだ。


 レミュールを含む他者からすれば、あの化け物じみた優秀さを誇る姉や、同じ方向性の両親らと比べて多少思考力が鈍かったとしても、引け目を覚える必要はないはずだった。騎士としての活動の片手間に教区司祭の資格を取り、大掛かりな鎮魂の儀式をこなせている時点で、彼女から見ればシュクリーファもまた異常者でしかない。


 けれど、幼い頃から一緒だったレミュールの言葉は、白金の髪の騎士には響かない。姉から植え付けられた自身の能力についての認識と、物を考えずに心に従えとの指示は、彼女を縛る鎖となっていた。それに抗えない内心の不満が、他者への攻撃的言動に置き換わっているのではないかとレミュールは推察している。そして、魔王タクトとの関わりで、それが悪化しているようでもある。


 今は想いが届かないとしても、いずれ事態は動くかもしれない。それまでの間、親しみを覚えるその身を守りたい。彼女はそう願っていた。


 二人を含めた東方鎮撫隊の構成員は、候領都ヴォイムからほど近い林を宿営地としていた。当初あてがわれていた宿舎は隊長のファイムによって返上され、劫略によって帰る家を失った人たちの仮宿舎となっている。


 ファイムら平民出身の叩き上げ組にとっては、その措置も天幕暮らしも当然のことだったが、有力家出身の騎士たちからはとんでもない話として捉えられている。領主の所有物に過ぎない庶民など放っておけばいい、というのが彼らの感覚だった。


 シュクリーファはその点は気にしていないようだが、寝床が合わずに良質な睡眠ができていないようで、レミュールとしては心配なところとなる。


「リーファ様、東方への出兵はいかがしますか。副長が先遣隊を率いて向かう話があるそうですが」


 あえて幼い頃に使っていた愛称で呼びかけると、シュクリーファの寄せられていた眉が緩む。


「ここでまだ魔王が蠢動しているというのに、次の魔王に手を付けるとは気が早いわね」


「ですが、タクト殿は少なくとも無辜の民を蹂躙はしなさそうに思えますが」


「わかったもんじゃないわ。危険性がある魔王は、潰してしまった方がいい」


 本来のシュクリーファであれば、剣を振るえるのならと言われるままに東方に向かっていそうだ。他者に対してこだわりを見せるのは、稀なことに感じられる。このこだわりが、彼女を変えるのかもしれない。シュクリーファの従士的立場の年若な白騎士は、祈りに近い予感を抱いていた。


「東方の魔王は、どんな存在なのでしょうか」


「そうね……。レミュール、先遣隊に参加して探ってきてくれる? それ次第で、わたしも動きましょう」


「承知しました。……リーファさま、隊長殿と一度ゆっくりお話をされてみてはいかがですか」


「ファイムは、まあ平民上がりにしてはまっとうな人物なんでしょうね」


 その言葉を聞いて、レミュールは目を見張った。幼さの残る頬に、かすかなえくぼが浮かぶ。


 前提はついているにしても、シュクリーファが他者を肯定的に評価するのはめったにない事態である。この面でも、なんらかの変化が生じているのだろうか。


「では、戻りましたら対話の場を設定させていただきますね」


 やや口を尖らせた、少し恥じらったような表情はレミュール以外が目にすることはまずない。期待を胸に抱きつつ、彼女は出兵の準備を進めるために割り当てられた天幕へと向かった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇◆◇◆◇◆



だいぶ時間が空いてしまっていますのに、今回も短めですみません。


第二部の最初の章は、年が明けての1月のどこかからスタートの予定であります。後半になるかと。

よろしければ、お読みいただけるとうれしいです。



さて、すみません。告知を一点させてください。

本来なら、別作品の告知はあまり好ましくないと考えているのですが、今回は電子書籍無料キャンペーンを用意しているのもあって、ご紹介させていただこうかと。


別作品「月降る世界の救いかた」という作品が、アマゾンさんにて電子書籍化されております。

その校正やらなにやらでだいぶ手が取られてしまって、というのはこちらを遅らせる言い訳にはならないのですが。

特に校正は、何巡しても誤字脱字が消えず、現状も不安でありますが……。


それはそれとしまして、イラストレーター様に綺麗な絵も描いていただきましたので、もしご興味があれば。

ただ、クラス転移物なのに、追放されない展開のために登場人物がやたらと多く、さらに主人公が板挟みに合う展開のため、読むのがきついなんて評をいただいたりもするため、本作以上に合う方と合わない方がいらっしゃいそうです。


ともあれ、無料キャンペーン期間も設定していますので、気が向かれましたらお試しいただけるとうれしいです。

直接リンクは「小説家になろう」の規約でご法度ですので、アマゾンで「月降る世界の救いかた」とご検索いただければ。


【無料キャンペーン期間】

第一次:12月28日(火)17時~12月29日(水)17時までの24時間

第二次:2022年1月11日(火)17時~1月13日(木)17時までの2日間(48時間)


各方面に急な告知となった上に、年末年始で通常と異なる動きをされている方もいらっしゃいそうなので、二次に分ける形をとっております。



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【描いていただいたイラストです(ニ)イラスト:はる先生(@Haru_choucho)】

告知用イラスト
【イラスト:はる先生(@Haru_choucho)】


【描いていただいたイラストです(一)イラスト:はる先生(@Haru_choucho)】

告知用イラスト
【イラスト:はる先生(@Haru_choucho)】

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第一章時点
第二章時点
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