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(50) 『マオウ・オンライン・クロニクル』


 宿屋から面会希望者についての連絡が入ったために赴いたところ、先日の忍者達と同行者の姿があった。


 壮年の人物は、がっしりとした体躯の持ち主だった。


「ジライヤと申す者です」


「魔王のタクトだ。……魔王のお出まし、というわけではなさそうだな」


「然り。東方におります魔王の配下の一人となり申す。今回は、主君の使者として罷り越しました。本日の午後のどこかで、お時間をいただけないでしょうか」


「そちらの魔王と脳内通話をつなぐのか?」


「はい。拙者が中継役を務めまする」


「楽しみにしておく。まずは宿屋に部屋を取り、食事を用意しよう。温泉にでも浸かって、のんびりしてくれ」


「ご配慮に感謝します」


 他の忍者たちは、名乗らないからには名付けが済んでいないのだろうか。よその魔王の懐事情は正直わからない。口振りからしてだいぶ遠くから来ているようだが、各地に人を派遣しているのかもしれない。


 時計がないこの世界では、太陽の南中で昼を把握し、そこから日の出と日の入りまでを三分して一刻とするくらいのざっくりとした時間の扱いとなる。領都では鐘を鳴らしているらしいが、どう時間を把握しているのだろうか。


 とはいえ、今回は来訪者が一息ついた頃合いに居室を訪れることで足りた。おそらく先方の魔王からジライヤという忍者に断続的に接続されているだろう。


 こちらからは、俺とサトミ、ソフィリアに、護衛役も兼ねたクラフトが会談の出席者となった。


 平伏した客人がまず問うてきたのは、食事についてだった。


「昼食に出たのは、『テンプラ』というものでしょうか?」


 てんぷらのところは日本語である。


「ああ、揚げ物としては川エビと三つ葉風の山菜のかき揚げと、『ワカサギ』に似た小魚のてんぷらが供されたと聞いている」


「主が、タクト殿は『イタマエ』なのか、と聞いておられます」


「いや、素人の真似事だ。粉も油も故国のものとはだいぶ違うが、衣で食材をくるんで蒸して加熱できれば、それはてんぷらでいいんだと思う。……そちらの魔王は『ニホンジン』なのか? こちらはそうだが」


「主から、心は『ニンジャ』だと答えるように指示されました」


 答えになっていないが、まあ追求する必要はない。そこで、ジライヤと名乗った忍者は表情を改めた。


「食事の話が先になり、相済みませぬ。昼食について主に報告したところ、自慢かと叱られると同時に、ひどくうらやましがられまして」


「なに、構わんさ。食べ物の恨みは恐ろしいからな」


「まったくです。タチリアの町の魔王バーガーについても詳細な報告を求められました」


 苦笑するこの人物は、見かけ年齢四十代という感じでなかなかの渋味を備えている。比較的若者の多いうちには居ないタイプだった。


「そちらも真似事でな。実際に魔王殿に食されたなら、幻滅させてしまうかもしれん」


「少なくとも拙者には美味でありました。……では、これよりは主の言葉をそのまま申し伝えます」


「ああ、頼む」


「このような形での会見となって済まない。我が名はコルデー、東方に拠点を置く魔王でござる」


 ……ござる? 心は忍者だというのは、そういうことなのだろうか。


「俺はタクト。把握済みだろうが、ここ星降ヶ原に拠点を構える魔王だ」


「『マオウ・オンライン』でのプレイスタイルをご教示願えるでござるか?」


「そうだな……。目的は、知人へのポイントの上納だった。踏み台プレイというやつだな。ガチ勢ではなかったが、そこそこはやっていたぞ。蹂躙派か支配派かという話なら、支配派寄りだったな」


「こちらは、検証のためにさまざまなプレイスタイルを取っていたでござる」


「検証?」


「『サイト』を運営していたのでござるよ」


「ほう、『マオウ・オンライン・クロニクル』か?」


「お、ユーザーだったでござるか」


「たまに日本語訳版を読ませてもらっていた。……素性を明かし過ぎじゃないか?」


「お互い様でござろう。タクトという名には聞き覚えがあるでござる」


 どこかのマップで一緒になったのだろうか? 検証主体だったのなら、仮にやりあっていたとしても恨まれている可能性は低そうだが。


「で、今回の会見の目的は、情報交換でいいのかな。渡せる情報は、そんなに多くはないが」


「それはどうでござろうか。貴殿は、何か知りたいことはあるでござるか?」


「他の魔王の動向かな。人数とか、どんな動きをしているかとか」


「ここ潜龍河流域だけでも、十人以上は活動していそうでござる。戦術思想としては、低コストモンスターを使った人海戦術が多いようでござるよ。特異種待ちもあろうでござるが」


「ゴブリンやオークの大量生成で蹂躙しつつ、進化と繁殖による特異種出現を待ち、それを固定化してのさらなる選抜育成が初期の最善手か。わかっちゃいるんだが」


「幾人かの魔王は、そうして勢力を得ているようでござる。……貴殿の選抜育成型の少数精鋭というのも、個人的には好感を持っているでござるがな」


「そうなると、ほとんどが蹂躙派か」


「支配派も、きつく服従を求めるタイプが目立っているでござる。融和派は勢力を伸ばしづらくて、苦戦しているようでござるな」


「伸長するまで、どう凌ぐかだなあ」


「位置や環境による有利不利が大きいのでござろうな。実際にはこの世界に適応できず、近隣の魔王や人類勢力に瞬殺された魔王も結構居たようでござるな」


 まあ、いきなり魔王だと言われて、適応できる方が本来ならおかしいのだろう。


「……ところで、魔王ならそちらの近隣に、ベルーズ領のゴブリン魔王とは別にもう一勢力あるようでござるが、ご存知か?」


「そうなのか? 東方の山から襲来するゴブリンが黒い武器を使ってるから、あれも魔王と関わりがあるのかな」


 それにしては、動きに統一性がないのだが。


「いや、そちらは初耳なので、別口でござろうな。貴殿の地点からは北東、候領都ヴォイムからはやや東南方に、ダンジョン拠点があるでござるよ。サキュバスを使ってゴブリンを引き込んで退治している、長短の二刀を操る美少年魔王がいるのでござる」


 偵察に入った配下忍者がサキュバスの魅了魔法を重ねがけされ、危うく命を落としそうだったらしい。外からの監視に切り替えたところ、魔王の姿を目視できたのだそうだ。


 誘い込み系のダンジョン運営に加え、長短の二刀を扱う美少年というのは、歩……、友人の明智歩の特徴に一致する。タケルのように思えるゴブリン魔王が近くにいるからには、そうなのかもしれない。おそらくそうだ。そう思いたい。


「有益な情報の提供に感謝する。何でも聞いてくれ」


 その流れで、CP、創造ポイントの交易による入手状況や、冒険者ギルドと商業ギルドへの魔王本人や配下の登録可否、ギルドカードについて、それに人間の眷属化あたりについての情報を開示した。一方で、現状の勢力レベルや精霊の扱い、勇者の眷属化といったあたりはひとまず伏せておくとしよう。


 CPの獲得値は、コルデーの感触としては、俺らがまとまった取引で得られる分を一とすれば、略奪は三十から四十、虐殺だと百を超えるようだ。支配は、略奪との中間程度だと言う。そういう話が出るくらいだから、既に虐殺を実施した魔王がいるわけだ。


 短期的には、虐殺を繰り返して勢力を拡大し、周辺を焦土にしつつ遠方へ向かうのが獲得CPの最大化につながるだろう。長期的には、支配して継続して徴収……、いや、搾取するのが最善手だろうか。俺がやっているような取引を重ねていく形は、だいぶ効率の悪いやり方だと考えてよさそうだ。


 一方のDP、魔王ポイントの獲得条件は謎が多く、検証が進んでいないそうだ。どうやら勢力レベルは4が現段階の最高値のようで、ごく限られた魔王しか到達していないっぽい表現があったのだが、勢力としては首位グループではなさそうな俺が到達しているのはなぜだろう? 人間との交流によって得られているとかかもしれない。


 他にも話は尽きなかったが、連続での脳内通話であちらの魔王に疲れが出たらしく、後日また開催をとの話になった。なお、忍者の名付けについても話が出て、かぶっても問題ないとは言え、先方は真田十勇士系から取るのは避けてくれるそうだ。サスケという名を聞いてさらりとそう反応してくるあたり、心は忍者だとの台詞は伊達ではないのかもしれない。


 情報料として金銭を支払おうかと打診したが、魔王同士の商取引ではCPは発生しないそうで、謝絶される形となった。替わりと言ってはなんだが、お土産を充実させるとしよう。得意分野からは外れるが、菓子的なものがいいかもしれない。



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