(46) 会談の要請
冒頭からこのひとつ前の話まで、2020/08/07深夜に、レベルやポイント関連の追記を実施しました。
既に読まれた方向けには、概要をまとめた活動報告をアップしております。そちらを読んでいただければ、全編を読み返さずに内容を把握いただけるかと思いますで、よろしければ。
→https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/2839237
タチリアの冒険者ギルドのライオスから会談要請との名目で呼び出しがあったのは、東方戦線の視察をざっくりと終えた頃合いだった。
視察の方は順調で、改めての戦力確認が果たせた。
俺の配下の中では、フウカ、コカゲ、サスケが特に接近戦では抜きん出てきていて、セルリアが率いる弓部隊に加え、ルージュらの魔法系も少数でありながら活躍してくれている。
レベルで言えば、コカゲ、フウカ、セルリア、サスケがトップグループで、14から15まで到達している。それに続くのは、ルージュやジード、モノミといったあたりだった。
戦闘力がさほど高くない面々には、槍を持たせて牽制中心の戦法を試させているそうだ。確かに、全員で斬り結ぶ必要はない。それに対応して、クラフトは槍の増産を進めてくれている。
また、経験を積み上げてくれていた三人の配下を、名も与えぬまま逝かせてしまった反省から、彼らと同等程度まで成長した配下達には名付けを行うと決めた。ただ、強烈な特徴がある者以外は、セルリアやコカゲらが仮につけて内部で通用している名前をそのまま採用する形にしている。
戦闘面に秀でた者だけでなく、拠点で料理や接客やらに従事していく生成配下達についても、少なくとも代表者には名を付けていくとしよう。
援軍的な冒険者達は、安定した戦い方を見せてくれていた。元々は少人数の職種混在パーティ形式での活動を中心としていた彼らだったが、前衛、支援系とチーム分けしての多人数での戦闘にも習熟しつつあるという。
ドワーフのクオルツとお調子者気質の女槍遣いアミシュが近接攻撃の者達を、女治癒術使いのモーリアとハーフエルフの攻撃魔術士リミアーシャが支援隊をそれぞれまとめてくれている。
避難民から参加した手練れの者達のうち、ドワーフは同族のクオルツに従って冒険者に交じる形で近接戦闘に特化しており、犬人族は斥候として忍者やシャドウウルフと連係して活動しつつあるそうだ。
白エルフ達は、俺に同道してきた治癒系魔法の使い手であるキュアラと射手特化のシューティアら第一陣が合流し、治癒組と弓・魔法による支援攻撃隊とに分かれる形となるだろう。ダークエルフとは違って、近接戦闘に通じた者は見当たらない。いや、もしかすると、ゴブリン魔王の襲撃の際に防衛、あるいは時間稼ぎを試みて命を落としたのかもしれないが。
治癒方面では、冒険者として魔王の拠点に偵察に来たときからの縁となるモーリアは、白エルフのキュアラと気が合ったらしく、情報交換しつつやってくれているようだ。
弓矢系では、セルリアが束ねる忍者、ダークエルフらと、シューティア率いる白エルフとが、以前ほど角突き合わせる感じではなくなり、競い合う状態となっている。
全体指揮については、近接戦闘組を指揮するコカゲをドワーフの戦斧使いクオルツが補佐し、支援系をセルリアがまとめ、偵察兼遊撃方面をサスケが担う形となっていた。フウカは切り札として、前線か遊撃かに参加する形となる。勇者候補のベルリオは、近接戦闘組に名を連ねているものの、頭角を現してきてはいないようだった。
ユファラ村防衛の頃には統率役の代わりがおらずに休養が取れない事態が頻発していた。現状ではコカゲには冒険者のクオルツ、アミシュと、ダークエルフの新規名付け組ながら古株のシェイドが。セルリアにはシューティア、ルージュが、そしてサスケにはモノミが補佐役兼第二指揮役となり、休養や一時離脱も無理なくできるようになりつつあった。引き続き、補佐役の発掘育成は必要ではあるが。
伯爵領で命を落としたあの三人がいてくれたなら……。スズカゲと名を贈った青年忍者は、剣技でずば抜けてはいなかったにしても、朗らかで人好きのする感じから、近接戦闘組のまとめ役として期待できただろう。あるいは、武具の補修が得意だったからには、鍛冶の道に進む未来もあったかもしれない。
セルリアになついていた可愛らしい顔立ちの弓使い、コバルティアという名を贈った彼女は、そのまま射手系の副官になってくれていただろう。
カーミアと名を贈った、細い目が特徴的だった魔法と剣技を両立しつつあったダークエルフの娘は、魔法剣士という新分野を開拓していく可能性があった。
後悔を捨てる必要はないにしても、同じように有為な人材を失わないように気をつけるべきだ。そして、彼らを祀る碑を設置するとしようか。
現状を踏まえての、ギルマスからの呼び出し対応でタチリアの町へ向かう人選としては、伯爵領潜入の際に留守番状態だったコカゲと、冒険者組のアミシュ、モーリアに同行してもらう形とした。その間のゴブリン撃退の総指揮は、セルリアに任せる。
当初は、ダークエルフが指揮役となると、人間中心の冒険者に拒否反応があるかもと配慮していたけれど、既に混成状態が定常化しており、はっきりと実力も示しつつあるため、問題はないだろうとの判断である。それでも反発して離脱したがる者がいるのなら、引き止める必要もないのだった。
中央砦からタチリアの町までは、竜車で半日行程となる。その間は、のんびりと過ごせるひとときとなる。
脳内通話でこそやりとりはしていたし、視察時にいろいろな報告は受けていたものの、コカゲとのんびりした時間を過ごすのは久しぶりだった。
生成当初の硬い感じはすっかり鳴りを潜め、今ではだいぶ表情も豊かになってきている。魔王の配下であるためか、人間を軽視する傾向も感じられたが、冒険者達との共同戦線を統率したためもあってか、その点も変化しつつあるようだ。
今回一緒に旅をしている冒険者のアミシュ、モーリアとは、一時的にとは言え彼女らのパーティメンバーだった剣士を斬り殺した因縁がある。けれど、少なくとも表面上のわだかまりはなさそうだった。現状を踏まえれば、ゴブリンもあの剣士も、共通の外敵という扱いなのかもしれない。
道中で夜営を挟み、手料理を振る舞ったりしながらも、竜車は翌日の午前中にはタチリアの町へと到着した。早速、ライオスとの会談に臨む。
相変わらずダンディーな白髪の老紳士とは、まず現況の確認をしようとの話になった。
東方でゴブリン・ロードが複数出現した件は、討伐報酬の関連もあって伝達済みとなっている。冒険者も含めた連係深化の話がモーリアから報告されると、ライオスはやや意外そうな表情を浮かべた。無頼漢的な要素が強い冒険者が、組織に組み込まれているのが意外なのだろうか。
もっとも、中堅冒険者のうちのサイコパスっぽい面々は今回の作戦に呼ばれておらず、現状の主力であるクオルツとリミアーシャとは、どちらも同族の救出行で魔王勢と死線をくぐった仲なので、息が合ってくるのは自然な気もする。
ここラーシャ侯爵領は、南部は三方を山地に囲まれ、北は潜龍河の先にさらに険しい天嶺山脈がある地勢である。潜龍河沿いの街道から東西に抜ける以外では、タチリアの町を玄関口としてベルーズ伯爵領に隣接していた。
一方のベルーズ伯爵領は、四方を山に囲まれた立地となっていて、地峡を抜けてタチリアの町近辺へ出るのが唯一の出口となっている。肥沃ではあるものの、その地理的条件から隣のラーシャ侯爵領とさまざまな軋轢が存在してきたという。
ベルーズ伯爵領は、神聖教会が奉じる天帝教が帝王国の国教となる以前から、多種族が混合して住む土地だったそうだ。さらに遡るとラーシャ侯爵の領地だったところに外部からベルーズ伯爵が封じられたそうで、それ以前には魔物でも害がなければ討伐しないとの風土すらあったようだ。
現在の伯爵が神聖教会に入信したために、亜人への風当たりは従来と比べてきつくなったものの、ラーシャ侯爵領のように排斥するまでには至っていない。それが、魔王出現前の状況だったらしい。だと言うのに、ゴブリン魔王と連携しているとなると、話はまるで変わってくる。
ただ、ベルーズ伯爵の手勢がゴブリンとつるんでいたとの情報は、候領都ヴォイムの冒険者ギルド経由で侯爵家側に通告されたものの、どうやら黙殺されてしまったようだ。現ラーシャ侯爵が病で臥せっていて、弟たちが跡目争いをしている状態では、まともな判断のしようもないのかもしれない。
伯爵領への地峡を抜けた先の街道には、今もゴブリンの姿があるものの、タチリア方面へ侵攻してくる気配はないとのことだった。まずは伯爵領を荒らし終えてからなのだろうか。いざ侵攻開始となれば、すぐに対峙を余儀なくされるギルマスの危機感は深いようだ。
その状況では、確かに東方のゴブリン対応をする余力はないだろう。ならば、好き勝手にやらせてもらうしか無い。
侯爵の跡目争いは、病身の当主であるラーシャ候がいよいよ危ない状況らしく、弟二人による反目が内戦に発展しそうな勢いだという。どちらも神聖教会の後ろ盾を得ようと、亜人排斥競争に至っているわけだから、ひどい話ではある。
「ただ、嫡子が居るんじゃなかったのか? その情勢で、話に出てこないのはどうしてなんだ?」
「わざわざ呼んだのは、その件についてだ」
ようやく本題に至ったようだ。エスフィールという名の嫡子はいるが、まだ成人しておらず、権力は掌握しづらい状態だそうだ。十四歳となると、俺よりは二つ下で、ナギやウィンディ、サスケ、ベルリオあたりと同年代だろう。
叔父二人の反目を仲裁しようとしたものの不調に終わり、独自に侯爵領防衛を目指して動き出したらしい。
「で、視察のために、この町にやってくるのだ。伯爵領の状況は儂から伝えられるが、ゴブリン戦線の案内を頼めるか?」
「かまわんよ」
こうして、俺は侯爵家で立場を失いつつある跡取りと接触する羽目になったのだった。